- 自己と社会
- 社会的認知
- 印象形成とステレオタイプ
- 対人魅力と親密な対人関係
- 協力・競争・援助行動
- 社会的影響
- マスコミュニケーション・流言
- 感情の生起課程
- 感情と身体・生理
- 感情の分類
- 怒りと攻撃
- 感情と学習・記憶
- 感情の障害
- パーソナリティ理論
- パーソナリティに測定法
- パーソナリティと健康・適応
自己と社会
自己の二重性
ジェームズは、心理学における重要な思想家の一人で、彼が提唱した「自己の二重性」に関する理論は、自己の概念に関する基礎的な理解を提供します。ジェームズは自己を「我」(I)と「客我」(Me)の二つの側面から構成されると考えました。
我(I)
「我」は、自己の主観的な側面を指します。これは自己認識の主体であり、個人の経験や意識の流れを統一する役割を持ちます。つまり、「我」は「自分は誰か」という問いに対する、内面的な認識や自己意識の側面です。
ジェームズは「我」を、物質的な我(Material Self)、社会的な我(Social Self)、精神的な我(Spiritual Self)という3つの側面に分けて考えています。
物質的な我(Material Self)
個人の肉体とその拡張としての物質的な所有物を指します。これには自分の身体、衣服、家、財産など、個人が所有する物理的なものが含まれます。これらの物質的な要素は、自己の一部として認識され、自尊心やアイデンティティに影響を与えます。
社会的な我(Social Self)
他人との関係や社会的な状況における自己の側面です。これは、人が他者との相互作用の中でどのように自己を見せるか、あるいは他者からどのように認識されるかに関連します。個人は異なる社会的役割や状況に応じて、異なる「社会的な我」を持つことがあります。
精神的な我(Spiritual Self)
個人の内面的な側面、つまり思考、感情、意識、価値観、信念などを指します。これは自己の最も主観的で内面的な側面であり、自己認識や道徳的、哲学的な信念、自己決定の源泉です。
客(観的な)我(Me)
「私」は、自己の客観的な側面を指し、他者や社会との関係の中での自己像です。これには自己の身体、社会的地位、持ち物、家族、友人との関係など、他者から見た自己の特徴が含まれます。つまり、「私」は自己に関する知識や信念、自己評価の集合体であり、他者との相互作用を通じて形成されます。
ジェームズによれば、これら「我」と「私」の間の相互作用が、自己のアイデンティティや行動の基礎を形成します。自己認識のプロセスにおいて、「我」は「私」について考え、評価し、その結果として自己の感情や行動が生まれるとされます。
ジェームズのこの理論は、自己の理解における内面的な主観性と外部からの客観性という、二つの異なる側面を統合することの重要性を示しています。
文化的自己観
個人が自己をどのように認識し、理解するかという観点から文化的な違いを考慮に入れた概念です。
相互協調的自己感
自己を他者や集団との関係性の中で理解する自己観です。この視点を持つ文化や個人では、人間関係や社会的なつながりが強調され、個人は集団の一部として自己を認識します。自己のアイデンティティは、家族、友人、コミュニティ、仕事などの社会的な役割や関係によって形成される傾向があります。
相互協調的自己感は、特に集団主義的文化で一般的です。これらの文化では、調和、協力、集団の利益を重視し、個人の行動や決定はしばしば集団のニーズや期待に合わせられます。
相互独立的自己感
自己を独立した、他者や集団から区別された個体として理解する自己観です。この視点を持つ文化や個人では、個人主義、自己表現、自己決定が強調されます。自己のアイデンティティは、個人の内面的な特性、能力、好み、価値観に基づいて形成される傾向があります。
相互独立的自己感は、特に個人主義的文化で一般的です。これらの文化では、個人の自由、独立性、自己達成が重視され、個人は自分自身の目標や願望に従って行動することが奨励されます。
社会比較理論
フェスティンガーによって1954年に提唱された心理学の理論で、人々が自己評価を行う際に他者と自分を比較するという概念に基づいています。
自己高揚動機
自己の価値や能力をより良く見せたいという動機です。人々は自己の肯定的な評価を維持または向上させるために、他者との比較を利用します。
下方比較
自分よりも劣っていると感じる他者と自分を比較することです。この比較を通じて、個人は自己の状況や能力をより良く感じ、自尊心を高めることができます。下方比較は、自己高揚動機に関連しています。
上方比較
自分よりも優れていると感じる他者と自分を比較することです。この比較は、自己の現在の能力や状況に対する不満や劣等感を引き起こす可能性がありますが、同時に自己向上の動機付けとなることもあります。
自己向上動機
自分自身を改善し、成長させたいという動機です。上方比較は、この動機を刺激することがあり、他者の成功や能力を目標として、自己の成長や努力を促します。
社会アイデンティティ理論
ジフェルとターナーによって1970年代に提唱された理論です。この理論は、個人のアイデンティティがどのように社会的なグループとの関係によって形成されるかを説明します。社会的アイデンティティ理論は、自己認識、グループダイナミクス、偏見と差別の理解において重要な役割を果たします。
社会アイデンティティ
個人が特定の社会的グループに属することによって得られる自己の側面です。人々は、家族、民族、宗教、職業、趣味など様々なグループに属することで、自己のアイデンティティを構築します。社会的アイデンティティは、個人がグループの一員として自己をどのように見るか、またそのグループがどのように他者から見られているかに影響を受けます。
ソシオメーター理論
自尊感情が人間の社会的な結びつきを測定する指標、つまり「ソシオメーター」として機能するという理論です。この理論は、リアリーによって提案されました。
自尊感情が高いときは、私たちが社会的にうまくやっている証拠であり、自尊感情が低いときは、社会的な関係を改善するためのシグナルとして働いていると考えられます。
自尊感情
自分自身に対する評価や感じ方のことです。自分がどれだけ価値があると感じるか、自分に自信があるかどうかを示します。
存在脅威管理理論
自尊感情と文化的世界観が死や不確実性といった不安や恐怖を存在の脅威を緩衡するという考え方です。
自己効力感
バンデューラによって提唱された概念で、自分が特定の行動を成功させることができると信じる能力のことです。簡単に言うと、自己効力感は「自分にはこれができる!」という自信のことです。
バンデューラは、自己効力感が私たちの行動、思考、感情に大きな影響を与えると考えました。自己効力感が高い人は、難しい課題に直面しても積極的に取り組み、困難を乗り越えようとします。逆に、自己効力感が低い人は、難しい課題を避けたり、挑戦することを諦めたりしやすいです。
自己評価維持モデル
テッサーによって提案された理論です。このモデルは、人が自己評価、つまり自分自身に対する評価をどのように維持しようとするかを説明します。自己評価維持モデルには、「栄光浴」、「心理的距離」、「自己関連性」、「遂行レベル」という重要な要素が含まれています。
栄光浴
自分自身は直接関係していないけれど、自分の周りの人が成功したときに、その成功に自分も一部関わっているかのように感じて喜ぶことです。たとえば、自分の友達やクラスメートが賞をもらったときに、自分も嬉しくなる感じです。
心理的距離
自分自身と他人との間の感じる距離のことです。この距離が近い人ほど、その人の行動や成績が自分の自尊心に大きな影響を与えます。例えば、親友の成功は自分にとってとても重要ですが、知らない人の成功はあまり気になりません。
自己関連性
他人の活動や成果が自分にとってどれだけ関連があるかを示します。自分が得意とする分野で友達が成功すると、その成功は自分の自尊心に影響を与える可能性が高いです。逆に、自分にとってあまり関連性のない分野では、友達の成功が自分の自尊心に与える影響は少ないです。
遂行レベル
個人がどれだけうまく活動や課題を達成しているかのレベルです。友達が自分よりもうまく何かをすると、自己評価に影響を与えることがあります。特に、その活動が自分にとって大切なものであればあるほど、その影響は大きくなります。
自己呈示(じこていじ)
人々が他者に対して自分自身をどのように見せたいか、どのように認識されたいかを操作するプロセスです。この過程で、主張的方略(Assertive Strategies)と防衛的方略(Defensive Strategies)という二つの異なるアプローチがあります。
主張的方略(Assertive Strategies)
自分の望むイメージやアイデンティティを積極的に構築し、他者に伝えるための方法です。この戦略では、自分の長所や成果を強調したり、自信を持って自己を表現したりすることで、ポジティブな印象を与えようとします。例えば、自分の成功体験やスキル、才能を話題に出すことが含まれます。主張的方略は、他者からの好意や尊敬、信頼を獲得することを目的としています。
防衛的方略(Defensive Strategies)
分の社会的評価を保護し、損なわれるのを防ぐために用いられる方法です。これには、自分の弱点や失敗を最小限に見せる、言い訳をする、または過ちを他人や状況のせいにすることが含まれます。防衛的方略は、自己のイメージを守り、否定的な評価や批判から自分を守るために使われます。
セルフハンディキャッピング
自分自身に意図的に障害や制約を設けることで、もし失敗したときにその言い訳にすることができる戦略です。つまり、事前に自分のパフォーマンスに影響を与える可能性のある障害を作り出すことにより、その障害を失敗の理由として提示することができます。
自己開示
自分の内面的な事柄や、考え、感情、経験などを他人に話すことです。心理学では、自己開示が人と人との関係を深めるのにとても大切な役割を果たすと考えられています。
自己スキーマ
マーカスによって提唱された概念で、自分自身に関する情報や信念の組織化された体系を指します。自己スキーマは、自分の経験や特性、能力、価値観などについての知識を含み、自分自身をどのように見るか、そして自分の行動や思考をどのように解釈するかに影響を与えます。
自分に関する情報を処理する際のフィルターの役割を果たします。自己スキーマに合致する情報は簡単に受け入れられ、記憶されやすくなりますが、スキーマに合致しない情報は無視されたり、歪められたりすることがあります。
セルフ・ディスクレパンシー理論
ヒギンズによって提唱された理論です。この理論は、人が持っている「自分の現在の姿」と「理想の自分」や「他人から期待される自分」との間に差があるときに感じる気持ちについて説明しています。
- 現在の自分は、今のあなた自身のことです。
- 理想の自分は、あなたがなりたいと思っている、理想的な姿のことです。たとえば、もっと勉強して成績がいい自分や、スポーツが上手な自分などです。
- 他人から期待される自分は、親や先生、友達など他の人があなたに期待している姿です。例えば、いつも宿題をきちんとやる子や、礼儀正しい子などです。
この理論のポイントは、現在の自分と理想の自分、または他人から期待される自分との間に大きな差があると、人は不満や不安を感じるということです。理想の自分になれていないときや、他人の期待に応えられていないと感じると、落ち込んだり、ストレスを感じたりします。
自己複雑性
リンヴィルが提唱した概念です。この理論によると、人の自己イメージ(自分についての考えや感じ方)がどれだけ多様で複雑なのかを表します。簡単に言うと、自分のことをいろいろな角度から見て、たくさんの異なる側面を持っていると感じる人は「自己複雑性が高い」と言えます。
自己複雑性が高い人は、一つの側面で問題が起きたとしても、他の側面で自分の価値を見出すことができます。たとえば、テストで悪い点数を取っても、「サッカーが上手だから大丈夫」と前向きに考えることができるわけです。これによって、ストレスに強くなったり、気持ちの切り替えが上手になったりします。
社会的認知
バランス理論
ハイダーによって提唱された理論で、人間の関係や態度がどのようにバランスを取るかを説明します。この理論では、私たちの感情や考えが三つの要素(自分、他人、物事や考え)の間でどのように関連しているかを見て、それらがバランスしているかどうかを考えます。
三つの要素の関係性を「ポジティブ(好意的)」または「ネガティブ(不好意的)」で表します。例えば、あなたが好きな友達(他人)がある映画(物事)を好きだとすると、その映画に対してもポジティブな感情を持つ傾向があります。
この理論を理解することで、自分や他人の行動や態度がどのように形成されるかをより深く理解することができます。
認知的不協和理論
フェスティンガーによって1957年に提唱された理論で、人間の行動や態度の背後にある心理的な矛盾を説明します。人が持つ二つ以上の認知(知識、信念、態度など)が互いに矛盾しているときに生じる心理的な不快感を指します。この不快感は「不協和」と呼ばれ、人はこの不快感を減少させるように行動するとされます。
- 行動と態度の矛盾:たとえば、健康に良くないと知りながらジャンクフードを食べ続ける行動。
- 二つの相反する信念:「勉強は大切だ」と信じているのに、「勉強しないで遊ぶことが多い」という状態。
- 意思決定の後悔:選択肢の中から一つを選んだ後に、他の選択肢の方が良かったのではないかと感じること。
自己知覚理論
ベムによって提唱された理論で、人が自分自身の態度や感情を外部から見た自分の行動を通して、自分自身の内面を推測するというアイデアに基づいています。つまり、自分の内面的な状態が不明確な場合、人は自分の行動を観察し、その行動から自分がどのように感じているのか、何を信じているのかを推測します。
原因帰属のANOVAモデル
ケリーによって提案され、人が何か出来事が起こった理由(原因)をどう考えるかを説明する理論です。ケリーは、人々が原因を「実態(事柄そのもの)」、「他人」、「時(状況)」のどれに帰属するかを判断するとき、3つの情報を使うと言いました。これらは「弁別性」「合意性」「一貫性」です。
- 弁別性(Distinctiveness):
- 特定の状況下でのみ行動が起こるかどうか。
- 例: ある友達とだけ楽しく話す(高い弁別性)か、誰とでも楽しく話す(低い弁別性)か。
- 合意性(Consensus):
- 同じ状況下で他の人も同じように行動するかどうか。
- 例: みんながその先生の授業を面白いと感じる(高い合意性)か、あなただけがそう感じる(低い合意性)か。
- 一貫性(Consistency):
- 時間が経っても同じ状況下で行動が変わらないかどうか。
- 例: 毎回その先生の授業を面白いと感じる(高い一貫性)か、たまにしか面白くない(低い一貫性)か。
行為者-観察者バイアス
自分自身の行動と他人の行動を解釈する際に見られる一貫した偏りのことです。これは心理学の社会認知における重要な概念で、人々が自分の行動の原因を状況的要因に帰属する一方で、他人の行動の原因をその人の性格や意図などの内的要因に帰属する傾向があることを指します。
行為者と観察者
- 行為者:行動をする人、つまり「自分自身」のこと。
- 観察者:他人の行動を見ている人。
バイアスの説明
このバイアスは、自分の行動を説明するときと他人の行動を説明するときに、別々の理由を使いがちなことです。
- 自分の行動:「私が遅刻したのは、交通渋滞がひどかったから。」→ 状況のせいにする。
- 他人の行動:「彼が遅刻したのは、時間管理ができないから。」→ その人の性格や能力のせいにする。
なぜバイアスが起こるの?
- 自分については:自分の状況や制約をよく知っているため、自分の行動を状況的要因で説明しやすいです。
- 他人については:他人の内面や状況を完全には知らないため、その人の性格や一般的な特性で説明しようとします。
セルフサービングバイアス
個人が自分の成功を内的要因(例えば、自分の能力や努力)に帰属させる一方で、失敗を外的要因(例えば、運が悪い、他人のせい)に帰属させる傾向のことです。このバイアスは、自尊心を守り、ポジティブな自己イメージを維持するために起こります。
バーナム効果(フリーサイズ効果)
あいまいで一般的な記述を個人に特有の性格描写として受け入れてしまう心理的な傾向のことです。この効果は、占いや性格診断テストでよく見られ、多くの人が自分に当てはまると感じるような記述に対して、その情報が特に自分だけに当てはまると思い込んでしまう現象を指します。
印象形成とステレオタイプ
印象形成のゲシュタルト説
アッシュは、人々が他人についての印象を形成する際に、いくつかの情報が他の情報よりも強い影響を持つことを発見しました。彼の有名な実験では、人物の特性を並べただけのリストを参加者に見せ、その人物についての印象を尋ねました。例えば、「知的、勤勉、才能がある、温かい」という特性の順番を変えるだけで、参加者がその人物に持つ印象が変わることが示されました。この実験から、印象形成は最初に受けた情報(先行効果)や特に際立つ情報(中心特性)に強く影響されることがわかります。
ネガティビティバイアス
想像してみてください。一日中いいことがたくさんあったけど、一つだけ悪いことがあったとします。家に帰ってから、その日のことを考えるとき、どうしてもその悪いことばかりが頭に残ってしまうことがありますよね。これがネガティビティバイアスの一例です。私たちは、良いことよりも悪いことの方に強く反応しやすく、それが心に残りやすいのです。
人がポジティブな情報よりもネガティブな情報に対してより強く反応し、より深く影響を受ける傾向のことです。このバイアスは、人間の心理や行動において広く見られ、私たちの意思決定、記憶、感情などに影響を及ぼします。
スティグマ
人が特定の特徴や状況を持っているだけで、周りから変わった目で見られたり、悪い意味で区別されたりすることです。例えば、ある病気を持っている人や、特定の社会的背景を持つ人々に対して、人々が持つ先入観や偏見のことを指します。
ステレオタイプ脅威
あなたがあるテストを受ける前に、「あなたのグループはこのテストでいつも悪い成績を取る」と言われたとします。この情報が頭にあると、テスト中に余計なプレッシャーを感じてしまい、実際にテストの成績が悪くなってしまうかもしれません。これがステレオタイプ脅威です。
特定のグループに対する否定的なステレオタイプがそのグループのメンバーにプレッシャーを与え、結果としてパフォーマンスが低下する現象です。この概念は、社会心理学者のクロード・スティールとジョシュア・アロンソンによって1990年代に提唱されました。
暗黙のパーソナリティ
あなたが誰かに初めて会ったとき、その人の話し方や服装、行動から、その人がどんな性格かをすぐに考えることがありますよね。例えば、「この人は話し方が穏やかだから、優しい人に違いない」とか、「本をたくさん読んでいるから、賢い人だろう」といった具合にです。これが暗黙のパーソナリティ理論の一例です。私たちは、少ない情報からもっと多くのことを推測してしまいます。
つまり、人々は特定の特性や行動を見るだけで、その人の他の特性や行動についても推測してしまうということです。ブルーナーらが提唱しました。
印象形成の連続対モデル
このモデルは、1990年に心理学者のスーザン・フィスクとスティーブン・ニューバーグによって提唱され、印象形成が自動的なカテゴリー依存型処理(ステレオタイプに基づく)から、より注意深く個別化された処理(個人の特徴に基づく)へと移行する連続体を示しています。
印象形成が「カテゴリー依存型処理」と「個別化された処理」の間の連続体上にあると提案しています。このモデルは、印象形成が単一のプロセスではなく、柔軟で動的な連続体であることを示しています。また、人々が他者に対する判断を下す際に、自動的なステレオタイプからより詳細な個人の特徴に基づく評価へと移行する可能性があることを強調しています。
潜在的連合検査(IAT)
人々が意識していないかもしれない偏見やステレオタイプを測定する心理テストです。このテストは、コンピューター上で行われ、参加者にさまざまな言葉や画像を迅速に分類させることで、その人の潜在的な態度や信念を明らかにします。
IATは、グリーンウォルドらによって1998年に導入されました。
対人魅力と親密な対人関係
単純接触効果
新しいクラスメートや職場の同僚など、最初はあまり話さなかった人たちと時間を共にするうちに、彼らに対する好意が増したことはありませんか。この効果は、ザイオンスによって1960年代に発見され、人々が何かに頻繁に触れるほど、その何かを好きになる傾向があることを示しています。
社会的交換理論
友達や家族との関係を考えてみてください。この関係って、なんで続いていると思いますか?社会的交換理論とは、私たちが人との関係で得る良いこと(利益)と悪いこと(コスト)を考えて、その関係を続けるかどうかを決める考え方です。友達と楽しい時間を過ごすのは「利益」で、喧嘩するのは「コスト」みたいなものです。
投資モデル
関係の継続性を決定する際に、利益とコストだけでなく、関係に対する投資の量も重要な役割を果たすと考えます。投資とは、時間、労力、資源、感情など、関係に費やされたものすべてを指します。投資モデルによると、人々は単に即時の利益とコストを比較するだけでなく、過去に関係に投資したものの量を考慮して、関係を続けるかどうかを決定します。多くの投資をした関係は、より継続されやすいとされます。
衡平モデル
関係の公平性に焦点を当てます。このモデルによれば、人々は自分と相手の関係における利益とコストの比率が等しいと感じるとき、最も満足すると考えられます。つまり、関係での受け取りと与えることが均衡していると感じることが、関係の満足度や安定性に重要であるとされます。不公平感があると、不満や変更への動機が生じる可能性があります。
互恵モデル
人々が相互に利益を提供し合うことで関係を維持するという考え方に基づいています。このモデルは、人間関係における利益の交換が互恵的であることを強調し、長期的な視点で見ると、利益とコストは均衡すると考えます。つまり、一時的には不均衡があっても、時間が経つにつれて相互に利益を与え合い、関係が維持されるという考え方です。
恋愛の6類型
リーが提唱した恋愛スタイルの分類です。リーは、古代ギリシャの愛の概念を基に、人々が恋愛において示すさまざまな態度や行動パターンを6つのカテゴリーに分けました。
エロス(情熱的愛)
エロスは、肉体的な魅力や情熱に基づく深い愛情を特徴とします。このタイプの恋愛は、強い魅力と深い絆によって特徴づけられ、恋人同士が互いに深く惹かれ合うことを意味します。
ルドゥス(遊びの愛)
ルドゥスは、恋愛をゲームや楽しみとして捉えるスタイルです。このタイプの人は、コミットメントよりも恋愛の楽しさや刺激を重視し、しばしば複数の人と同時に関係を持つことがあります。
ストルゲ(友情のような愛)
ストルゲは、深い友情や信頼に基づく愛情を表します。このタイプの恋愛は、肉体的な魅力よりも精神的な絆や共有する価値観に重きを置きます。
プラグマ(実用的愛)
プラグマは、実用的かつ合理的な観点からパートナーを選ぶ愛情のスタイルです。このタイプの人は、共通の目標や生活の目的が合致する相手との関係を好みます。
マニア(執着する愛)
マニアは、強い依存や執着を伴う愛情の形態です。このタイプの恋愛は、不安や嫉妬が強く、相手への過度な要求や依存を特徴とします。
アガペ(無償の愛)
アガペは、無償の愛や相手の幸福を自分の幸福よりも優先する愛情のスタイルです。このタイプの人は、相手に対して深い愛情と献身を持ち、条件なしで相手を支えます。
SVR理論
マースタインは、人間関係と特に恋愛関係の発展における過程を説明するために、SVR理論を提唱しました。この理論は、恋愛関係が進展する際に通過するとされる3つの段階(刺激、価値、役割)を通じて、人々がどのように互いに引かれ合い、結びついていくかを説明します。
刺激(Stimulus)段階
この初期段階では、外見や他の外的な特徴に基づいて相手に対する興味が生じます。人は物理的な魅力や初対面での印象に引かれることが多いです。
価値(Value)段階
関係が深まるにつれて、二人はお互いの価値観、信念、興味などを共有し、相手との共通点や相違点を探ります。この段階で、二人の相性や互いに対する理解が深まります。
役割(Role)段階
最終的に、長期的な関係を視野に入れたとき、二人は将来におけるお互いの役割や責任について考え、話し合います。この段階では、二人が一緒に生活していく上での役割分担や互いの期待を調整し、合意に達することが重要です。
社会的浸透理論
友達との関係を考えてみてください。最初はお互いについてあまり知らないけど、時間が経つにつれて、もっと多くのことを共有し始めるでしょう。このように、人との関係が徐々に深まっていくことを、「社会的浸透」と考えます。つまり、最初は表面的な話しかしないけれど、だんだんと個人的な話をするようになり、信頼関係が築かれていくということです。
「玉ねぎモデル」
社会的浸透理論では、人間関係を層がたくさんある玉ねぎに例えます。最初は外側の層(表面的な情報)しか見えませんが、関係が深まるにつれて、内側の層(より個人的な情報)に到達することができます。このプロセスを通じて、お互いのことをより深く知ることができるようになります。
自己開示の役割
関係を深める鍵は、「自己開示」というプロセスにあります。自己開示とは、自分についての情報を相手に伝えることです。最初は趣味や好きな食べ物といった安全な話題から始まりますが、信頼が築かれるにつれて、恋愛観や家族のことなど、より個人的な情報を共有するようになります。
リスクと報酬
社会的浸透理論では、関係を深める過程で「リスク」と「報酬」が関係していると考えられています。自己開示はリスクを伴いますが、それによって相手からの理解や支持を得られる「報酬」があります。関係が深まるにつれて、このリスクと報酬のバランスが重要になってきます。
協力・競争・援助行動
限界質量の理論
あるリソース(例:水、食料)を共有する状況で、みんなが無制限にリソースを使用し続けると、最終的にはそのリソースが枯渇してしまいます。ここでの「限界質量」は、リソースの使用量や人々の行動が持続可能な範囲を超えないように管理する必要がある「限界点」を示しています。
オリヴァーは、集団行動の研究者で、社会的ジレンマの解決に関して研究をしました。彼の理論では、協力や集団の利益を促進するためには、個人が持つ短期的な利益を超えた長期的な視点や、集団全体の利益を重視することの重要性を強調しています。
社会的ジレンマ
個人の利益と集団の利益が対立する状況を指します。例えば、みんなが協力すれば全員が得をするけれど、個々人が自分だけの利益を追求しようとすると、最終的には全員が損をするような状況です。
泥棒洞窟実験
シェリフは、特定の状況下で集団間の敵意がどのように生まれ、どのようにして和解に導かれるのかを明らかにするために、泥棒洞窟実験を計画しました。
泥棒洞窟実験は、集団間の対立と協力に関する重要な洞察を提供しました。共通の上位目標を持つことがグループ間の敵意を減らし、協力を促進する強力な手段であることを示しました。
上位目標
複数の集団が協力することで達成できる共通の目標のこと
傍観者効果
1964年にニューヨークでキティ・ジェノヴェーゼが襲われた事件を受けて、ダーリーとビビアン・ラタネによって研究されました。
学校で誰かがいじめられているのを見たとき、周りにたくさんの人がいると、「誰かが助けるだろう」と思って、自分は何もしないかもしれません。でも、その場にあなた一人だけだったら、助ける可能性が高くなります。これが傍観者効果です。つまり、他にもたくさんの人がいると、自分が行動する必要がないと感じやすくなるのです。
多元的無知
人々が自分たちの感情や意見が周囲と異なると誤って信じてしまう現象です。
例えば、クラスで先生が難しい問題を解説しているとき、あなたが理解できなくても、周りが何も質問しないので「みんな理解しているんだ」と思い込むことがあります。でも実は、他の多くの生徒も同じように理解できていないのに、同じ理由で質問しないでいるかもしれません。
社会的影響
援助行動
他人を助けることを目的とした行動です。これには、共感や思いやりから来る行動や、他人の幸福や福祉を増進するための自発的な行為が含まれます。援助行動は、無償の援助から、他人に対する善意や親切な行為まで、さまざまな形を取ります。
道で迷っている人に道を教えるのも、学校で新しい生徒が友達を作るのを手伝うのも、すべて援助行動です。要するに、他人のために何か良いことをする行動のことを指します。
向社会的行動
他人や社会全体の福祉を増進することを目的とした自発的な行動です。この行動は、共感、援助、共有、救助など、他人を助けることや、正義、道徳、倫理に基づいて行われることが多いです。向社会的行動は、単に他人に優しいことをするだけでなく、社会の一員として貢献し、ポジティブな変化をもたらすことを含みます。
公園でゴミ拾いをすること、病院でボランティアをすることなど、他人や社会のために良いことをするすべての行動が向社会的行動にあたります。自分の利益よりも他人の幸せや社会の良さを優先することが、この行動の特徴です。
愛他行動
自分にとって直接的な利益がなくても、他人を助けるために行う行動です。他人の幸せや福祉のために自分から進んで行う行動を指します。
この行動は、他人への深い共感や、無条件の愛、道徳的信念に基づいて行われることが多いです。愛他行動は、自己利益よりも他者の利益を優先する無私無欲な行動の一形態と考えられています。
動因説
人がある目標に向かって行動するとき、その背後には「動因(Drive)」という内的な力があるという考え方です。例えば、お腹が空いたときに食べ物を探す行動は、飢餓という「動因」によって引き起こされます。つまり、何かを達成したいと思う強い欲求が、私たちを動かしているのです。
ザイアンは、この「動因」が適切なレベルであればパフォーマンスが最適になると示しています。
社会的促進
人が見ている(または共に作業をしている)状況で、単純なタスクや練習が十分にされているタスクに取り組む場合、個人のパフォーマンスが向上するという現象です。これは、他人の存在がアラート状態を高め、集中力を向上させるために起こります。
社会的抑制
複雑なタスクや未熟練のタスクに取り組む場合、他人が見ているとパフォーマンスが低下することがあります。これが社会的抑制です。他人の存在がプレッシャーとなり、不安や緊張が原因でパフォーマンスが悪化することが原因です。
社会的手抜き
グループ内で作業を行う際に、個人が自分の責任や努力を減らす心理学的現象です。この現象は、個人が集団の一員として行動する時に、自分の貢献が個別に評価されにくいと感じるときに起こりやすくなります。
学校でクラス全員で清掃活動をするとき、自分一人が少し手を抜いても、全体の結果には大きな影響がないと思って、いつもより頑張らないことがあります。または、グループプロジェクトで、他のメンバーが頑張っているから自分はあまり努力しなくても大丈夫だと感じることも、社会的手抜きの一例です。
社会的インパクト理論
ラタネによって1970年代に提唱された理論で、他人が私たちの行動、感情、態度に及ぼす影響の強さが、その他人の数、近さ、そしてその人たちの重要性によって決まると主張しています。
友達がたくさんいるときと一人だけのときで、自分がどのように振る舞うかを考えてみてください。また、先生や親など、自分にとって大切な人が近くにいるときといないときで、行動が変わることがありますよね。社会的インパクト理論は、このように他人が私たちにどのような影響を与えるかを説明する理論です。
- 数(Number): 他人の数が多ければ多いほど、私たちに与える影響も大きくなります。たくさんの人がいると、その行動や意見に引きずられやすくなります。
- 近さ(Immediacy): 他人が物理的、または感情的に私たちに近いほど、その影響も強くなります。直接話しかけられると、その言葉に対して強く反応します。
- 重要性(Strength): 他人が私たちにとってどれだけ重要か(例えば、親、友達、尊敬する人)も、影響の強さを決めます。大切な人の言葉は、より心に響きます。
集団極性化
最初は「ちょっと危ないかも」と思っていた遊びが、「めちゃくちゃ面白そう!」とみんなで盛り上がってしまうことがあります。グループ内での議論を通じて、メンバーの意見が当初よりも極端な方向へと移動する現象が集団極性化です。
リスキーシフト
グループでの議論を通じて、より冒険的またはリスクの高い決定をする傾向のこと
コーシャスシフト
リスキーシフトとは逆で、グループでの議論を通じて、より慎重または保守的な決定をする傾向のこと
集団凝集性
グループメンバー間の結びつきの強さを指し、この凝集性が高いほど、メンバーはグループの意見に同調しやすくなります。つまり、友達同士がとても仲良しだと、みんなで同じ意見になりやすく、その結果、集団極性化が起こりやすくなるのです。
同調現象
アッシュによって1950年代に行われた実験に基づく心理学の概念です。個人は間違っていると分かっていても、集団の意見に合わせる傾向があることが示されました。これは、社会的承認を得たいという欲求や、集団からの排除を恐れるため、または集団の判断を自分より正しいと信じるために起こります。
アイヒマン実験
ミルグラムの実験はしばしば、ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判とその後の議論と関連付けられます。アイヒマンは、彼がただ命令に従っただけだと主張しました。これは、人々がどのようにして権威に服従するかを探求するミルグラムの研究の動機の一つとなりました。
ミルグラムは、人が権威にどれだけ服従するかを調べるための実験を行いました。実験では、被験者に「教師」としての役割が与えられ、間違った答えを出した「学習者」(実は協力者で、実際には電気ショックを受けていません)に電気ショックを与えるよう指示されました。ショックの強度は間違えるたびに増加し、最終的には非常に危険なレベルに達します。
多くの被験者が「学習者」からの悲鳴や、ショックを与えることへの躊躇を示しながらも、実験者(権威)の指示に従い続け、非常に高いレベルの電気ショックを与えることを選択しました。実験者が権威の立場にあると、普通の人々が道徳的判断を疑問視し、命令に従うことを示したのです。
スタンフォード監獄実験
1971年にジンバルドーによって行われた心理学の実験です。この実験は、人が与えられた役割にどのように適応し、その役割が個人の行動や心理状態にどのように影響するかを探ることを目的としていました。
この実験では、スタンフォード大学の地下に仮想の刑務所を設置し、志願した大学生をランダムに「看守」と「囚人」の役割に割り当てました。実験は2週間続く予定でしたが、参加者の間で予想外の暴力行為や心理的苦痛が発生し、わずか6日で中止されました。
- 「看守」の役割に就いた参加者は、権力を乱用し始め、囚人に対して過酷な扱いや屈辱的な処罰を加えるようになりました。
- 「囚人」の役割に就いた参加者は、従順になったり、ストレスやうつ状態に陥ったりしました。中には実験からの「早期釈放」を求める者もいました。
没個性化
個人が大きなグループの一員となった時に、自己意識が低下し、通常では考えられない行動をとるようになる現象を指します。没個性化が起こると、個人は自分の行動に対する社会的な抑制が弱まり、群衆の中での匿名性がその人の行動をより衝動的で、時には反社会的なものに変えることがあります。
サッカーの試合でファンが集まって応援している時や、オンラインで匿名で活動している時、人々は普段はしないような行動を取ることがあります。大きなグループにいるときや、自分が誰だか分からない状態(匿名性)では、普段は守っているルールやマナーを忘れてしまいがちです。これが没個性化です。
社会的勢力
社会的勢力の理論では、フレンチとレイブンによって1959年に提案された5つの権力の基盤があります。これらは、人々が他人に影響を与える方法や、なぜ人々が特定の要求に従うのかを説明するために用いられます。
1. 強制力(Coercive Power)
強制力は、罰や不快な結果を与える能力に基づく権力です。例えば、先生が宿題をしなかった生徒に罰を与えることがこれにあたります。この権力は、「もし従わなければ罰を受ける」という恐怖に基づいています。
2. 報酬力(Reward Power)
報酬力は、報酬やポジティブな結果を与える能力に基づく権力です。例えば、親が良い成績を取った子供にご褒美を与えることがこれにあたります。人々は報酬を得るために特定の行動をします。
3. 合法的権力(Legitimate Power)
合法的権力は、特定の役職や地位に基づく権力です。例えば、学校の校長や国の大統領が持つ権力がこれに該当します。人々は、その地位にある人が持つ権限を認め、従います。
4. 専門家権力(Expert Power)
専門家権力は、特定の知識やスキルを持っていることに基づく権力です。例えば、科学の先生が化学について深い知識を持っているため、生徒がその指示に従うことがこれにあたります。人々は、専門的な知識や技能を持つ人の意見や指示を尊重します。
5. 参照権力(Referent Power)
模範権力は、人々が特定の人物に感じる好感や尊敬、帰属意識に基づく権力です。例えば、人気のある芸能人や尊敬される人物が模範となり、その言動を真似たり、その意見に影響されたりします。
リターン・ポテンシャル・モデル
ジャクソンが提唱した社会的規範に関する理論の一つで、人々が特定の行動を取る際にどのように社会的報酬(リターン)と社会的制裁(コスト)を評価するかを説明します。
簡単に言うと、「特定の行動をしたときに、周りの人たちからどんな反応が返ってくるか」を考える方法です。例えば、学校でのルールやマナーを守ることで、先生や友達から良い反応を得られる(リターン)と考えたり、反対にルールを破ったりすると、注意されたり友達から避けられたりする(コスト)と予想したりします。
フット・イン・ザ・ドア・テクニック
心理学の分野で知られる説得の戦略の一つです。このテクニックは、小さな要求から始めて、相手がそれを受け入れた後に、より大きな要求をするという方法です。小さな要求に同意することで、相手は次第に自分を協力的な人と見なし、その後の大きな要求も受け入れやすくなるという心理的なプロセスに基づいています。
あなたが友達に小さなお願いをして、そのお願いを友達が承諾した後、もう少し大きなお願いをするとします。最初に小さなお願いを承諾したことで、友達は次のお願いも承諾しやすくなります。これがフット・イン・ザ・ドア・テクニックの基本的な考え方です。最初の小さな要求が「ドアに足を入れる」ことになり、それが次第に「ドアを全開にする」きっかけになります。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは逆のアプローチを取ります。このテクニックでは、最初に非常に大きな要求をして拒否された後、その後により小さな要求をすることで、相手がその小さな要求を受け入れやすくなるという方法です。
なたが友達にとても大変なお願いをして、「それは無理だよ」と言われたとします。その直後に、「じゃあ、もっと簡単なことを手伝ってくれない?」と聞くと、友達は最初の大きなお願いと比べて、この小さなお願いを受け入れやすくなります。これがドア・イン・ザ・フェイス・テクニックです。最初の大きな要求が「ドアに顔をぶつける」ような衝撃を与え、その後の小さな要求が比較的受け入れやすく見えるようになります。
ローボール・テクニック
相手が最初の提案に同意した後で、条件を変更してもその同意を維持させる方法です。このテクニックは、人が一度決定を下すとその決定に対して一貫性を持ちたいという心理的な傾向に基づいています。
友達が「今週末、映画を見に行こう」と言ってきたとします。あなたが「いいね、行こう!」と答えた後で、「実は、その前にちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」と言われたとします。最初に映画を見に行くことに同意したため、後から追加されたお願いも受け入れやすくなります。これがローボール・テクニックの一例です。最初に魅力的な提案で同意を得てから、後で条件を変えることで、人々がその新しい条件も受け入れるように促します。
スリーパー効果
当初信頼性が低いと見なされた情報源からのメッセージが、時間が経過するにつれてその説得力が増す現象を指しますが、その逆もまた真で、信頼性が高い情報源のメッセージの影響も時間が経つにつれて減少する可能性があるという側面があります。つまり、時間の経過と共に、メッセージの説得力に対する情報源の信頼性の影響が薄れることがあります。
手がかり分離仮説
メッセージの受け取り初期には説得者の信頼性と専門性がメッセージの説得力に大きく影響しますが、時間が経過するにつれて、メッセージの内容と説得者の信頼性が心の中で分離されるというものです。その結果、信頼性が高い情報源からのメッセージでも、時間が経つにつれて、その説得力の差が小さくなる可能性があります。
精緻化見込みモデル(ELM)
ペティとカシオポによって1980年代に提案された、説得のプロセスを理解するための心理学理論です。このモデルは、人が説得メッセージをどのように処理し、そのメッセージにどのように反応するかを説明するために、二つの異なる経路を提案しています。
- 中心ルート: この経路では、人々がメッセージの内容に深く集中し、論理的な引き合いや証拠に基づいて意見を形成します。これは、興味や関心が高いとき、または情報について深く考える動機があるときに起こります。
- 周辺ルート: この経路では、人々がメッセージの中心的な論点よりも、周辺的な手がかり(例えば、話し手の魅力やメッセージが提示される状況)に基づいて意見を形成します。これは、興味や関心が低い、または情報を深く考える動機や能力がないときに起こります。
リーダーシップ理論
リーダーシップの性質、効果、形成過程などを説明するための様々な理論やモデルの集合体です。これらの理論は、時間の経過と共に発展してきました。
PM理論
三隅二不二が提唱した理論で、リーダーシップの効果を二つの主要な機能、つまり目標達成機能と集団維持機能に分けて考える理論です。この理論は、リーダーが取り組むべき二つの異なる役割を強調しており、どちらの役割もグループや組織の成功には不可欠であると考えます。
条件即応モデル
フィードラーが提唱したリーダーシップ理論の一つです。このモデルは、リーダーの効果性がそのリーダーの固有のスタイルとリーダーが置かれている状況の性質との相互作用に依存すると主張します。フィードラーのモデルは、リーダーシップが単一の最適なスタイルに依存するのではなく、状況に応じて変わるべきであるという考えに基づいています。
リーダーを二つのカテゴリに分けました:タスク指向のリーダー(低LPC)と人間関係指向(高LPC)のリーダー。タスク指向のリーダーは、目標達成やタスクの完成を最優先に考える人たちです。一方、人間関係指向のリーダーは、チームの関係やメンバーの幸福を重視します。
ブーメラン効果
説得しようとしたメッセージが逆効果となり、受け手がメッセージの意図とは反対の態度や行動をとる現象を指します。この効果は、説得の試みが強すぎる場合や、受け手が自分の自由や意見を脅かされていると感じた場合に特に起こりやすいです。
マスコミュニケーション・流言
沈黙の螺旋現象
ノイマンによって1970年代に提唱されました。人々が自分の意見が多数派から外れていると感じた時に、自分の意見を公に表明することをためらう現象を指します。
この理論は、私たちが社会の中でどのように自分の意見を形成し、表現するかについての重要な洞察を提供します。自分の意見を持つこと、そしてそれを表現する勇気がどれほど大切かを理解するためにも、沈黙の螺旋の現象を知っておくことは有益です。
議題設定効果
メディアが公共の議論や考え方に影響を与える力を指します。具体的には、メディアが特定のニュースやトピックを取り上げ続けることで、繰り返し報道するから重要だと人々が感じてしまいます。この理論は、メディア研究の中で非常に重要な概念の一つで、メディアが社会にどのような影響を及ぼすかを理解する上で役立ちます。
第三者効果
デイヴィソンの提唱するこの理論は、人々が自分よりも他人がメディアの内容によって影響を受けやすいと考える傾向を指します。つまり、メディアのメッセージが自分にはあまり影響を与えないと思いながらも、他の人々、特に「第三者」には大きな影響を及ぼすと信じる現象です。
フレーミング効果
同じ情報を異なる方法で提示することによって、人々の解釈や意思決定が変わるという心理学の概念です。この効果は、人々が情報を受け取る際に、その情報がどのように枠組みされているか(フレーミングされているか)によって、その情報に対する反応が異なることを示しています。フレーミング効果は、政治、マーケティング、健康情報の伝達など、多くの分野で観察されます。
エピソード型フレーム
具体的な出来事や個別の事例に焦点を当てて情報を伝える方法です。このフレーミングでは、個人の物語や特定の事件が強調され、その詳細な状況や個々の影響が中心になります。このアプローチは、聴衆が情報に共感しやすくなりますが、より大きな文脈や全体的な傾向を見落とす可能性があります。
テーマ型フレーム
個別の事例や出来事ではなく、より広い文脈や一般的な傾向に焦点を当てます。このフレーミングでは、特定のテーマや問題が全体的な視点から探究され、背景や原因、影響などが議論されます。テーマ型フレームは、問題の深い理解や広範な視野を促すことができます。
争点型フレーム
特定の問題や議論に焦点を当て、その争点や対立する視点を強調します。このフレーミングでは、異なる意見や立場が対比され、議論や論争の核心が明らかにされます。争点型フレームは、公共の議論を促進し、さまざまな視点を提示することができますが、対立を強調し過ぎると偏った見方を生むこともあります。
戦略型フレーム
出来事や問題を伝える際に、その背後にある戦略や動機、政治的な意図に焦点を当てる方法です。このフレーミングでは、なぜある行動が取られたのか、どのような戦略的考えがあるのかが強調されます。戦略型フレームは、出来事の背後にある意図や計算を理解するのに役立ちますが、時には本質的な問題から注意をそらすことにもなりかねません。
アナウンス効果
メディアが何かについて報道すること自体が、その報道された事象や対象に影響を及ぼし、結果的に報道内容が現実のものとなることを指します。メディアが特定の現象やトレンドに焦点を当てることで、公衆の認識や行動が変わり、最終的にはその報道が予測または示唆した通りの結果が生じることがあります。オブザーバー効果とも言う。
バンドワゴン効果
他の多くの人々が何かをしている、またはある特定の意見を持っていると知ることで、個人がその行動や意見に飛び乗る(追随する)傾向を指します。言い換えれば、何かが人気である、または広く受け入れられていると認識することで、それに参加したいと感じる心理的な現象です。この効果は、消費者行動、政治選挙、ファッショントレンド、ソーシャルメディアなど、さまざまな領域で観察されます。
アンダードッグ効果
アンダードッグ効果(Underdog effect)は、競争や対立の状況で、不利な立場にある者や期待されていない者(アンダードッグ)に対する支持が増す心理的な現象を指します。人々はしばしば、劣勢な立場にある個人やチーム、または少数意見を持つグループに感情的な共感を感じ、彼らを応援する傾向があります。この効果は、スポーツの試合、政治選挙、映画や物語の中のキャラクターなど、さまざまな文脈で見られます。
デマの心理学
オールポートは「うわさ」(デマ)の研究に関与しています。オールポートとポストマンは共著で『The Psychology of Rumor』(デマの心理学)を1947年に発表しました。この研究では、うわさ(デマ)がどのようにして広がり、人々の間で信じられるようになるのか、そのプロセスと心理的な側面を探求しました。オールポートとポストマンによれば、うわさは不確実性が高い状況で広がりやすく、人々がその不確実性を解消しようとするときに、うわさが情報源として機能することがあるとされています。
感情の生起課程
種の起源
ダーウィン(Charles Darwin, 1809-1882)は、19世紀のイギリスの自然科学者で、進化論の父として広く知られています。彼は、生物の進化は自然選択というプロセスによって起こるという理論を提唱しました。
ダーウィンの理論は、生物学だけでなく、心理学、社会学、倫理学など多岐にわたる分野に影響を与え、現代科学の基礎を築きました。
ジェームズ=ランゲ説
感情の発生に関する心理学の理論の一つで、19世紀末にウィリアム・ジェームズとカール・ランゲによって独立して提唱されました。この理論は、感情体験は身体的な変化に基づくと主張します。つまり、何か外部の刺激に対して身体が反応し、その身体的な変化が脳に伝えられ、それを感情として認識するというプロセスを経て、感情が生じるというものです。
キャノン=バード説
キャノンとバードによって20世紀初頭に提唱されました。この理論は、ジェームズ=ランゲ説に対する反論として発展しました。キャノン=バード説では、感情と身体的な反応は独立しており、両者は同時に起こるが、一方が他方を引き起こすわけではないと主張します。つまり、感情体験と身体的な変化は同時に発生するが、これらは互いに直接的な原因と結果の関係にはないとされています。
感情の2要因理論
シャクターによって1960年代に提唱されました。感情の発生には2つの要因が関わっていると主張します。1つ目は身体的な興奮(生理的な反応)であり、2つ目はその興奮に対する認知的な解釈(状況の評価)です。つまり、感情は身体的な興奮と、その興奮が何によって引き起こされたのかを評価する認知の組み合わせによって生じるとされています。
感情の認知理論
アーノルドの感情の認知理論は、感情がどのようにして発生するかについての理論で、感情体験を生み出す過程における認知(知覚、評価、判断)の役割を強調します。アーノルドは20世紀中頃にこの理論を提唱し、感情を単なる身体的な反応や生理的な変化とは別に、認知的なプロセスを通じて形成されるものと見ました。アーノルドによれば、外部の刺激がまず知覚され、その刺激が個人にとって何を意味するのかが評価され、その評価に基づいて感情が生じるとされます。
単純接触効果
人が何か(例えば、物、人、音楽、画像など)に繰り返し接触することで、その何かに対して好感を持つようになる現象です。この効果は、ザイアンスによって1960年代に提唱されました。単純接触効果は、人々が新しいものや未知のものよりも、慣れ親しんだものに対して好意を持ちやすいという人間の傾向を示しています。
不快感情生起
ラザルスは、感情の生起に関する心理学の理論、特に認知的評価理論を提唱しました。この理論では、感情の生起は外部の出来事や状況に対する個人の認知的評価によって決定されるとされています。つまり、不快感情が生じるかどうかは、その人がその状況をどのように解釈するか、どのように評価するかに依存します。ラザルスによると、この評価プロセスは主に二つの段階から成り立っています
一次評価
最初に、個人は外部の出来事を「無害」、「有害」、または「挑戦」などと評価します。この段階で、出来事が個人にとって脅威、損失、または挑戦を意味するかどうかを判断します。例えば、テストの結果が悪かった場合、これを「有害」(損失や失敗)と評価するかもしれません。
二次評価
次に、個人は自分がその状況に対処できるかどうかを評価します。これは、個人が持つ対処能力や利用可能な資源を考慮に入れるプロセスです。テストで悪い結果を受けた場合、自分が改善するために何ができるか、どのようなサポートが利用できるかを考えます。
不快感情の生起
もし一次評価で出来事を「有害」と判断し、二次評価でその状況に対処する能力が不足していると感じる場合、不快感情が生じる可能性が高まります。この場合、恐怖、不安、悲しみなどの感情が生じることがあります。
表情フィードバック仮説
私たちの表情が感情体験に影響を与えるという心理学の理論です。この仮説によれば、感情を表す表情を作ることで、その感情を実際に感じることができるとされています。つまり、笑顔を作ることで幸せを感じたり、顔をしかめることで怒りや不満を感じたりするということです。この理論は、感情の発生における身体的な反応の役割を強調しており、内面の感情だけでなく、外的な表現が感情体験にフィードバックを与えることを示唆しています。
ソマティック・マーカー説
ダマシオによって提唱された理論で、意思決定プロセスにおいて身体的な感覚や感情が重要な役割を果たすと主張します。この理論によれば、過去の経験から得られる身体的な感覚(ソマティック・マーカー)が、現在の状況での選択肢を評価し、意思決定を助けるために脳によって使われます。ソマティック・マーカーは、特定の選択肢がもたらす潜在的な喜びや痛みを予測するのに役立ち、効率的な意思決定を促進します。
感情と身体・生理
自律神経系
人間の体内のさまざまな機能を無意識に調節する神経系です。心拍、呼吸、消化、血圧など、生命維持に必要な基本的な身体機能の多くをコントロールしています。自律神経系は大きく二つの部分から構成されており、それぞれが異なる役割を持っています。これらは交感神経系と副交感神経系です。
交感神経系
「戦うか逃げるか」の反応を担当しており、身体を緊急時やストレスがある状況に対応させるために活性化します。これにより、心拍数が上がり、呼吸が速くなり、筋肉が緊張し、エネルギーが増加します。これは、身体を危険から守るための即時の準備状態にするためです。
副交感神経系
「休息と消化」の反応を担当しており、身体をリラックスさせ、エネルギーを保存するために活性化します。心拍数や呼吸が落ち着き、消化活動が促進されることで、身体は休息し、回復します。
トリプトファン
人間の体内で多くの重要な生理的プロセスに関わる必須アミノ酸の一つです。必須アミノ酸とは、人間の体内で合成されないため、食事から摂取する必要があるアミノ酸を指します。トリプトファンは、特に精神健康や睡眠の質に影響を与える化合物の生産において重要な役割を果たします。
トリプトファンはモノアミン神経伝達物質を作るための材料の一つであり、モノアミンはその材料から作られ、脳内で様々な機能を果たす化合物です。
モノアミン
一つのアミノ基を含む有機化合物の一群で、神経伝達物質としての機能を持つものが多く含まれます。これらの化合物は、人間の脳内で情報伝達の役割を果たし、気分、感情、睡眠、食欲など様々な生理的プロセスに影響を与えます。主要なモノアミン神経伝達物質には、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)などがあります。
セロトニン
- 役割: 気分の調整、睡眠のサイクル、食欲、痛みの感覚などに関与します。
- 影響: セロトニンの不足は、うつ病や不安障害と関連しているとされます。
ドーパミン
- 役割: 報酬と快楽の感覚、動機付け、注意、運動制御などに関与します。
- 影響: ドーパミンのバランスの乱れは、パーキンソン病や統合失調症、依存症と関連しています。
ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)
- 役割: 覚醒、注意、ストレス反応、心拍数や血圧の調節などに関与します。
- 影響: ノルアドレナリンの不足は、うつ病や注意欠陥・多動性障害(ADHD)と関連していることがあります。
アドレナリン(エピネフリン)
- 役割: 強いストレスや恐怖を感じた時の「戦うか逃げるか」反応に関与します。
- 影響: アドレナリンは直接的な精神疾患とは関連していませんが、過剰なストレス反応による身体への影響をもたらすことがあります。
扁桃体
扁桃体は、脳の側頭葉内に位置する小さなアーモンド形をした構造で、感情の処理、特に恐怖や不安などのネガティブな感情の認識と反応に重要な役割を果たします。扁桃体は、脳の感情処理における中心的な部位の一つであり、感情的な記憶の形成にも関与しています。これにより、危険な状況に迅速に反応するための生理的および行動的な準備を促進します。
扁桃体が脅威を感知すると、身体を戦闘または逃走の状態にするために、交感神経系を活性化します。これにより、心拍数の上昇や筋肉の緊張など、身体が危険に対処するための準備が整います。
感情の分類
7種類の基本感情
エクマンは顔の表情と感情の関係に関する研究で知られています。彼の仕事は、人間の基本的な感情が文化を超えて普遍的であるという考えを支持しています。エクマンは、世界中の異なる文化で共通の顔の表情があることを発見し、これらの表情が特定の感情と直接関連していると結論付けました。エクマンによると、これらの普遍的な感情には、喜び、悲しみ、驚き、怒り、恐怖、軽蔑、そして嫌悪が含まれます。
感情円環モデル
心理学者のジェームズ・ラッセルによって提唱された、感情を理解するためのフレームワークです。このモデルは、感情を二つの主要な次元、すなわち「覚醒ー睡眠(活性化)」と「快不ー快(バレンス)」に基づいて分類します。覚醒度は、感情のエネルギーレベルや活性化の度合いを示し、快不快はその感情がポジティブ(快)かネガティブ(不快)かを示します。感情円環モデルは、これらの次元を使って、感情のさまざまな組み合わせを円環状に配置します。
一次的感情
人が生まれながらにして持っている基本的な感情です。これらは文化や社会によって変わることなく、世界中の人々に共通して見られます。
二次的感情
一次的感情が組み合わさることで生じるより複雑な感情のことを指します。これらの感情は、一次的感情よりも社会的、文化的な要素による影響を受けやすく、個人の経験や発達の過程で形成されます。
- 感謝:喜びと驚きが組み合わさることで生じることがあります。
- 羞恥:恐怖と驚きの組み合わせや、個人の自己認識に基づいて生じる感情です。
- 罪悪感:悲しみと恐怖が組み合わさって生じることがあり、自分の行動が他者に悪影響を与えたという認識に基づく感情です。
- 嫉妬:恐怖、怒り、悲しみなどが組み合わさって生じる感情で、他者が自分が欲しいものを持っている、または自分よりも優れていると感じるときに発生します。
- 誇り:喜びや驚きが組み合わさって生じ、自分の達成や成功に対する肯定的な感情です。
フロー
ミハイ・チクセントミハイによって提唱されました。完全に活動に没頭し、周囲のことを忘れ、時間の感覚が失われ、自己の存在が活動と一体化するような経験のことを指します。
フロー状態は、「ゾーンに入る」とも表現され、スポーツ、音楽演奏、ゲーム、仕事、創造的な活動など、様々な分野で経験されます。フロー体験は、高い集中力、満足感、生産性の向上につながることがあり、個人の幸福感や達成感を高める効果があるとされています。
シャーデンフロイデ
他人の不幸や失敗から喜びや満足感を得るという心理現象を指すドイツ語の言葉です。この言葉は直訳すると「害を受けることに対する喜び」という意味になりますが、通常は他人が経験する困難や不運に対して感じるある種の「悪意のある喜び」を表します。下方比較によって生まれる感情でもあります。
怒りと攻撃
攻撃性
フロイトの視点から見ると、攻撃性は本能的な衝動の一部として存在し、人間の行動において避けられない要素です。しかし、文明社会においては、この攻撃性を適切に管理し、制御することが必要とされます。精神分析学では、攻撃性を抑圧することが心理的な問題を引き起こす可能性があるため、この衝動を理解し、健全な方法で表現することが重要だとされています。
タナトス
フロイトが後期の著作で提唱した概念で、自己破壊的な衝動や攻撃性を司る本能とされています。この本能は、内向的なものとして個人を自滅に導くことも、外向的な攻撃性として他者に対する暴力や破壊行為に現れることもあります。フロイトによれば、人間はこの二つの本能の間の緊張状態にあり、生活の中でこれらをバランスさせることが求められます。
フラストレーション
攻撃行動の原因としてフラストレーション(欲求不満)を中心に据え、フラストレーションが攻撃性の直接的な原因となると主張しています。理論の基本的な前提は、「フラストレーションは常に攻撃行動を引き起こす、攻撃行動は常にフラストレーションによって引き起こされる」というものです。
認知的新連合理論
バークウィッツが提唱した攻撃行動と感情の関係を説明するための理論です。この理論はラストレーション-アグレッション仮説を発展させる形で提案され、人間の攻撃行動が単にフラストレーション(欲求不満)によってのみ引き起こされるのではなく、さまざまなネガティブな感情や状況によっても引き起こされると主張しています。
社会的学習説
バンデューラによって提唱された理論で、人が他者の行動を観察し、模倣することによって新しい行動を学ぶという考えに基づいています。この理論は、人間の行動が単に内的な衝動や外的な刺激によってのみ決定されるのではなく、社会的な相互作用と観察学習を通じて形成されると主張しています。社会的学習説は、特に行動の模倣、報酬と罰、自己効力感の概念を通じて、人々がどのようにして行動を学習し、変化させるかを説明します。
一般攻撃モデル
攻撃行動とその発生メカニズムを理解するための統合的な心理学的理論です。このモデルは、クレイグ・アンダーソンとブッシュマンによって1990年代後半に提案されました。このモデルは、人がなぜ攻撃的な行動をとるのか、その背後にある理由を説明しようとします。
このモデルには大きく分けて3つのポイントがあります。
- 入力:これは、人が攻撃的になる原因です。例えば、誰かにいじめられたり、イライラするようなことがあったりすると、攻撃的になりやすくなります。
- 経路:これは、入力(原因)をどう感じるか、どう考えるかを示します。イライラすることがあった時、そのことをどう考えるかによって、怒りの感じ方が変わってきます。
- 結果:これは、攻撃的な行動をとった後のことです。例えば、怒って叫んだ後に、友達と仲直りすることができれば、それは良い結果です。
短期と長期の話
このモデルは、すぐに起こる「短期的な」攻撃行動だけでなく、「長期的に」どうやって人が攻撃的な性格になるかも説明します。たとえば、何度もイライラする出来事があると、その人は怒りっぽくなるかもしれません。
感情と学習・記憶
感情一致効果
自分の今の気持ちがどういう状態かによって、物事をどのように見たり、思い出したりするかが変わってくる心理学の現象のことを指します。例えば、嬉しいことがあって幸せな気分の時には、楽しいことや嬉しかった出来事を思い出しやすくなったり、周りの世界をもっとポジティブに感じたりします。一方で、悲しい時や落ち込んでいる時には、辛かったことや悲しい記憶が頭に浮かびやすくなったり、周りのことをネガティブに捉えやすくなったりします。このように、自分の感情が、物事をどのように認識し、記憶するかに影響を与える現象を感情一致効果と呼びます。
感情状態依存効果
ある特定の感情状態で学習した情報は、同じ感情状態になった時に思い出しやすくなる、という心理学の現象です。つまり、学んだ時と同じ気持ちの時に、情報を思い出しやすくなるということです。
たとえば、あなたがとても楽しい気分で友達と遊んでいる時に新しい歌を覚えたとします。後日、その歌を思い出そうとする時に、また楽しい気分になると、歌詞を思い出しやすくなります。逆に、悲しい時に覚えた詩は、悲しい気分の時に思い出しやすくなるというわけです。
フラッシュバブルメモリー
特に衝撃的または感情的に重要な出来事を体験した際に形成される、非常に鮮明で詳細な記憶のことです。この言葉は、まるでその瞬間をフラッシュバルブ(カメラのフラッシュ)で照らし出したかのように、その記憶が鮮明に残ることから来ています。フラッシュバルブメモリーは、人々がどこにいたのか、何をしていたのか、誰と一緒だったのか、どんな感情を感じたのかなど、その瞬間の詳細を非常に明確に覚えていることが特徴です。
ガルシア効果
特定の食べ物を摂取した後に不快な体験(例えば、吐き気や嘔吐)をすると、その食べ物に対して強い回避反応を示すようになる学習の形式を指します。この現象は、心理学者のガルシアにちなんで名付けられました。彼は、放射線にさらされたラットが特定の味に対して強い回避反応を示すことを発見し、この効果を詳細に研究しました。
感情の障害
アレキシサイミア
シフネオスの提唱した概念で自分の感情を認識したり、表現したりすることが困難な状態を指す心理学の用語です。この言葉はギリシャ語の「a-」(無い)、「lexis」(言葉)、そして「thymos」(感情)から来ており、「感情に対する言葉が無い」という意味になります。アレキシサイミアの人は、自分がどのような感情を感じているのかを特定するのが難しく、また、その感情を他人に伝えるのも苦手です。
双極性感情障害
気分が極端に高まる躁状態(マニア)と、極端に沈むうつ状態の両方を繰り返す精神疾患です。この障害は、かつては躁うつ病(Manic-Depressive Illness)とも呼ばれていました。双極性感情障害の人は、通常の気分の範囲を超えて、極端な感情の変動を経験します。これらの気分の変化は、個人の日常生活、仕事、学業、人間関係に大きな影響を及ぼすことがあります。
脅迫性障害
不合理な思考や恐怖(脅迫観念)が繰り返し頭に浮かび、それに対処するために特定の行為(強迫行為)を繰り返し行うことを特徴とする精神障害です。この状態は、日常生活に大きな影響を及ぼし、患者さん自身にも大きな苦痛を与えることがあります。
たとえば、「手が汚れているかもしれない」と心配になって、何度も手を洗ってしまうとか、ドアがちゃんと閉まっているか確認するために何度も確認してしまうといったことがあります。これは、その人のせいではなく、脳の働きやいろいろな要因によって起こるものです。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
極度にストレスのある出来事やトラウマ体験(例えば、自然災害、事故、戦闘、暴力的な出来事など)を経験した後に発症する精神障害です。この体験が原因で、その人は強い恐怖や無力感、絶望感を感じることがあり、その後、長期間にわたってさまざまな精神的な症状に悩まされることになります。
急性ストレス障害(ASD)
極めてストレスの高い出来事やトラウマ体験(例えば、自然災害、事故、暴力的な出来事など)の直後に発生する精神的な障害です。ASDは、そのような出来事を経験した後の最初の数週間に、強い不安、フラッシュバック、睡眠障害、集中困難などの症状が現れることを特徴とします。ASDは一時的なもので、症状は通常、出来事の後3日から最長で1ヶ月間持続します。ASDの症状が1ヶ月以上続く場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)へと発展する可能性があります。
パーソナリティ理論
四期質説
古代ギリシャの医学と哲学に由来する考え方で、人間の性格や気質を四つの基本的なタイプに分類する理論です。この理論は、特にヒポクラテスとガレノスによって発展され、人間の体内に存在するとされる四つの体液(血液、黒胆汁、黄胆汁、粘液)のバランスに基づいて、人の気質が決まると考えられていました。各気質は特定の性格特性や行動傾向と関連付けられています。
四つの気質
- 多血質(Sanguine): 血液が支配的な体液。楽観的で社交的、感情的に表現豊かな性格が特徴。
- 憂鬱質(Melancholic): 黒胆汁が支配的な体液。慎重で思慮深く、しばしば悲観的や感傷的な性格が特徴。
- 胆汁質(Choleric): 黄胆汁が支配的な体液。野心的でリーダーシップがあり、情熱的な性格が特徴。
- 粘液質(Phlegmatic): 粘液が支配的な体液。平和的で冷静、安定した性格が特徴。
クレッチマー
レッチマーは、ドイツの精神医学者で、体型と性格の関連に関する研究で知られています。人の体型を基にその人の性格傾向を分析し、特定の精神疾患が体型によって予測できるという理論を提唱しました。彼の理論では、主に次の3つの体型があり、それぞれが特定の性格特性と関連しているとされています。
クレッチマーの体型論
- アステニック体型(瘦せ型): 長身で痩せており、筋肉があまり発達していない人々。クレッチマーは、この体型の人は神経質で感受性が高く、統合失調症に罹患する傾向があると考えました。
- ピクニック体型(丸型): 体が丸く、胴が太い人々。この体型の人は社交的で楽観的、情緒的で、躁うつ病に罹患する傾向があるとされました。
- アスレチック体型(筋肉質): 筋肉が発達し、骨格がしっかりしている人々。クレッチマーによれば、この体型の人は活動的で、積極的な性格があり、精神疾患のリスクは比較的低いと考えられました。
フロイト
フロイト(Sigmund Freud, 1856-1939)はオーストリアの神経科医であり、精神分析学の創始者として知られています。フロイトの理論は、人間の心理や行動が無意識のプロセスに大きく影響されるという考えに基づいています。彼は、人間の心を意識的な部分(意識)、部分的に意識的な部分(前意識)、そして意識に上がってこない部分(無意識)の三層に分けて考えました。
フロイトの主要な概念
- 無意識: 人の行動や感情に大きな影響を与えるが、直接意識することのできない心の領域。
- 抑圧: 不快な記憶や感情を無意識の中に押し込める心理的なメカニズム。
- リビドー: 性的なエネルギーまたは欲求。
- エディプスコンプレックス: 幼児期に異性の親に対して抱く無意識の性的な欲望と、同性の親との競争的な感情。
- 精神分析療法: 無意識の内容を意識的にすることで心理的な問題を解決しようとする治療方法。
フロイトの理論の影響
フロイトの理論は、心理学、文学、芸術、文化など幅広い分野に大きな影響を与えました。彼のアイデアは、20世紀の思想や文化において中心的な役割を果たし、現代心理学における多くの理論や治療法の基礎を築きました。しかし、フロイトの理論は科学的な根拠が不足しているとの批判も受けており、現代心理学においてはその有効性について賛否両論があります。
ユング
ユング(Carl Gustav Jung, 1875-1961)は、スイスの精神科医であり心理学者で、分析心理学の創始者として知られています。フロイトの精神分析学から発展し、その後独自の理論体系を構築しました。ユングは、人間の心理は個人の経験だけでなく、人類共通の無意識の要素にも深く根ざしていると考えました。
ユングの主要な概念
- 個人的無意識: 個人の経験から生じる無意識の部分。抑圧された記憶や感情などが含まれます。
- 集合的無意識: 人類共通の無意識の領域で、人類の歴史や文化を通じて形成された普遍的なイメージやテーマ(アーキタイプ)を含みます。
- アーキタイプ: 集合的無意識の中に存在する、人類共通の原型的イメージやシンボル。例えば、「英雄」、「影」、「母」、「賢者」などがあります。
- 自我: 意識の中心で、自己認識や他者との関係を調整する役割を持ちます。
- ペルソナ: 社会的な役割や期待に応じて見せる外面的な自己。
- アニマとアニムス: 内面に存在する異性の要素。男性にはアニマ(女性的な側面)、女性にはアニムス(男性的な側面)があります。
- 自己: 個人の全体性を象徴する概念で、意識と無意識を統合した最終的な自己理解を指します。
ユングの理論の影響
ユングの理論は、心理学はもちろん、文学、芸術、宗教学、人類学など多岐にわたる分野に影響を与えました。彼の考えたアーキタイプや集合的無意識の概念は、文化や神話を通じて人間の普遍的な心理を理解するための重要な鍵とされています。
エリクソン
エリクソンは人生を8つの発達段階に分け、各段階で個人が直面する「危機」や課題に焦点を当てました。これらの課題は、個人の成長とアイデンティティ形成に重要な影響を与えるとされています。各段階での成功や失敗は、その後の発達にも影響を及ぼします。
- 信頼対不信(乳児期)
- 自律性対恥と疑念(幼児期)
- 主導性対罪悪感(就学前期)
- 勤勉性対劣等感(学童期)
- アイデンティティ対役割混乱(青年期)
- 親密さ対孤立(若年成人期)
- 生産性対停滞(中年期)
- 統合対絶望(老年期)
エリクソンの理論の意義
エリクソンの理論は、人間の成長と発達を一生涯にわたるプロセスとして捉え、社会的な関係や文化的な要因が個人のアイデンティティ形成にどのように影響を与えるかを強調しました。また、彼の理論は教育、心理療法、社会福祉など多くの分野に応用されています。
アイゼンクのパーソナリティ理論
アイゼンクは、イギリスの心理学者で、パーソナリティ(性格)理論において重要な貢献をしました。アイゼンクのパーソナリティ理論は、性格を決定する基本的な次元が存在するという考えに基づいています。彼は、性格の違いを説明するために、主に二つ(後に三つ)の基本的な次元を提案しました。
- 内向性/外向性(Introversion/Extraversion): この次元は、人が外部の世界に対してどのように反応するかに焦点を当てています。外向的な人は社交的で活動的、刺激を求めがちですが、内向的な人は静かで独りでいることを好み、内省的です。
- 神経症傾向(Neuroticism): この次元は、人がストレスや不安にどれだけ敏感かを示します。高い神経症傾向を持つ人は情緒的に不安定で、低い人は情緒的に安定しています。
- 精神質(Psychoticism): 後に追加されたこの次元は、人が攻撃的、非社交的、または感情的に冷淡である傾向を示します。高い精神質を持つ人はしばしば衝動的であり、社会的規範に従うことが少ないとされます。
シュプランガー
シュプランガーは、人間の価値観や行動が、個人が最も重視する「生活形態」に基づいていると考えました。彼の理論によれば、人間は自分が大切にしている価値に従って行動し、その価値観は人それぞれ異なります。
シュプランガーの生活形態の理論
シュプランガーは、人間の性格や行動を理解するために、6つの基本的な生活形態(価値指向)を提案しました。これらは個人が人生で追求する価値の種類を表しています。
- 理論的型: 真理や知識を追求することに価値を見出す人々。
- 経済的型: 実用的で経済的な効果を重視する人々。
- 美的型: 美や芸術的な表現に価値を見出す人々。
- 社会的型: 他人への奉仕や社会貢献に価値を見出す人々。
- 権力型: 影響力や権力を追求することに価値を見出す人々。
- 宗教的型: 宗教的または精神的な価値を追求する人々。
オールポート
オールポートは、アメリカの心理学者で、性格心理学の分野で大きな影響を与えた人物です。オールポートは、人間の性格を理解するために、個人の独自性とその生活の文脈を重視するアプローチを提唱しました。彼は性格を「その人固有の心理的な構造」と定義し、個人の行動や思考がその人独自の性格特性によって導かれると考えました。
オールポートの性格理論の主要な概念
- 特性(Trait): オールポートは、性格を構成する基本的な単位として「特性」を提案しました。特性は安定した性格の特徴であり、個人の行動や態度に一貫性をもたらします。
- カーディナル特性、中心特性、二次特性: 彼は、特性をさらに3つのカテゴリに分類しました。カーディナル特性は個人の人生を支配する主要な特性、中心特性は個人の行動を一貫して説明する重要な特性、二次特性は特定の状況でのみ現れる特性です。
- 機能的自律性: 成熟した大人の動機は、幼少期の本能や欲求から独立して、自己にとって意味のある目標に向かって進化するとオールポートは主張しました。
マレー
マレー(Henry Alexander Murray, 1893-1988)はアメリカの心理学者で、人間の欲求とパーソナリティに関する理論で知られています。マレーは、人間の行動や性格は多様な内的欲求や外的環境によって動かされると考えました。彼の研究は、特に「欲求」と「テーマ法」に関するものが有名です。
マレーの欲求理論
マレーは、人間には多くの基本的な欲求があり、これらが人の行動や性格を形成すると提唱しました。彼は20以上の「主要な欲求」を特定し、これには力、業績、自律性、支配、親和性、遊びなどが含まれます。マレーはこれらの欲求が、個人が特定の行動をとる理由であり、それぞれの欲求の強さが人によって異なると考えました。
テーマ法(TAT)
マレーは、人の内面を探るための心理学的テストであるテーマ統覚テスト(Thematic Apperception Test, TAT)を共同で開発しました。TATは、あいまいな画像を見せ、その画像について物語を作ってもらうことで、その人の内面的な欲求や感情、葛藤などを明らかにしようとする方法です。このテストは、無意識の欲求やパーソナリティの側面を探るのに使用されます。
マズローの欲求5階説
マズロー(Abraham Maslow, 1908-1970)はアメリカの心理学者で、人間の動機づけや欲求に関する理論で有名です。彼の最もよく知られている理論は「マズローの欲求階層説」と呼ばれ、人間の基本的な欲求が階層構造をなしていると提案しました。この理論では、より基本的な欲求が満たされた後に、より高次の欲求が現れるとされています。
マズローの欲求階層説の5つのレベル
- 生理的欲求: 食事、水、睡眠、性など、生存に直接必要な基本的な身体的欲求。
- 安全の欲求: 身体的安全だけでなく、雇用、健康、財産などの安定を求める欲求。
- 社会的欲求(所属と愛の欲求): 友情、家族、恋愛など、他者との関係や愛情を求める欲求。
- 承認の欲求: 自尊心、承認、地位、成功など、他者からの評価や尊敬を得ることを求める欲求。
- 自己実現の欲求: 自分自身の可能性を最大限に引き出し、自分らしさを表現することを求める欲求。
場の理論
心理学者クルト・レヴィン(Kurt Lewin, 1890-1947)によって提唱された理論で、人間の行動はその人が置かれている環境(場)と、その人自身の心理的な状態によって決定されると考えます。この理論は、「行動は心理的場の関数である」という式で表されることがあります。つまり、個人の行動はその時々の環境や状況、個人のニーズや動機、過去の経験など、多くの要素が複雑に絡み合った結果として生じるという考え方です。
場の理論の主要な概念
- 心理的場(Life Space): 個人がその時点で認識している全ての要因(外部環境、内部状態、社会的関係など)を含む心理的な空間を指します。
- 力のベクトル: 個人をある方向に動かそうとする心理的な力。これは、目標達成に向けた動機や、特定の行動を避けようとする抑制など、様々な形をとります。
- 等価性の法則: 異なる環境や状況でも、同じ心理的な結果を生み出すことがあるという原則。つまり、異なる原因が同じ効果をもたらすことがあります。
場の理論の意義
場の理論は、人間の行動を理解する上で、個人の内面だけでなく、その人が置かれている環境や状況も重要であるという視点を提供します。この理論は、社会心理学、教育心理学、組織心理学など、様々な分野に応用されています。レヴィンの考え方は、グループダイナミクスやリーダーシップ、変革管理などの研究にも大きな影響を与えました。
パーソナル・コンストラクト理論
人々が自分自身と世界を理解し、予測するために使用する個人的な概念体系や枠組み(パーソナル・コンストラクト)に焦点を当てています。ケリーは、人々が現実を捉え、解釈する方法は、それぞれ独自の「パーソナル・コンストラクト」によって形成されると考えました。
パーソナル・コンストラクト理論の主な概念
- パーソナル・コンストラクト: 個人が経験を分類し、意味を付与するために使用する心理的なフィルターや概念のこと。これによって人は、物事を理解し、予測します。
- 構成的代替性: 同じ状況を異なるコンストラクトを用いて解釈する能力。人は異なる視点から物事を見ることができます。
- REPテスト(役割構成尺度): ケリーが開発した、個人のパーソナル・コンストラクトを把握するための心理テスト。
パーソナル・コンストラクト理論の意義
この理論は、人がどのようにして世界を認知し、理解するかについての洞察を提供します。また、個人差を強調し、人々が持つ独自の視点や解釈の重要性を認めています。このアプローチは、カウンセリングや心理療法、教育など、様々な分野で応用されており、特に人間中心の心理療法において重要な役割を果たしています。
相互作用論
ミシェル(Walter Mischel, 1930-2018)は、アメリカの心理学者で、特にパーソナリティ心理学と自己制御に関する研究で知られています。ミシェルは、人間の行動は固定された性格特性によってではなく、その状況や文脈に応じて変化すると主張し、これを「相互作用論」と呼びました。彼の理論は、個人の行動が内面的な性格特性と外部環境との相互作用によって決定されるという考え方に基づいています。
ミシェルの相互作用論の主要なポイント
- 状況性: ミシェルは、人々の行動は特定の状況や文脈に強く影響されると考えました。つまり、同じ人でも異なる状況で全く異なる行動を取ることがあります。
- 遅延報酬の選択: ミシェルの有名な実験には「マシュマロテスト」があります。これは子供たちに即時の小さな報酬(マシュマロ1個)を受け取るか、しばらく待ってからより大きな報酬(マシュマロ2個)を受け取るかを選ばせる実験で、自己制御能力と将来の成功の関連を示しました。
- パーソナリティの可塑性: 個人の行動や性格は、時間と共に変化し得るという考え方を強調しました。これは、性格が固定されているという従来の考え方に挑戦するものです。
ミシェルの理論の意義
ミシェルの相互作用論は、パーソナリティ心理学において重要な転換点をもたらしました。彼の研究は、人間の行動を理解する際には、内面的な性格特性だけでなく、外部の状況や文脈も考慮に入れる必要があることを示しました。この考え方は、個人をより深く理解し、より効果的な心理療法や教育方法を開発するための基礎となっています。
ビッグファイブ理論
人間の性格を記述するために広く受け入れられている理論で、性格の5つの主要な次元(ビッグファイブ)に基づいています。これらの次元は、多くの異なる文化や状況で一貫性が見られ、人々の行動や性格特性を包括的に理解するためのフレームワークを提供します。
ビッグファイブの5つの次元
- 外向性(Extraversion): 社交性、活動性、積極性、感情的な表出の度合い。外向的な人は、人と一緒にいることを楽しみ、エネルギッシュで陽気です。
- 協調性(Agreeableness): 他人に対する共感や協力の精神。協調性が高い人は、親切で信頼でき、他人の気持ちを理解しようとします。
- 誠実性(Conscientiousness): 組織化、責任感、頑張り、目標達成への努力の度合い。誠実性が高い人は、計画的で頼りになります。
- 神経症傾向(Neuroticism): 感情的な不安定性、不安、悲観主義の度合い。神経症傾向が高い人は、ストレスを感じやすく、感情の変動が大きいです。
- 開放性(Openness to Experience): 新しい経験への開放性、創造性、好奇心の度合い。開放性が高い人は、新しいアイデアや変化を受け入れやすく、想像力が豊かです。
ビッグファイブ理論の意義
ビッグファイブ理論は、人間の性格を科学的に研究し理解する上で重要なツールとなっています。この理論に基づいた性格評価は、教育、職場、心理療法など様々な分野で利用されています。また、個人の性格特性を測定することで、キャリアの選択、人間関係の改善、自己理解の深化に役立てることができます。
優生学
伝的に「望ましい」特質を人類の集団に増やし、「望ましくない」特質を減らすことを目的とした科学的および社会的運動です。19世紀末にイギリスの科学者フランシス・ゴルトンによって提唱されたこの概念は、人間の遺伝的質を改善することで、より「優れた」人類を育成することが可能だと考えました。
優生学の二つのアプローチ
- 積極的優生学: 優れた遺伝的特質を持つ人々に子供を多く持ってもらうことを奨励するアプローチです。これには、健康や知能が高いとされる人々の繁殖を奨励する政策が含まれます。
- 消極的優生学: 遺伝的に「劣る」とされる特質を持つ人々の繁殖を制限または防ぐことを目的としたアプローチです。これには、強制的な不妊手術や結婚制限などが含まれ、深刻な倫理的問題を引き起こしました。
優生学の歴史と影響
優生学運動は20世紀初頭に多くの国で支持を得ましたが、ナチス・ドイツによる人種政策とホロコーストとの関連で特に悪名高いです。ナチスは優生学の理念を極端に推し進め、「劣った」とされる人々を排除するための大量虐殺を行いました。
この歴史的経緯から、優生学は広く批判され、人間の多様性と個々の尊厳を尊重する現代の倫理観とは相容れないものとされています。しかし、遺伝子工学や遺伝子編集技術の進展に伴い、遺伝的特性に関する新たな議論が生じており、優生学的な思想が現代においても潜在的な問題として指摘されています。
パーソナリティに測定法
投影法
心理学において個人の内面的な思考、感情、欲求、衝動などを探るために用いられる一連の心理テストです。これらのテストは、被験者があいまいな、構造化されていない刺激(例えば画像や言葉)に対して反応する方法を通じて、被験者の無意識の心理状態や特性を明らかにすることを目的としています。投影法は、被験者が自身の感情や思考を刺激物に「投影」するという仮定に基づいています。
エゴグラム
心理学の概念を基にした人の性格や心理状態を分析するツールです。この方法は、エリック・バーンによって提唱されたトランザクショナル分析(TA)理論に基づいています。トランザクショナル分析は、人間のパーソナリティを「親エゴ」「大人エゴ」「子エゴ」の3つの状態に分けて考え、これらが相互にどのように関わり合っているかを分析する理論です。
エゴグラムの5つのカテゴリ
エゴグラムでは、親エゴ、大人エゴ、子エゴの3つをさらに細分化し、以下の5つのカテゴリで個人の性格や行動傾向を分析します。
- 批判的親エゴ(CP: Critical Parent): 規範やルールを重んじ、批判的または支配的な態度を取る傾向。
- 養育的親エゴ(NP: Nurturing Parent): 他者をサポートし、保護する態度を取る傾向。
- 大人エゴ(A: Adult): 客観的で論理的な思考をする傾向。現実に基づいて情報を処理し、適切な判断を下します。
- 自由奔放な子エゴ(FC: Free Child): 自発的で創造的、感情的に行動する傾向。楽しみや欲求を追求します。
- 順応的子エゴ(AC: Adapted Child): 外部からの期待や圧力に順応し、従う傾向。
エゴグラムの使用
エゴグラムは、個人の内面的な動機やコミュニケーションスタイル、対人関係の問題などを理解するために使用されます。カウンセリングやセラピー、自己理解のためのツールとして利用されることがあります。エゴグラムを通じて、自分の心理状態や行動傾向をより深く理解し、対人関係の改善や自己成長に役立てることができます。
内田クレベリン検査
日本の精神医学者内田久が開発した心理テストです。この検査は、ドイツの精神科医パウル・クレペリンによって提案された作業曲線の理論に基づいています。内田クレペリン検査は、主に個人の作業能力、注意力、持続力、疲労の回復力などを評価するために用いられます。
検査の方法
内田クレペリン検査では、被験者に対して一定時間内に簡単な計算問題を解かせる作業を行わせます。通常、この検査は15分間で、一定の時間ごと(例えば、1分ごと)に解いた問題数を記録します。この過程で得られるデータから、作業の開始から終了までの作業速度の変化(作業曲線)が描かれ、その人の心理的な特性を分析します。
評価される特性
- 作業速度: 被験者がどれだけ迅速に作業を進めることができるか。
- 持続力: 一定のペースで作業を続ける能力。
- 注意力: 作業に対する集中力の持続性。
- 疲労の回復力: 作業中に発生した疲労がどれだけ早く回復するか。
検査の応用
内田クレペリン検査は、臨床心理学や産業心理学の分野で用いられ、個人の精神状態やストレスレベル、適職判断などの評価に役立てられています。また、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の診断や、うつ病患者の疲労感の評価など、さまざまな臨床的な文脈で使用されています。
パーソナリティと健康・適応
タイプA行動パターン
1950年代にアメリカの心理学者フリードマンとローゼンマンによって提唱された概念で、心臓病のリスク要因として特定されました。この行動パターンを持つ人々は、非常に競争心が強く、急かされる感じがして、常に時間と戦っているような性格特性を持っています。タイプAの人は、仕事や日常生活において高い達成欲を持ち、忍耐力が低く、敵意や怒りを感じやすい傾向があります。
タイプA行動パターンの特徴
- 競争心が強い: 成功と達成を強く求め、他人との競争を好む。
- 急かされる感じ: 常に時間に追われていると感じ、多くのことを短時間で成し遂げようとする。
- 攻撃性と敵意: 挑戦的な態度を取りやすく、他人に対して敵意を抱きやすい。
- 不忍耐: 待つことや遅れに対してイライラしやすい。
タイプAと健康への影響
初期の研究では、タイプA行動パターンを持つ人々は心臓病になりやすいとされました。ストレスの多い生活態度が、高血圧や心臓疾患などのリスクを高めると考えられています。しかし、後の研究では、タイプAの全ての特徴が心臓病のリスクを高めるわけではなく、特に敵意の高さが健康リスクと関連していることが示されました。
タイプB行動パターン
タイプA行動パターンに対比されるのがタイプB行動パターンです。タイプBの人々は、比較的リラックスしており、急かされる感じが少なく、物事に対して穏やかで忍耐強い傾向があります。
マキャベリアニズム
キャベリ(Niccolò Machiavelli, 1469-1527)の名前に由来する政治哲学や戦略の概念です。マキャベリが著した『君主論』(Il Principe)に基づく考え方で、特に権力を獲得し、維持するためには、道徳的な制約を超えた手段を使うことも許されるという考えを含んでいます。マキャベリアニズムは、政治的な現実主義と見なされることが多く、目的を達成するためには手段を選ばない態度を指して用いられます。
マキャベリアニズムの主要な特徴
- 目的達成のための手段の正当化: 目的を達成するためには、道徳的・伝統的な制約に縛られず、必要な手段を取るべきだとする考え。
- 権力の獲得と維持: 権力を獲得し維持することを最優先の目的とし、そのための戦略や計略を巧みに使うこと。
- 人間観の悲観性: 人間は本質的に自己利益を追求する存在であり、信頼することは危険であるという悲観的な人間観。
マキャベリアニズムの批判と評価
マキャベリアニズムは、その冷酷で計算高い態度から、しばしば批判の対象となってきました。一方で、マキャベリの思想は、政治の現実を直視し、理想主義だけでは対処できない複雑な問題に対処するための現実的なアプローチとして評価されることもあります。
サイコパシー
反社会的行動、感情の欠如、他人に対する共感の不足、良心の呵責の欠如などを特徴とする人格障害の一形態です。サイコパシーはしばしば、冷酷さや操る能力、自己中心性、責任感の欠如などの特徴を持つとされています。サイコパスとされる人々は、表面上は魅力的で説得力があり、社会的には成功しているように見えることもありますが、深い感情的結びつきや真の共感の感覚を持ち合わせていないことが多いです。
サイコパシーの特徴
- 感情的鈍感: 恐怖や罪悪感をほとんど感じず、他人の感情に共感しない。
- 表面的な魅力: 社交的で魅力的に見えるが、それは操るための手段に過ぎない。
- 反社会的行動: 法律や社会的規範を無視する行動をとる。
- 良心の欠如: 行動の結果に対する後悔や責任感がほとんどない。
サイコパシーの診断と評価
サイコパシーは、心理学や精神医学において広く研究されていますが、正式な精神障害の診断基準としてはDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)やICD-10(国際疾病分類)には明確には記載されていません。しかし、反社会性人格障害や境界性人格障害などと関連があるとされ、これらの障害の診断基準にサイコパシーの特徴が部分的に含まれています。
センス・オブ・コヒアランス
アーロン・アントノフスキーによって提唱された健康心理学の概念です。この理論は、人がストレスや困難に直面したときに、どのようにして健康を維持し、回復する能力を持つかを説明するものです。センス・オブ・コヒアランスは、人生の出来事や状況を理解し、管理し、意味を見出す能力を指し、高いSOCを持つ人はストレスに対処し、健康を維持する能力が高いとされます。
センス・オブ・コヒアランスの3つの要素
- 理解可能性(Comprehensibility): 人生の出来事が予測可能で、説明可能で、理解可能であると感じる能力。
- 管理可能性(Manageability): 人生の挑戦や困難に対処するために必要なリソースを持っている、またはそれを得ることができると感じる能力。
- 意味付け(Meaningfulness): 人生の困難や挑戦に直面することが価値があり、意味があると感じる能力。
センス・オブ・コヒアランスの意義
アントノフスキーは、センス・オブ・コヒアランスが高い人は、ストレスの影響を受けにくく、精神的および身体的健康を維持しやすいと提唱しました。この概念は、健康促進や予防医学、ストレス管理、心理療法などの分野で応用されています。また、個人だけでなく組織やコミュニティのレベルでの健康促進にも影響を与えると考えられています。
レジリエンス
レジリエンスは、困難やストレスの状況に直面したときに、うまく対処し、回復する能力を指します。この言葉は、本来「弾力性」や「回復力」という意味を持ち、心理学では精神的な強さや逆境に立ち向かう力のことを示します。レジリエンスが高い人は、厳しい状況やトラウマを経験しても、それを乗り越えて成長することができます。
ハーディネス
ストレスや困難な状況に直面したときに、それに効果的に対処し、成長することができる人々の特性を表します。1970年代後半に心理学者スザンヌ・コバサ(Suzanne C. Kobasa)によって提唱されたこの概念は、レジリエンスと似ていますが、特にストレス耐性に焦点を当てています。ハーディネスは、ストレスに対する個人の抵抗力を高め、逆境を乗り越える力を持つとされます。
ハーディネスの3つの主要な要素
- コミットメント(Commitment): 逆境や困難に直面しても、自分の活動や人生に対して関与し続ける能力。
- コントロール(Control): 自分の人生や出来事に対して、何らかの影響を及ぼせると信じる能力。
- チャレンジ(Challenge): 困難や変化を脅威と捉えるのではなく、成長や学びの機会として捉える能力。
ローカス・オブ・コントロール
ローターによって1960年代に提唱された概念で、個人が自分の人生や出来事をコントロールしていると感じる場所を指します。具体的には、個人が自分の行動やその結果を自分自身の内部的な要因(内的ローカス・オブ・コントロール)か、外部的な要因(外的ローカス・オブ・コントロール)のどちらに帰属させるかに関する信念のことです。
内的ローカス・オブ・コントロール
内的ローカス・オブ・コントロールを持つ人々は、自分の努力や能力が成功や失敗を決定づけると信じています。これらの人々は、自分の人生を自分でコントロールできると感じるため、困難に直面しても積極的に対処しようとする傾向があります。
外的ローカス・オブ・コントロール
外的ローカス・オブ・コントロールを持つ人々は、自分の人生の出来事や結果は運や他人の影響、環境など、自分のコントロールを超えた外部的な要因によって決まると考えます。これらの人々は、自分の状況を変えることに対して無力感を感じることがあります。
ローカス・オブ・コントロールの意義
ローカス・オブ・コントロールは、個人のモチベーション、ストレスへの対処、学業成績、職場での成功など、さまざまな心理的および行動的な結果に影響を及ぼします。内的ローカス・オブ・コントロールを持つ人は、目標達成や問題解決に向けてより能動的な態度を取る傾向があり、一般的に高い自尊心と幸福感を持つことが示されています。
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