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安全文化/安全風土(Safety Culture / Safety Climate)

産業・組織

安全文化(Safety Culture)とは、組織とそこで働く人々が共有している「安全をどれだけ大切にするか」という価値観・態度・行動のパターンのことです。よく似た言葉の安全風土(Safety Climate)は、「この職場では安全がどのくらい重視されているか」について従業員が共有している知覚(受け止め方)のことで、主に質問紙で測られます。

試験では、「安全文化」はチェルノブイリ原発事故の後に国際原子力安全諮問グループ(INSAG)が使い始めた言葉、「安全風土」は Zohar(1980)が質問紙で測った概念という出どころの違いと、文化=深い層、風土=表に出た層という関係をセットで押さえておきましょう。

簡単な説明

学校の部活動を思い浮かべてください。どの部にも「練習の前には準備運動をする」「けがをしたらすぐに顧問の先生に言う」という同じ決まりがあるとします。それでも、部によって実際の様子はかなり違います。

  • A部:大会が近いと、顧問の先生が「時間がないから準備運動は省略」と言う。足をひねったと言うと「気合いが足りない」と叱られる
  • B部:忙しいときこそ先生が「準備運動を飛ばすと、かえってけがで休むことになるよ」と言う。「さっき転びそうになった」と言うと「教えてくれてありがとう。床がすべるなら、みんなで直そう」と言われる

A部の部員は「ここでは安全より勝つことが大事なんだ」と感じ、けがやヒヤリとしたことを黙るようになるでしょう。B部の部員は「ここでは本当に安全が大事にされている」と感じ、小さなことでも話すようになります。このように、メンバーが「この集団では安全がどのくらい大事にされているか」を共通して感じ取っているものが安全風土です。「先生は安全を優先していると思いますか」とアンケートでたずねれば、ある程度数字で表せます。

一方、安全文化はもっと根っこの部分です。その集団が長い時間をかけて身につけた「安全についての当たり前」、たとえば「ミスは隠すもの」なのか「ミスはみんなで学ぶ材料」なのか、という深い考え方や習慣を指します。たとえるなら、安全文化はその土地の「気候」、安全風土はある日の「天気」です。天気(風土)を何度も観察すると、その土地の気候(文化)が見えてきます。

由来

安全文化(safety culture)という言葉は、1986年4月26日に旧ソビエト連邦(現在のウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号機で起きた事故の後に生まれました。同年8月にウィーンで開かれた事故後検討会議を受けて、国際原子力機関(IAEA)の国際原子力安全諮問グループ(International Nuclear Safety Advisory Group:INSAG)がまとめた要約報告書(Safety Series No. 75-INSAG-1, 1986)で、この言葉が初めて使われました。1991年の報告書 Safety Culture(No. 75-INSAG-4)自身が、そのことを明記しています。

INSAG-4 の定義は次のとおりです。「安全文化とは、原子力発電所の安全の問題が、すべてに優先して、その重要性にふさわしい注意を確実に払われるようにするために、組織と個人が備えるべき特性と態度の集合体である」(原文:Safety Culture is that assembly of characteristics and attitudes in organizations and individuals which establishes that, as an overriding priority, nuclear plant safety issues receive the attention warranted by their significance.)

1992年の INSAG-7(INSAG-1 の改訂版)は、事故は発電所だけでなく、当時のソ連の設計・運転・規制の組織全体に及ぶ安全文化の欠如から生じたとまとめ、事故を組織全体の問題としてとらえ直しました。

一方、安全風土(safety climate)の研究はそれより早く始まっています。イスラエルの組織心理学者 Dov Zohar は1980年、Journal of Applied Psychology 誌に論文「Safety climate in industrial organizations」を発表し、イスラエルの20の工業組織で、40項目の質問紙を使って安全風土を測定しました。「安全風土」の研究のほうが、「安全文化」という言葉より先に生まれている点は、ひっかけ問題に使われやすいので注意しましょう。その後、イギリスの心理学者 James Reason が、事故を組織の問題として説明する理論(1990年の Human Error など)と、安全文化の構成要素についての議論(1997年の Managing the Risks of Organizational Accidents など)を発展させました。

具体的な説明

ここからは大学の講義レベルで整理します。

安全文化の代表的な定義

出典定義のポイント
INSAG-4(1991)安全がすべてに優先して注意を払われるようにするための、組織と個人の特性と態度の集合体
イギリスの原子力施設安全諮問委員会(ACSNI)人間要因研究グループ(1993)組織の安全衛生管理への関与と熟達度を決める、個人と集団の価値観・態度・知覚・能力・行動パターンの産物。よい安全文化は相互の信頼にもとづくコミュニケーション、安全の重要性についての共有された知覚、予防策の有効性への確信で特徴づけられる

INSAG-4 はさらに、安全文化には2つの構成要素があると述べています。1つは組織の方針と管理職の行動がつくる枠組み、もう1つはその枠組みのもとで働く個人の応答です。個人に求められる応答として、問いかける姿勢(questioning attitude)、厳格で慎重な取り組み(rigorous and prudent approach)、コミュニケーションの3つが挙げられています。

安全文化と安全風土の違い

両者はよく混同され、研究者の間でも「同じものか、別のものか」が議論されてきました(Cox & Flin, 1998)。よく使われる区別は次のとおりです。

比較項目安全文化(Safety Culture)安全風土(Safety Climate)
出どころINSAG(1986, 1991)。チェルノブイリ事故の教訓Zohar(1980)。組織風土(organizational climate)研究の流れ
何を指すか組織に根づいた価値観、信念、前提、行動パターン安全がどれだけ重視されているかについて、従業員が共有する知覚
深さ深い層。本人たちも意識しにくい「当たり前」を含む表に出た層。安全文化の表れとされることが多い
変わりやすさ比較的安定し、変わるのに時間がかかる比較的変わりやすく、その時点の状態を映す
主な調べ方面接、観察、文書の分析など質的な方法も組み合わせる質問紙(安全風土尺度)による量的な測定

この区別は研究者の間で完全には一致していませんが、試験では「安全風土は、安全文化の比較的表層的な表れで、質問紙で測定される従業員の共有された知覚」と答えられるようにしておけば安心です。

この「深い層と表の層」という見方は、組織文化の代表的な理論である Edgar H. Schein の3つのレベル(目に見える人工物、言葉で表明される価値、意識されないほど当たり前になった基本的仮定)にもとづいて説明されることがよくあります。安全標識が人工物、「安全第一」のスローガンが価値、「結局は納期が最優先」という暗黙の前提が基本的仮定にあたります。スローガンを掲げていても、基本的仮定が「生産優先」なら、安全文化が高いとはいえません。

Reason の安全文化:報告・正義・柔軟・学習

James Reason は、安全文化は「つくり出す(engineer)」ことができるのか、という実践的な問いに取り組みました。1997年の著書の第9章「Engineering a Safety Culture」は、報告する文化・正義の文化・柔軟な文化・学習する文化をどうつくるかを、それぞれ節を立てて論じています。また Reason(1998)の論文は、安全な文化とは「情報に通じた文化(informed culture)」であり、それは効果的な「報告する文化」に支えられ、さらにそれは「正義の文化」に支えられると述べています。

要素内容身近なイメージ
報告する文化(reporting culture)人々が自分のエラーやニアミス(ヒヤリハット)を進んで報告する「転びそうになった」と言える部活
正義の文化(just culture/公正な文化)安全情報の提供が奨励され、信頼がある一方で、許される行動と許されない行動の線引きがはっきりしているうっかりミスは責めないが、わざとのルール破りは見逃さない
柔軟な文化(flexible culture)状況の変化にすばやく適応し、ふだんのやり方と、緊迫した場面でのやり方を切り替えられる雨の日は屋内練習に切り替えるなど、状況に合わせてやり方を変えられる
学習する文化(learning culture)変わる必要があることを前提に、安全情報から学び、改善に必要なことを実行できるヒヤリハットをもとに練習方法を本当に変える

これらは、組織が「いま何が起きているか」を知っている情報に通じた文化を支える要素として整理されます。そのため教科書によって、「4つの文化(報告・正義・柔軟・学習)」と数える場合と、情報に通じた文化を加えて「5つ」と数える場合があります。どちらで出題されても、中心は「情報に通じた文化」で、それを報告と正義が支えるという関係を押さえておけば対応できます。

ポイントは、正義の文化は「誰も責めない文化(blame-free / no blame)」と同じではないことです。何でも許すのではなく、「どこまでが許され、どこからが許されないか」の線を皆が納得できる形で引くことで、安心して報告できる信頼をつくります。

スイスチーズモデルとの関係

Reason(1990)は、複雑で危険度の高い技術システムで近年起きた大事故は、事故のずっと前に組織や管理の段階でなされた判断による潜在的失敗(latent failures)に根をもつと論じ、現場の即発的失敗(active failures)と区別しました。現場の作業者が事故の「主犯」であることはまれだ、という考え方です。

この考え方はスイスチーズモデルとして広く知られています。Reason(2000)が BMJ 誌で解説したように、事故を防ぐ防護の層(設備、手順、教育、点検など)を、穴のあいたスイスチーズの薄切りにたとえます。穴は即発的失敗と潜在的状態(latent conditions)によって生じ、その位置は時間とともに動きます。何枚もの層の穴が一直線に並んだときに事故が起こるのです。

安全文化はこのモデルのどこに関わるのでしょうか。Reason(1998)は、文化は組織のすみずみに行きわたるため、何枚もの防護の層に同じ向きの穴をそろえてしまう力をもつと論じました。「生産優先」の文化があると、点検も手順も教育も同じように手を抜かれやすいからです。そのため、安全でない文化は、個人の事故よりも組織の事故(organizational accidents)の原因になりやすいとされます。このモデルは、「誰が悪いか」を探す人へのアプローチではなく、働く条件を見直すシステムへのアプローチをとるべきだという主張につながっています。

安全文化の成熟度:病的な文化から生成的な文化へ

安全文化を「ある・ない」ではなく、段階的に成熟していくものとしてとらえる見方もあります。Hudson(2003)の紹介によれば、Ron Westrum は、組織が悪い知らせをもってきた人(メッセンジャー)をどう扱うかに注目し、病的(pathological)な文化ではメッセンジャーが責められ、官僚的(bureaucratic)な文化では許容されるだけで、生成的(generative)な文化では歓迎される、という3つの類型を示しました。Patrick Hudson(2003)はこれをもとに、次の5段階のはしごとして整理しています。

段階特徴(Hudson, 2003 による)
①病的(pathological)安全は「作業者が起こす問題」と考えられる。動機は商売と、規制当局に見つからないこと
②反応的(reactive)安全を真剣に考え始めるが、行動するのは事故が起きた後だけ
③計算的(calculative)管理システムとデータ収集で安全を進める。ただし主に上から押しつけられたもの
④先取り的(proactive)予期しないことにも備えようとする。従業員の参加で、上からだけのやり方から離れ始める
⑤生成的(generative)あらゆる階層が積極的に参加し、安全が仕事そのものの一部になっている。油断しないよう「慢性的な不安(chronic unease)」を保つ

Hudson は、成熟した安全文化の第一歩は情報に通じていること(いま本当に何が起きているかを知っていること)だと述べています。Reason と同じく、悪い知らせが上に届くかどうかが分かれ目なのです。

安全風土の測定と「集団レベル」の風土

安全風土は主に質問紙(安全風土尺度)で測られ、職場ごとの平均値を「その集団の安全風土」とみなします。その前提として、集団内で回答がある程度そろっている(知覚が共有されている)ことが必要です。Rhona Flinら(2000)が18の安全風土尺度を比べたところ、もっともよく測られていた次元はマネジメント(72%の研究)、安全システム(67%)、リスク(67%)で、作業のプレッシャーや能力は約3分の1の研究で扱われていました。Flin らは、事故件数のような遅行指標(lagging measures)から、事故の前に危険を予測する先行指標(leading measures)として安全風土を測る方向へ、イギリスの産業界(とくにエネルギー部門)が移ってきたことも指摘しています。

また、同じ会社でも作業班ごとに安全風土は違います。方針の現場での運用は監督者によって違うからです。Zohar & Luria(2005)は、組織レベルの風土が安全行動に与える影響は集団レベルの風土を通して伝わり、「安全か、生産か」という対立する要求のもとでの監督者の裁量が、集団ごとの違いを生むことを示しました。

試験で問われやすいポイント

論点押さえること
用語の出どころ安全文化=INSAG-1(1986, チェルノブイリ)。安全風土=Zohar(1980)。風土の研究が先
文化と風土文化は深く安定した層、風土は表に出た共有知覚で質問紙で測る。逆にするひっかけに注意
Reason の文化報告・正義・柔軟・学習 → 情報に通じた文化。報告は正義に支えられる
正義の文化「誰も責めない」ではなく、許される/許されない行動の線引きが明確
スイスチーズモデル即発的失敗+潜在的状態。穴がそろうと事故。人ではなくシステムへのアプローチ
指標事故件数は遅行指標。安全風土は先行指標。「無災害=安全文化が高い」とは限らない
実証研究事故・けがともっとも強く関連したのは集団の安全風土(Christian et al., 2009)

実験や観察の方法と結論

安全風土の研究は、職場での質問紙調査とその後の事故・けがの記録を組み合わせるフィールド研究で進められてきました。

研究方法結論
研究1:Zohar(1980)イスラエルの20の工業組織から層化して選んだサンプルで、40項目の安全風土質問紙を作成し、妥当性を検討した同じ組織の従業員の間で知覚が一致し、組織ごとの安全風土の水準は、安全監督官が判断した安全プログラムの効果と相関した。もっとも重要だったのは、経営層の安全への態度と、生産過程での安全の重要性についての知覚
研究2:Zohar(2000)1つの製造会社の53の作業班で、監督者の安全行動についての知覚を測った。その後5か月間、医療処置が必要な軽いけが(マイクロアクシデント)を記録した知覚は班の中ではそろい、班の間では違った。集団や個人のリスク要因を統制しても、安全風土はその後のマイクロアクシデントを予測した
研究3:Neal & Griffin(2006)安全風土、安全への動機づけ、安全行動を2時点で測り、5年間の事故記録と結びつけた集団の安全風土が個人の動機づけの変化を予測し、動機づけが安全行動の変化と関連した。集団の安全行動が改善すると、その後の集団の事故が減った

研究3は「風土 → 動機づけ → 行動 → 事故」の流れを時間差のあるデータで示した点が重要です。メタ分析も行われています。Sharon Clarke(2006)では、安全風土は安全遵守(compliance)と安全参加(participation)の両方と関連し、とくに安全参加との関連が強い一方、事故との関連は弱く、風土を測った後に事故を記録する前向きの研究でのみ一貫した関連が見られました。Michael S. Christianら(2009)では、安全行動ともっとも強く関連していたのは安全の知識と動機づけで、事故やけがともっとも強く関連していたのは集団の安全風土でした。

例文

「この工場では『安全第一』のポスターが貼られているが、職長が納期を理由に手順の省略を黙認しているため、従業員が回答した安全風土の得点は低かった。」

「病院の医療安全委員会は、うっかりミスを報告した職員を責めない一方で、意図的な規則違反には対応する基準を明文化し、正義の文化と報告する文化を育てようとしている。」

「事故調査の結果、作業者のミスだけでなく、点検の簡略化や人員不足といった潜在的状態が重なっていたことがわかり、スイスチーズモデルで説明された。」

疑問

Q: 安全文化と安全風土は、結局同じものではないのですか?

A: 重なる部分は大きいですが、一般には区別されます。安全文化は「当たり前」の前提を含む深い層で、変わるのに時間がかかります。安全風土は従業員が共有している知覚で、安全文化の比較的表面的な表れとして質問紙で測られます。ただし、ほぼ同じ意味で使う研究者もいます。

Q: 「安全第一」と掲げている会社は、安全文化が高いといえますか?

A: スローガンだけでは判断できません。スローガンは表明された価値にすぎず、行動を動かすのはもっと深い「当たり前」の前提です。忙しいときに上司が安全と生産のどちらを優先するか、報告した人がどう扱われるかを見ると、その組織の安全文化がわかります。Zohar(1980)でも、経営層の安全への態度についての知覚が鍵でした。

Q: ミスをした人を厳しく罰すれば、安全はよくなるのではありませんか?

A: 逆効果になることが多いです。罰を恐れてミスやヒヤリハットが報告されなくなると、組織は危険の芽に気づけなくなります。Reason は、報告する文化は正義の文化に支えられると論じました。ただし正義の文化は「何をしても責めない」ことではなく、許される行動と許されない行動の線引きがはっきりしている状態です。

Q: 事故がしばらく起きていない職場は、安全文化が高いと考えてよいですか?

A: そうとは限りません。事故件数は事故が起きた後にしかわからない「遅行指標」で、たまたま穴がそろわなかっただけかもしれません。スイスチーズモデルでいえば、見えない穴が残っている可能性があります。そのため、事故の前に危険を予測する「先行指標」として安全風土を測ることが重視されています。

Q: 安全文化と心理的安全性は同じものですか?

A: 別の概念です。心理的安全性は、Amy C. Edmondson(1999)が示した「このチームでは対人関係のリスクをとっても大丈夫だ」という、チームで共有された信念で、主にチームの学習行動と結びつけて研究されてきました。出発点は違いますが、ミスを安心して報告できるかという点で、Reason の報告する文化・正義の文化と深く関わります。

理解度を確認する問題

問題1. 安全文化と安全風土に関する説明として、最も適切なものはどれか。

  • A. 安全風土は組織の基本的仮定のような深い層を指し、安全文化はそれが質問紙に表れた表層的な部分を指す
  • B. 安全風土は、職場で安全がどの程度重視されているかについて従業員が共有する知覚であり、質問紙で測定されることが多い
  • C. 安全風土とは、労働災害の発生率や事故件数など、過去の結果から算出される組織の安全指標のことである
  • D. 安全風土の研究は、チェルノブイリ原子力発電所事故の後に INSAG が安全文化を定義したことをきっかけに始まった

正解:B 安全風土は、安全の重要性について従業員が共有する知覚で、Zohar(1980)以来、質問紙で測定されてきました。Aは文化と風土が逆です。深い層を指すのは安全文化で、安全風土はその比較的表層的な表れとされます。Cは遅行指標の説明です。Flin ら(2000)が指摘したように、安全風土はむしろ事故の前に危険を予測する先行指標として測られます。Dは時間の順序が逆で、Zohar の安全風土研究(1980年)は、チェルノブイリ事故(1986年)と INSAG-1 よりも前です。


問題2. James Reason の安全文化論に関する記述として、最も適切なものはどれか。

  • A. 正義の文化(just culture)とは、エラーの報告を促すために、意図的な規則違反を含むあらゆる行為の責任を問わない文化である
  • B. 柔軟な文化(flexible culture)とは、緊急時にも指揮命令系統や手順を一切変えず、平常時と同じ方法を守り続ける文化である
  • C. 安全な文化は情報に通じた文化であり、それは報告する文化に支えられ、報告する文化はさらに正義の文化に支えられる
  • D. 学習する文化(learning culture)とは、事故が起きたときに責任者を特定して処分し、同じ人が再びミスをしないようにする文化である

正解:C Reason(1998)は、安全な文化を「情報に通じた文化」とし、それを報告する文化が、報告する文化を正義の文化が支えるという関係を示しました。Aは一見もっともらしいですが誤りです。正義の文化は「誰も責めない文化」ではなく、許される行動と許されない行動の線引きが明確な文化です。Bは逆で、柔軟な文化は状況の変化にすばやく適応し、ふだんのやり方と緊迫時のやり方を切り替えられる文化です。Dは誤りで、学習する文化は安全情報から学んで改善を実行する文化です。個人を処分するだけでは、潜在的状態は残ったままです。


問題3. ある工場では3年間、休業を伴う労働災害が起きていない。一方で、ヒヤリハットの報告はほとんどなく、従業員への調査では「班長は納期を優先して手順の省略を黙認している」という回答が多かった。この工場についての考え方として、最も適切なものはどれか。

  • A. 3年間災害が起きていないので、この工場の安全文化は十分に高いと判断できる
  • B. 事故は現場の作業者の不注意だけで起こるので、注意を呼びかけるポスターを増やせば十分である
  • C. 安全風土は個人の性格のようなものなので、班ごとに集計したり比べたりしても意味がない
  • D. 災害件数は遅行指標にすぎず、潜在的状態が残っている可能性があるため、監督者の行動や報告のしやすさを見直すべきである

正解:D 災害件数は過去の結果を数える遅行指標で、「穴がたまたまそろわなかった」だけかもしれません。報告が少なく、手順の省略が黙認されているのは、スイスチーズの穴(潜在的状態)が残っているサインです。Zohar(2000)や Zohar & Luria(2005)が示したように、監督者のふるまいは集団の安全風土を左右します。Aは誤りで、無災害だけでは安全文化の高さは判断できません。Bは誤りで、スイスチーズモデルは組織の潜在的状態を重視し、個人に注意を求める「人へのアプローチ」より「システムへのアプローチ」を重視します。Cは誤りで、安全風土は性格ではなく職場についての共有された知覚で、班ごとに違うこと自体が重要な研究結果です。

関連キーワード

  • 組織文化(Organizational Culture)・組織風土(Organizational Climate)
  • 国際原子力安全諮問グループ(INSAG)
  • ヒューマンエラー(Human Error)
  • スイスチーズモデル(Swiss Cheese Model)
  • 即発的失敗(Active Failures)・潜在的状態(Latent Conditions)
  • 組織事故(Organizational Accidents)
  • 報告する文化(Reporting Culture)・正義の文化/公正な文化(Just Culture)
  • ヒヤリハット・ニアミス(Near Miss)
  • 遅行指標(Lagging Indicators)・先行指標(Leading Indicators)
  • 高信頼性組織(High Reliability Organization)
  • 心理的安全性(Psychological Safety)

関連論文

まずこの1本

Zohar, D.(1980)Safety climate in industrial organizations: Theoretical and applied implications. Journal of Applied Psychology, 65(1), 96–102.

安全風土研究の出発点となった論文です。20の工業組織で40項目の質問紙を作成・検証し、知覚が従業員の間で一致すること、安全プログラムの効果と相関すること、もっとも重要な次元が経営層の安全への態度と生産過程における安全の重要性の知覚であることを示しました。試験対策としては、安全風土=共有された知覚=質問紙で測定、1980年でチェルノブイリ(1986年)より前、経営層の態度が鍵の3点を、INSAG による「安全文化」の由来と対比して押さえておきましょう。

https://doi.org/10.1037/0021-9010.65.1.96

その他の参考文献

International Nuclear Safety Advisory Group(1991)Safety Culture(Safety Series No. 75-INSAG-4). Vienna: International Atomic Energy Agency.

概要 安全文化の定義と、政策レベル・管理職・個人それぞれに求められる特徴を示した IAEA の報告書です。

解説 用語が INSAG-1(1986)で初めて導入されたことを明記し、組織の枠組みと個人の応答という2つの構成要素を示しています。全文を IAEA のサイトで読めます。

https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/Pub882_web.pdf

Reason, J.(1998)“Achieving a safe culture: Theory and practice.” Work & Stress, 12(3), 293–306.

概要 安全文化と組織事故の関係、安全文化はつくり出せるのかを論じた論文です。

解説 文化は多重の防護に同じ向きの穴をつくり出しやすいと述べ、安全な文化は情報に通じた文化であり、それは報告する文化、さらに正義の文化に支えられると論じました。1997年の著書 Managing the Risks of Organizational Accidents(Ashgate)の第9章とあわせて読むと、Reason の安全文化論の全体像がつかめます。

https://doi.org/10.1080/02678379808256868

Reason, J.(2000)“Human error: Models and management.” BMJ, 320(7237), 768–770.

概要 ヒューマンエラーへの「人へのアプローチ」と「システムへのアプローチ」を比べ、スイスチーズモデルを解説した短い論文です。

解説 穴が即発的失敗と潜在的状態から生じること、高信頼性組織の特徴がコンパクトにまとまった、スイスチーズモデルの入門に最適な文献です。

https://doi.org/10.1136/bmj.320.7237.768

Hudson, P.(2003)“Applying the lessons of high risk industries to health care.” Quality and Safety in Health Care, 12(Suppl 1), i7–i12.

概要 航空と石油・ガス産業の安全管理を医療と比べた論文です。

解説 Westrum の類型をもとに、病的から生成的までの安全文化の5段階のはしごを示し、Reason の挙げた文化の特徴も紹介しています。

https://doi.org/10.1136/qhc.12.suppl_1.i7

Christian, M. S., Bradley, J. C., Wallace, J. C., & Burke, M. J.(2009)“Workplace safety: A meta-analysis of the roles of person and situation factors.” Journal of Applied Psychology, 94(5), 1103–1127.

概要 安全行動と事故・けがの先行要因を、個人要因と状況要因に分けて統合したメタ分析です。

解説 安全行動ともっとも強く関連したのは安全の知識と動機づけで、事故やけがともっとも強く関連したのは集団の安全風土でした。同じテーマの Clarke(2006, Journal of Occupational Health Psychology, 11(4), 315–327)もあわせて読むと理解が深まります。

https://doi.org/10.1037/a0016172
https://doi.org/10.1037/1076-8998.11.4.315

覚え方

①文化は「気候」、風土は「天気」。気候(安全文化)はその土地に長く根づいた深いもの、天気(安全風土)はその日に観測できるもの。天気は質問紙という「観測機」で測れます。

②年号は「風土が先、文化があと」。Zohar の風土研究が1980年、チェルノブイリ事故と INSAG-1 が1986年、INSAG-4 の定義が1991年。「ハチマル(80)で風が吹き、ハチロク(86)で文化が生まれ、キュウイチ(91)で定義が決まる」と覚えましょう。

③Reason の文化は「ほう・せい・じゅう・がく」(報・正・柔・学)。報告する文化、正義の文化、柔軟な文化、学習する文化が「情報に通じた文化」を支えます(これを加えて5つと数えることもあります)。「報告は、正義(公正さ)がなければ出てこない」とセットで覚えます。

④成熟度のはしごは「びょう・はん・けい・せん・せい」(病的→反応的→計算的→先取り的→生成的)。いちばん上の生成的な文化でも「慢性的な不安」を忘れません。

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