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DPAT・災害派遣精神医療チーム(Disaster Psychiatric Assistance Team)

健康・福祉

DPAT(ディーパット:Disaster Psychiatric Assistance Team、災害派遣精神医療チーム)とは、大きな災害や事故のあとに被災地へ入り、精神科医療と心のケア(精神保健活動)を専門に支援する、専門的な研修・訓練を受けたチームのことです。

「けがの救急はDMAT、心と精神科医療の救急はDPAT」と覚えておくと、試験でも迷いません。

簡単な説明

大きな地震で家が壊れ、学校の体育館で避難生活を始めたと想像してください。夜になると余震が怖くて眠れない人、何度も地震の場面を思い出してしまう人、毎日飲んでいた心の病気の薬を家に置いてきてしまった人がいます。こうした「心の困りごと」も、けがと同じように、早めの手当てが必要です。

ところが災害のときは、地元の精神科病院やクリニック、保健所も被害を受けて、ふだんどおりに働けなくなります。停電や断水で、入院している患者さんを別の病院へ移さなければならないこともあります。そこで、ほかの地域から精神科医・看護師・業務調整員(車の運転や連絡係などの裏方)がチームを組んで応援に行きます。これがDPATです。

DPATは「よその専門家が来て、ずっと治療を続ける」チームではありません。DPAT事務局の活動マニュアルは、DPATの心がまえを「名脇役であれ」と表現しています。主役は地元の保健師さんや病院のスタッフで、DPATはその人たちを支え、最後は地元にバトンを返します。サッカーでいえば、点を取るストライカーではなく、ボールを運ぶアシスト役だとイメージしてください。

由来

DPATは、ある一人の心理学者が考えた理論ではなく、日本の災害経験から生まれた行政の仕組みです。ルールブックにあたるのが、厚生労働省(Ministry of Health, Labour and Welfare:MHLW)の「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領」です。改正履歴の最初は2013年(平成25年)4月1日で、2014年(平成26年)1月7日に厚生労働省の課長通知(障精発0107第1号)として示されました。厚生労働省の資料では、DPATの養成は平成25年4月に始まったとされています。

筑波大学のSho TakahashiやHirokazu Tachikawaらの論文(Takahashi et al., 2020)は、DPAT誕生の背景を次のように整理しています。

  • 1995年 阪神・淡路大震災:多くの人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、精神科の救護所が設けられたことで、被災者への心のケアの必要性が広く知られるようになりました。
  • 2011年 東日本大震災:大学・学会・NGOなどがさまざまな「こころのケアチーム」をつくって被災地に入りましたが、チーム同士の調整不足と構成のばらつきで現場が混乱しました。避難のときに精神科病院の入院患者が取り残され、亡くなるという痛ましい事例もありました。
  • 2013年 DPATの創設:こうした経験から、身体の災害医療チームであるDMATの仕組みを精神科のニーズに合わせて応用し、国が認めたチームとしてDPATがつくられました。

その後も活動要領は改正が重ねられ、2026年(令和8年)3月31日に最新の改正が出ました(令和8年4月1日から適用)。特に大きな変更は、2025年(令和7年)4月から「DPAT先遣隊」の名前が「日本DPAT」に変わったことです。古い参考書や過去問では「先遣隊」と書かれているので、両方の名前を覚えておきましょう。

年主なできごと
2013年(平成25年)活動要領の最初の版(4月1日)。DPATの養成開始
2014年(平成26年)活動要領を厚生労働省の課長通知として発出(1月7日)
2016年(平成28年)熊本地震。DPATは延べ1,242隊が活動
2018年(平成30年)活動要領改正(3月30日)。この版では、先遣隊の医師は「精神保健指定医でなければならない」と記載
2020年(令和2年)〜クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号や、精神科医療機関などでの新型コロナウイルス感染症のクラスター対応に参加
2022年(令和4年)活動要領改正(3月29日)。先遣隊が都道府県の調整本部の運営を担うこと、精神保健福祉センターと初動から連携することなどを追記
2024年(令和6年)能登半島地震。石川県の要請にもとづき、県内外から延べ196隊が派遣
2025年(令和7年)「DPAT先遣隊」の名前を「日本DPAT」に変更(4月1日適用)
2026年(令和8年)最新の活動要領改正(4月1日適用)。熊本県を震源とする最大震度7の地震(7月28日)で日本DPATが派遣(9月3日時点で活動隊は延べ458隊)

具体的な説明

ここからは大学の講義レベルで、現行の活動要領(令和8年3月31日改正版)とDPAT事務局の「DPAT活動マニュアル Ver.3.1」にもとづいて整理します。

DPATの定義と運営

活動要領では、自然災害や犯罪事件・航空機事故・列車事故などの集団災害が起きると、被災地域の精神保健医療機能が一時的に低下し、さらに災害のストレスで新たな精神的問題も生じるため、精神保健医療への需要が大きくなると説明しています。そのため、ニーズの把握、ほかの保健医療福祉チームとの連携、関係機関のマネジメント、専門性の高い精神科医療の提供、精神保健活動の支援が必要になり、これを担う専門的な研修・訓練を受けたチームがDPATだと定義しています。

平時は、厚生労働省がDPAT事務局(厚生労働省の委託事業。現在は公益社団法人 日本精神科病院協会が運営)を通じて研修・訓練や隊員の認定・登録を行います。都道府県は、医療機関と協定を結んでDPATを整備します。

活動の3原則「SSS(スリーエス)」

原則意味(DPAT活動マニュアルより)
Self-sufficiency:自己完結型の活動移動・食事・通信・宿泊は自分たちで確保し、自分の健康管理(心の面も含む)・安全管理も自分で行う
Share:積極的な情報共有災害対策本部、地元の支援者、ほかの保健医療チームと積極的に情報を共有し、連携する
Support:名脇役であれ支援の主体は被災地域の支援者。地元の支援者を支える。ただし、地元の支援者も被災者であることに注意する

チームの構成と「日本DPAT」

項目現行の活動要領・マニュアルでの内容
基本の構成精神科医師・看護師・業務調整員(ロジスティクス:連絡調整、運転など後方支援全般)を含む数名。厚生労働白書(令和6年版)では「3〜4人程度」と説明
必要に応じて加わる職種児童精神科医、薬剤師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師など(平成30年版では「臨床心理技術者等」と表記)
日本DPAT(旧:先遣隊)発災から概ね48時間以内に被災した都道府県で活動できる隊。主に本部機能の立ち上げ、ニーズアセスメント、急性期の精神科医療ニーズへの対応を担う
日本DPATの医師活動要領では「構成する医師として精神保健指定医を含むこと」。DPAT活動マニュアルでは「日本DPATを構成する医師は精神保健指定医でなければならない。それ以外の隊の医師は精神保健指定医であることが望ましい」
1隊の活動期間1週間(移動日2日・活動日5日)が標準。複数の隊が引き継ぎながら、必要に応じて数週間〜数か月活動
自立性交通・通信手段、宿泊、日常生活の面で、被災地に負担をかけずに自立して活動できること
隊員の登録日本DPAT隊員は厚生労働省に登録され、登録は5年ごとに更新(期間中に「日本DPAT隊員技能維持研修」に1回以上参加することが要件)

精神保健指定医とは、精神保健福祉法第18条にもとづき、厚生労働大臣が指定する医師です。5年以上の診断・治療経験(うち3年以上は精神障害の診断・治療)や研修の修了などが要件で、医療保護入院が必要かどうかの判定や、隔離などの行動制限が必要かどうかの判定といった、本人の意思によらない医療にかかわる判断を担います。災害直後は、精神症状が急に悪くなった人への対応や、入院患者の転院の判断が必要になるため、最初に入る日本DPATには指定医が求められます。

DMATとの違い(比較表)

比較項目DMAT(災害派遣医療チーム)DPAT(災害派遣精神医療チーム)
英語Disaster Medical Assistance TeamDisaster Psychiatric Assistance Team
主な対象傷病者の命を守る身体の急性期医療、患者搬送など精神科医療と精神保健(心のケア)、精神科病院の支援、支援者支援
養成開始平成17年(2005年)3月平成25年(2013年)4月
基本の構成医師1名・看護師2名・業務調整員1名の4名が基本精神科医師・看護師・業務調整員を含む数名
初動急性期(概ね48時間以内)から活動を始められる機動性日本DPATが発災から概ね48時間以内に活動
本部都道府県DMAT調整本部都道府県DPAT調整本部(都道府県DMAT調整本部と密に連携)
派遣の根拠都道府県の派遣要請被災都道府県の派遣要請

ひっかけに注意したいのは、「48時間」はDPATだけの特徴ではないという点です。DMATも概ね48時間以内の急性期から動けるチームと定義されています。違いは「何を専門に支援するか」です。

主な活動内容

活動要領の「活動内容」は次の11項目です。DPATは原則として、災害拠点病院・災害拠点精神科病院・保健所・避難所などに置かれるDPAT活動拠点本部に集まり、その調整のもとで活動します。

  1. 本部活動(指揮調整、情報収集、関係機関との連絡調整)
  2. 情報収集とニーズアセスメント(精神科医療機関・避難所・医療救護所の状況把握。わからない所には安全を確保して直接出向く)
  3. 情報発信(活動拠点本部への報告、EMISでの発信、ほかの保健医療福祉チームとの共有)
  4. 被災地での精神科医療の提供(症状の悪化や急性反応への対応、薬が手に入らない人への投薬など)
  5. 被災地での精神保健活動への専門的支援(ストレス反応についての心理教育など)
  6. 被災した医療機関への専門的支援(患者避難への支援を含む)
  7. 支援者(地域の医療従事者、救急隊員、自治体職員など)への専門的支援
  8. 精神保健医療に関する普及啓発
  9. 活動記録(活動地域とEMIS・J-SPEEDに記録を残す)
  10. 活動情報の引き継ぎ(隊員間、医療機関スタッフ、避難所の担当者や保健師へ)
  11. 活動の終結

DPAT活動マニュアルには、現場ならではの工夫も書かれています。たとえば、精神科医療に抵抗を感じる被災者もいるため、血圧計などを持って行き、体の調子をたずねながら「医療全般の相談」として話を聞くことも検討するとされています。また、遺族、行方不明者の家族、高齢者、妊婦、幼い子どものいる家族、子ども、外国人など、支援の必要性が高い人に配慮して活動します。

指揮系統と情報システム

レベル本部主な役割
都道府県保健医療福祉調整本部保健医療福祉活動チーム全体の派遣調整・総合調整
都道府県都道府県DPAT調整本部被災都道府県内のすべてのDPATの指揮・調整とロジスティクス。DPAT統括者と日本DPATが本庁担当部局とともに担う
保健所圏域・市町村DPAT活動拠点本部集まったDPATの指揮・調整、地域の情報収集、DMAT活動拠点本部や保健所との連絡調整
国厚生労働省・DPAT事務局情報集約・総合調整、被災していない都道府県への派遣調整、患者受け入れ病床や搬送手段の調整

情報の共有にはEMIS(広域災害・救急医療情報システム)を使い、活動の記録はEMISとJ-SPEED(災害時診療概況報告システム)に残します。DPAT統括者は、都道府県があらかじめ任命する精神保健指定医で、現行要領では日本DPAT隊員であり「DPAT統括者・事務担当者研修」を受講済みであることなどが要件です。

派遣の流れと終わり方

  • 派遣は要請にもとづく:DPATの派遣は被災都道府県の派遣要請にもとづきます。ただし、要請がない場合でも、厚生労働省は緊急の必要があると認めるときは、都道府県などにDPATの派遣を要請できます。
  • 派遣要請を検討する目安:①管内の精神科医療機関が被災して診療を続けられない、②多数の人が避難を必要としている、③多数の人が生命・身体に危害を受けた(または受けるおそれがある)場合です。
  • 終結:処方数や相談数の推移を評価し、地域の精神保健医療機関の機能が回復し、引き継ぎと、その後のニーズに対応できる体制が整った時点を目安に、被災都道府県が都道府県DPAT調整本部の助言をふまえて決めます。
  • 精神保健福祉センターとの連携:中長期の精神保健福祉ニーズに対応する主体は精神保健福祉センターなので、引き継ぎを見すえて初動から連携することが求められます。
  • 新興感染症への対応:現行の要領には、新興感染症の発生・まん延時に、精神疾患のある患者の入院調整や、クラスターが起きた精神科医療機関の感染制御・業務継続を支援する活動も定められています。

災害後の心の反応と時期区分

災害のあとの不安・不眠・イライラなどは、「異常な事態に対する通常の反応」として、誰にでも起こりうるものです。多くは時間とともに和らぎますが、反応の出方は時期によって変わります。自治体の手引きでは、被災者の心の動きを次のように整理しています。なお、誰もが同じ経過をたどるわけではない点に注意が必要です。

時期目安被災者の様子支援のポイント
茫然自失期災害直後恐怖で感覚がまひしたようになり、感情がわかない。家族や財産を守るため危険をかえりみず動く人も(英雄期)安全の確保と、水・食料・寝る場所など現実的な生活支援が最優先
ハネムーン期数日〜数週間体験を共有した被災者同士に強い連帯感が生まれ、助け合う。被災地全体が温かいムードに一見元気でも生活ストレスがたまっていく時期として見守る
幻滅期1か月〜数か月忍耐が限界に達し、援助の遅れや行政への不満、怒りが噴き出す。けんかや飲酒問題も起こりやすい怒りを否定せずに受け止め、そのうえで具体的な困りごとを聴く
再建期数か月以降生活のめどが立ち始め、地域づくりへの参加で自信が回復していく復興から取り残された人、支えを失った人に目を向け続ける

PFA(心理的応急処置)と心理的デブリーフィング

PFA(Psychological First Aid:心理的応急処置)は、深刻な危機的出来事にあった人に対する、人道的で支持的、かつ実際的な支援の方法です。WHO(世界保健機関)は2011年に、War Trauma Foundation、World Vision Internationalとともに『心理的応急処置(PFA)フィールド・ガイド』を出しました。活動原則は「見る(Look)・聞く(Listen)・つなぐ(Link)」で、心理社会的な特別な知識や経験がなくても行えるように作られています。

同ガイドは、PFAを「心理的デブリーフィング」に代わるものと位置づけています。心理的デブリーフィングとは、出来事の直後に一度だけ体験や感情を詳しく話してもらう介入です。WHOのmhGAPガイドライン策定グループは2009年に、強い苦痛を感じている被災者には心理的デブリーフィングよりもPFAを提供すべきと結論づけました。Cochraneレビュー(Rose et al., 2002)でも、1回だけの個別デブリーフィングにPTSDを防ぐ効果は認められませんでした。

さらに、Stevan E. Hobfollらの国際専門家パネル(Hobfoll et al., 2007)は、災害直後から中期の介入で大切にすべき5つの要素として、①安全感、②落ち着き(calming)、③自己効力感と地域の効力感、④つながり、⑤希望を挙げています。また、機関間常設委員会(Inter-Agency Standing Committee:IASC)が2007年に出したガイドラインは、精神保健・心理社会的支援(MHPSS)を、基本的サービスと安全/地域・家族の支援/非専門的支援/専門的サービスの4つの層で整理しています(Takahashi et al., 2020の紹介による)。DPATが担うのは主に専門的な層ですが、普及啓発や支援者支援を通じて、ほかの層も支えています。

支援者支援

災害時は、地元の医療従事者、救急隊員、自治体職員なども自分自身が被災しながら長時間働いています。DPAT活動マニュアルでは、支援者支援の進め方として次の点を挙げています。

  • 地域のニーズに応じて、支援活動や支援体制づくりの相談・助言を行い、必要に応じて地域の社会資源につなぐ
  • 支援者自身のケアは、相談・助言のあと、その人が所属する組織の労務管理・産業メンタルヘルス体制へつなぐ
  • 助言するときは、地元の支援者の活動を肯定的に評価し、助言そのものが負担にならないよう配慮する
  • ストレスチェックなどの評価は、その後の支援体制をはっきりさせてから(または体制をつくってから)行う

実験や観察の方法と結論

DPATの研究は、実験室での実験ではなく、実際の災害でDPATが残した活動記録データを分析する観察研究が中心です。代表的な研究を見ていきましょう。

研究1:心のケアのニーズはいつピークになるか(Takahashi et al., 2020)

項目内容
データ災害精神保健医療情報支援システム(DMHISS)に記録されたDPATの活動データ
対象御嶽山噴火(2014年)、広島土砂災害(2014年)、関東・東北豪雨(常総市、2015年)、熊本地震(2016年)の4災害。活動期間の分析には、DPAT発足前の佐用町水害、新潟県中越地震、阪神・淡路大震災、東日本大震災の心のケアチームの資料も加えた
方法相談件数の時間的な変化と、活動期間・最大避難者数などの関係を分析
結果14つの災害すべてで、相談件数は発災後0〜2日で急増し、約1週間以内にピークを迎えた
結果2派遣隊数は御嶽山の3隊から熊本地震の1,242隊まで、相談件数は御嶽山の12件から熊本地震の2,125件まで、災害の規模で大きく異なった
結果3活動日数と最大避難者数の関係は回帰式 y = 0.0002x + 29.797(R² = 0.95)で表され、最大避難者数が1万人増えるごとに活動期間が約2日延びると推定された
結論精神保健のニーズは超急性期に最も大きく、相談の必要性とその続く期間は被災者の数に左右される

この結果は、「なぜ日本DPATは48時間以内に入る必要があるのか」という制度の考え方を、データで裏づけるものです。

研究2:災害直後にどんな症状が多いか(Takagi et al., 2021)

同じ4災害について、発災後1か月(急性期)にDPATが対応した1,806人の記録を、災害の種類別に比較しました(カイ二乗検定など)。全体の44.2%に精神疾患の既往があり、診断では統合失調症(21.0%)、その他の重度ストレス反応(13.5%)、急性ストレス障害(10.9%)、適応障害(10.7%)、認知症(9.2%)の順に多くみられました。症状では不安(26.3%)、睡眠の問題(23.5%)、身体症状(19.3%)、気分・感情の症状(16.5%)が上位でした。著者らは、災害の種類そのものよりも、住民の特徴、被害の大きさ、避難の状況が急性期の症状に影響すると考察しています。

研究3:能登半島地震と熊本地震の比較(Takagi et al., 2026)

2024年の能登半島地震でDPATがJ-SPEEDに記録した相談と、2016年の熊本地震の記録を比べた研究です。相談件数は能登(488件)が熊本(2,125件)より少なかった一方、年齢の記録がある相談のうち65歳以上の割合は能登で58.4%と、熊本の41.4%より高くなっていました。症状では不安(42.4%)と不眠(32.8%)が最も多く、能登では抑うつ、自殺念慮、フラッシュバック、怒り、徘徊、言葉や身体による攻撃なども熊本より多くみられました。高齢化が進み、交通が途絶えやすい半島の地域では、心のケアのニーズの形も変わることを示しています。

研究4:感染症の隔離という「災害」(Tachikawa et al., 2022)

2020年2月、横浜港で検疫中だったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号にDPATが派遣されました。記録された127件の精神保健の相談では、隔離状況への急性の心理反応としての不安が最も多く、女性と乗組員が特に支援を必要としていました。多くは短いカウンセリングで改善し、隔離期間中に自殺企図はありませんでした。

研究からわかること

  • 心のケアのニーズは発災直後の数日〜1週間に集中する → 48時間以内の初動が大切
  • 相談者の4割以上はもともと精神疾患のある人 → 「新しいトラウマ」だけでなく、治療の継続や病院支援も中心的な仕事
  • 被災地の人口構成や地理(高齢化、半島など)でニーズは変わる → 画一的ではない支援が必要

例文

「地震の発生から2日目には、県外から到着した日本DPATが活動拠点本部を立ち上げ、避難所の巡回を始めました。」

「停電で機能が止まった精神科病院の入院患者を安全に転院させることも、DPATの重要な役割の一つです。」

「DPATは、精神保健福祉センターや地元の保健師へ支援を引き継いだうえで、活動を終結しました。」

疑問

Q: DPATとDMATは何が違うのですか?

A: DMATは、傷病者の命を守る身体の急性期医療や患者搬送を主に担う災害派遣医療チームです。DPATは、精神科医療と精神保健(心のケア)、被災した精神科病院の支援、支援者支援などを専門とするチームです。どちらも概ね48時間以内の急性期から動ける点は共通で、本部どうしが密に連携しながら活動します。

Q: 「DPAT先遣隊」と「日本DPAT」は別のチームですか?

A: 同じものです。2025年(令和7年)4月1日から、「DPAT先遣隊」の名前が「日本DPAT」に変わりました。発災から概ね48時間以内に被災した都道府県で活動でき、本部機能の立ち上げやニーズアセスメント、急性期の精神科医療ニーズへの対応を担うという役割は変わっていません。古い教材では「先遣隊」と書かれているので、両方の名前で覚えておきましょう。

Q: 公認心理師などの心理職もDPATに参加できますか?

A: はい、参加できます。現行の活動要領では、被災地のニーズに合わせて、児童精神科医、薬剤師、保健師、精神保健福祉士や公認心理師などを含めて適宜構成するとされています。ただし、基本となる職種は精神科医師・看護師・業務調整員の3つで、心理職は必要に応じて加わる位置づけです。

Q: 被災した人には、早くつらい体験を全部話してもらったほうがよいのですか?

A: いいえ、無理に話してもらう必要はありません。出来事の直後に一度だけ体験を詳しく語らせる「心理的デブリーフィング」は、PTSDを防ぐ効果が確認されておらず、WHOのPFAガイドでも、PFAはそれに代わるものとされています。まず安全と安心を確保し、本人が話したいことを否定せずに聴き、必要な支援につなぐ「見る・聞く・つなぐ」が基本です。

Q: なぜ「支援者への支援」まで行うのですか?

A: 地元の医療従事者、救急隊員、自治体職員などは、自分も被災しながら長時間働き、強いストレスを抱えやすいためです。支援者が倒れると地域の支援全体が止まってしまいます。DPATは支援者の活動を肯定的に評価しながら相談に乗り、必要に応じて所属組織の労務管理や産業メンタルヘルスの体制へつなぎます。

理解度を確認する問題

問題1. 現行の「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領」における日本DPAT(旧称:DPAT先遣隊)の説明として、最も適切なものはどれか。

  • A. 発災から概ね72時間以内に被災地に入り、主に中長期の心理療法を担当する隊である
  • B. 発災から概ね48時間以内に被災した都道府県で活動でき、本部機能の立ち上げやニーズアセスメント、急性期の精神科医療ニーズへの対応を担う隊である
  • C. 1隊あたりの活動期間は、移動日を含めて1か月を標準とする
  • D. 日本DPATを構成する医師に、精神保健指定医を含める必要はない

正解:B Bが活動要領の定義そのものです。Aは「72時間」「中長期の心理療法」の2点が誤りで、日本DPATは48時間以内の急性期に、本部の立ち上げや急性期の精神科医療を担います。Cは誤りで、1隊の標準は1週間(移動日2日・活動日5日)です。長い支援は、複数の隊が交代して引き継ぐことで続けます。Dは誤りで、活動要領は「日本DPATを構成する医師として精神保健指定医を含むこと」と定めています。


問題2. 災害後の被災者の心理的反応の時期区分において、「体験を共有した被災者同士に強い連帯感が生まれ、助け合いながら復旧作業に取り組む。被災地全体が温かい雰囲気に包まれる」と説明される時期はどれか。

  • A. 茫然自失期
  • B. ハネムーン期
  • C. 幻滅期
  • D. 再建期

正解:B ハネムーン期(数日〜数週間)の説明です。Aの茫然自失期は災害の直後で、恐怖で感覚がまひしたようになり、感情がわかない状態が特徴です。Cの幻滅期(1か月〜数か月)は、援助の遅れや行政への不満、怒りが噴き出し、飲酒問題なども起こりやすい時期です。Dの再建期(数か月以降)は、生活のめどが立ち、地域づくりへの参加で自信が回復していく時期です。ハネムーン期は一見元気でも生活ストレスがたまっていくため、「元気そうだから大丈夫」と判断しないことが大切です。


問題3. 大規模災害の直後に避難所で活動する支援者の対応として、最も適切なものはどれか。

  • A. PTSDを予防するため、避難者全員を集め、災害の体験とそのときの感情を一度に詳しく語ってもらう
  • B. 安全を確保したうえで、困っている人に気づき、話を否定せずに聴き、必要な情報や支援につなぐ
  • C. 地元の自治体職員は支援する側なので、心のケアの対象から外す
  • D. その後の支援体制が決まっていなくても、まず全員にストレスチェックを行い、結果だけを本人に返す

正解:B BはWHOのPFAの活動原則「見る・聞く・つなぐ」に沿った対応です。Aは心理的デブリーフィングにあたり、1回だけの個別デブリーフィングにPTSDを防ぐ効果は認められておらず(Rose et al., 2002)、PFAガイドもPFAをデブリーフィングに代わるものとしています。Cは誤りで、DPATの活動内容には「支援者(地域の医療従事者、救急隊員、自治体職員等)への専門的支援」が明記されています。Dは誤りで、DPAT活動マニュアルは、ストレスチェックなどの評価はその後の支援体制をはっきりさせてから(または体制をつくってから)行うとしています。

関連キーワード

  • DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)
  • 日本DPAT(旧:DPAT先遣隊)
  • 精神保健指定医
  • 心理的応急処置(Psychological First Aid:PFA)
  • 心理的デブリーフィング(Psychological Debriefing)
  • 急性ストレス障害(Acute Stress Disorder:ASD)
  • 心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)
  • 精神保健・心理社会的支援(MHPSS)
  • 支援者支援
  • 精神保健福祉センター
  • 災害拠点精神科病院
  • EMIS/J-SPEED

関連論文

まずこの1本

Takahashi, S., Takagi, Y., Fukuo, Y., Arai, T., Watari, M., & Tachikawa, H.(2020)Acute mental health needs duration during major disasters: A phenomenological experience of Disaster Psychiatric Assistance Teams (DPATs) in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(5), 1530.

DPATの成り立ち(阪神・淡路大震災と東日本大震災の教訓、2013年の発足、DMATの仕組みの応用)と、実際の災害での活動データを英語でまとめた、入門に最適な論文です。PMCで全文を無料で読めます。「相談は発災後0〜2日で急増し、約1週間でピーク」「避難者が1万人増えるごとに活動期間が約2日延びる」という結果は、DPATが48時間以内の初動を重視する理由をよく説明しています。試験対策としては、日本DPAT(旧:先遣隊)の48時間、精神保健指定医、1隊1週間(移動2日・活動5日)、DMATとの違い、支援者支援、終結は被災都道府県が決めるという制度の論点と結びつけて押さえておきましょう。

https://doi.org/10.3390/ijerph17051530

その他の参考文献

Takagi, Y., Takahashi, S., Fukuo, Y., Arai, T., & Tachikawa, H.(2021)”Acute-stage mental health symptoms by natural disaster type: Consultations of Disaster Psychiatric Assistance Teams (DPATs) in Japan.” International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(23), 12409.

概要 2014〜2016年の4つの自然災害で、発災後1か月にDPATが対応した1,806人の記録を、災害の種類別に比較した研究です。

解説 相談者の44.2%に精神疾患の既往があり、統合失調症や認知症など、もともとの病気への対応も大きな比重を占めることを示しました。「災害時の心のケア=新しいトラウマへの対応だけ」という思い込みを正してくれます。

https://doi.org/10.3390/ijerph182312409

Takagi, Y., Takahashi, S., Kubo, T., Fukuo, Y., Gomei, S., Yaguchi, C., Arai, T., & Tachikawa, H.(2026)”Characteristics of mental health needs following the 2024 Noto Peninsula Earthquake: Comparison with the 2016 Kumamoto Earthquake.” PCN Reports, 5(2), e70336.

概要 能登半島地震(2024年)のJ-SPEEDの記録と熊本地震(2016年)の記録を比べ、相談の特徴の違いを分析した研究です。

解説 能登では65歳以上の割合が高く、抑うつ、自殺念慮、フラッシュバックや行動上の問題が多いことを示しました。高齢化した地域や半島部での災害に備えるうえで、最新の手がかりになる論文です。

https://doi.org/10.1002/pcn5.70336

Tachikawa, H., Kubo, T., Gomei, S., Takahashi, S., Kawashima, Y., Manaka, K., et al.(2022)”Mental health needs associated with COVID-19 on the Diamond Princess cruise ship: A case series recorded by the disaster psychiatric assistance team.” International Journal of Disaster Risk Reduction, 81, 103250.

概要 ダイヤモンド・プリンセス号の検疫中に、DPATが記録した精神保健の相談127件などを分析した事例研究です。

解説 自然災害だけでなく、感染症の隔離という状況でも心のケアが欠かせないことを示しました。現行の活動要領に新興感染症への対応が書き込まれた背景を理解するのに役立ちます。

https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103250

Hobfoll, S. E., Watson, P., Bell, C. C., Bryant, R. A., Brymer, M. J., Friedman, M. J., et al.(2007)”Five essential elements of immediate and mid-term mass trauma intervention: Empirical evidence.” Psychiatry, 70(4), 283–315.

概要 災害や大規模暴力のあとの介入について、国際的な専門家パネルが関連分野の研究から共通の原則をまとめた論文です。

解説 安全感、落ち着き、自己効力感と地域の効力感、つながり、希望の「5つの要素」は、PFAの考え方の土台として広く引用されています。公認心理師試験などで「災害直後の支援で重視すること」を問われたときの軸になります。

https://doi.org/10.1521/psyc.2007.70.4.283

Rose, S., Bisson, J., Churchill, R., & Wessely, S.(2002)”Psychological debriefing for preventing post traumatic stress disorder (PTSD).” Cochrane Database of Systematic Reviews, (2), CD000560.

概要 1回だけの心理的デブリーフィングがPTSDの予防に役立つかを、ランダム化比較試験を集めて検討したシステマティックレビューです。

解説 個別のデブリーフィングは心理的苦痛を減らさず、PTSDの発症も防がないと結論し、強制的なデブリーフィングはやめるべきだと述べました。「災害直後に体験を詳しく語らせるのはよくない」という試験の定番論点の根拠です。

https://doi.org/10.1002/14651858.CD000560

World Health Organization, War Trauma Foundation, & World Vision International(2011)Psychological first aid: Guide for field workers. WHO.(日本語版:国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、プラン・ジャパン訳『心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド』)

概要 PFAの考え方と実際のやり方を、専門家でない支援者にもわかるようにまとめた国際的なガイドです。

解説 活動原則「見る・聞く・つなぐ」と、支援者自身のケアの大切さが示されています。日本語版は厚生労働省のサイトでも公開されています。

https://www.who.int/publications/i/item/9789241548205

厚生労働省医政局地域医療計画課(2026)「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領について」の一部改正について(医政地発0331第4号、令和8年3月31日)

概要 DPATの定義、日本DPAT、構成、指揮系統、派遣の流れ、活動内容、終結、費用、新興感染症への対応などを定めた最新の公式文書です。

解説 本記事の制度の説明は、この令和8年4月1日適用版にもとづいています。今後も改正される可能性があるため、受験前には厚生労働省やDPAT事務局のサイトで最新版を確認してください。

https://www.mhlw.go.jp/content/001725627.pdf

DPAT事務局(厚生労働省委託事業)「DPAT活動マニュアル Ver.3.1」

概要 活動要領を現場で使えるように具体化したマニュアルで、活動の3原則「SSS」、隊の構成、支援者支援、記録や処方の扱いなどが書かれています。

解説 「名脇役であれ」というDPATの姿勢がよくわかります。DPAT事務局のサイトから読むことができます。

https://www.dpat.jp/images/dpat_documents/3_250410_c.pdf

覚え方

①名前:「DPATのPはPsychiatric(精神科)のP」。DMATのM(Medical)が体の救急、DPATのP(Psychiatric)が心と精神科医療の救急です。

②初動:「よ(4)ば(8)れたら、48時間以内に出発」。日本DPAT(旧:先遣隊)は概ね48時間以内に活動できる隊です。ただし、DMATも概ね48時間以内から動けるので、「48時間=DPATだけ」とは覚えないようにしましょう。

③1隊の期間:「行き帰りで2日、平日5日で1週間」。移動日2日+活動日5日=1週間です。

④3原則:「自分のことは自分で、情報はみんなで、主役は地元」。Self-sufficiency(自己完結)・Share(情報共有)・Support(名脇役)のSSSです。

⑤PFA:「見て、聞いて、つないで、無理に話させない」。見る・聞く・つなぐが基本です。話したい人の話は否定せずに聴きますが、無理に体験を語らせる心理的デブリーフィングはしません。

⑥時期区分:「ボー(茫然自失)っとして、ハネ(ハネムーン)て、ガッカリ(幻滅)、さあ再建」。直後→数日〜数週間→1か月〜数か月→数か月以降の順です。

覚えること数字・キーワード
日本DPATが活動を始める目安概ね48時間以内
日本DPATの医師精神保健指定医を含む(指定するのは厚生労働大臣)
1隊の活動期間1週間(移動2日+活動5日)
基本の3職種精神科医師・看護師・業務調整員
終結を決めるのは被災都道府県(都道府県DPAT調整本部の助言をふまえる)
中長期の引き継ぎ先精神保健福祉センター(初動から連携)
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