依存/嗜癖(Addiction / Dependence)とは、お酒や薬物などの物質、またはギャンブルやゲームなどの行動を「やめたい・減らしたい」と思っても自分でコントロールできず、生活に害が出ているのに続けてしまう状態のことです。病気として診断されるほどになったものを、一般に依存症と呼びます。
試験では、「量や時間の長さ」ではなく「コントロールの障害」と「生活への支障」で判断すること、そしてDSM-5とICD-11で考え方がどう違うかがよく問われます。
簡単な説明
ゲーム好きの中学生が2人います。どちらも休みの日は何時間も遊びますが、様子はかなり違います。
| 見るポイント | Aさん(好き・熱中) | Bさん(依存が心配) |
|---|---|---|
| やめられるか | 「宿題の時間だ」と思えば自分でやめられる | 「あと1回」が止まらず、毎晩夜中の2時まで続く |
| ほかのこととの順番 | 部活や友だちとの約束も楽しんでいる | ゲームが最優先で、部活をやめ、食事もゲームの合間 |
| 困りごとが出たとき | 成績が下がったら時間を減らす | 成績が大きく下がり、家族とけんかが続いてもやめない |
遊んでいる時間が同じでも、心配なのはBさんです。「止まらない」「いちばん大事になる」「困ったことが起きても続ける」の3つがそろい、それが長く続いている状態が、依存(嗜癖)のイメージです。
対象は、お酒・たばこ・薬物(処方薬や市販薬を含む)などの物質と、ギャンブル・ゲームなどの行動に分けられます。依存は「意志が弱いから」起こるのではなく、くり返すうちに脳の「ごほうび」のしくみ(報酬系)が変わり、ブレーキがききにくくなるために起こります。だから責めるより、医療や自助グループの力を借りて回復をめざします。
由来
英語の addiction は、ラテン語の動詞 addicere にさかのぼります。Richard J. RosenthalとSuzanne Faris(2019)の語源研究によると、この語はもともと古代ローマの法律や占いの用語で、法律上の用法から「隷属(何かに縛られる)」のニュアンスが生まれました。一方、17世紀の英語では「身をささげる」という良い意味でも使われていました。
医学では、「嗜癖」と「習慣(habituation)」を1つに定義するのは難しいとして、WHOの専門家Nathan B. Eddyら(1965)が「薬物依存(drug dependence)」への置き換えを提案し、依存には精神依存と身体依存の一方または両方があると整理しました。
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1935年 | アメリカでBill W.とDr. Bob S.が自助グループAA(Alcoholics Anonymous)を始める |
| 1954年 | James OldsとPeter Milnerが、脳の特定部位への電気刺激を求めてレバーを押し続けるラットを報告 |
| 2013年 | DSM-5刊行。乱用と依存を統合して物質使用障害(Substance Use Disorder)とし、ギャンブル障害を物質関連の章に移す |
| 2019年採択・2022年発効 | WHOのICD-11に「物質使用症又は嗜癖行動症群」が設けられ、ゲーム行動症(Gaming disorder)が新たに加わる |
| 2027年1月(予定) | 日本の統計分類がICD-11準拠に切り替わる(2026年1月告示) |
具体的な説明
用語の整理:依存・嗜癖・依存症・乱用
| 用語 | 主な意味 | 使われ方の例 |
|---|---|---|
| 依存(dependence) | くり返し使った結果、それなしではいられなくなった状態。精神依存と身体依存がある | ICD-11の「アルコール依存」 |
| 嗜癖(addiction) | 害があっても物質や行動にのめりこみ、コントロールを失っている状態。行動も含む | 行動嗜癖、ICD-11の「嗜癖行動症群」 |
| 依存症 | 依存・嗜癖が病気のレベルにある状態をさす一般的な言葉 | アルコール依存症、ギャンブル等依存症(法律の名称) |
| 乱用(abuse) | 社会的ルールや医学的な目的から外れた使い方。1回だけでも乱用になりうる | DSM-IVの「物質乱用」(DSM-5で廃止) |
精神依存は「使いたい」という強い欲求(渇望)にとらわれる状態、身体依存は体が物質に慣れてしまい、切れると離脱症状が出る状態です。身体依存がなくても精神依存はありえます(ギャンブル行動症・ゲーム行動症の診断要件には、耐性・離脱のような生理学的な特徴は入っていません)。
DSM-5:乱用と依存を1つに統合
アメリカ精神医学会のDSM-IVでは、「物質乱用」と「物質依存」という2つの診断が分かれていました。DSM-5(2013年)はこれを1つにまとめ、Substance Use Disorder(物質使用障害)としました。作業部会のDeborah S. Hasinら(2013)によれば、20万人を超えるデータで、乱用と依存の基準が1つの連続した重さの次元を測っていると示されたことが統合の根拠です。診断基準は次の11項目で、12か月以内に2項目以上当てはまり、臨床的に意味のある苦痛や機能の障害がある場合に診断されます。
| グループ | 項目(要約) |
|---|---|
| コントロールの障害 | ①思っていたより多く・長く使う ②減らそう・やめようとしてもうまくいかない ③入手・使用・回復に多くの時間を使う ④渇望(craving) |
| 社会的な障害 | ⑤仕事・学校・家庭での役割を果たせない ⑥対人関係の問題が続いても使う ⑦大切な活動をやめたり減らしたりする |
| 危険な使用 | ⑧身体的に危険な場面(飲酒運転など)でくり返し使う ⑨心身の問題が悪化するとわかっていても使う |
| 薬理学的な基準 | ⑩耐性 ⑪離脱 |
重症度は当てはまる項目の数で、軽度(2〜3)・中等度(4〜5)・重度(6以上)と示します。DSM-IVからの主な変更は、①乱用と依存の統合、②「法律上の問題をくり返す」の削除、③「渇望」の追加です。また、医療上の適切な管理のもとで薬を使っている人に生じる耐性・離脱だけでは、物質使用障害とは診断しません。
同じ章にはギャンブル障害(Gambling Disorder)も移されました(DSM-IVでは「衝動制御の障害」の病的賭博)。基準は9項目中4項目以上(12か月以内)で、DSM-IVの「5項目以上」から引き下げられ、「違法行為」の項目は削除されました。「負けを取り返そうと別の日にまた賭ける(深追い)」が特徴的な項目です。一方、インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)は、9項目の基準案とともに第Ⅲ部(今後の研究のための病態)に置かれ、正式な診断名にはなっていません。
2022年のDSM-5-TRでも中身はほぼ同じですが、訳語が変わり、日本語版(2023年)の章名は「物質関連症及び嗜癖症群」、ギャンブルは「非物質関連症群」に入ります。診断名も「物質使用症」「ギャンブル行動症」のように「〜症」と訳されることが増えましたが、DSM-5時代の「物質使用障害」「ギャンブル障害」も教科書でよく使われるので、両方に慣れておきましょう。
ICD-11:「依存」を残し、「嗜癖行動症群」を新設
WHOのICD-11(2019年の世界保健総会で採択、2022年1月1日発効)は、DSM-5と違って「依存」と「有害な使用」を区別して残しました。WHOの診断ガイドライン(2024)では、依存は次の3つのうち2つ以上で判断します。
- コントロールの障害:始める・量・やめ時などを調整できない
- 使用がどんどん優先される:健康や日々の責任より使用が先に立ち、害があっても続ける
- 生理学的な特徴:耐性、離脱、離脱を防ぐための使用
期間は通常12か月以上ですが、毎日またはほぼ毎日の使用が3か月以上続いていれば診断できます。ICD-11では、問題の重さに応じて次のように段階が分かれています(日本語は厚生労働省の統計分類の訳語)。
| 段階(アルコールの例) | 内容 |
|---|---|
| 危険なアルコール使用 | まだ害は出ていないが、害のリスクを明らかに高めている(精神疾患ではない) |
| アルコールの有害な使用エピソード | 1回(ひと続き)の使用で、本人の心身や他者の健康に害が出た |
| アルコールの有害な使用パターン | くり返しの使用で害が出ているが、依存には至らない |
| アルコール依存 | 上の3つの特徴のうち2つ以上 |
行動嗜癖は、物質使用症又は嗜癖行動症群(Disorders due to substance use or addictive behaviours)の中の嗜癖行動症群に置かれ、ギャンブル行動症(6C50)とゲーム行動症(6C51)が含まれます。どちらも、①コントロールの障害、②ほかの関心や日常の活動より優先、③悪い結果があっても続ける・増やす、の3つすべてが(オンラインでもオフラインでも)見られ、著しい苦痛や生活上の重大な支障が生じていることが必要です。期間は12か月程度が目安ですが、どちらも症状が重く、ほかの要件をすべて満たす場合は、より短い期間(例:6か月)でも診断できます。つまり「長時間ゲームをしている」だけでは診断されません。ICD-10の「病的賭博」(習慣及び衝動の障害)は、名前を変えてここに移りました。
ひっかけに注意したいのが強迫的性行動症(6C72)です。嗜癖行動症群ではなく、放火症・窃盗症と同じ衝動制御症群に入ります。
| 比較項目 | DSM-5/DSM-5-TR | ICD-11 |
|---|---|---|
| 物質の診断の考え方 | 乱用と依存を統合した1つの診断(重症度:軽度・中等度・重度) | 依存と有害な使用パターンなどを区別して残す |
| 診断の目安 | 11項目中2項目以上、12か月以内 | 依存は3つの特徴のうち2つ以上、通常12か月(毎日使用なら3か月) |
| ギャンブル | 9項目中4項目以上 | ギャンブル行動症:3つの特徴すべて |
| ゲーム | インターネットゲーム障害は第Ⅲ部(研究用)で正式診断ではない | ゲーム行動症として正式な診断名 |
耐性と離脱
耐性は、くり返し使ううちに同じ量では効かなくなり、量が増えていくことです。離脱は、やめたり減らしたりしたときに不快な症状が出ることで、アルコールでは手のふるえ・発汗・不眠など、重いと幻覚や意識の混乱を伴う振戦せん妄が起こります。ただし、耐性・離脱がある=依存症ではなく、逆に耐性・離脱がなくても診断されることがあります。耐性は学習(古典的条件づけ)でも生じます(後の「実験」を参照)。
報酬系と脳のしくみ
生きるのに必要な行動に「快」を与え、くり返させるしくみが報酬系で、中心は中脳の腹側被蓋野(VTA)から側坐核などへ向かう中脳辺縁系ドーパミン経路です。依存性のある物質の多くは、ここでのドーパミンの働きを強めます。George F. KoobとNora D. Volkow(2010)は、依存を次の3段階がくり返される嗜癖サイクルとして整理しました。
| 段階 | 何が起きているか | 主にかかわる部位 |
|---|---|---|
| ①むちゃ使い/酩酊(binge/intoxication) | 使って「快」を得る | 腹側被蓋野・腹側線条体(側坐核を含む) |
| ②離脱/否定的感情(withdrawal/negative affect) | 切れると不安・イライラが出る | 拡張扁桃体 |
| ③とらわれ/予期(preoccupation/anticipation) | 渇望が生じ、ブレーキが弱まる | 前頭前皮質などの広いネットワーク |
はじめは「気持ちよさを求めて(正の強化)」使っていたのが、やがて「不快から逃れるために(負の強化)」使うようになるのがポイントです。また、Terry E. RobinsonとKent C. Berridge(1993)の誘因感作理論は、くり返しの使用でドーパミン系が感作されると、物質やそれに結びついた手がかりが強く「欲しい(wanting)」ものになると説明しました。「欲しい」と「好き(liking)」は別なので、楽しくなくなっても欲しさは続き、長く断っていても渇望が残ることがあります。
心理学的な理論
| 理論 | 考え方 | 身近なたとえ |
|---|---|---|
| オペラント条件づけ | 快感(正の強化)や離脱のつらさが消えること(負の強化)で、使う行動が増える | 「当たり」が時々出るから、またガチャを回す |
| 古典的条件づけ | 物質と結びついた場所・人・物が、それだけで渇望や体の反応を引き起こす | いつもの居酒屋の前を通ると飲みたくなる |
| 自己治療仮説 | Edward J. Khantzian(1985):つらい感情を和らげるために使う。選ぶ物質は、その人の感情と物質の作用の組み合わせで決まる | 不安を紛らわすために飲む |
| 生物心理社会モデル | 脳の変化(生物)、感情の扱い方(心理)、孤立や入手しやすさ(社会)が重なって依存が生じる | ストレス、相談相手がいない、すぐ買える…が重なる |
支援:動機づけ、再発予防、自助グループ、ハームリダクション
依存症の人は「やめたい」と「続けたい」の間で揺れています(両価性)。そのため、問い詰めるより、変わりたい気持ちを引き出す支援が重視されます。
- 動機づけ面接:William R. Miller(1983)が問題飲酒者への面接法として提唱し、のちにStephen Rollnickと発展させた。両価性を受けとめ、変化への動機を本人の言葉から引き出す
- 変化のステージモデル:James O. ProchaskaとCarlo C. DiClementeらが提唱。前熟考期 → 熟考期 → 準備期 → 実行期 → 維持期の5段階に合わせて支援を変える。人は段階を何度も行き来する(逆戻りする)のがふつうだとされる
- 認知行動療法・再発予防:使いたくなる引き金(高リスク状況)を見つけ、対処法を練習する
- 自助グループ:AA(1935年に米国で始まる。匿名性・12ステップ・献金で運営)と、日本独自の断酒会(1963年に全日本断酒連盟設立。家族の参加を重視・会費制)が代表
- 家族への支援:尻ぬぐいで使用を続けやすくすること(イネイブリング)を減らす。CRAFTは家族の関わり方を工夫し、治療を拒む本人を治療につなげるプログラムで、Meyersら(1998)では家族の74%が本人を治療につなげた
ハームリダクション(harm reduction)は、使用を今すぐゼロにできなくても、使用に伴う健康・社会的な害を減らすことを目標にする公衆衛生的な考え方です。注射器の交換、メサドンなどの代替療法、過量摂取時の拮抗薬(ナロキソン)の配布が代表例です。G. Alan Marlatt(1996)は、断つことを理想としつつ害を減らす他の目標も受け入れること、当事者から広がった「ボトムアップ」の取り組みであること、利用のハードルを低くすることなどを、その前提として挙げました。
日本の制度
| 比較項目 | アルコール健康障害対策基本法 | ギャンブル等依存症対策基本法 |
|---|---|---|
| 法律番号・施行 | 平成25年法律第109号/2014年6月1日施行 | 平成30年法律第74号/2018年10月5日施行(2025年改正) |
| 対象(第2条) | アルコール健康障害:依存症に限らず、多量の飲酒、20歳未満の者や妊婦の飲酒など、不適切な飲酒による心身の健康障害 | ギャンブル等依存症:公営競技、ぱちんこ等にのめり込み、日常生活または社会生活に支障が生じている状態 |
| 啓発週間(第10条) | 11月10日〜16日(アルコール関連問題啓発週間) | 5月14日〜20日(ギャンブル等依存症問題啓発週間) |
2025年の改正では、インターネットで違法オンラインギャンブル等のサイトやアプリを示す行為や、そこへ誘導する情報を発信する行為が禁止されました(第9条の2)。令和5年度の全国調査(久里浜医療センター)では、18〜74歳で過去1年にギャンブル等依存が疑われる人(PGSI 8点以上)は年齢調整後で1.7%(男性2.8%、女性0.5%)と推計されました。条文は改正されるので、受験前にe-Gov法令検索で確認しましょう。
実験や観察の方法と結論
① Siegel ら(1982):場所の手がかりが「過量摂取」を左右する
方法:ラットに1日おきに15回、量を少しずつ増やしながら(1→8 mg/kg)ヘロインを注射しました。場所は飼育ケージとホワイトノイズの流れる別室の2つで、ヘロインを打たない日はもう一方の場所でブドウ糖液を注射しました。最後に大量のヘロイン(15 mg/kg)を、ヘロインを打ってきたいつもの場所で注射する群(ST群)と、ブドウ糖液しか打っていない別の場所で注射する群(DT群)、ヘロインが初めての対照群で比べました。
| 群 | ラットの数 | 死亡率 |
|---|---|---|
| ST群(いつもの場所で大量投与) | 37匹 | 32.4% |
| DT群(別の場所で大量投与) | 42匹 | 64.3% |
| 対照群(ヘロイン初めて) | 28匹 | 96.4% |
結論:薬の使用歴がまったく同じでも、いつもと違う場所で打たれたラットは約2倍死にやすくなりました。いつもの場所の手がかりが条件刺激となり、薬の効果を打ち消す体の準備反応(条件づけられた補償反応)を前もって引き起こしていたと考えられます。耐性の一部は学習(古典的条件づけ)でできていること、そして人間の「過量摂取」による死が、量だけでなく使った場所にも左右されうることを示した研究です。
② Alexander ら(1981):ラットパーク
方法:ラットを離乳後から、1匹ずつ隔離されたケージか、仲間と暮らす広い飼育場(コロニー)で育て、途中で半数を入れ替えました。その後、水と、モルヒネ入りの溶液や、モルヒネの入っていない対照の溶液を選んで飲めるようにしました。
結論:テストの時点でコロニーに住んでいたラットは、隔離されたラットよりもモルヒネ溶液を飲む量が少なく、対照の溶液の量には差がありませんでした。依存は物質の性質だけでなく環境(孤立か、仲間との暮らしか)にも左右されることを示唆しました。
例文
「飲酒量を減らそうと何度試みてもうまくいかず、仕事にも支障が出ていたため、彼は精神科を受診しました。」
「ギャンブルによる借金を家族が肩代わりし続けることは、イネイブリングとして、かえって依存を長引かせることがあります。」
「公認心理師は、断酒に迷いのあるクライエントの両価性を受けとめながら、動機づけ面接の技法を用いて変化への動機を引き出しました。」
疑問
Q: 「依存」と「依存症」はどう違うのですか?
A: 「依存」は物質や行動なしではいられない状態を広くさす言葉で、「依存症」はそれが病気として扱われるほどになり、生活に大きな支障が出ているものをさす一般的な呼び方です。正式な診断名はICD-11の日本語訳では「アルコール依存」「ギャンブル行動症」などで、日本の法律では「ギャンブル等依存症」が使われます。
Q: 毎日何時間もゲームをしていたら、ゲーム行動症なのですか?
A: 時間の長さだけでは診断されません。ICD-11では、コントロールの障害、ゲームの優先、悪い結果があっても続けるの3つがすべてそろい、学業や家族関係などに重大な支障が出ていることが必要です。長く遊んでいても、生活が回っていれば対象になりません。
Q: 依存症になるのは、意志が弱いからではないのですか?
A: いいえ。脳の報酬系の変化、つらい感情や孤立、入手しやすさなど、生物・心理・社会の要因が重なって起こります。責めると恥の気持ちが強まり、相談や治療から遠ざかってしまうため、偏見(スティグマ)を減らすことも大切です。
Q: ハームリダクションは、薬物の使用を認めることになりませんか?
A: 使用を勧めるものではありません。断つことを理想としつつ、今すぐやめられない人の感染症や過量摂取による死亡などの害をまず減らす考え方です。
Q: 一度やめた人がまた使ってしまったら、治療は失敗なのですか?
A: 失敗と決めつける必要はありません。変化のステージモデルでも、人は段階を何度も行き来しながら変わっていくとされます。引き金を振り返って対処法を見直し、医療や自助グループとのつながりを保つことが大切です。
理解度を確認する問題
問題1. DSM-5の物質使用障害(Substance Use Disorder)に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 診断には、11項目のうち耐性か離脱の少なくとも一方が含まれている必要がある
- B. 医師の管理のもとで鎮痛薬を正しく服用している人に耐性と離脱の2項目が見られれば、軽度と診断される
- C. 乱用と依存を1つの診断に統合し、12か月以内に当てはまる項目の数によって重症度を示す
- D. DSM-IVの「物質に関連した法律上の問題」の項目を残したうえで「渇望」を加え、全12項目になった
正解:C DSM-5は乱用と依存を統合し、11項目中2項目以上(12か月以内)で診断して、軽度(2〜3)・中等度(4〜5)・重度(6以上)と重症度を示します。Aは誤りで、耐性・離脱は11項目のうちの2つにすぎず、なくても診断されます。Bは「2項目」に見えますが、医療上の管理のもとで生じる耐性・離脱だけでは診断しません。Dは誤りで、「法律上の問題」は削除され、代わりに「渇望」が加わったため、項目数は11のままです。
問題2. ICD-11の物質使用症又は嗜癖行動症群に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 物質の依存の診断には、コントロールの障害、使用の優先、生理学的な特徴の3つすべてが必要である
- B. ゲーム行動症は、オンラインのゲームに限って診断される
- C. 強迫的性行動症は、ギャンブル行動症やゲーム行動症とともに嗜癖行動症群に分類されている
- D. ギャンブル行動症の診断には、コントロールの障害、ギャンブルの優先、悪い結果があっても続けることのすべてと、著しい苦痛または機能障害が必要である
正解:D ギャンブル行動症とゲーム行動症は、3つの特徴がすべてそろい、生活に重大な支障が出ていることが必要です。Aは誤りで、物質の依存は3つのうち2つ以上で診断されます。「行動嗜癖は3つすべて、物質の依存は2つ以上」という違いがよく狙われます。Bは誤りで、オフラインのゲームも対象です。Cは誤りで、強迫的性行動症は放火症・窃盗症などと同じ衝動制御症群に分類されています。
問題3. 長年、自宅の同じ部屋でヘロインを使ってきた人が、旅行先のホテルでいつもと同じ量を使ったところ、重い過量摂取の状態になった。Siegelら(1982)の研究にもとづく説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 旅行の興奮でドーパミン系が感作され、薬物を「好き(liking)」と感じる程度が急に強まったため
- B. いつもの部屋の手がかりが引き起こしていた、薬物の効果を打ち消す条件反応が、新しい場所では起こらなかったため
- C. いつもの部屋では使用後の快感によって使用行動が強化されていたが、新しい場所では強化が起こらなかったため
- D. 精神依存だけで身体依存がなく、もともと耐性が形成されていなかったため
正解:B 使い慣れた環境の手がかりが条件刺激となり、薬物の効果を打ち消す補償的な条件反応を起こすことで、耐性の一部が成り立ちます。実験では、違う場所での死亡率(64.3%)がいつもの場所(32.4%)の約2倍でした。Aは誤りで、誘因感作理論で強まるのは「欲しい(wanting)」であって「好き」ではなく、耐性の理論でもありません。Cはオペラント条件づけの説明で、使う回数が増える理由にはなっても、同じ量で過量摂取になる理由にはなりません。Dは誤りで、ヘロインはくり返しの使用で耐性が生じやすく、「場所が変わると危険になる」ことも説明できません。
関連キーワード
- 物質使用障害/物質使用症(Substance Use Disorder)
- 耐性(Tolerance)・離脱(Withdrawal)
- ギャンブル障害/ギャンブル行動症(Gambling Disorder)
- ゲーム行動症(Gaming Disorder)
- 報酬系(Reward System)・ドーパミン
- 誘因感作理論(Incentive-Sensitization Theory)
- 条件づけられた耐性(Conditioned Tolerance)
- 動機づけ面接(Motivational Interviewing)
- 変化のステージモデル(Stages of Change)
- ハームリダクション(Harm Reduction)
- 自助グループ(Self-Help Group)・AA・断酒会
- アルコール健康障害対策基本法/ギャンブル等依存症対策基本法
関連論文
まずこの1本
Hasin, D. S., O’Brien, C. P., Auriacombe, M., Borges, G., Bucholz, K., Budney, A., Compton, W. M., Crowley, T., Ling, W., Petry, N. M., Schuckit, M., & Grant, B. F.(2013)DSM-5 criteria for substance use disorders: Recommendations and rationale. American Journal of Psychiatry, 170(8), 834–851.
DSM-5の作業部会が、診断基準の変更点とその理由を説明した論文です。20万人を超えるデータにもとづいて乱用と依存を1つの診断に統合したこと、法律上の問題を削除し渇望を追加したこと、ギャンブル障害を物質関連の章に移したことがまとめられています。診断の境目を2項目以上にしたのはDSM-IVとの一致がもっともよかったためで、医療上の管理のもとでの耐性・離脱だけでは診断しない理由も説明されています。試験対策としては「統合」「2項目以上」「重症度」「渇望の追加と法律問題の削除」「ギャンブルの移動」の5点を押さえ、依存と有害な使用を区別して残したICD-11と比べて覚えましょう。
https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2013.12060782
その他の参考文献
Siegel, S., Hinson, R. E., Krank, M. D., & McCully, J.(1982)“Heroin ‘overdose’ death: Contribution of drug-associated environmental cues.” Science, 216(4544), 436–437.
概要 ヘロインの使用歴が同じラットでも、大量投与をいつもと違う環境で受けると死亡率が高くなる(32.4%対64.3%)ことを示した短い報告です。
解説 耐性を古典的条件づけ(条件づけられた補償反応)で説明する代表例です。学習心理学と依存を結びつける問題や、「耐性は薬理作用だけで決まるか」を問う問題で取り上げられます。
https://doi.org/10.1126/science.7200260
World Health Organization(2024)Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders.
概要 ICD-11の精神・行動の疾患について、WHOが臨床で使うための記述と診断要件をまとめた公式のガイドラインです。
解説 依存の「3つのうち2つ以上」、行動症の「3つすべて」、危険な使用・有害な使用パターン・依存の区別を確認できます。日本語の病名は厚生労働省の統計分類(ICD-11準拠)の分類表で確認できます。
https://iris.who.int/handle/10665/375767
https://www.mhlw.go.jp/stf/toukei/goriyou/sippei.html
覚え方
①依存の3つの核心は「止まらない・いちばん・害でも続く」。行動症はこの3つ全部、物質の依存は「害でも続く」が「優先」に含まれ、代わりに耐性・離脱が入ります。「時間が長い」は入りません。
②数字は「物質は2、ギャンブルは4、行動症は全部」。DSM-5の物質は11中2、ギャンブルは9中4、ICD-11の行動症は3つ全部(物質の依存は3つ中2)。重症度は2-3軽、4-5中、6以上重です。
③DSM-5の変更は「まとめて、法を捨て、渇望を拾う」。乱用+依存を統合し、法律上の問題を削除し、渇望を追加。ギャンブルでも「違法行為」が消えました。
④啓発週間:お酒は「いい(11)と(10)き」の11月10日〜16日、ギャンブルは「ご(5)意志(14)」の5月14日〜20日。入れ替えのひっかけに注意です。
| 覚えること | キーワード |
|---|---|
| ICD-11の行動嗜癖 | ギャンブル行動症・ゲーム行動症(嗜癖行動症群)。強迫的性行動症は衝動制御症群 |
| 欲しいと好きの区別 | 誘因感作理論(Robinson & Berridge, 1993) |
| 場所が耐性をつくる | 条件づけられた耐性(Siegel et al., 1982:32%対64%) |
| 害を減らす支援 | ハームリダクション(Marlatt, 1996) |


コメント