結論から言うと——
食べている量が少ないわけじゃない。でも、運動で使う分を引いたら、体を維持するエネルギーが足りていない。それがLEAです。「頑張って運動しているのになんか調子が悪い」の正体がこれかもしれません。アスリートだけでなく、ダイエット中の筋トレ愛好者にも深く関わるテーマです。
① 語源
| 語 | 語源 | 意味 |
|---|---|---|
| Low | 古英語 lāh(低い・不足している) | 低い・不足している |
| Energy | ギリシャ語 energeia(活動・働き) | 生命活動に必要なエネルギー |
| Availability | ラテン語 availabilis(利用できる) | 「実際に使える状態にあること」 |
ポイントはAvailability(利用可能性)という言葉です。「摂取エネルギーが少ない」ではなく、「運動後に体の維持のために実際に使えるエネルギーが少ない」という概念です。
② 中学生でもわかる解説
1日に2,000kcal食べているとします。でも運動で1,200kcal消費したら、体を動かす以外のこと——呼吸・心臓を動かす・ホルモンを作る・骨を維持する——に使えるエネルギーは800kcalしか残りません。
これがLEAの本質です。「食べた量」ではなく「運動後に残った量」で考えるのがLEAの視点です。
お財布に例えるとこうなります。
- 月収20万円(摂取エネルギー)で、
- 家賃15万円(運動消費)を払ったら、
- 生活費(体の維持)に5万円しか残らない。
これでは体はギリギリの節約生活を強いられます。
③ 解説
定義
LEA(Low Energy Availability:利用可能エネルギー不足)とは、摂取エネルギーから運動によるエネルギー消費を引いた値(=利用可能エネルギー)が、生体の恒常性維持に必要な水準を下回っている状態です。
計算式は以下の通りです。
EA(利用可能エネルギー)=(摂取エネルギー-運動エネルギー消費)÷ 除脂肪体重(kg)
単位はkcal/kg FFM(Fat-Free Mass:除脂肪体重)/日で表します。
| EAの水準 | 状態 |
|---|---|
| 45 kcal/kg FFM/日以上 | 最適(健康維持・パフォーマンス発揮) |
| 30〜45 kcal/kg FFM/日 | グレーゾーン(軽度の機能低下が起きうる) |
| 30 kcal/kg FFM/日未満 | LEA(生理機能への影響が顕著) |
体への影響
エネルギーが不足すると、体は優先順位の低い機能から節約を始めます。これを代謝適応(Metabolic Adaptation)と呼びます。
生殖機能の抑制
視床下部からのGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌が低下し、女性では月経不順・無月経、男性では精巣機能の低下・テストステロン減少が起こります。
骨代謝の障害
骨形成を促すIGF-1(インスリン様成長因子-1)が低下し、骨吸収が優位になります。長期的には骨密度の低下・疲労骨折リスクの上昇につながります。
甲状腺ホルモンの低下
T3(トリヨードサイロニン)の産生が低下し、基礎代謝が抑制されます。「食べていないのに痩せない」という状態の生理学的背景のひとつです。
HPA軸への影響
LEAはHPA軸を慢性的に刺激し、コルチゾールの上昇を招きます。これが筋タンパク合成の抑制・免疫低下・睡眠障害につながります。
タンパク質代謝の変化
エネルギー不足を補うため、筋タンパクがアミノ酸に分解されてエネルギー源として利用されます。筋肥大どころか、筋量の減少が起こります。
REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)との関係
LEAはREDs(Relative Energy Deficiency in Sport:スポーツにおける相対的エネルギー不足)の根本原因です。REDsはIOC(国際オリンピック委員会)が2014年に提唱した概念で、LEAが引き起こす健康障害・パフォーマンス低下を包括的に表します。
以前は「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad)」として女性に限定されていましたが、REDsの概念では男性アスリートにも同様の問題が起こることが明示されています。
男女での違い
| 症状 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|
| 生殖機能 | 月経不順・無月経 | テストステロン低下・性欲減退 |
| 骨密度 | 低下(疲労骨折リスク上昇) | 低下(疲労骨折リスク上昇) |
| ホルモン | エストロゲン低下 | テストステロン低下 |
| 心理症状 | 抑うつ・不安 | 抑うつ・無気力 |
④ 豆知識
「意図しないLEA」が最も危険
LEAには2種類あります。意図的なもの(減量・ウェイトカット)と、意図しないもの(運動量の増加に食事が追いついていない)です。後者は自覚がないまま進行するため発見が遅れやすく、より危険です。
合宿・試合期・増量期から減量期への切り替え直後などは、意図しないLEAが起きやすいタイミングです。
ダイエット中の筋トレ愛好者も無関係ではない
競技アスリートだけの問題ではありません。「カロリー制限しながら筋トレを増やす」という行動は、LEAを引き起こしやすい典型的なパターンです。体重が落ちているのに「なんか力が出ない」「気分が落ち込む」「眠れない」という状態は、LEAのサインである可能性があります。
「30kcal/kg FFM/日」という基準値の意味
この基準値はLoucks et al.(2003)の研究に基づいています。30kcal/kg FFM/日を下回ると、LH(黄体形成ホルモン)の拍動性分泌が乱れ、生殖機能への影響が顕著になることが実験的に示されました。この値がLEA診断の基準として広く使われるようになった出発点です。
⑤ 関連論文
Loucks et al., 2003
LEAの概念と「30kcal/kg FFM/日」という基準値を確立した基礎研究です。エネルギー不足がLHの拍動性分泌を乱すメカニズムを実験的に示しました。LEA研究の出発点として必ず引用される文献です。
Mountjoy et al., 2014(IOC合同声明)
REDsの概念を初めて公式に提唱したIOCの合同声明です。LEAを根本原因として、骨・生殖・免疫・心理・胃腸・心血管機能への多面的な影響を体系化しました。女性だけでなく男性アスリートへの影響も明示した点で画期的な文献です。
Mountjoy et al., 2023(IOC合同声明 改訂版)
2014年版を大幅に更新した最新の合同声明です。REDsの定義の精緻化・男性アスリートへの影響の強調・パフォーマンスへの直接的影響の追加など、現時点での最新の科学的コンセンサスを示しています。
De Souza et al., 2014
女性アスリートの三主徴からREDsへの概念的移行を論じたレビューです。LEAが引き起こす骨代謝障害と疲労骨折リスクの関係を詳述しています。
⑥ Q&A
- QLEAとは何ですか?
- A
摂取エネルギーから運動によるエネルギー消費を引いた「利用可能エネルギー」が、体の恒常性維持に必要な水準(45kcal/kg FFM/日以上)を下回っている状態です。「食べている量」ではなく「運動後に体の維持に使えるエネルギーの残量」で判断します。
- QLEAはどうやって計算しますか?
- A
EA(kcal/kg FFM/日)=(摂取エネルギー-運動エネルギー消費)÷ 除脂肪体重(kg)で算出します。例えば除脂肪体重50kgの人が2,000kcal摂取し、運動で800kcal消費した場合、EA=(2,000-800)÷50=24kcal/kg FFM/日となり、LEAの基準値(30以下)を下回ります。
- QLEAになるとなぜ筋肉が落ちるのですか?
- A
エネルギー不足を補うため、体が筋タンパクをアミノ酸に分解してエネルギー源として利用するためです。さらにコルチゾールの上昇・テストステロンの低下・IGF-1の低下が重なり、筋タンパク合成が大幅に抑制されます。
- Qアスリートだけの問題ですか?
- A
いいえ。カロリー制限をしながら運動量を増やすダイエット中の一般の方にも起こります。「食事を減らして筋トレを増やす」という行動は、LEAを引き起こしやすい典型的なパターンです。
- Q女性と男性で症状は違いますか?
- A
症状の現れ方は異なりますが、骨密度低下・ホルモン異常・パフォーマンス低下・心理症状は男女共通して起こります。女性では月経不順・無月経が顕著なサインになりますが、男性ではテストステロン低下・性欲減退・無気力として現れます。
- QLEAに気づくためのサインは何ですか?
- A
「疲れが取れない」「パフォーマンスが落ちた」「気分の落ち込みが続く」「よく体調を崩す」「女性では月経の乱れ」「男性では無気力・性機能の低下」などです。体重が落ちているのにこれらの症状がある場合は特に注意が必要です。
- QREDsとLEAはどう違いますか?
- A
LEAはREDsの「根本原因」です。REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)はLEAが引き起こす骨・生殖・免疫・心理・心血管などへの多面的な健康障害とパフォーマンス低下を包括的に表す概念です。
- Q減量中にLEAを避けるにはどうすればいいですか?
- A
摂取カロリーを大幅に減らすよりも、緩やかな赤字(1日200〜500kcal程度)を維持しながらタンパク質摂取(体重1kgあたり1.6〜2.2g)を確保することが重要です。運動量を急増させる場合はその分の食事も増やす意識が必要です。
- Q「意図しないLEA」とはどういう状態ですか?
- A
食事量を減らしていないにもかかわらず、運動量の急増や合宿・試合期などで消費エネルギーが増加し、結果的にEAが低下してしまう状態です。本人に自覚がないまま進行するため、意図的な減量によるLEAよりも発見が遅れやすく危険です。
- QLEAから回復するにはどうすればいいですか?
- A
最も基本的な対処は摂取エネルギーの増加です。特に炭水化物の摂取を増やすことがホルモン機能の回復に効果的とされています。重症の場合(無月経・骨密度の著明な低下など)は医療機関・管理栄養士への相談が必要です。回復には数ヶ月単位の時間がかかることも珍しくありません。
⑦ 理解度チェック
- Q問題1:LEAの計算式として正しいものはどれですか?
A. 摂取エネルギー ÷ 運動エネルギー消費 × 体重
B. (摂取エネルギー-運動エネルギー消費)÷ 除脂肪体重
C. 摂取エネルギー-基礎代謝量 × 除脂肪体重
D. 運動エネルギー消費 ÷ 摂取エネルギー × 100 - A
答え:B|EA=(摂取エネルギー-運動エネルギー消費)÷ 除脂肪体重(kg)で算出します。単位はkcal/kg FFM/日です。
- Q問題2:LEAと診断される利用可能エネルギーの基準値はどれですか?
A. 20 kcal/kg FFM/日未満
B. 30 kcal/kg FFM/日未満
C. 45 kcal/kg FFM/日未満
D. 60 kcal/kg FFM/日未満 - A
答え:B|30 kcal/kg FFM/日未満がLEAの基準値です。Loucks et al.(2003)の研究によって確立されたこの値を下回ると、生殖機能への影響が顕著になります。
- Q問題3:LEAが引き起こす骨代謝への影響として正しいものはどれですか?
A. 骨形成が促進され骨密度が上昇する
B. IGF-1が上昇し骨吸収が抑制される
C. IGF-1が低下し骨吸収が優位になることで骨密度が低下する
D. カルシウム吸収が促進されるため骨密度は変化しない - A
答え:C|LEAではIGF-1(インスリン様成長因子-1)の産生が低下し、骨形成よりも骨吸収が優位になります。長期的には骨密度の低下と疲労骨折リスクの上昇につながります。
- Q問題4:REDsについて正しい記述はどれですか?
A. 女性アスリートにのみ起こる健康障害である
B. LEAを根本原因とし、男女ともに影響を受ける多面的な健康障害である
C. 過剰なタンパク質摂取が原因で起こる代謝障害である
D. 競技スポーツを行わない一般人には起こらない - A
答え:B|REDsはIOC(2014)が提唱した概念で、LEAを根本原因とした骨・生殖・免疫・心理などへの多面的な健康障害です。女性アスリートの三主徴を男性にも拡張した概念です。
- Q問題5:LEAが引き起こすホルモン変化の組み合わせとして正しいものはどれですか?
A. テストステロン上昇・コルチゾール低下・IGF-1上昇
B. テストステロン低下・コルチゾール上昇・IGF-1低下
C. テストステロン上昇・コルチゾール上昇・T3上昇
D. テストステロン低下・コルチゾール低下・T3上昇 - A
答え:B|LEAではテストステロン(同化)の低下・コルチゾール(分解)の上昇・IGF-1の低下が同時に起こります。この組み合わせが筋タンパク合成の抑制・筋量減少・骨密度低下の主要なホルモン的背景です。
⑧ 覚え方
LEAを「お財布の残高」で覚える
月収(摂取エネルギー)から
家賃(運動消費)を引いた
残り(EA)が生活費。
残りが少なすぎると体は節約モードに入る。
「30・45」の数字を覚える語呂
「さんじゅう(30)以下はレッドゾーン、よんじゅうご(45)以上で最適」
30未満=LEA(危険)、45以上=最適(安全)という2つの数字がLEA管理の基準です。
⑨ まとめ
- LEAとは「摂取エネルギーから運動消費を引いた、体の維持に使えるエネルギーの残量が不足している状態」であり、食べている量の多少だけでは判断できません。
- 30 kcal/kg FFM/日未満でLEAとなり、ホルモン異常・骨密度低下・筋量減少・免疫低下が生じます。これがREDsの根本原因です。
- アスリートだけでなく、カロリー制限と運動増加を同時に行うダイエット中の一般の方にも起こりうる問題であり、「疲れが取れない・パフォーマンスが落ちた・気分が落ち込む」はLEAのサインとして意識することが重要です。
⑩ 必須用語リスト
| 用語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| LEA | えるいーえー | Low Energy Availability。利用可能エネルギー不足。運動後に体の維持に使えるエネルギーが不足している状態 |
| EA(利用可能エネルギー) | りようかのうえねるぎー | (摂取エネルギー-運動消費)÷ 除脂肪体重で算出される、体の維持に実際に使えるエネルギー量 |
| 除脂肪体重(FFM) | じょしぼうたいじゅう | Fat-Free Mass。体重から体脂肪量を引いた、筋肉・骨・内臓などの重さ |
| REDs | れっず | Relative Energy Deficiency in Sport。スポーツにおける相対的エネルギー不足。LEAが引き起こす多面的な健康障害の総称 |
| 女性アスリートの三主徴 | じょせいあすりーとのさんしゅちょう | 月経不順・骨密度低下・パフォーマンス低下が三位一体で現れる状態。REDsの前身概念 |
| 代謝適応 | たいしゃてきおう | エネルギー不足に対し体が基礎代謝を低下させ消費を抑える生理的節約反応 |
| IGF-1 | あいじーえふわん | インスリン様成長因子-1。骨形成・筋タンパク合成を促進する。LEAで低下する |
| GnRH | じーえぬあーるえいち | 性腺刺激ホルモン放出ホルモン。LEAで分泌が低下し生殖機能障害を引き起こす |
| T3(トリヨードサイロニン) | とりよーどさいろにん | 甲状腺ホルモンの活性型。LEAで産生が低下し基礎代謝が抑制される |
| 疲労骨折 | ひろうこっせつ | 繰り返しの負荷による骨の微細な亀裂。LEAによる骨密度低下で発生リスクが上昇する |
| HPA軸 | えいちぴーえーじく | 視床下部—下垂体—副腎軸。LEAによって慢性的に活性化されコルチゾール上昇を招く |
| コルチゾール | こるちぞーる | 副腎皮質から分泌される分解ホルモン。LEAで上昇し筋タンパク合成を抑制する |
| LH(黄体形成ホルモン) | おうたいけいせいほるもん | 下垂体から分泌される生殖ホルモン。LEAで拍動性分泌が乱れる |
| ウェイトカット | うぇいとかっと | 試合前に体重を急激に減らす行為。意図的なLEAを引き起こしやすい |
| IOC | あいおーしー | 国際オリンピック委員会。REDsの概念を2014年に提唱した |


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