重いバーベルを「絶対に1回しか上がらない重さ」まで追い込むのは、ケガのリスクが高くて怖いですよね。
そこで使うのが「間接法」です。
たとえば——
70kgのバーベルを10回ギリギリ上げられたとしたら、「たぶん最大は〇〇kgくらいだろう」と計算式で予測する方法です。
テストの点数を模試から予測するようなイメージです。本番のテスト(1RM直接測定)を受けなくても、「模試の結果(複数回の挙上)」から本番の実力を推定できます。
結論から言うと—— スクワットの1RM(最大挙上重量)は、重い重量を1回だけ試みなくても、複数回挙げられる重量から推定できます。 これを「間接法」と呼び、安全かつ実用的にトレーニングの強度設定に使えます。
語源
| 用語 | 語源 |
|---|---|
| 1RM | One Repetition Maximum(1回反復最大値) |
| Repetition | ラテン語 repetitio(繰り返し) |
| Maximum | ラテン語 maximus(最大の) |
| Indirect | ラテン語 indirectus(直接でない・迂回した) |
“直接やらずに迂回して求める”——だから間接法です。
解説
1RMとは何か
1RMとは、正しいフォームで1回だけ挙上できる最大重量のことです。トレーニング強度の基準(例:「1RMの75%で8回」)として広く使われます。
なぜ間接法が必要か
1RMを直接測定する直接法は以下のリスクを伴います。
- 筋・腱・関節への過大な負荷
- 初心者・中高年・リハビリ中の方には不適切
- 疲労が蓄積していると精度が落ちる
そこで、サブマキシマル(最大以下)な重量で複数回挙げ、そこから1RMを数式で逆算する間接法が実用的な代替手段として確立されました。
主な推定式
複数の研究者が独自の推定式を提唱しています。以下が代表的なものです。
Epley式(最もよく使われる)
1RM=w×(1+30r)
- w = 使用重量(kg)
- r = 実施回数(reps)
例: 80kg × 8回の場合 1RM=80×(1+308)=80×1.267=約101kg
Brzycki式
1RM=1.0278−(0.0278×r)w
例: 80kg × 8回の場合 1RM=1.0278−(0.0278×8)80=0.80680=約99kg
Lander式
1RM=101.3−2.67123×r100×w
各式の特徴比較
| 式 | 精度が高い回数域 | 特徴 |
|---|---|---|
| Epley | 1〜10回 | 汎用性が高く最もポピュラー |
| Brzycki | 1〜10回 | 低回数でEpleyより正確とされる |
| Lander | 7〜10回 | 中回数域での精度が比較的高い |
| Mayhew | 5〜20回 | 高回数(10回以上)に対応 |
重要ポイント: どの式も10回以下の回数で最も精度が高く、15回・20回と回数が増えるほど誤差が大きくなります。これはNSCAも明記しています。
%1RMと回数の関係
推定した1RMをもとに、目的別のトレーニング強度が設定できます。
| 目的 | %1RM | 反復回数の目安 |
|---|---|---|
| 最大筋力 | 85〜100% | 1〜5回 |
| 筋肥大(ハイボリューム) | 67〜85% | 6〜12回 |
| 筋持久力 | 50〜67% | 12〜20回 |
間接法の精度に影響する要因
- トレーニング経験: 初心者は推定値と実際値のズレが大きい傾向
- 種目特性: スクワットのような多関節種目は単関節種目より誤差が出やすい
- フォームの安定性: 疲労でフォームが崩れると回数が実力を反映しなくなる
- 測定時のコンディション: 睡眠・栄養状態も影響する
豆知識
「10回できる重量=75%1RM」は本当か?
よく「10RMは1RMの75%」と言われますが、これはあくまで平均値です。個人差が大きく、持久力タイプの人(遅筋優位)は同じ75%でも15回以上できることがあります。逆に、瞬発力タイプ(速筋優位)は8回で限界になることも。
自分のRMカーブを知ることが、正確な強度設定への近道です。
間接法の推定値は「下限の目安」として使う
間接法は安全側に少し低めに出ることが多いです。実際にテストしてみると「思ったより重くできた」というケースも。推定値は「少なくともこのくらいはある」という保守的な目安として活用するのがベターです。
アプリ・ツールでの活用
現在は1RM計算アプリが多数あり、複数の式の結果を一度に比較できます。単一の式を絶対視せず、Epley・Brzycki・Landerの平均値を目安にするアプローチが実践的です。
関連論文
Epley (1985) 1RM推定式の元祖的研究。重量×(1+回数÷30)という式を提唱し、以後の推定式研究の基礎を築きました。
Brzycki (1993) Epley式と並んで最もよく引用される推定式を発表。低回数域での精度の高さが評価されています。
Mayhew et al. (1992) 高回数域(10回以上)でも有効な推定式を提案。ベンチプレスを中心に研究されましたが、スクワットへの応用も検討されています。
Reynolds et al. (2006) 複数の1RM推定式を比較検討した研究。スクワットとベンチプレスにおいて、Epley式とBrzycki式が比較的高い精度を持つことを示しました。
Loturco et al. (2017) ほか 速度ベースのトレーニング(VBT)を使ったより新しい1RM推定アプローチも研究されています。バーベルの移動速度から1RMを推定する方法で、今後の実用化が期待されています。
よくある質問
- Q間接法と直接法、どちらが正確ですか?
- A
直接法(実際に1回だけ持てる限界重量を試す)のほうが理論上は正確です。ただし、ケガのリスクが高いため、日常的なトレーニング管理には間接法が推奨されます。NSCAも競技者以外には間接法の活用を推奨しています。
- Q何回(rep数)で測定するのが一番正確ですか?
- A
3〜10回の範囲が最も推定精度が高いとされています。特に5〜8回が実用的です。15回・20回と増えるほど誤差が大きくなるため、推定には使いにくくなります。
- Qスクワットとベンチプレスで同じ式を使ってもいいですか?
- A
基本的には同じ式が使えますが、種目によって誤差が異なります。スクワットのような大筋群・多関節種目は個人差が出やすく、ベンチプレスより誤差が大きくなりやすい傾向があります。
- Q初心者でも間接法は使えますか?
- A
使えますが、精度は中〜上級者より低くなりがちです。初心者はフォームが安定していないため、「フォームが崩れた回数」が混入し、推定値がずれやすいです。まずフォームを固めてから測定するのが理想です。
- Q毎回1RMを測定する必要はありますか?
- A
いいえ。1RMは4〜8週間ごとに再測定(または推定)するのが一般的です。毎回測定すると疲労が蓄積し、トレーニングの質が下がります。
- Q複数の推定式で結果が違うのはなぜですか?
- A
各式が作られた際の対象者(年齢・性別・競技レベル)や種目が異なるため、計算結果に差が出ます。どれか一つが「絶対正解」ではないので、複数の式の平均を使うか、Epley式を標準として使うのが実用的です。
- Q推定した1RMをもとにトレーニング重量を決める方法は?
- A
推定1RM × 目標%で計算します。例:推定1RM=100kgで、筋肥大目的(75%)なら75kgで8〜12回が目安です。最初は少し軽めに設定し、実際の感覚(RIR:あと何回できるか)で微調整するのがおすすめです。
- Q速度ベースのトレーニング(VBT)とは何が違いますか?
- A
VBT(Velocity-Based Training)は、バーベルの移動速度を専用センサーで計測し、1RMを推定する新しいアプローチです。より精度が高く、その日のコンディション変化にも対応できますが、専用機材が必要なため、まずはEpley式などの計算式から始めるのが現実的です。
理解度チェック
問題1 Epley式を使ってスクワットの1RMを推定しなさい。使用重量:90kg、実施回数:6回。
A. 約98kg
B. 約108kg
C. 約118kg
D. 約128kg
正解:B(約108kg) 解説:90×(1+6/30)=90×1.2=108kg
問題2 1RM間接推定法の精度が最も高い反復回数の範囲はどれか。
A. 1〜2回
B. 3〜10回
C. 12〜15回
D. 15〜20回
正解:B 解説:回数が多くなるほど局所的な筋持久力や心肺能力が影響し、推定誤差が大きくなる。
問題3 間接法が直接法と比べて優れている理由として最も適切なものはどれか。
A. 推定精度が常に高い
B. ケガのリスクが低く安全に実施できる
C. どんな回数でも正確に推定できる
D. 初心者でも直接法と同精度で測定できる
正解:B
問題4 推定1RMが120kgの場合、筋肥大を目的としたトレーニング重量(%1RM:75%)はおよそ何kgか。
A. 72kg
B. 84kg
C. 90kg
D. 96kg
正解:C(90kg) 解説:120×0.75=90kg
問題5 Brzycki式の特徴として正しいものはどれか。
A. 高回数(15回以上)で最も精度が高い
B. 低回数域(10回以下)で比較的精度が高い
C. スクワット専用の推定式である
D. Epley式より計算が複雑で実用性が低い
正解:B
問題6 1RM推定の精度に影響する要因として誤っているものはどれか。
A. トレーニング経験の長さ
B. フォームの安定性
C. 使用するバーベルのカラーの色
D. 測定時の睡眠・栄養コンディション
正解:C 解説:カラーの色は推定精度に影響しない。
問題7 %1RMが85〜100%の場合、主に期待されるトレーニング効果はどれか。
A. 筋持久力の向上
B. 有酸素能力の向上
C. 最大筋力の向上
D. 柔軟性の向上
正解:C
覚え方
主要な推定式の覚え方
Epley式:「重量×(1+回数÷30)」
「エプリーさんは30分割が好き」 回数を30で割って、1に足して、重量にかける——これだけ!
%1RMと目的の覚え方
「85以上は力持ち、67〜85は大きく、それ以下は長持ち」
| % | 目的 |
|---|---|
| 85〜100% | 最大筋力 |
| 67〜85% | 筋肥大 |
| 50〜67% | 筋持久力 |
「間接法の限界」の覚え方
「10回超えたら信用しすぎるな」
回数が10を超えると推定誤差が大きくなる。10回以内が推定の「信頼ゾーン」。
まとめ
- 間接法とは、サブマキシマルな重量と回数からEpley式などの計算式を使って1RMを推定する方法で、安全で実用的なトレーニング強度管理に欠かせないツールです。
- 推定精度は3〜10回の反復回数域で最も高く、回数が増えるほど誤差が大きくなるため、5〜8回での測定が推奨されます。
- 推定した1RMをもとに%1RMで強度を設定し、目的(最大筋力・筋肥大・筋持久力)に合わせてトレーニングをデザインすることで、科学的で効率的な強度管理が実現します。
必須用語リスト
| 用語 | 読み | 説明 |
|---|---|---|
| 1RM | ワンRM | 1回だけ挙上できる最大重量 |
| 間接法 | かんせつほう | 計算式でRMを推定する方法 |
| 直接法 | ちょくせつほう | 実際に1RMを試みる測定法 |
| サブマキシマル | — | 最大以下の強度 |
| Epley式 | エプリーしき | 最も汎用される1RM推定式 |
| Brzycki式 | ブルジキしき | 低回数域での精度が高い推定式 |
| %1RM | パーセントワンRM | 1RMに対する相対的な強度の割合 |
| RIR | アールアイアール | Reps In Reserve:あと何回できるかの余裕 |
| VBT | ブイビーティー | Velocity-Based Training:速度ベースの強度管理 |
| 筋肥大 | きんひだい | 筋繊維が太くなる現象 |
| 最大筋力 | さいだいきんりょく | 筋肉が発揮できる最大の力 |
| 筋持久力 | きんじきゅうりょく | 繰り返し力を発揮し続ける能力 |
| 漸進性過負荷 | ぜんしんせいかふか | 徐々に負荷を高めていく原則 |


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