握力テストというと「手の力を測るテスト」と思われがちですが、実際はそれだけではありません。
研究によって、握力は全身の筋力と非常に強い相関関係があることがわかっています。つまり握力が強い人は全身の筋力も高い傾向があり、握力が弱い人は全身の筋力も低い傾向があります。
わかりやすく例えると、握力は**「全身の筋力の通知表」**のようなものです。手を握るという簡単な動作で、全身の筋力水準を推定できます。
また握力は健康状態とも深く関連しており、握力が低い人は心臓病や死亡リスクが高いことも研究で示されています。
握力テスト=「手を握るだけで全身の筋力水準がわかる簡易評価ツール」
結論から言うと 握力テストは手を握る力を測定しますが、実際には全身の等尺性筋力の指標として機能します。握力と全身の筋肉量・脚部筋力・身体機能には高い相関関係があり、サルコペニアの評価・健康指標のスクリーニングとしても広く使用されています。
語源
| 語 | 由来 |
|---|---|
| Grip(グリップ) | 古英語 grippan(しっかりつかむ) |
| Strength(ストレングス) | 古英語 strengþu(力・強さ) |
| Dynamometer(ダイナモメーター) | ギリシャ語 dynamis(力)+ metron(測定) |
「力を測定する器具で手の把持力を評価する」そのままの命名です。
解説
等尺性収縮(Isometric Contraction)の原理
握力テストは等尺性収縮による筋力評価です。
等尺性収縮とは:
関節角度を変えずに筋肉が力を発揮する収縮様式
握力テスト中:
手関節・指関節の角度は変化しない
前腕・手部の筋肉が等尺性収縮で力を発揮
→ 発揮された力をダイナモメーターが測定
3種類の筋収縮様式との比較
| 収縮様式 | 特徴 | 代表的な評価・動作 |
|---|---|---|
| 等尺性(Isometric) | 関節角度変化なし・筋長変化なし | 握力テスト・壁押し |
| 等張性(Isotonic) | 一定負荷・関節が動く | フリーウェイト・自重運動 |
| 等速性(Isokinetic) | 一定速度・専用機器が必要 | 等速性筋力測定装置 |
握力と全身筋力の相関
握力が全身筋力の指標とされる根拠は以下の研究から支持されています。
| 相関する指標 | 相関の強さ | 内容 |
|---|---|---|
| 全身の筋肉量 | 強い | 骨格筋量とDXAで測定した筋肉量との高い相関 |
| 脚部筋力 | 中〜強 | 大腿四頭筋力・膝伸展力との相関 |
| 歩行速度 | 中 | 身体機能・移動能力との関連 |
| バランス能力 | 中 | 転倒リスクとの逆相関 |
| 心血管疾患リスク | 強い逆相関 | 握力低下→リスク増大 |
| 全死亡率 | 強い逆相関 | 握力低下→死亡リスク増大 |
テストの実施手順
① 事前準備
└── ハンドグリップダイナモメーターを用意
└── グリップ幅をクライアントの手のサイズに合わせて調整
② 測定姿勢
└── 立位または座位
└── 肘関節:軽度屈曲(約90°)または伸展位
└── 腕を体側に自然に下げた状態
└── グリップダイナモメーターを利き手で保持
③ 測定方法
└── 「始め」の合図で最大限の力で握る
└── 約3〜5秒間最大努力を維持
└── 腕を振らない・体に押しつけない
└── 利き手・非利き手の両方を測定
④ 記録
└── 各手2〜3回測定
└── 測定間に30秒〜1分の休憩
└── 各手の最大値を記録(kgまたはN)
⑤ 結果の解釈
└── 年齢・性別別の基準値と照合
└── 経時的変化の追跡
評価基準(年齢・性別別)
男性(単位:kg)
| 年齢 | 優れている | 良い | 普通 | 低い | 非常に低い |
|---|---|---|---|---|---|
| 20〜29歳 | 56以上 | 47〜55 | 39〜46 | 31〜38 | 30以下 |
| 30〜39歳 | 56以上 | 47〜55 | 39〜46 | 31〜38 | 30以下 |
| 40〜49歳 | 54以上 | 45〜53 | 37〜44 | 30〜36 | 29以下 |
| 50〜59歳 | 51以上 | 43〜50 | 35〜42 | 28〜34 | 27以下 |
| 60〜69歳 | 45以上 | 37〜44 | 30〜36 | 23〜29 | 22以下 |
女性(単位:kg)
| 年齢 | 優れている | 良い | 普通 | 低い | 非常に低い |
|---|---|---|---|---|---|
| 20〜29歳 | 36以上 | 30〜35 | 24〜29 | 18〜23 | 17以下 |
| 30〜39歳 | 36以上 | 30〜35 | 24〜29 | 18〜23 | 17以下 |
| 40〜49歳 | 34以上 | 28〜33 | 22〜27 | 17〜21 | 16以下 |
| 50〜59歳 | 31以上 | 25〜30 | 20〜24 | 15〜19 | 14以下 |
| 60〜69歳 | 27以上 | 21〜26 | 16〜20 | 12〜15 | 11以下 |
サルコペニアの診断基準における握力
国際的なサルコペニアの診断基準(AWGS 2019など)では握力が重要な評価項目として位置づけられています。
| 基準 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| サルコペニア疑い(低握力) | 28kg未満 | 18kg未満 |
握力がこの基準を下回る場合、筋肉量・身体機能の追加評価が推奨されます。
豆知識
「握力が強いとデッドリフトが強い」は本当か
握力と全身筋力の相関は非常に強いです。特にデッドリフト・バーベルロウ・チンアップなどのプル系種目では握力がボトルネックになることがあります。つまり握力が全身の筋力発揮を制限するケースは実際にあります。逆に言えば、握力を鍛えることがこれらの種目のパフォーマンス向上につながります。
加齢と握力低下の関係
握力は20〜30代にピークを迎え、その後は徐々に低下します。特に60代以降の低下が顕著です。握力の低下速度はサルコペニアの進行速度と相関しており、定期的な握力測定が加齢による筋力低下のモニタリングに有用です。
筋トレによって握力低下を遅らせることができ、特に複合種目(デッドリフト・スクワット・ベンチプレス)が全身の筋力維持に有効です。
利き手と非利き手の差
一般的に利き手の握力は非利き手より約10%高いとされています。ただしスポーツ種目によって差が大きくなることがあります。テニス・野球などのラケット・バット種目では差が大きく、水泳などの左右対称種目では差が小さい傾向があります。
関連論文
Leong et al. (2015) 17か国・14万人以上を対象にした大規模研究。握力が低い人は心血管疾患・全死亡リスクが有意に高いことを示した。握力が5kg低下するごとに全死亡リスクが16%増加することを報告。
Chen et al. (2021) アジア人を対象としたサルコペニア診断基準(AWGS 2019)を策定。握力のカットオフ値(男性28kg未満・女性18kg未満)を設定し、筋肉量・身体機能との統合評価を提示。
NSCA Essentials of Personal Training 握力テストを等尺性筋力評価の代表的なツールとして位置づけ。全身筋力との相関・実施プロトコル・評価基準を体系化。
よくある質問
- Q握力テストはどのくらいの頻度で実施すべきですか?
- A
トレーニングプログラムの評価として4〜8週間に1回が推奨されます。高齢者のサルコペニアモニタリングとしては年1〜2回の定期測定が有用です。毎回同じ条件(時間帯・姿勢・グリップ幅)で実施することが比較精度向上につながります。
- Q握力テストの前に準備することはありますか?
- A
テスト前に手や前腕の激しい運動を避けることが推奨されます。また前日の過度なグリップ系トレーニングも避けます。グリップ幅は毎回同じ設定に固定し、測定前に簡単なウォームアップを行うことで再現性が向上します。
- Q握力が低い場合、どのようなエクササイズが有効ですか?
- A
直接的にはファーマーズウォーク・デッドハング・バーベルロウ・デッドリフトなどのグリップを使う複合種目が有効です。間接的には全身の筋力トレーニングが握力向上につながります。ハンドグリッパーを使った直接的な握力トレーニングも補助的に有効です。
- Q利き手と非利き手どちらを評価の基準にすべきですか?
- A
通常は利き手の最大値を主な評価指標として使用します。ただし左右差(利き手÷非利き手)も評価することで、筋力の左右不均衡を把握できます。10%以上の差がある場合は注目に値します。
- Q握力テストはどんな人に特に有用ですか?
- A
高齢者(サルコペニアのスクリーニング)・リハビリ患者(回復のモニタリング)・一般クライアントの筋力水準の簡易把握に特に有用です。また体重計に乗るだけでは分からない「筋力の質」を評価できる点で、体組成評価の補完ツールとしても機能します。
理解度チェック
問題1 握力テストで主に評価される体力要素はどれか?
A) 上半身の筋持久力
B) 下半身の最大筋力
C) 心肺機能
D) 全身の等尺性筋力の指標
→ 正解:D
解説: 握力テストは等尺性収縮(関節角度を変えずに力を発揮)による筋力評価で、全身の筋力と高い相関関係があります。手だけの評価ではなく全身の筋力水準の簡易指標として機能します。
問題2 等尺性収縮(Isometric Contraction)の説明として正しいものはどれか?
A) 関節が動きながら筋肉が収縮する
B) 関節角度を変えずに筋肉が力を発揮する
C) 一定の速度で関節が動く
D) 筋肉が伸びながら力を発揮する
→ 正解:B
解説: 等尺性収縮は関節角度(筋長)を変えずに筋肉が力を発揮する収縮様式です。握力テスト中、手関節・指関節の角度は変化せず、前腕・手部の筋肉が等尺性収縮で力を発揮します。
問題3 握力とサルコペニア診断基準(AWGS 2019)における低握力のカットオフ値として正しいものはどれか?
A) 男性32kg未満・女性22kg未満
B) 男性28kg未満・女性18kg未満
C) 男性24kg未満・女性14kg未満
D) 男性20kg未満・女性10kg未満
→ 正解:B
解説: AWGS 2019ではサルコペニアの低握力基準として男性28kg未満・女性18kg未満が設定されています。この基準を下回る場合は筋肉量・身体機能の追加評価が推奨されます。
問題4 握力測定時の姿勢として正しいものはどれか?
A) 腕を高く上げた状態で測定する
B) 立位または座位で腕を体側に自然に下げた状態
C) 肘を完全に伸展させた状態で前方に突き出す
D) 測定器を体に押しつけながら握る
→ 正解:B
解説: 握力測定は立位または座位で腕を体側に自然に下げた状態で行います。腕を振る・体に押しつける動作は測定値に影響するため避けます。肘関節は軽度屈曲(約90°)または伸展位が標準的です。
問題5 利き手と非利き手の握力差の一般的な目安として正しいものはどれか?
A) 利き手が約5%高い
B) 利き手が約10%高い
C) 利き手が約25%高い
D) 利き手と非利き手に差はない
→ 正解:B
解説: 一般的に利き手の握力は非利き手より約10%高いとされています。この差がスポーツ種目によって拡大することがあります。10%以上の左右差がある場合は筋力の左右不均衡として注目に値します。
問題6 握力テストが全身筋力の指標として有効な主な理由はどれか?
A) 前腕の筋肉量が全身の筋肉量の大部分を占めるから
B) 握力と全身の骨格筋量・脚部筋力・身体機能に高い相関があるから
C) 握力を測定すると同時に全身の筋持久力も評価できるから
D) 握力測定中に全身の筋肉が収縮するから
→ 正解:B
解説: 握力と全身の骨格筋量・脚部筋力・歩行速度・バランス能力・心血管リスクとの高い相関が研究で示されています。前腕の筋肉量は全身の筋肉量のごく一部ですが、神経筋システムの全体的な機能水準を反映するため全身の指標となります。
覚え方
「握力=手の力ではなく全身筋力の通知表」 等尺性収縮(関節が動かない)の代表例=握力テスト
3種類の収縮様式の覚え方 「等尺性=動かない(Iso-static)・等張性=荷重一定(Iso-tonic)・等速性=速度一定(Iso-kinetic)」
サルコペニア基準の覚え方 「男28・女18(男性は2・8、女性は1・8)」
利き手差の覚え方 「利き手は10%お得」
まとめ
- 握力テストは等尺性収縮による筋力評価で、全身の骨格筋量・脚部筋力・身体機能・心血管リスクと高い相関があるため全身筋力の簡易指標として機能する
- サルコペニアの診断基準(AWGS 2019)では男性28kg未満・女性18kg未満が低握力のカットオフ値として設定されており、高齢者の健康スクリーニングに有用
- 測定は利き手・非利き手の両方を2〜3回ずつ実施し最大値を記録。利き手は非利き手より約10%高いことが正常で、10%以上の左右差は筋力不均衡の指標となる
必須用語リスト
| 用語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 握力 | あくりょく | 手で物を握る力。全身筋力の簡易指標として機能する |
| ハンドグリップダイナモメーター | はんどぐりっぷだいなもめーたー | 握力測定に使用する専用の圧力測定器具 |
| 等尺性収縮 | とうしゃくせいしゅうしゅく | 関節角度を変えずに筋肉が力を発揮する収縮様式 |
| 等張性収縮 | とうちょうせいしゅうしゅく | 一定の負荷のもとで関節が動く収縮様式 |
| 等速性収縮 | とうそくせいしゅうしゅく | 一定の速度で関節が動く収縮様式。専用機器が必要 |
| サルコペニア | さるこぺにあ | 加齢による筋肉量・筋力・身体機能の低下 |
| AWGS | えーだぶりゅーじーえす | Asian Working Group for Sarcopenia。アジア人向けサルコペニア診断基準 |
| 全身筋力 | ぜんしんきんりょく | 全身の骨格筋が発揮できる力の総合的な水準 |
| 骨格筋量 | こっかくきんりょう | 全身の骨格筋の重量。DXAや生体電気インピーダンス法で測定 |
| 利き手 | ききて | 日常的により多く使用する手。握力は通常利き手が約10%高い |
| 筋持久力 | きんじきゅうりょく | 筋肉が疲労に抵抗しながら繰り返し収縮を維持する能力 |
| 最大筋力 | さいだいきんりょく | 筋肉が一回の収縮で発揮できる最大の力 |
| 死亡リスク | しぼうりすく | 特定の期間内に死亡する確率。握力低下と逆相関する |
| 心血管疾患リスク | しんけっかんしっかんりすく | 心臓・血管に関わる疾患の発症確率。握力低下と関連 |
| グリップ幅 | ぐりっぷはば | 握力計のハンドル間隔。手のサイズに合わせて調整する |


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