「1RMってなに?」という疑問に一言で答えるなら、「1回だけ持ち上げられる最大の重さ」です。
たとえばベンチプレスで、全力を出して1回だけ上げられる重量が100kgなら、あなたのベンチプレス1RMは100kgです。
この数字は筋トレの「通知表」のようなもので、今の自分の筋力レベルを数字で把握できます。またトレーニングの重量設定にも使われる、非常に重要な指標です。
語源
| 語 | 意味 |
|---|---|
| One | 1回 |
| Repetition(ラテン語 repetere) | 繰り返す・反復 |
| Maximum(ラテン語 maximus) | 最大の |
| 1RM | 1回だけ完全に挙上できる最大重量 |
解説
1RMとは、正しいフォームを維持したまま1回だけ完全に挙上できる最大重量のことです。筋力評価の gold standard(基準)として広く使用され、トレーニング処方における負荷設定の基準値となります。
1RMの2つの測定方法
方法①:実測法(Direct Testing)
実際に重量を上げて測定する方法です。
手順:
① 十分なウォームアップ(10分以上)
② 軽い重量で5〜10回 × 2〜3セット
③ 予想1RMの60〜70%で3〜5回
④ 予想1RMの80〜90%で1〜2回
⑤ 予想1RMに近い重量で1回試技
⑥ 成功→重量を上げて再挑戦
失敗→重量を下げて再挑戦
⑦ セット間休憩は3〜5分
⑧ 試技回数は理想的に3〜5回以内
メリット: 最も正確 デメリット: 怪我のリスク・疲労が大きい・初心者には不向き
方法②:推定法(Indirect Testing / Prediction Equations)
複数回挙上できる重量(複数RM)から1RMを推定する方法です。初心者・怪我リスクの高い種目・高齢者に特に有用です。
主要な1RM推定式
🔵 Epley式(1985)— 最も広く使用
1RM = 重量 × (1 + 回数 ÷ 30)
例:80kg × 10回の場合 1RM = 80 × (1 + 10÷30) = 80 × 1.333 = 約107kg
Brzycki式(1993)— 10回以下で精度が高い
1RM = 重量 ÷ (1.0278 − 0.0278 × 回数)
例:80kg × 10回の場合 1RM = 80 ÷ (1.0278 − 0.0278×10) = 80 ÷ 0.75 = 約107kg
Lander式(1985)
1RM = 重量 ÷ (1.013 − 0.0267123 × 回数)
推定式の精度比較
| 回数 | 推奨式 | 精度 |
|---|---|---|
| 1〜10回 | Brzycki式 | 高い |
| 1〜20回 | Epley式 | 中程度 |
| 10回超 | 誤差が大きくなる | 低い |
重要:推定式は10回以下の挙上回数で使うのが原則。回数が増えるほど誤差が拡大します。
%1RMとトレーニング強度の関係
1RMを基準にトレーニング強度を設定します。これが**%1RM**です。
| %1RM | 挙上可能回数(目安) | 主な効果 | 代表的なトレーニング |
|---|---|---|---|
| 100% | 1回 | 最大筋力 | 1RMテスト |
| 90〜95% | 2〜3回 | 最大筋力 | パワーリフティング |
| 85〜90% | 4〜6回 | 筋力・筋肥大 | ストレングス系 |
| 75〜85% | 6〜12回 | 筋肥大 | ボディビル系 |
| 65〜75% | 12〜15回 | 筋肥大・筋持久力 | 高回数トレーニング |
| 50〜65% | 15〜20回 | 筋持久力 | サーキット系 |
| 50%以下 | 20回以上 | 筋持久力・リハビリ | リハビリ・初心者 |
※ NSCA推奨値を参照。個人差があります。
NSCAによる強度分類
NSCAは1RMに基づいて以下のように強度を分類しています。
| 分類 | %1RM | 目的 |
|---|---|---|
| 高強度 | >85% | 最大筋力向上 |
| 中強度 | 67〜85% | 筋肥大・筋力 |
| 低強度 | <67% | 筋持久力 |
1RMに影響する要因
① 筋肉側の要因
- 筋断面積(筋肥大の程度)
- 筋線維タイプの割合(速筋比率が高いほど有利)
- 筋線維の動員率
② 神経系の要因
- 運動単位の動員数・同期性
- 発火頻度(Rate Coding)
- 筋間協調性(主働筋・拮抗筋・協働筋の連携)
③ 構造的要因
- 骨格・レバーアーム(腕の長さ・体幹の長さ)
- 腱の剛性
- 関節可動域
④ その他
- 睡眠・栄養状態
- 疲労・コンディション
- 心理的状態(気合・集中)
1RMとRIR(Reps in Reserve)の関係
近年のトレーニング処方では、%1RMだけでなく**RIR(あと何回できるか)**との組み合わせが注目されています。
| %1RM(目安) | RIR | 状態 |
|---|---|---|
| 100% | 0 | 限界(1RMそのもの) |
| 95% | 1 | あと1回できる |
| 90% | 2〜3 | あと2〜3回できる |
| 85% | 4〜5 | あと4〜5回できる |
| 80% | 6〜7 | あと6〜7回できる |
%1RMは日によって変動するため、RIRを使った自己調整が実用的とされています(Zourdos et al., 2016)。
豆知識
「10回3セット」の科学的根拠
「75〜85% 1RM × 6〜12回」がボディビルの黄金律とされていますが、Schoenfeld et al.(2017)のメタ分析では低負荷高回数でも高負荷低回数でも、疲労困憊まで行えば筋肥大効果に有意差はないことが示されています。
1RMの何%で行うかより、セット内でどれだけ追い込むかの方が筋肥大においては重要という視点が広まっています。
1RMは毎日変わる
同じ人でも1RMは睡眠不足・栄養不足・前日の疲労などで5〜10%程度変動することが知られています。「今日は調子が悪い」という感覚は科学的にも裏付けられており、これがRIRを用いた自動調整が有効な理由の一つです。
パワーリフティングの「試技戦略」
競技パワーリフティングでは3回の試技が与えられます。一般的な戦略は:
1試技目:確実に成功できる重量(予想1RMの92〜95%)
2試技目:自己ベスト更新狙い
3試技目:世界記録・大会記録への挑戦
1試技目を失敗すると心理的ダメージが大きく、その後の試技に悪影響が出るため、保守的な1試技目が定石とされています。
関連論文
① Schoenfeld et al. (2017) — 低負荷vs高負荷の筋肥大比較
Schoenfeld BJ, Grgic J, Ogborn D, Krieger JW. Strength and hypertrophy adaptations between low- vs. high-load resistance training. Journal of Strength and Conditioning Research, 31(12), 3508–3523.
低負荷(≤60% 1RM)と高負荷(≥65% 1RM)を比較したメタ分析。筋肥大効果に有意差なし。ただし筋力(1RM)の向上は高負荷群で優れていた。
② Zourdos et al. (2016) — RPEとRIRの妥当性検証
Zourdos MC, et al. Novel resistance training–specific RPE scale measuring repetitions in reserve. Journal of Strength and Conditioning Research, 30(1), 267–275.
RIRベースのRPEスケール(RPE 1〜10)の信頼性を検証。経験者では%1RMとRIRの相関が高く、トレーニング処方への実用性を示した。
③ Brzycki M. (1993) — Brzycki推定式の原著
Brzycki M. Strength testing: Predicting a one-rep max from reps to fatigue. Journal of Physical Education, Recreation & Dance, 64(1), 88–90.
1RM推定式の中で最も引用される式の一つ。10回以下の挙上で特に精度が高いとされる。
④ LeSuer et al. (1997) — 推定式の精度比較
LeSuer DA, et al. The accuracy of prediction equations for estimating 1-RM performance in the bench press, squat, and deadlift. Journal of Strength and Conditioning Research, 11(4), 211–213.
Epley・Brzycki・Lander等7つの推定式をベンチプレス・スクワット・デッドリフトで比較。いずれの式も10回以下で精度が高く、回数増加とともに誤差が拡大することを示した。
よくある質問
- Q1RMを直接測定するのは危険ですか?
- A
適切なウォームアップ・補助者(スポッター)・正しいフォームがあれば、経験者にとってリスクは許容範囲内です。ただし初心者・怪我明け・高齢者には推定式を使った間接測定が推奨されます。
- Q推定式で出た1RMはどれくらい正確ですか?
- A
10回以下の挙上回数で使用した場合、実測値との誤差は概ね5%以内とされています。ただし個人差・種目・疲労状態によって誤差が生じるため、あくまで目安として使うのが適切です。
- Q1RMは何の種目で測ればよいですか?
- A
NSCAではスクワット・ベンチプレス・デッドリフト・パワークリーンなどの多関節種目での測定が一般的です。単関節種目(カール等)では関節への負担が大きいため、推定法が推奨されることが多いです。
- Q1RMは週に何回測定すべきですか?
- A
1RMテスト自体が高い神経・筋への負担を与えるため、頻繁な測定は不要です。一般的にはトレーニングサイクルの節目(4〜12週ごと)に測定し、プログラム調整の基準として使うのが実用的です。
- Q%1RMと挙上回数の関係は人によって違いますか?
- A
はい、大きく異なります。速筋線維の割合が高い人は低回数・高重量が得意で、遅筋優位の人は同じ%1RMでも多く挙げられる傾向があります。このため個人のRM曲線を把握することが重要です。
- Q1RMが上がれば筋肉も大きくなっていますか?
- A
必ずしもそうではありません。1RMの向上は神経適応(動員効率・発火頻度の改善)によっても起こります。特にトレーニング初期は筋肥大より神経適応が主因です。筋肥大を確認するには周囲径や体組成測定が必要です。
- Q女性と男性で1RMの測定方法は違いますか?
- A
測定方法自体は同じです。ただし女性は一般的に速筋線維の割合がやや低く、同じ%1RMでもより多くの回数を挙げられる傾向があるため、推定式の誤差がやや大きくなる場合があります。
- Qウォームアップはなぜ重要ですか?
- A
筋温の上昇・神経系の賦活・関節可動域の確保のためです。不十分なウォームアップでは本来の1RMを発揮できないだけでなく、怪我のリスクも高まります。1RMテスト前は最低10〜15分のウォームアップが推奨されます。
理解度チェック
問題1 1RMの正しい定義はどれか。
A. 10回連続で挙上できる最大重量
B. 正しいフォームで1回だけ完全に挙上できる最大重量
C. 疲労困憊まで挙上したときの平均重量
D. 体重に対する挙上重量の比率
正解:B 1RM=正しいフォームで1回のみ完全挙上できる最大重量。筋力評価のgold standard。
問題2 Epley式(1RM = 重量 × (1 + 回数÷30))を用いて、60kg × 8回から1RMを推定すると何kgか。
A. 68kg
B. 76kg
C. 80kg
D. 84kg
正解:B 60 × (1 + 8÷30) = 60 × 1.267 = 約76kg
問題3 1RM推定式の使用において精度が最も高い挙上回数の範囲はどれか。
A. 1〜5回
B. 1〜10回
C. 10〜15回
D. 15〜20回
正解:B 推定式は10回以下で精度が高い。回数増加とともに誤差が拡大する(LeSuer et al., 1997)。
問題4 筋肥大を主目的としたトレーニングにおける%1RMの一般的な推奨範囲はどれか。
A. 40〜60%
B. 55〜65%
C. 67〜85%
D. 90〜100%
正解:C NSCA推奨の筋肥大ゾーンは67〜85% 1RM(約6〜12回に相当)。
問題5 1RMの向上に最も直接的に関与する神経系の適応として正しいものはどれか。
A. ミトコンドリアの増加
B. 毛細血管密度の向上
C. 運動単位の動員数増加と発火頻度の向上
D. グリコーゲン貯蔵量の増加
正解:C 1RM向上の神経的基盤は運動単位の動員(Recruitment)と発火頻度(Rate Coding)の改善。
問題6 RIR(Reps in Reserve)について正しい説明はどれか。
A. 1セットで挙上した総回数のこと
B. あと何回挙げられるかの余力を示す指標
C. 最大心拍数に対する運動強度の割合
D. セット間の休憩時間の推奨値
正解:B RIR=残りの反復余力。RIR 0が限界、RIR 3は「あと3回できる」状態を意味する。
問題7 同じ%1RMでも挙上回数に個人差が生じる主な要因はどれか。
A. 身長と体重の差
B. 筋線維タイプの割合(速筋・遅筋比率)の違い
C. トレーニング頻度の差
D. 栄養摂取量の違い
正解:B 速筋優位者は低回数・高重量に有利。遅筋優位者は同じ%1RMでも多く反復できる傾向がある。
覚え方
1RMと%1RMの対応を覚える
100% → 1回(1RM本番)
90% → 3回(3つの試技)
85% → 5回(5×5プログラム)
80% → 8回
75% → 10回
70% → 12回
「重くなるほど回数が減る」← 当たり前だが体系的に覚える
Epley式の覚え方
1RM = 重量 × (1 + 回数 ÷ 30)
「重量に、30分の回数を足した倍率をかける」
30 という数字は「さんじゅう=散々(ひどい)疲労の限界」で覚える
3種類の測定判断
経験者・競技者 → 実測法(直接測定)
初心者・リハビリ → 推定法(間接測定)
日々の調整 → RIRで管理
まとめ
- 1RMは正しいフォームで1回だけ挙上できる最大重量で、筋力評価と%1RMによる強度設定の基準となる
- 直接測定が困難な場合はEpley式・Brzycki式などの推定式を使用するが、精度を保つには10回以下の挙上回数で計算するのが原則
- %1RMと挙上回数の関係には個人差があり、近年はRIR(残り反復余力)を組み合わせた柔軟な強度管理が実用的とされている
必須用語リスト
| # | 用語 | 読み方 | 簡単な説明 |
|---|---|---|---|
| 1 | 1RM(One Repetition Maximum) | ワンアールエム | 正しいフォームで1回だけ完全に挙上できる最大重量。筋力評価の基準値 |
| 2 | %1RM | パーセントワンアールエム | 1RMに対する使用重量の割合。トレーニング強度の設定に使う |
| 3 | 実測法 | じっそくほう | 実際に重量を上げて1RMを直接測定する方法。最も正確だが負担が大きい |
| 4 | 推定法 | すいていほう | 複数回挙上できる重量と回数から1RMを計算で求める間接測定法 |
| 5 | Epley式 | エプリーしき | 1RM=重量×(1+回数÷30)で推定する式。最も広く使われる |
| 6 | Brzycki式 | ブジルキーしき | 1RM=重量÷(1.0278−0.0278×回数)で推定する式。10回以下で精度が高い |
| 7 | 神経適応 | しんけいてきおう | トレーニング初期の筋力向上の主因。動員効率・発火頻度・同期性の改善によるもの |
| 8 | 動員(Recruitment) | どういん | 活動する運動単位の数を増やすことで筋力を高めるメカニズム |
| 9 | 発火頻度(Rate Coding) | はっかひんど | 運動単位が1秒間に発火する回数(Hz)。高いほど大きな力が生まれる |
| 10 | RIR(Reps in Reserve) | アールアイアール | あと何回挙げられるかの残り余力。RIR 0が限界、RIR 3はあと3回できる状態 |
| 11 | RPE(Rate of Perceived Exertion) | アールピーイー | 主観的運動強度。RIRと組み合わせて強度管理に使われる(RPE 10=限界) |
| 12 | 筋断面積 | きんだんめんせき | 筋肉の横断面の大きさ。大きいほど発揮できる最大筋力が高い |
| 13 | レバーアーム | レバーアーム | 関節から力の作用点までの距離。骨格の長さで1RMに影響する構造的要因 |
| 14 | 腱の剛性 | けんのごうせい | 腱の硬さ・伸びにくさ。剛性が高いほど力を効率よく骨に伝えられる |
| 15 | ウォームアップ | ウォームアップ | 運動前の準備活動。筋温上昇・神経系賦活・関節可動域確保のために不可欠 |
| 16 | スポッター | スポッター | 1RMテストや高強度トレーニング時に安全を確保する補助者 |
| 17 | 漸増負荷 | ぜんぞうふか | 重量を段階的に増やしながら1RMテストに近づけていく手順 |
| 18 | 筋線維タイプ | きんせんいタイプ | 速筋(タイプⅡ)と遅筋(タイプⅠ)の割合。同じ%1RMでも挙上回数の個人差を生む主因 |
| 19 | 多関節種目 | たかんせつしゅもく | スクワット・ベンチプレス・デッドリフトなど複数の関節を使う種目。1RM測定に推奨される |
| 20 | RM曲線 | アールエムきょくせん | %1RMと挙上可能回数の関係を示したグラフ。個人によって傾きが異なる |


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