車はガソリンを燃やして走りますよね。体も同じように「燃料」を燃やしてエネルギーを作ります。その燃料には2種類あります。糖質(グルコース)と脂質(脂肪)です。
呼吸交換比(RER)とは、「体が今どっちの燃料をどのくらい使っているか」を、吐いた息で調べる方法です。
吸った酸素の量と、吐き出した二酸化炭素の量を比べることで、燃料の種類がわかります。
- 脂肪をよく燃やしているとき → 吐くCO₂が少ない → RERが低い(約0.7)
- 糖質をよく燃やしているとき → 吐くCO₂が多い → RERが高い(約1.0)
語源
| 単語 | 語源 | 意味 |
|---|---|---|
| Respiratory | ラテン語 respirare(re=再び+spirare=息をする) | 呼吸の |
| Exchange | 古フランス語 eschangier | 交換 |
| Ratio | ラテン語 ratio(計算・割合) | 比率 |
| Quotient | ラテン語 quotiens(何回) | 商・比 |
RERとRQは厳密には異なります。RQ(呼吸商)は細胞レベルでの代謝を指す理論値、RERは実際に口元で測定された呼気ガスの比率です。運動生理学の現場ではRERが使われることが多いですが、安静時や定常状態ではほぼ一致します。
解説
呼吸交換比(RER)とは、単位時間あたりに排出される二酸化炭素量(VCO₂)を、消費される酸素量(VO₂)で割った値です。
RER = VCO₂ ÷ VO₂
基質別のRER値
燃料の種類によって、RERの理論値が異なります。これは各栄養素の化学式から導かれます。
| 燃料 | 化学反応の特徴 | RER値 |
|---|---|---|
| 脂質(脂肪酸) | 酸素をたくさん必要とし、CO₂産生が少ない | 約0.70 |
| タンパク質 | 中間的な値 | 約0.80 |
| 糖質(グルコース) | CO₂産生と酸素消費がほぼ同量 | 約1.00 |
| 混合(安静時) | 通常の食事・安静状態 | 約0.78〜0.85 |
グルコースの反応式で確認
C₆H₁₂O₆ + 6O₂ → 6CO₂ + 6H₂O
CO₂ ÷ O₂ = 6 ÷ 6 = 1.00
脂肪酸の反応式で確認(パルミチン酸の例)
C₁₆H₃₂O₂ + 23O₂ → 16CO₂ + 16H₂O
CO₂ ÷ O₂ = 16 ÷ 23 = 約0.70
運動強度とRERの変化
| 運動強度 | RERの目安 | 主な燃料 |
|---|---|---|
| 安静時 | 0.78〜0.85 | 脂質+糖質(混合) |
| 低強度(40%VO₂max以下) | 0.80〜0.87 | 脂質優位 |
| 中強度(約65%VO₂max) | 0.87〜0.95 | 脂質+糖質(均等) |
| 高強度(85%VO₂max以上) | 0.95〜1.00 | 糖質優位 |
| 最大強度(力尽きる直前) | 1.00以上(1.1〜1.2) | ほぼ糖質+過換気の影響 |
RER > 1.0 になる理由
最大強度の運動では RER が1.0を超えることがあります。これは代謝上ありえない値に見えますが、実際には以下の理由によります。
- 高強度運動で乳酸が蓄積し、H⁺(水素イオン)が増加する
- H⁺を緩衝するために重炭酸イオン(HCO₃⁻)が消費され、余分なCO₂が発生する
- この「代謝性CO₂」が呼気に混じり、見かけ上のVCO₂が増大する
- 結果として RER > 1.0 となる
これはあくまで測定上の現象であり、実際に酸素より多くのCO₂を「代謝」しているわけではありません。
豆知識
「脂肪燃焼ゾーン」の正体
「低強度運動のほうが脂肪が燃える」という話を聞いたことはありますか?これはRERの観点から見ると半分正しく、半分は誤解です。
- 低強度(RER≒0.80)では、エネルギーの約60〜70%を脂質から得ている
- しかし運動強度が低いと、消費カロリー総量も少ない
- 高強度(RER≒1.00)では糖質優位だが、消費カロリー総量が大きく、絶対量での脂質消費が多い場合もある
結論:「脂肪燃焼の割合」は低強度が高いが、「脂肪燃焼の絶対量」は必ずしも低強度が有利ではありません。
食後にRERはどう変わる?
食事の内容によってもRERは変動します。
- 高糖質食の直後 → RERが上昇(0.90〜1.00に近づく)
- 絶食・脂質食 → RERが低下(0.70〜0.75に近づく)
- ケトジェニックダイエット実施者 → 安静時RERが0.70前後まで低下することがある
RERとNSCA試験
NSCA-CPT・CSCSの試験では、RER値の暗記が求められることがあります。特に「RER 0.70 = 脂質」「RER 1.00 = 糖質」は頻出です。
関連論文
| 著者・年 | 内容 | 主な結論 |
|---|---|---|
| Brooks & Mercier (1994) | 運動強度と基質利用のクロスオーバー概念を提唱 | 運動強度が上がるにつれ、脂質から糖質へ基質利用がシフトする「クロスオーバーポイント」を提唱。 |
| Romijn et al. (1993) | 異なる運動強度での基質利用をトレーサーで測定 | 中強度(65%VO₂max)で脂質利用が最大になることを示した。 |
| Achten & Jeukendrup (2004) | 最大脂肪酸化率(MFO)と運動強度の関係を検討 | 脂肪酸化が最大になる強度(FatMax)は個人差が大きく、一般人では約50〜65%VO₂maxであることを報告。 |
| Frayn (1983) | RQとRERの理論的・実測的な関係を整理 | 安静時はRQとRERはほぼ一致するが、高強度運動時は重炭酸緩衝によりRERがRQを上回ることを明示。 |
よくある質問
- QRERとRQの違いは何ですか?
- A
RQ(呼吸商)は細胞・組織レベルでの理論的な代謝比率です。RER(呼吸交換比)は実際に口元で測定した呼気ガスの比率です。安静・定常状態ではほぼ一致しますが、高強度運動時は乳酸緩衝による余分なCO₂産生により、RERがRQより高くなります。
- QRER 0.85はどういう意味ですか?
- A
脂質と糖質を約50:50で利用しているおおよその目安です。ただし正確な割合はノンプロテインRQ(タンパク質の寄与を除いた値)から計算します。安静時の混合食後によく見られる値です。
- Q運動中にRERを測定するにはどうすればいいですか?
- A
代謝測定装置(代謝カート・呼気ガス分析装置)を使い、吸気と呼気のO₂・CO₂濃度と換気量を同時に測定します。VO₂maxテストの際に同時に取得されることが多いです。
- QRERが1.0を超えたら何を意味しますか?
- A
高強度運動で乳酸が蓄積し、重炭酸イオン(HCO₃⁻)による緩衝反応で余分なCO₂が発生している状態です。代謝上は不可能な値ですが、測定上は起こります。運動強度が非常に高い(ほぼ最大)サインとして使われることもあります。
- Qダイエット中はRERを低く保つべきですか?
- A
RERを低く保つ(=脂質を多く使う)ことが脂肪燃焼に有利に見えますが、消費カロリーの絶対量も重要です。低RERの低強度運動だけに頼るより、高強度運動も組み合わせて総消費カロリーを増やすほうが、体脂肪減少には有効なケースが多いです。
- Q糖質制限をするとRERはどう変わりますか?
- A
糖質制限やケトジェニックダイエットにより、体が脂質を主燃料として使うよう適応すると、安静時のRERが0.70〜0.75程度まで低下します。これは「脂質酸化が亢進している」状態を反映しています。
- Qタンパク質のRERはなぜ0.80なのですか?
- A
タンパク質はアミノ酸の種類によって組成が異なるため、一定の値を取りません。平均的なタンパク質混合を想定した場合の理論値がおよそ0.80とされています。また、タンパク質は尿素などの形で窒素を排泄するため、糖質・脂質に比べて計算が複雑です。
- QFatMaxとは何ですか?RERと関係がありますか?
- A
FatMax(ファットマックス)とは、脂肪酸化速度が最大になる運動強度のことです。一般的にはRERが約0.87〜0.89付近に相当する強度(約50〜65%VO₂max)とされています。Achten & Jeukendrup(2004)によると、FatMaxは個人差が大きく、有酸素トレーニングによって高強度側にシフトします。
理解度チェック
問題1:RER(呼吸交換比)の計算式として正しいものはどれか?
① VO₂ ÷ VCO₂
② VCO₂ ÷ VO₂
③ VCO₂ × VO₂
④ VO₂ − VCO₂
正解:② 解説:RER = VCO₂ ÷ VO₂ です。分子がCO₂産生量、分母が酸素消費量です。順番を間違えやすいので注意してください。
問題2:安静時に脂質のみを燃料として使用している場合のRER値はどれか?
① 1.00
② 0.85
③ 0.70
④ 0.60
正解:③ 解説:脂肪酸(パルミチン酸)の酸化では CO₂:O₂ = 16:23 ≒ 0.70 となります。脂質は酸素をたくさん必要とするため、RERが最も低くなります。
問題3:高強度運動時にRERが1.0を超える主な理由はどれか?
① 筋グリコーゲンが完全燃焼するから
② 乳酸の蓄積により重炭酸緩衝で余分なCO₂が産生されるから
③ タンパク質が大量に分解されるから
④ 酸素の吸収効率が低下するから
正解:② 解説:高強度運動では乳酸+H⁺が蓄積し、HCO₃⁻(重炭酸イオン)が緩衝材として働く際にCO₂が余分に発生します。この代謝性CO₂が呼気に混じり、RERが見かけ上1.0を超えます。
問題4:脂肪酸化が最大になる運動強度(FatMax)はおおよそどのくらいか?
① 20〜30%VO₂max
② 50〜65%VO₂max
③ 80〜90%VO₂max
④ 100%VO₂max(最大強度)
正解:② 解説:Achten & Jeukendrup(2004)によると、FatMaxは一般的に50〜65%VO₂max付近です。これより強度が上がると糖質優位にシフトし、RERも上昇します。
問題5:糖質(グルコース)のみを完全酸化した場合のRERはいくつか?
① 0.70
② 0.85
③ 1.00
④ 1.20
正解:③ 解説:C₆H₁₂O₆ + 6O₂ → 6CO₂ + 6H₂O より、CO₂ ÷ O₂ = 6 ÷ 6 = 1.00 です。
問題6:有酸素トレーニングを継続するとFatMaxはどのように変化するか?
① 変化しない
② より低い強度側にシフトする
③ より高い強度側にシフトする(同じRERでより高強度まで脂質を使える)
④ RER自体が1.0に固定される
正解:③ 解説:有酸素トレーニングにより、ミトコンドリア密度の増加・脂肪酸輸送能力の向上などが起き、より高い強度でも脂質を優先的に利用できるようになります。
問題7:RERとRQが一致しない状況として正しいものはどれか?
① 安静時(定常状態)
② 低強度の有酸素運動(定常状態)
③ 高強度運動で乳酸が蓄積しているとき
④ 空腹時の安静
正解:③ 解説:RQは代謝の理論値、RERは実測値です。高強度運動では重炭酸緩衝による余分なCO₂産生でRERがRQを上回るため、両者は一致しません。
覚え方
【語呂合わせ:RER = 燃料メーター】
RERの値と燃料の対応を「0.7・0.8・1.0」で覚える
0.7 → 「脂(あぶら)っこい」→ 脂質(Fat) 0.8 → 「半々(はんはん)」→ 混合(Mixed) 1.0 → 「糖(とう)ちゃん完全燃焼」→ 糖質(Carbohydrate)
【フロー図で記憶】
運動強度が上がる ↓ 糖質の利用割合が増える ↓ CO₂産生(VCO₂)が増える ↓ RER(VCO₂ ÷ VO₂)が上昇 ↓ 0.70(脂質のみ)→ 0.85(混合)→ 1.00(糖質のみ)→ 1.0超(過換気・乳酸緩衝)
【化学式で一発確認】
- 糖質:CO₂ ÷ O₂ = 6 ÷ 6 = 1.00
- 脂質:CO₂ ÷ O₂ = 16 ÷ 23 = 0.70
まとめ
- RERとは:VCO₂ ÷ VO₂ で求められる呼気ガスの比率。
- 体が何を燃料にしているかを示す指標。 基準値:脂質=0.70 / タンパク質=0.80 / 糖質=1.00。運動強度が上がるほどRERは上昇する。
- RER > 1.0:乳酸蓄積による重炭酸緩衝の影響で起こる測定上の現象。最大強度運動のサイン。
- FatMax:脂肪酸化が最大になる強度は約50〜65%VO₂max(RER≒0.87〜0.89付近)。有酸素トレーニングで高強度側にシフトする。
- 実践への活用:RERは燃料利用の「割合」を示すが、体脂肪減少には消費カロリーの「絶対量」も合わせて考える必要がある。
必須用語リスト
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| RER(呼吸交換比) | Respiratory Exchange Ratio。VCO₂÷VO₂で求められる実測値。 |
| RQ(呼吸商) | Respiratory Quotient。細胞レベルの理論的な代謝比率。安静時はRERとほぼ一致。 |
| VCO₂ | 単位時間あたりの二酸化炭素産生量(L/min)。 |
| VO₂ | 単位時間あたりの酸素消費量(L/min)。 |
| 基質(Substrate) | エネルギー産生に使われる燃料のこと。糖質・脂質・タンパク質の総称。 |
| FatMax | 脂肪酸化速度が最大になる運動強度。一般人では約50〜65%VO₂max。 |
| クロスオーバーポイント | 運動強度の上昇に伴い、主燃料が脂質から糖質へ切り替わる強度の境界点(Brooks & Mercier, 1994)。 |
| 重炭酸イオン(HCO₃⁻) | 乳酸・H⁺を緩衝する物質。緩衝時にCO₂を産生し、高強度時のRER上昇に寄与する。 |
| 脂肪酸酸化(β酸化) | 脂肪酸をミトコンドリア内でアセチルCoAに分解するプロセス。RER≒0.70の主反応。 |
| ノンプロテインRQ | タンパク質の寄与を除いて計算したRQ。より正確な糖質・脂質比率の推定に使われる。 |
| 解糖系 | 糖質を嫌気的に分解してATPを産生する経路。高強度運動時に主役となる。 |
| 乳酸閾値(LT) | 乳酸が急増し始める運動強度。RERでは約0.90〜0.95付近に相当することが多い。 |
| VO₂max | 最大酸素摂取量。RER≒1.00〜1.10以上になる強度で測定される。 |
| 代謝カート | 呼気ガスを分析する測定装置。VO₂・VCO₂・RERをリアルタイムで計算できる。 |
| パルミチン酸 | 代表的な飽和脂肪酸(C₁₆)。RQ=0.70の計算式の典型例として使われる。 |


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