学力(Academic Achievement)とは、学校などでの学習を通して身につけた知識・技能と、それを使って考え、自ら学び続ける力のことです。日本では学校教育法第30条第2項の3つの要素を「学力の3要素」と呼びます。
簡単な説明
料理でいえば、包丁の使い方やレシピを覚えているのは知識・技能です。冷蔵庫の残り物で献立を考えるのは考える力です。そして「今日は自分で作ってみよう」と台所に立つのが取り組む姿勢です。3つそろって、はじめて「料理ができる人」になりますね。
漢字テストで満点でも、作文でその漢字を使えなければ、力を使えているとはいえませんね。テストの点数は、学力の一部を映したものにすぎません。
似たことばの知能は「学ぶための頭の働き」、学力は「学んだ結果」です。学力は家庭や学校の環境にも左右されます。
由来
学力は特定の研究者の提唱ではなく、教育政策と研究の中で形づくられた概念です。
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1966年 | James S. Colemanらが米国でコールマン報告を公表。学力の差は学校の設備や予算より家庭背景と強く結びつくと示す |
| 2000年 | OECDが15歳を対象とするPISAを開始 |
| 2006年 | James J. Heckmanらが、非認知能力も認知能力と同様に就労などを左右すると報告 |
| 2007年 | 学校教育法改正(6月)で学力の3要素を規定。全国学力・学習状況調査も開始 |
| 2017年 | 学習指導要領の改訂で、育てる力を資質・能力の三つの柱に整理 |
具体的な説明
学力の3要素(学校教育法第30条第2項)
条文は「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と定めています。小学校の規定ですが、中学校(第49条)と高等学校(第62条)にも準用されます。
| 学力の3要素(法律) | 資質・能力の三つの柱(学習指導要領) |
|---|---|
| 基礎的な知識及び技能 | 知識及び技能 |
| 思考力、判断力、表現力その他の能力 | 思考力、判断力、表現力等 |
| 主体的に学習に取り組む態度 | 学びに向かう力、人間性等 |
文部科学省は、三つの柱は3要素と「大きく共通する」と説明しています。「態度」が入っている点に、学力をテストで測れる力に限らない考え方が表れています。
認知能力と非認知能力
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 認知能力 | テストで測りやすい力 | 記憶、推論、読解、計算 |
| 非認知能力 | テストで測りにくい性格特性・動機づけなど | 勤勉性(誠実性)、自己制御、粘り強さ |
経済学者のHeckmanは、幼児教育のペリー就学前プログラムでIQの差が10歳までに消えたのに学力テストやその後の成果に効果が残ったことから、効果は主に性格面のスキルを通じたものだと論じました(Heckman & Kautz, 2012)。同論文は、学力テストの得点には認知能力と性格特性の両方が反映されるとも指摘しています。OECDは同様の力を社会情動的スキルと呼びます。
ビッグファイブの誠実性と学業成績の相関も、知能とおおむね独立です(Poropat, 2009のメタ分析)。なお「非認知能力」は、定義が一つに定まらない総称です。
家庭の社会経済的地位(SES)と学力
試験でよく問われるのがSES(保護者の学歴・職業・収入などから測る家庭の豊かさの指標)です。
| White(1982)のメタ分析(約200研究) | 学力との相関 |
|---|---|
| SES(個人単位) | r=.22(弱い) |
| SES(学校などの集団単位) | .73(強い) |
| 家庭の雰囲気などの家庭特性(個人単位) | .55 |
Karl R. Whiteの結果から、集団の相関から個人について結論を出すと誤ること(生態学的誤謬)と、収入や学歴より家庭でどう過ごすかのほうが学力とよく関連することがわかります。
SESが低くても学力が高い子どももいます。文部科学省の専門家会議(2023年)で報告された研究では、SES下位25%で学力上位25%の児童生徒を「レジリエントな生徒」と定義して保護者の回答を比べ、絵本の読み聞かせと学歴期待で大きな差が見られました(読み聞かせは別記事「読み聞かせの心理学的効果と将来の学力への影響」)。
オーバーアチーバーとアンダーアチーバー
知能から予想される水準より学力が高い子をオーバーアチーバー、低い子をアンダーアチーバーと呼びます。代表的な判定方法に次の2つがあります(Castejón et al., 2016)。
| 方法 | しくみ | 注意点 |
|---|---|---|
| 単純差法 | 標準化した学力得点と能力(知能)得点の差を見る。差が一定(多くは1標準偏差)を超えたら判定 | 能力が平均より高い子で、アンダーアチーバーを多く見積もりやすい |
| 回帰法 | 知能から予測される学力と実際の学力の差(残差)で判定 | よく使われる方法だが、判定される割合がほぼ一定になる |
学力をどう測るか
| 比較項目 | 全国学力・学習状況調査 | PISA(OECD) |
|---|---|---|
| 開始 | 2007年度 | 2000年 |
| 対象 | 小学6年・中学3年(2026年度は悉皆調査) | 15歳(日本は高校1年生など)の抽出 |
| 内容 | 国語、算数・数学、中学校の英語(2026年度)と質問調査 | 科学・読解力・数学的リテラシーと質問調査(2025年以降は4年ごと) |
2026年9月公表のPISA2025(91か国・地域)で、日本は3分野すべてでOECD加盟国中1位でした。一方、読解力の平均得点は有意に低下し(503点、-13点)、3分野すべてで低得点層の割合が有意に上昇しました(2022年比)。得点は数値の差だけでなく有意差で読みます。PISAの基本は別記事「学習到達度調査(PISA)」をご覧ください。
実験や観察の方法と結論
Angela L. DuckworthとMartin E. P. Seligman(2005)は、8年生(中2相当)140人の自己規律(self-discipline)を秋に本人・保護者・教師の評定などで測り、翌春の成績を追跡しました。164人の追試ではIQも測り、自己規律は成績などの分散をIQの2倍以上説明しました。
ただし過大評価は禁物です。マシュマロ・テストの概念的追試(Watts et al., 2018。母親が大卒でない子が中心)では、4歳時に待てた時間と15歳時の学力の相関は元の研究の約半分で、家庭背景などを統制すると約3分の2小さくなりました。
例文
- 「彼は知能検査から予想されるより成績が高く、オーバーアチーバーといえます。」
- 「学校単位だとSESと学力の相関は強く見えますが、個人単位ではずっと弱くなります。」
疑問
Q: 学力と知能は同じものですか?
A: 違います。知能は学習を支える一般的な能力、学力は学習の結果です。関連はしますが、知能だけでは決まりません。そのずれに注目したのがオーバー/アンダーアチーバーです。
Q: 家庭のSESが低いと、学力は必ず低くなりますか?
A: いいえ。関連は平均的な傾向で、個人単位の相関は大きくありません。SESが低くても学力の高い「レジリエントな生徒」もいます。
Q: テストの点数が高ければ、学力が高いといえますか?
A: 一部はいえます。ただし「主体的に学習に取り組む態度」のように、1回のテストでは測りにくい要素も学力に含まれます。
理解度を確認する問題
問題1. いわゆる「学力の3要素」に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 2017年の学習指導要領で初めて示され、後に学校教育法に取り入れられた
- B. 学校教育法第30条第2項に定められ、中学校と高等学校にも準用される
- C. 知識・技能、思考力・判断力・表現力、個性に応じて将来の進路を決定する能力の3つである
- D. テストで測定できる認知的な能力に限られている
正解:B 第30条第2項は小学校の規定で、第49条・第62条で準用されます。Aは逆で、法律(2007年)が先、三つの柱(2017年)が後です。Cはまぎらわしいですが、3つめは主体的に学習に取り組む態度で、「進路を決定」は高等学校の目標(第51条)の表現です。Dは「態度」を含むので誤りです。
問題2. 社会経済的地位(SES)と学力の関係について、最も適切なものはどれか。
- A. 学校単位の相関が高ければ、個々の児童生徒にも同じ強さの関連がある
- B. White(1982)では、個人単位より集団単位で分析したほうが相関が高かった
- C. コールマン報告は、学力の差は家庭背景より学校の設備や予算と強く関係するとした
- D. White(1982)では、家庭の雰囲気などの家庭特性は、SESより学力との相関が弱かった
正解:B 個人単位では約.22、集団単位では約.73でした。Aは生態学的誤謬です。Cは逆で、コールマン報告は家庭背景の影響の大きさを示しました。Dも逆で、家庭特性(約.55)はSES(約.22)より相関が強かったのです。
問題3. 知能と学業成績の関係に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 知能から予想される水準より学業成績が低い者を、オーバーアチーバーという
- B. 回帰法では、知能から予測される学力と実際の学力の差(残差)で判定する
- C. 単純差法では、能力の高低による判定の偏りは生じない
- D. Duckworth & Seligman(2005)では、成績の分散をIQが自己規律の2倍以上説明した
正解:B 回帰法は知能から予測される成績との差を見ます。Aは逆で、予想より低いのはアンダーアチーバーです。Cは誤りで、単純差法は能力の高い子でアンダーアチーバーを多く見積もりやすいとされます。Dはまぎらわしいですが逆で、2倍以上は自己規律です。
関連キーワード
- 資質・能力の三つの柱
- 非認知能力/社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)
- グリット(Grit)
- 社会経済的地位(Socioeconomic Status: SES)
- 生態学的誤謬(Ecological Fallacy)
- オーバーアチーバー/アンダーアチーバー(Overachiever / Underachiever)
- 全国学力・学習状況調査
関連論文
まずこの1本
Sirin, S. R.(2005)Socioeconomic status and academic achievement: A meta-analytic review of research. Review of Educational Research, 75(3), 417–453.
1990〜2000年に発表された研究(74サンプル、生徒約10万人)を統合し、SESと学力に中程度から強い関連があり、その強さは分析の単位、SESの測り方、学校段階などで変わることを示しました。White(1982)の再現分析では平均相関がやや低下しました。試験では分析単位で相関が変わる点と相関は因果ではない点を押さえましょう。
https://doi.org/10.3102/00346543075003417
その他の参考文献
White, K. R.(1982)“The relation between socioeconomic status and academic achievement.” Psychological Bulletin, 91(3), 461–481.
概要 約200研究のメタ分析で、相関の強さが分析単位で大きく変わることを示した古典的研究です(数値は本文の表)。
https://doi.org/10.1037/0033-2909.91.3.461
ほそめがねのひとこと
学力の3要素のうち、ご自身がいちばん伸ばしたい(伸ばしたかった)のはどれですか?
覚え方
①学力の3要素:「知って、考えて、自ら学ぶ」。知識・技能、思考力等、主体的な態度の順です。
②SESと学力:「みんなで見ると濃く、ひとりで見ると薄い」。集団単位では強く、個人単位では弱い相関です。
③アチーバー:「予想をオーバー、予想にアンダー」。知能からの予想を上回ればオーバー、下回ればアンダーです。


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