カウンセリング(Counseling)とは、悩みをかかえた人(クライエント)と専門的な訓練を受けたカウンセラーが対話を通して関係を結び、クライエントが自分で問題を整理し、解決や成長に向かえるよう支える心理的援助です。
簡単な説明
友だちに「部活をやめたい」と相談して、すぐ「がんばりなよ」と言われ、かえってモヤモヤしたことはありませんか。逆に、最後まで聞いてもらううちに「本当は先輩との関係がつらかったんだ」と自分で気づけたこともあるでしょう。
カウンセリングは、この「自分で気づける聞き方」を専門的に磨いたものです。カウンセラーは答えを押しつけず、相手の気持ちを受けとめて言葉にして返します。いわば心を映す鏡の役です。安心できる関係の中で、人は自分なりの答えを見つけていきます。
由来
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1909年 | Frank Parsonsの遺著『Choosing a Vocation』刊行。自分を知る・仕事を知る・両者を結びつける職業指導を示す |
| 1939年 | E. G. Williamsonが『How to Counsel Students』を刊行。診断して助言する指示的カウンセリングの代表とされる |
| 1942年 | Carl R. Rogersが『Counseling and Psychotherapy』で非指示的(non-directive)アプローチを提唱 |
| 1951年 | Rogersが『Client-Centered Therapy』を刊行(クライエント中心療法) |
| 1957年 | Rogersが「治療的人格変化の必要十分条件」を発表 |
| 1968年 | Allen E. Iveyらがマイクロカウンセリングを報告 |
具体的な説明
指示的カウンセリングと非指示的カウンセリング
| 比較項目 | 指示的(Williamsonら) | 非指示的(Rogers) |
|---|---|---|
| 主導するのは | カウンセラー(診断・助言する) | クライエント(自分で気づき選ぶ) |
| 重視するもの | 検査・情報にもとづく問題解決 | 感情の受容と、カウンセラーとの関係 |
Rogersは、人には本来成長する力があり、カウンセラーはその力がはたらく関係をつくる役だと考えました。この考えはパーソン・センタード・アプローチへと発展し、人間性心理学の柱の一つになりました。
治療的人格変化の必要十分条件(Rogers, 1957)
Rogersは、次の6条件がそろい、一定期間続けば、人格の建設的な変化が起こるのに必要であり、それで十分だと主張しました。
- 2人の人が心理的な接触をもっている
- クライエントは不一致(incongruence)の状態にあり、傷つきやすいか不安である
- セラピストは、その関係の中で一致し統合されている(自己一致・純粋性)
- セラピストはクライエントに無条件の肯定的配慮を経験している
- セラピストはクライエントの内的照合枠を共感的に理解し、伝えようとしている
- 共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限伝わっている
このうちセラピスト側の3つ(自己一致・無条件の肯定的配慮・共感的理解)が「中核3条件」です。「不一致」は、実際の体験と自己像がずれた状態です。
条件に入れなかったものもひっかけの定番です。
| 条件に含まれないもの | Rogersの主張 |
|---|---|
| クライエントや療法の種類ごとの条件 | どのクライエント・どの心理療法にも共通 |
| 専門的な知識 | 条件3〜5は知識ではなく経験の質 |
| 正確な心理学的診断 | 心理療法の前提条件ではない(診断が無益だという意味ではない) |
| 技法(例:感情の反映) | 条件を満たす手段にすぎない |
カウンセリングと心理療法の違い
Rogers(1942)によると、当時は短く気軽な面接をカウンセリング、長く集中的で人格の深い再構成をめざすものを心理療法と呼ぶ傾向がありました。しかし同書は、最も集中的で成功したカウンセリングは、集中的で成功した心理療法と区別できないとし、両語を区別せず使っています。「明確に区別される」という選択肢に注意しましょう。
基本技法:傾聴とマイクロカウンセリング
カウンセリングの土台は傾聴です。Iveyは面接技法を小さな単位(マイクロ技法)に分け、積み上げ式の階層に整理しました。
| 段階 | 主な技法 | 例 |
|---|---|---|
| かかわり行動(attending behavior) | 相手に注意を向ける基本の態度(視線・声・身ぶり・話についていく言葉など) | 相手に体を向け、うなずきながら聞く |
| 基本的傾聴の連鎖 | 開かれた質問・閉ざされた質問、はげまし、言いかえ、感情の反映、要約 | 「どんなときにそう感じますか?」(開かれた質問) |
| より上の段階 | 対決、意味の反映、自己開示などの積極的にはたらきかける技法 | 傾聴の土台ができてから使う |
区分や訳語は版により異なります。言いかえは話の内容を、感情の反映は気持ちを、要約は話のまとまりを返す点が違います。
スクールカウンセラー制度と教育相談
文部科学省のスクールカウンセラー(SC)事業は、1995(平成7)年度に国の委託事業として始まり、2001(平成13)年度から補助事業になりました。学校教育法施行規則第65条の3は「スクールカウンセラーは、小学校における児童の心理に関する支援に従事する」と定めます(中学校にも準用)。福祉に関する支援に従事するのはスクールソーシャルワーカー(SSW、第65条の4)です。
令和8年度の文部科学省予算資料では、SCは全公立小中学校に基礎配置(週4時間)、人材は公認心理師・臨床心理士等です。仕事はカウンセリングに加え、見立て(アセスメント)、教師・保護者へのコンサルテーション、自殺予防教育など未然防止にも及びます。
背景には「チームとしての学校」(中央教育審議会答申, 2015)の考え方があります。2022年改訂の『生徒指導提要』は、「生徒指導と教育相談が一体となったチーム学校」を掲げ、いわゆる2軸3類4層の構造を示しました。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 2軸(時間軸) | 常態的・先行的(プロアクティブ)/即応的・継続的(リアクティブ) |
| 3類(課題性と対応の種類) | 発達支持的・課題予防的・困難課題対応的生徒指導 |
| 4層 | 課題予防的を課題未然防止教育と課題早期発見対応に分ける |
公認心理師法(2015年公布)では、関係者への相談・助言も業務に含まれ、秘密保持義務(第41条)、主治の医師の指示(第42条第2項)も頻出です。
例文
「カウンセラーは助言を急がず、『悔しかったんですね』と感情を反映しながら、生徒が自分の気持ちに気づけるよう傾聴しました。」
「スクールカウンセラーは生徒との面接に加え、担任へのコンサルテーションも行いました。」
疑問
Q: 非指示的カウンセリングでは、カウンセラーは何もしないのですか?
A: いいえ。助言で導かないだけで、相手の気持ちを正確に理解して言葉で返す、という積極的なはたらきかけをしています。Rogersが重視したのは技法よりも態度です。
Q: 共感と同情は同じですか?
A: 違います。共感的理解は、相手の感じ方をあたかも自分のことのように理解しつつ、自分の感情と混同しないことです。一緒に巻きこまれる同情とは区別されます。
Q: スクールカウンセラーに話したことは、先生に伝わってしまいますか?
A: 秘密を守ることは大原則です。ただし命にかかわる危険があるときなどは、本人を守るために学校の関係者と情報を共有することがあります。
理解度を確認する問題
問題1. C. R. Rogers(1957)の「治療的人格変化の必要十分条件」に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 6つの条件はクライエント中心療法に固有で、他の心理療法には別の条件が必要だとした
- B. 感情の反映という技法を、人格変化に欠かせない条件の一つに含めた
- C. セラピストがクライエントの正確な心理学的診断をもつことは、心理療法の前提条件とはしなかった
- D. セラピスト側の条件として、心理学や医学の専門的知識をもつことを求めた
正解:C Rogersは診断が無益だとしたのではなく、心理療法の前提条件としての必要性を否定しました。Aは誤りで、条件はどの心理療法にも共通するとされました。Bは誤りで、感情の反映は条件を満たす手段にすぎません。Dは誤りで、セラピスト側の3条件は知識ではなく経験の質です。
問題2. 日本のスクールカウンセラーや心理職に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 学校教育法施行規則では、児童の福祉に関する支援に従事すると規定されている
- B. 文部科学省の事業は1995年度に補助事業として始まり、2001年度から委託事業となった
- C. 文部科学省の事業は1995年度に委託事業として始まり、2001年度から補助事業となった
- D. 公認心理師法では、関係者への相談・助言は業務に含まれない
正解:C 「委託が先、補助が後」です。Bは順序を逆にしたひっかけです。Aは誤りで、SCは心理、福祉はスクールソーシャルワーカーです。Dは誤りで、公認心理師法第2条は関係者への相談・助言・指導その他の援助を業務に含めています。
問題3. クライエントが「先週、みんなの前で先輩にきつく注意されて……」と話したのに対し、カウンセラーが「つらくて、悔しい気持ちだったのですね」と応じた。A. E. Iveyのマイクロカウンセリングの技法のうち、この応答に最もよく当てはまるものはどれか。
- A. 言いかえ
- B. 感情の反映
- C. 要約
- D. 閉ざされた質問
正解:B 話の背後の気持ちを言葉にして返しているので感情の反映です。Aはまぎらわしいですが、「みんなの前で注意されたのですね」のように出来事の内容を返すのが言いかえです。Cは長めの話をまとめて返す技法、Dは「はい・いいえ」で答えられる質問です。
関連キーワード
- クライエント中心療法(来談者中心療法:Client-Centered Therapy)
- 傾聴(Active Listening)/感情の反映(Reflection of Feeling)
- マイクロカウンセリング(Microcounseling)
- 公認心理師(Certified Public Psychologist)
- 臨床心理学(Clinical Psychology)
関連論文
まずこの1本
Rogers, C. R.(1957)The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95–103.
6条件を示し、中核3条件を広めた論文です。試験では、セラピスト側の3条件の名前、不一致の意味、そしてあえて含めなかった条件(診断・専門知識・技法など)を押さえましょう。
https://doi.org/10.1037/h0045357
その他の参考文献
Ivey, A. E., Normington, C. J., Miller, C. D., Morrill, W. H., & Haase, R. F.(1968)“Microcounseling and attending behavior: An approach to prepracticum counselor training.” Journal of Counseling Psychology, 15(5, Pt. 2), 1–12.
概要 面接技法を小さな単位に分けて訓練するマイクロカウンセリングを報告し、かかわり行動を取り上げた論文です。
https://doi.org/10.1037/h0026129
ほそめがねのひとこと
話を「ただ聞いてもらえた」だけで気持ちが軽くなった経験はありますか?相手はどんな聞き方をしていましたか?
覚え方
①中核3条件:「イチ・ムジョウ・キョウ」。一致、無条件の肯定的配慮、共感的理解。「一つの無常(むじょう)を共に」と覚えましょう。
②「ウィリアムソンは医者、ロジャーズは鏡」。診断して助言する指示的と、気持ちを映し返す非指示的です。
③SCとSSW:「SCはこころ(心理)、SSWはくらし(福祉)」。事業は「平成7年に委託、13年に補助」です。


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