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アセチルコリン(Acetylcholine)

神経・生理

アセチルコリン(Acetylcholine:ACh)とは、神経細胞が次の細胞へ信号を渡すときに使う化学物質(神経伝達物質)の一つで、筋肉を動かす命令、副交感神経のはたらき、脳の注意・記憶・レム睡眠にかかわる物質です。

歴史上はじめて正体が確かめられた神経伝達物質であり、アルツハイマー型認知症の薬(ドネペジルなど)や、抗うつ薬の副作用「抗コリン作用」を理解するカギにもなるため、心理学検定・公認心理師試験の「神経・生理」分野で必ず押さえたい用語です。

簡単な説明

「ボールを投げよう」と思って腕を動かすとき、脳からの命令は神経の中を電気信号として伝わります。ところが、神経の端と筋肉のあいだには、ほんのわずかなすき間があり、電気信号はそこを飛び越えられません。そこで神経の端からアセチルコリンという「伝言メモ」がまかれ、筋肉がそれを受け取ることで「縮め!」という命令が伝わります。

同じ伝言メモは、内臓にも届きます。ごはんを食べたあとに胃腸が動き出したり、ほっとしたときに心臓の鼓動がゆっくりになったりするのは、副交感神経がアセチルコリンで指令を出しているからです。面白いのは、同じメモでも筋肉では「動け」、心臓では「ゆっくり」と、受け取る側によって意味が変わることです。メモを読む「受け取り口(受容体)」の種類が違うためです。さらに脳の中では、授業に集中したり、新しいことを覚えたりするときにもはたらいています。

読み終わったメモは、すぐに片づけないと同じ命令が何度もくり返されてしまいます。そこでアセチルコリンは、アセチルコリンエステラーゼという「シュレッダー役」の酵素によって、すばやく分解されます。このシュレッダーを少し止めてメモを長持ちさせる薬が、アルツハイマー型認知症の薬として使われています。

由来

アセチルコリンという物質そのものは、1867年にドイツの化学者Adolf von Baeyerが合成していました。しかし、それが体の中で何をしているのかは、長いあいだわかっていませんでした。1914年、イギリスの薬理学者Henry Hallett Daleは、アセチルコリンなどコリンの仲間の作用に、キノコの毒ムスカリンに似た作用(ムスカリン様作用)と、たばこのニコチンに似た作用(ニコチン様作用)の2種類があることを報告しました。これが、のちの「ムスカリン受容体」「ニコチン受容体」という分類のもとです。

決定的な実験を行ったのは、オーストリアのグラーツ大学の薬理学者Otto Loewiです。1921年、Loewiはカエルの心臓を使い、迷走神経(副交感神経の一つ)を刺激すると「心臓をゆっくりにする物質」が液の中に出てくることを示し、これを迷走神経物質(Vagusstoff)と名づけました。1926年にはLoewiとE. Navratilが、この物質が心臓の中の酵素(エステラーゼ)ですばやく分解され、その分解がフィゾスチグミン(エゼリン)で妨げられるなど、アセチルコリンと同じ性質をもつことを示しました。1929年にはDaleとDudleyがウシとウマの脾臓からアセチルコリンを取り出し、体内に実際に存在することを確かめています。

こうして「神経は化学物質を使って信号を伝える」という化学伝達説が確立し、DaleとLoewiは1936年に「神経インパルスの化学的伝達に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を共同受賞しました。

年人物主なできごと
1867年Adolf von Baeyerアセチルコリンを化学的に合成
1914年Henry H. Daleコリンの仲間の作用を「ムスカリン様」と「ニコチン様」に区別
1921年Otto Loewiカエルの心臓の実験で「迷走神経物質(Vagusstoff)」を報告
1926年Loewi & Navratil迷走神経物質がエステラーゼで分解され、フィゾスチグミンで分解が妨げられることを示す
1929年Dale & Dudleyウシとウマの脾臓からアセチルコリンを取り出し、体内に存在することを確認
1936年Dale, Feldberg & Vogt運動神経の終末(神経筋接合部)でアセチルコリンが放出されることを報告
1936年Dale & Loewiノーベル生理学・医学賞を共同受賞

具体的な説明

合成・放出・分解のサイクル

アセチルコリンを伝達物質として使う神経細胞をコリン作動性ニューロンと呼びます。アセチルコリンは次の5段階で使われ、片づけられます。

  1. 合成:コリン+アセチルCoA →(コリンアセチルトランスフェラーゼ:ChAT)→ アセチルコリン
  2. 貯蔵と放出:シナプス小胞にためられ、神経の興奮が終末に届くとシナプス間隙へ放出される
  3. 受容:次の細胞のニコチン受容体またはムスカリン受容体に結合する
  4. 分解:シナプス間隙でアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解される
  5. 再利用:コリンが神経終末に取り込まれ、再びアセチルコリンの材料になる

セロトニンやドーパミンは伝達物質そのものが再取り込みされて作用が終わりますが、アセチルコリンはまず酵素で分解され、材料のコリンだけが取り込まれる点が大きな違いです。

2種類の受容体:ニコチン受容体とムスカリン受容体

受容体の名前は、それぞれを選んで刺激する物質(ニコチン、ムスカリン)に由来します。同じアセチルコリンでも、骨格筋では収縮(興奮)、心臓では拍動の低下(抑制)と逆向きの反応が起こるのは、受け手の受容体のしくみが違うからです。

比較項目ニコチン受容体(nAChR)ムスカリン受容体(mAChR)
しくみイオンチャネル型(リガンド依存性イオンチャネル)。結合するとチャネルが開き、陽イオンが流れ込む代謝型(Gタンパク質共役型受容体)。細胞内のセカンドメッセンジャーなどを介して作用
反応の速さ速い(ミリ秒単位)比較的ゆっくりで、長く続く
サブタイプ筋肉型・神経型などM1〜M5の5種類(代表例:M1=脳、M2=心臓、M3=平滑筋・腺)
主な場所神経筋接合部(骨格筋)、自律神経節、副腎髄質、脳副交感神経の標的臓器(心臓・平滑筋・腺)、汗腺、脳
遮断する物質の例クラーレ(ツボクラリン):骨格筋を麻痺させるアトロピン、スコポラミン:口渇・散瞳・心拍数の増加など

末梢神経系でのはたらき

試験で最もよく問われるのが、どの神経がアセチルコリンを使うかです。基本は「ほとんどアセチルコリン、例外は交感神経の節後線維(ノルアドレナリン)」で、その例外の中のさらに例外が汗腺です。

神経放出される伝達物質受け手の受容体
運動神経 → 骨格筋(神経筋接合部)アセチルコリンニコチン受容体
交感神経・副交感神経の節前線維 → 自律神経節アセチルコリンニコチン受容体
交感神経の節前線維 → 副腎髄質アセチルコリン(受けた副腎髄質がアドレナリンを血液中へ分泌)ニコチン受容体
副交感神経の節後線維 → 内臓などアセチルコリンムスカリン受容体
交感神経の節後線維 → 心臓・血管などノルアドレナリンアドレナリン受容体
交感神経の節後線維 → 汗腺(例外)アセチルコリンムスカリン受容体

副交感神経がはたらくと、心拍数の低下、消化管の運動や消化液・唾液の分泌の促進、瞳孔の縮小などが起こります。「休息と消化(rest and digest)」のモードを支えるのがアセチルコリンです。

脳(中枢神経系)でのはたらき

脳のコリン作動性ニューロンは少数の神経核に集まり、そこから広い範囲へ線維を送っています。そのため脳内のアセチルコリンは、1対1で信号を渡すだけでなく、広い領域の神経活動の「調子」を整える神経調節物質(ニューロモジュレーター)としてもはたらきます。

主な起始核主な投射先関連する機能
マイネルト基底核(前脳基底部)大脳皮質の広い範囲注意、覚醒、学習・記憶。アルツハイマー型認知症で強く変性
内側中隔核(前脳基底部)海馬記憶の形成、海馬のシータ波
脚橋被蓋核・背外側被蓋核(脳幹)視床、脳幹など覚醒、レム睡眠

注意と記憶:抗コリン薬のスコポラミンは、新しい情報を覚える(記銘する)はたらきを妨げることが知られています。Hasselmo(2006)は、アセチルコリンが「外から入ってくる情報」の影響を「すでに頭の中にある情報」より相対的に強め、海馬や嗅内皮質などで新しいエピソード記憶の符号化を助けると整理しています。新しいことを覚えるときに「入力モード」へ切り替えるスイッチ、とイメージするとわかりやすいでしょう。

睡眠:レム睡眠のあいだ、脳幹のコリン作動性ニューロンは活発になり、ノルアドレナリンやセロトニンのニューロンはほとんど休みます。J. Allan HobsonとRobert W. McCarleyは、この2つのグループの「シーソー」でレム睡眠の出現を説明する相互作用モデルを提案しました(のちに修正が加えられています)。彼らのグループは、ネコの橋にコリン作動薬(カルバコール)を注入すると、注入した部位と量に応じて、レム睡眠の特徴である筋緊張の消失や皮質の脱同期化が強まることも報告しています(Amatruda et al., 1975)。

アセチルコリンがかかわる病気と薬

アセチルコリンの作用は「多すぎる」「少なすぎる」「受け取れない」のどれでも問題になります。整理すると次のとおりです。

病気・物質どこに作用するか結果
アルツハイマー型認知症マイネルト基底核のコリン作動性ニューロンが変性大脳皮質のアセチルコリン系が低下(コリン仮説)
AChE阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)分解酵素AChEを阻害アセチルコリンの作用を補い、認知症症状の進行を抑える
重症筋無力症神経筋接合部の受容体に対する自己抗体筋力低下、くり返し動かすと疲れやすい(易疲労性)
ボツリヌス毒素神経終末からの放出を妨げる筋肉の麻痺
サリン・有機リン系農薬AChEを阻害アセチルコリンが過剰になり中毒(縮瞳、よだれ、けいれんなど)
抗コリン作用(三環系抗うつ薬など)ムスカリン受容体を遮断口渇、便秘、排尿困難、かすみ目。高齢者では認知機能の低下やせん妄の誘因にも
ニコチン(たばこ)ニコチン受容体を刺激脳のニコチン受容体への作用が喫煙の依存性にかかわる

日本で開発されたドネペジル(商品名アリセプト)は、エーザイのHachiro Sugimoto(杉本八郎)らが見いだした薬です。日本では1999年10月に軽度・中等度のアルツハイマー型認知症の薬として承認され、2007年8月に高度の段階を含む効能へ、2014年9月にはレビー小体型認知症へと効能が広がりました。いずれも効能は「認知症症状の進行抑制」で、病気そのものを治す薬ではありません。なお、同じく認知症に使われるメマンチンは、アセチルコリン系ではなくNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗薬です。

検定で間違えやすいポイント

ひっかけ正しくは
交感神経はすべてノルアドレナリン節前線維はアセチルコリン。節後線維でも汗腺はアセチルコリン
ムスカリン受容体はイオンチャネル型イオンチャネル型はニコチン受容体。ムスカリン受容体はGタンパク質共役型
抗コリン作用の口渇はニコチン受容体の遮断ムスカリン受容体の遮断による
アルツハイマー型認知症で変性するのは黒質マイネルト基底核。黒質(ドーパミン)はパーキンソン病
ドネペジルはアセチルコリンを増やす合成促進薬分解酵素(AChE)の阻害薬。合成酵素はChAT
メマンチンもAChE阻害薬NMDA受容体拮抗薬で別系統

実験や観察の方法と結論

研究1:2つのカエルの心臓の実験(Loewi, 1921)

項目内容
問い神経は、電気がそのまま伝わることで臓器を動かすのか、それとも化学物質を介して伝えるのか
方法カエルの心臓を取り出して液で満たし、迷走神経を電気刺激する。その心臓の液を、神経を刺激していない別の心臓へ移す
結果刺激した心臓は鼓動がゆっくりになった。その液を移された別の心臓も、同じようにゆっくりになった
結論神経を刺激すると、その末端から心臓のはたらきを変える化学物質が放出される。この迷走神経物質が、のちにアセチルコリンとわかった

Loewiは後年、この実験のアイデアを夜中に夢の中で思いついたと回想しており、「夢から生まれたノーベル賞」として有名です。ただし細部は本人の回想にもとづき、脚色があるとする見方もあります。試験で大切なのは逸話ではなく、「シナプス伝達が化学的に行われることを初めて実験で示した」という点です。

研究2:アルツハイマー型認知症とコリン仮説(1976〜1982年)

Peter DaviesとA. J. Maloneyは1976年、アルツハイマー病で中枢のコリン作動性ニューロンが選択的に失われていることをLancet誌に短報として報告しました。続いてPeter J. Whitehouseらは1982年、患者の死後脳を調べ、大脳皮質へアセチルコリンを送るマイネルト基底核のニューロンが75%を超えて選択的に変性していることを示しました。著者らはこれを、高次の脳機能の病気で特定の伝達物質をもつニューロン群の消失を初めて記録したものと位置づけています。

同じ1982年、Raymond T. Bartusらは、それまでの生化学・電気生理学・薬理学の研究を批判的に検討し、次の4点からコリン仮説をまとめました。

  • 高齢者や認知症の人の脳では、コリン系に大きな機能低下が起こっている
  • そのコリン系の変化と記憶の低下とのあいだに関係がある
  • 若い人でもコリン系のはたらきを薬で遮断すると、似た記憶の低下が人工的に起こる
  • 厳しく管理された条件では、コリン系の刺激で高齢者の記憶が改善することがある

一方でBartusらは、当時の臨床試験では記憶の改善がうまく得られていないことも認めていました。この仮説はのちのAChE阻害薬の開発につながりましたが、現在ではアミロイドβやタウなど、ほかの病態も重視されています。

研究3:重症筋無力症のしくみを動物で再現(Patrick & Lindstrom, 1973)

Jim PatrickとJon Lindstromは、デンキウナギの発電器官から精製したアセチルコリン受容体をウサギに注射しました。ウサギは受容体に対する抗体をつくり、2回目の注射のあと、神経筋伝達が遮断されたときに特徴的な弛緩性の麻痺と筋電図の異常を示しました。この麻痺は、コリンエステラーゼ阻害薬(エドロホニウムやネオスチグミン)で劇的に改善しました。重症筋無力症がアセチルコリン受容体に対する自己免疫で起こるという理解につながった研究です。

研究からわかること

  • 神経の信号はシナプスで化学物質によって伝えられる → 神経伝達物質という考え方の出発点
  • アルツハイマー型認知症ではマイネルト基底核のコリン作動性ニューロンが失われる → AChE阻害薬の理論的な根拠
  • 受容体への自己抗体が筋力低下を起こす → 重症筋無力症の病態

例文

「運動神経の終末から放出されたアセチルコリンが、骨格筋のニコチン受容体に結合して筋肉が収縮します。」

「ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼを阻害して、脳内のアセチルコリンの作用を補う薬です。」

「三環系抗うつ薬で口が渇いたり便秘になったりするのは、ムスカリン受容体を遮断する抗コリン作用によるものです。」

疑問

Q: アセチルコリンとノルアドレナリンは、自律神経でどう使い分けられているのですか?

A: 交感神経も副交感神経も、節前線維(脳・脊髄から神経節まで)ではアセチルコリンを使います。違いが出るのは節後線維(神経節から臓器まで)で、副交感神経はアセチルコリン、交感神経は主にノルアドレナリンを使います。ただし、交感神経のうち汗腺へ向かう節後線維は例外的にアセチルコリンを使います。また副腎髄質には交感神経の節前線維が直接届いていて、アセチルコリンで刺激された副腎髄質がアドレナリンを血液中に出します。

Q: 同じアセチルコリンなのに、筋肉は縮み、心臓はゆっくりになるのはなぜですか?

A: 受け手の受容体が違うからです。骨格筋のニコチン受容体はイオンの通り道そのもので、開くと陽イオンが流れ込んで筋肉がすぐに興奮します。心臓のムスカリン受容体(M2)はGタンパク質を介して細胞の中に作用し、拍動のリズムを遅くします。伝達物質の作用は「物質」だけでは決まらず、「どの受容体が受け取るか」で決まる、というのは神経科学の大切な原則です。

Q: 「抗コリン作用」とは何ですか? なぜ心理職も知っておく必要があるのですか?

A: 薬がアセチルコリンの受容体(主にムスカリン受容体)をふさいで、そのはたらきを弱めてしまうことです。副交感神経のはたらきが弱まるため、口の渇き、便秘、尿が出にくい、目がかすむといった症状が出ます。三環系抗うつ薬や一部の抗精神病薬などでみられ、高齢者では物忘れやせん妄の誘因になることもあります。クライエントが「薬を飲むと口が渇く」「頭がぼんやりする」と話したとき、副作用の可能性を考えて主治医と連携できることは、公認心理師にとって大切な視点です。

Q: アルツハイマー型認知症の薬を飲めば、病気は治るのですか?

A: 治すことはできません。ドネペジルなどのAChE阻害薬は、アセチルコリンが分解されるのを遅らせ、減ってしまったアセチルコリンのはたらきを補う薬です。承認されている効能も「認知症症状の進行抑制」で、失われた神経細胞を元に戻す薬ではありません。薬物療法とあわせて、本人の生活の工夫や家族への支援など、心理社会的な支援が欠かせません。

Q: アセチルコリンを薬やサプリメントで直接とれば、脳に届くのですか?

A: ほとんど届きません。アセチルコリンは電荷をもつ分子のため血液脳関門をほとんど通過せず、血液中でもすぐに分解されてしまいます。そのため治療では、アセチルコリンそのものを補うのではなく、「脳の中で分解されるのを遅らせる」AChE阻害薬が使われています。

理解度を確認する問題

問題1. 末梢神経系において、アセチルコリンを伝達物質として放出しないものはどれか。

  • A. 副腎髄質に達する交感神経の線維
  • B. 汗腺を支配する交感神経の節後線維
  • C. 心臓を支配する交感神経の節後線維
  • D. 副交感神経の節前線維

正解:C 心臓や血管に向かう交感神経の節後線維はノルアドレナリンを放出します。Aは紛らわしい選択肢で、副腎髄質には交感神経の節前線維が直接届いており、アセチルコリンを放出します(それを受けた副腎髄質がアドレナリンを血液中に分泌します)。Bは「交感神経の節後線維はノルアドレナリン」という原則の例外で、汗腺にはアセチルコリンが使われます。Dの節前線維は、交感神経・副交感神経ともにアセチルコリンを放出し、自律神経節のニコチン受容体に作用します。「交感神経=ノルアドレナリン」と丸ごと覚えていると、A・Bを選んでしまう問題です。


問題2. アルツハイマー型認知症とアセチルコリンに関する説明として、最も適切なものはどれか。

  • A. 中脳の黒質にあるコリン作動性ニューロンの変性が、皮質のアセチルコリン低下の主な原因とされる
  • B. ドネペジルは、アセチルコリンの合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼを活性化して作用する
  • C. メマンチンは、ドネペジルと同じくアセチルコリンエステラーゼを阻害する薬である
  • D. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、認知症症状の進行を抑える薬であり、神経細胞の変性そのものを止める薬ではない

正解:D ドネペジルなどのAChE阻害薬は、アセチルコリンの分解を遅らせて作用を補う薬で、効能は「認知症症状の進行抑制」です。Aは誤りで、大脳皮質へアセチルコリンを送るのは前脳基底部のマイネルト基底核です(Whitehouse et al., 1982)。黒質はドーパミン作動性ニューロンの場所で、その変性はパーキンソン病の特徴です。Bは誤りで、ドネペジルは合成酵素(ChAT)ではなく分解酵素(AChE)を阻害します。Cは誤りで、メマンチンはNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗薬であり、作用のしくみが異なります。


問題3. アセチルコリン受容体に関する説明として、最も適切なものはどれか。

  • A. 神経筋接合部の受容体はニコチン受容体であり、重症筋無力症ではこの受容体に対する自己抗体がみられる
  • B. ムスカリン受容体はイオンチャネル型受容体で、ニコチン受容体より速く反応する
  • C. 三環系抗うつ薬による口渇や便秘は、主にニコチン受容体の遮断によって生じる
  • D. アトロピンはニコチン受容体を遮断し、骨格筋を麻痺させる

正解:A 骨格筋の神経筋接合部ではニコチン受容体がはたらき、重症筋無力症はこの受容体に対する自己抗体によって信号が伝わりにくくなる自己免疫疾患です。Bは逆で、イオンチャネル型で速いのはニコチン受容体、ムスカリン受容体はGタンパク質共役型でゆっくり長く作用します。Cは誤りで、口渇・便秘・排尿困難などの抗コリン作用はムスカリン受容体の遮断によるものです。Dは誤りで、アトロピンはムスカリン受容体の遮断薬です。骨格筋を麻痺させるのは、ニコチン受容体を遮断するクラーレ(ツボクラリン)です。

関連キーワード

  • 神経伝達物質(Neurotransmitter)
  • シナプス(Synapse)
  • ニコチン受容体/ムスカリン受容体(Nicotinic / Muscarinic Receptor)
  • アセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase)
  • 自律神経系(Autonomic Nervous System)
  • 神経筋接合部(Neuromuscular Junction)
  • マイネルト基底核(Nucleus Basalis of Meynert)
  • コリン仮説(Cholinergic Hypothesis)
  • 重症筋無力症(Myasthenia Gravis)
  • 抗コリン作用(Anticholinergic Effects)
  • レム睡眠(REM Sleep)

関連論文

まずこの1本

Bartus, R. T., Dean, R. L., Beer, B., & Lippa, A. S.(1982)The cholinergic hypothesis of geriatric memory dysfunction. Science, 217(4558), 408–414.

「加齢や認知症による記憶の低下には、脳のコリン系の機能低下がかかわる」というコリン仮説を、生化学・電気生理学・薬理学の証拠から批判的に検討した古典的なレビューです。コリン系の機能低下、記憶低下との関係、若い人での薬による再現、条件つきの改善という4つの柱に加え、当時の臨床試験がうまくいかなかった理由にも触れており、仮説の強みと限界の両方が学べます。試験対策としては、コリン仮説 → マイネルト基底核の変性 → AChE阻害薬(ドネペジルなど)という流れと、メマンチンはNMDA受容体拮抗薬で別系統という区別をセットで押さえておきましょう。

https://doi.org/10.1126/science.7046051

その他の参考文献

Loewi, O.(1921)“Über humorale Übertragbarkeit der Herznervenwirkung.” Pflügers Archiv für die Gesamte Physiologie des Menschen und der Tiere, 189(1), 239–242.

概要 迷走神経を刺激したカエルの心臓の液を別の心臓に移すと、その心臓の拍動も変化することを示し、神経の作用が液性(化学的)に伝わることを報告した論文です。

解説 「迷走神経物質(Vagusstoff)」を報告した、化学伝達説の出発点です。題名は「心臓神経の作用の液性伝達について」という意味のドイツ語です。

https://doi.org/10.1007/BF01738910

Dale, H. H.(1914)“The action of certain esters and ethers of choline, and their relation to muscarine.” Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 6(2), 147–190.

概要 アセチルコリンを含むコリンの仲間の物質について、さまざまな器官への作用を調べた研究です。

解説 コリン系物質の作用に「ムスカリン様」と「ニコチン様」の2種類があることを示し、ムスカリン受容体・ニコチン受容体という分類の土台となりました。

https://doi.org/10.1016/s0022-3565(25)08268-0

Whitehouse, P. J., Price, D. L., Struble, R. G., Clark, A. W., Coyle, J. T., & DeLong, M. R.(1982)“Alzheimer’s disease and senile dementia: Loss of neurons in the basal forebrain.” Science, 215(4537), 1237–1239.

概要 アルツハイマー病の患者の脳で、マイネルト基底核のニューロンが75%を超えて選択的に変性していることを示した研究です。

解説 大脳皮質のアセチルコリン不足の「発生源」がマイネルト基底核にあることを示しました。「アルツハイマー型認知症=マイネルト基底核」という試験の定番の組み合わせの根拠です。

https://doi.org/10.1126/science.7058341

Davies, P., & Maloney, A. J.(1976)“Selective loss of central cholinergic neurons in Alzheimer’s disease.” The Lancet, 308(8000), 1403.

概要 アルツハイマー病の脳で、中枢のコリン作動性ニューロンが選択的に失われていることを報告した短報です。

解説 アルツハイマー型認知症と特定の神経伝達物質の系統とを結びつけた初期の報告で、コリン仮説の出発点の一つとして引用されます。

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(76)91936-X

Patrick, J., & Lindstrom, J.(1973)“Autoimmune response to acetylcholine receptor.” Science, 180(4088), 871–872.

概要 精製したアセチルコリン受容体をウサギに注射すると、受容体への抗体ができ、神経筋伝達が遮断されたときと同じ麻痺が起こることを示した研究です。

解説 麻痺がコリンエステラーゼ阻害薬で改善したことから、重症筋無力症が「アセチルコリン受容体への自己免疫」で起こるという理解につながりました。

https://doi.org/10.1126/science.180.4088.871

Hasselmo, M. E.(2006)“The role of acetylcholine in learning and memory.” Current Opinion in Neurobiology, 16(6), 710–715.

概要 ムスカリン受容体とニコチン受容体の両方が新しい記憶の符号化にかかわることを、薬理学・損傷研究・計算モデルの知見から整理したレビューです。

解説 アセチルコリンが外からの入力を相対的に強め、シータ律動やシナプスの変化を促すことで、海馬や嗅内皮質でのエピソード記憶の符号化を助けるという考え方がわかります。PMCで全文を無料で読めます。

https://doi.org/10.1016/j.conb.2006.09.002

Amatruda, T. T., Black, D. A., McKenna, T. M., McCarley, R. W., & Hobson, J. A.(1975)“Sleep cycle control and cholinergic mechanisms: Differential effects of carbachol injections at pontine brain stem sites.” Brain Research, 98(3), 501–515.

概要 ネコの橋の各部位にコリン作動薬カルバコールを注入し、レム睡眠の特徴(筋緊張の消失、皮質の脱同期化)が部位と用量に応じて強まることを示した研究です。

解説 「橋のコリン作動性のしくみがレム睡眠を生み出す」という考えを支える実験で、Hobsonらの睡眠研究の流れの中に位置づけられます。

https://doi.org/10.1016/0006-8993(75)90369-8

Hampel, H., Mesulam, M.-M., Cuello, A. C., Farlow, M. R., Giacobini, E., Grossberg, G. T., et al.(2018)“The cholinergic system in the pathophysiology and treatment of Alzheimer’s disease.” Brain, 141(7), 1917–1933.

概要 アルツハイマー病の病態と治療におけるコリン系の役割を、コリン仮説の提唱以降の研究をふまえて見直した総説です。

解説 1980年代のコリン仮説が、アミロイドβなどの研究が進んだ現在どのように位置づけられているかを知るのに役立ちます。

https://doi.org/10.1093/brain/awy132

覚え方

①はたらき:「筋肉・副交感・脳の記憶」の3か所。腕を動かす(筋肉)、食後にくつろぐ(副交感神経)、勉強した内容を覚える(脳)の3つの場面をイメージします。

②自律神経:「節前はみんなアセチル、節後で交感だけノル、汗だけ例外」。汗をかく場面だけは、交感神経の節後線維でもアセチルコリンです。

③受容体:「ニコチンは「ニッ」と一瞬で効くイオンチャネル、ムスカリンはむっくりGタンパク」。たばこは一瞬で効く(速いイオンチャネル型)、キノコの毒はじわじわ効く(ゆっくりの代謝型)とイメージします。アトロピンはムスカリン側の遮断薬です。

④認知症:「マイネルトでアセチル減って、ドネペジルでシュレッダー停止」。メマンチンはグルタミン酸(NMDA受容体)側の薬なので、仲間はずれです。

覚えることキーワード
合成酵素/分解酵素ChAT(つくる)/AChE(こわす)
受容体ニコチン(イオンチャネル型・速い)/ムスカリン(Gタンパク質共役型・M1〜M5)
自律神経の例外交感神経の節後線維のうち汗腺はアセチルコリン
脳の主な起始核マイネルト基底核(→大脳皮質)、内側中隔核(→海馬)、脚橋被蓋核・背外側被蓋核(→覚醒・レム睡眠)
関連疾患アルツハイマー型認知症(マイネルト基底核)、重症筋無力症(受容体への自己抗体)
発見者Otto Loewi(1921年、カエルの心臓)、Henry H. Dale(1936年に共同でノーベル賞)
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心理学用語の壁

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