アセスメント(Assessment)とは、支援を必要とする人について、観察・面接・検査などで情報を集め、それらを統合して「この人にはいま何が起きていて、どんな支援が合うのか」という見立てを立てることです。心理学では、とくに心理アセスメント(心理査定)を指します。
「心理検査をすること=アセスメント」ではありません。集めた情報をまとめ上げ、支援に生かすまでの全体がアセスメントだと覚えておくと、試験で迷いません。
簡単な説明
おなかが痛くて病院に行ったとします。お医者さんはいきなり薬を出すのではなく、「いつから痛いの?」と話を聞き、おなかの様子を見て、必要なら血液検査をします。そのうえで「胃腸炎ですね。この薬を飲んで、消化のよいものを食べましょう」と方針を決めます。
心の支援でも同じです。たとえば「授業中に立ち歩いてしまう小学生」がいたとき、すぐに「しつけが悪い」「やる気がない」と決めつけず、次の3つの方法で情報を集めます。
- 見る(観察):どの授業の、どんな場面で立ち歩くのかを教室で見る
- 聞く(面接):本人、保護者、担任の先生から、困っていることや家での様子、これまでの育ちを聞く
- 測る(検査):必要に応じて、知能検査などで得意・不得意を調べる
そして「黒板の字を写すのが苦手で、わからなくなると席を立ってしまうのかもしれない」という仮説を立て、「板書を写す量を減らしてみる」などの支援につなげます。うまくいかなければ、仮説を見直します。この「集める → まとめて見立てる → 支援に生かす → 見直す」のくり返し全体がアセスメントです。
もう一つ大切なのは、困りごとだけでなく、その人の得意なことや、支えてくれる人・環境(強み、リソース)も一緒に見ることです。「絵を描くのが好き」「休み時間に声をかけてくれる友だちがいる」といった情報も、支援の大事な材料になります。
由来
英語の assess は「評価する、査定する」という意味の動詞で、assessment はその名詞形です。日本語では「心理査定」「心理アセスメント」「心理的アセスメント」などと訳されます。
心理学におけるアセスメントの歴史でよく紹介されるのが、第二次世界大戦中のアメリカの情報機関、戦略情報局(Office of Strategic Services:OSS)の人材選抜プログラムです。性格研究で知られるHenry A. MurrayやDonald W. MacKinnonらが、特殊任務の候補者を、面接、心理検査、実際の場面に近い課題を与えて行動を見る「状況テスト」などを組み合わせて評価しました。この取り組みは Murray & MacKinnon(1946)の論文「Assessment of OSS personnel」で報告され、1948年にはOSSの評価スタッフ(OSS Assessment Staff)による著書 Assessment of Men にまとめられました。
このプログラムの特徴は、1つの検査の点数で人を判断せず、複数の方法から得た情報をスタッフが話し合って統合した点にあります。現在の多方法アセスメントの原型として位置づけられています。
もちろん、アセスメントの「道具」である心理検査の歴史はそれより古くからあります。代表的なできごとを年表で整理します。
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1905年 | Alfred BinetとThéodore Simonが、知的発達の遅れを見分けるための知能検査(ビネー・シモン式)を発表 |
| 1921年 | Hermann Rorschachが著書 Psychodiagnostik で、インクのしみの図版を用いる検査(のちに投影法の代表となるロールシャッハ・テスト)を発表 |
| 1935年 | Christiana D. MorganとHenry A. Murrayが、空想を調べる方法として主題統覚検査(TAT)を報告 |
| 1940年 | Starke R. HathawayとJ. Charnley McKinleyが、ミネソタ多面人格目録(MMPI)の作成を報告 |
| 1946〜1948年 | OSSの人材選抜プログラムが論文・著書(Assessment of Men)として公表される |
| 1954年 | Paul E. Meehlが Clinical versus Statistical Prediction を刊行し、臨床家の判断と統計的な予測の正確さを比べる議論を起こす |
| 1955年 | Lee J. CronbachとPaul E. Meehlが、「測りたいものを本当に測れているか」を確かめる構成概念妥当性の考え方を示す |
| 1977年 | George L. Engelが、生物・心理・社会の3側面から人を理解する生物心理社会モデルの考え方をScience誌で提唱 |
| 2015年(平成27年) | 公認心理師法(平成27年法律第68号)が成立。第2条第1号に、アセスメントにあたる「心理状態を観察し、その結果を分析すること」が業務として規定される |
具体的な説明
ここからは大学の講義レベルで、心理アセスメントの定義、進め方、方法、情報の統合、倫理を整理します。
「検査」と「アセスメント」の違い
Gregory J. Meyerら(2001)のレビューは、題名のとおり心理検査と心理アセスメントを分けて論じ、検査を、心理職が専門的な見立てを示すために使う「道具」と位置づけています。両者の違いを整理すると次のとおりです。
| 比較項目 | 心理検査(psychological testing) | 心理アセスメント(psychological assessment) |
|---|---|---|
| 何をするか | 検査を実施し、得点や反応を得る | 検査結果に加え、面接・観察・生育歴・関係者からの情報などを統合する |
| ゴール | 尺度の得点を出すこと | その人を理解し、紹介された問い(何に困っていて、どう支援するか)に答えること |
| 担い手に求められるもの | 決められた手順どおりに実施・採点する技能 | 複数の情報を突き合わせ、矛盾も含めて解釈する専門的な判断 |
日本では、公認心理師法第2条が公認心理師の業務として4つを挙げ、その第1号に「心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること」、つまりアセスメントを置いています。第2号は要支援者本人への相談・助言・指導その他の援助、第3号は関係者(家族や教員など)への援助、第4号は心の健康に関する教育と情報提供です。
アセスメントの進め方
| 段階 | すること | ポイント |
|---|---|---|
| ①問いを明確にする | 誰が、何に困って、何を知りたいのか(主訴・相談の目的)を確かめる | 目的があいまいなまま検査を始めない |
| ②説明と同意 | 目的・方法・結果の使い方を説明し、同意を得る(インフォームド・コンセント) | 子どもの場合は保護者にも説明する。断る自由も伝える |
| ③情報を集める | 観察・面接・検査で、本人と関係者から情報を集める | 複数の方法・複数の情報源を使う |
| ④統合して見立てる | 情報を整理し、問題の成り立ちについて仮説を立てる(ケース・フォーミュレーション) | 困りごとだけでなく強み・リソースも含める |
| ⑤フィードバック | 本人や関係者に、生活に生かせる言葉で結果を伝える | 数値だけがひとり歩きしないようにする |
| ⑥支援と再アセスメント | 支援を行い、変化を確かめて見立てを修正する | アセスメントは支援の間ずっと続く |
また、自殺の危険、虐待、暴力など、緊急性が高い状況を見きわめるリスクアセスメントは、ほかの段階より優先して行います。
情報を集める3つの方法(観察法・面接法・検査法)
| 方法 | 内容 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 観察法 | 行動や表情、話し方、人とのかかわり方を見る。日常場面で見る自然観察法と、条件を整えた場面で見る実験観察法がある | 言葉で表現するのが難しい乳幼児などにも使える。実際の行動がわかる | 観察者の思い込みが入りやすい。観察されることで行動が変わることがある |
| 面接法 | 話を聞いて情報を得る。初回のインテーク面接や、見立てのための査定面接など | 主訴、生育歴、家族の状況などを幅広く、柔軟に聞ける。関係づくりも同時にできる | 面接者の技量や、本人の話す力・意欲に左右される |
| 検査法 | 標準化された心理検査を実施し、結果を基準(ノルム)と比べる | 客観的で、ほかの人や過去の本人と比べられる | 1つの検査でわかる範囲は限られる。本人の負担や実施条件の影響を受ける |
面接法は、質問の決め方で3つに分けられます。
| 種類 | 進め方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 構造化面接 | 質問の内容と順番があらかじめ決まっている | 診断のための面接や研究など、誰が行っても同じ情報を得たいとき |
| 半構造化面接 | 主な質問は決めておき、流れに応じて質問を足したり順番を変えたりする | 必要な情報を押さえつつ、相手の語りも大切にしたいとき |
| 非構造化面接 | 話題や流れを相手にゆだねる | 相手の自由な語りから理解を深めたいとき |
アメリカの精神科医Harry Stack Sullivanは、講義録 The Psychiatric Interview(1954年刊)で、面接者は相手を外から眺めるだけの存在ではなく、その場の関係に参加し影響を与えながら観察していると述べました。これを「関与しながらの観察(participant observation)」といいます。面接中の相手の反応には、面接者自身のふるまいも影響している、という視点です。
心理検査の主な種類
| 種類 | しくみ | 代表的な検査 |
|---|---|---|
| 知能検査 | 知的能力の水準や、能力のかたより(得意・不得意)を調べる | 田中ビネー知能検査、ウェクスラー式(WPPSI、WISC、WAIS)、K-ABC |
| 発達検査 | 乳幼児期からの運動・言語・社会性などの発達の状態を調べる | 新版K式発達検査、遠城寺式乳幼児分析的発達検査法、津守式乳幼児精神発達診断法 |
| 質問紙法 | 質問に「はい・いいえ」などで答えてもらう。実施・採点が簡単だが、本人が意識できる範囲しか測れず、答えを意図的にゆがめることもできる | MMPI、YG性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)、NEO-PI-R、BDI-II、STAI |
| 投影法 | あいまいな刺激への自由な反応に、本人も気づいていない心の動きが映し出される(投影される)と考える。解釈に熟練が必要 | ロールシャッハ・テスト、TAT(主題統覚検査)、P-Fスタディ、SCT(文章完成法) |
| 描画法 | 絵を描いてもらい、その内容や描き方から理解する(投影法に含めることもある) | バウムテスト、HTP、風景構成法 |
| 作業検査法 | 一定の作業を行ってもらい、作業量の変化などから性格や行動の特徴をとらえる | 内田クレペリン精神検査 |
| 神経心理学的検査 | 記憶・注意・言語・遂行機能など、脳の働きと結びついた認知機能を調べる | MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ウィスコンシンカード分類検査 |
試験では「この検査はどの種類か」という分類問題がよく出ます。ひっかけになりやすいのは次の4つです。
- SCTは投影法:用紙に書き込む形なので質問紙法と間違えやすいですが、未完成の文を自由に完成させる投影法です。
- P-Fスタディは投影法:欲求不満場面の絵に、登場人物のせりふを書き込みます。
- 内田クレペリン精神検査は作業検査法:一桁の足し算を続け、作業量の変化(作業曲線)を見ます。
- 新版K式は発達検査:結果は発達年齢・発達指数(DQ)で表され、知能検査ではありません。
テスト・バッテリー
1つの検査で人のすべてがわかるわけではありません。そこで、目的に合わせて性質の異なる複数の検査を組み合わせて実施することをテスト・バッテリーといいます。たとえば、意識的な自己像をとらえる質問紙法と、意識しにくい側面をとらえる投影法を組み合わせます。
ただし、検査は多ければよいわけではありません。検査は本人にとって時間的・心理的な負担になるため、アセスメントの問いに答えるのに必要な最小限の組み合わせにします。
よい検査の条件:標準化・信頼性・妥当性
| 用語 | 意味 | 主な確かめ方 |
|---|---|---|
| 標準化 | 実施方法・採点方法をそろえ、多くの人のデータから基準(ノルム)をつくること | 大規模な標準化サンプルの収集 |
| 信頼性 | 何度測っても、誰が測っても、結果が安定していること | 再検査法、折半法、内的整合性(クロンバックのα係数)、評定者間一致 |
| 妥当性 | 測りたいものを本当に測れていること | 内容的妥当性、基準関連妥当性、構成概念妥当性(収束的・弁別的妥当性) |
「信頼性が高くても妥当性が高いとは限らない(毎回同じように1kgずれる体重計のように)」「妥当性が高いためには一定の信頼性が必要」という関係は、試験の定番です。
情報の統合:生物心理社会モデルとケース・フォーミュレーション
集めた情報は、ばらばらに並べるのではなく、1人の人の姿として統合します。その枠組みとしてよく使われるのが、Engel(1977)の考えにもとづく生物心理社会モデル(biopsychosocial model:BPSモデル)です。
| 側面 | 見る内容の例 | 立ち歩く小学生の例 |
|---|---|---|
| 生物(Bio) | 身体の病気、睡眠・食欲、服薬、発達の特性 | 夜ふかしで睡眠不足ではないか。視力や聴力に問題はないか |
| 心理(Psycho) | 感情、考え方のくせ、ストレス対処、知的能力、自己像 | 「どうせできない」とあきらめていないか。得意・不得意のかたよりはあるか |
| 社会(Social) | 家族関係、学校・職場の環境、経済状況、地域の支援 | クラスの雰囲気、席の位置、家庭の状況の変化はないか |
そのうえで、「なぜこの問題が起き、なぜ続いているのか」を仮説としてまとめたものをケース・フォーミュレーション(事例定式化)といいます。行動療法・認知行動療法では、行動を「きっかけ(先行事象:Antecedent)→ 行動(Behavior)→ 結果(Consequence)」の流れで分析する機能分析(ABC分析)がよく使われます。たとえば「難しい課題が出る → 立ち歩く → 課題をしなくてすむ」なら、課題から逃れられることが行動を続けさせているのかもしれない、と考えます。ケース・フォーミュレーションは正解を決めるものではなく、支援をしながら検証し、修正していく仮説です。
臨床的判断と統計的判断
情報を統合するとき、専門家の経験と直感でまとめる方法を臨床的判断(clinical prediction)、あらかじめ決めた式や基準でまとめる方法を統計的(機械的)判断(statistical / mechanical prediction)といいます。Meehl(1954)がこの比較を問題提起し、のちにWilliam M. Groveら(2000)のメタ分析は、平均すると統計的判断のほうが約10%正確で、臨床的判断が大きく上回った研究はごく一部(6〜16%)だったと報告しました。
これは「専門家は不要」という意味ではありません。思い込みや第一印象に引っぱられやすい人間の判断のくせを自覚し、信頼性・妥当性の確かめられた尺度や基準を活用することが大切だ、という教訓として理解しましょう。
アセスメントの倫理
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| インフォームド・コンセント | 何のために、何を、どのように行い、結果をどう使うのかを説明し、同意を得る。断る自由があることも伝える |
| 秘密保持 | 公認心理師法第41条は「正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない」と定める。ただし、自傷他害の危険が高いときや虐待が疑われるときなどは、秘密保持の例外になりうる |
| 連携 | 同法第42条は、関係者等との連携を保つこと、要支援者に主治の医師があるときはその指示を受けることを定める |
| フィードバック | 専門用語や数字だけで伝えず、本人や関係者が生活に生かせる言葉で伝える |
| 検査の管理 | 検査用具や問題内容をむやみに公開しない(練習されると正しく測れなくなる)。十分な訓練を受けた人が実施する |
分野ごとのアセスメント
| 分野 | よくある問い | 主な方法・道具の例 |
|---|---|---|
| 発達・教育 | 発達の遅れや偏りはあるか。学習のつまずきの原因は何か。どんな配慮や指導が合うか | 発達検査、知能検査、授業場面の行動観察、保護者・教員からの聴き取り |
| 臨床・障害 | どんな症状や困りごとがあり、どの程度か。障害の特性に応じた支援は何か | インテーク面接、半構造化面接、質問紙法、投影法、神経心理学的検査 |
| 健康・福祉 | ストレスや心身の不調の程度はどうか。認知機能は低下していないか。生活を支える資源は十分か | 抑うつ・不安の質問紙、HDS-RやMMSEなどの認知機能検査、生活状況や家族・地域資源の聴き取り |
試験で問われやすいポイント
| 論点 | 押さえること |
|---|---|
| 検査とアセスメント | 検査は道具、アセスメントは情報を統合して見立てる過程全体 |
| 3つの方法 | 観察法・面接法・検査法の長所と限界。面接の構造化の程度 |
| 検査の分類 | SCT・P-Fは投影法、内田クレペリンは作業検査法、新版K式は発達検査 |
| テスト・バッテリー | 性質の異なる検査の組み合わせ。ただし多ければよいわけではない |
| 信頼性と妥当性 | 信頼性は妥当性の必要条件だが十分条件ではない |
| 見立て | ケース・フォーミュレーションは修正していく仮説。強み・リソースも含める |
| 倫理 | インフォームド・コンセント、秘密保持とその例外、わかる言葉でのフィードバック |
公認心理師試験研修センターが公表している「令和9年版 公認心理師試験出題基準・ブループリント」でも、第14章「心理状態の観察及び結果の分析」の出題割合は約8%とされ、上の論点の多くが小項目に並んでいます。事例問題で「次に行うべき対応はどれか」と問われる形にも慣れておきましょう。
実験や観察の方法と結論
アセスメントは「支援の前の準備」と思われがちですが、結果を本人と一緒に話し合うこと自体が支援になりうることを示した研究があります。また、なぜ多方法が必要なのかを示した大規模なレビューもあります。
研究1:検査結果のフィードバックの効果(Finn & Tonsager, 1992)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 大学の学生相談機関で、カウンセリングの順番を待っている学生(待機者リストから無作為に選ばれた) |
| 方法 | 32人はMMPI-2を受け、協働的なやり方で結果のフィードバックを受けた。29人は検査者から関心を向けられるだけだった(統制群)。両群は年齢、性別、最初の苦痛や自尊感情の水準に差がなかった |
| 結果 | 統制群と比べて、フィードバック群は症状による苦痛が減り、自尊感情が高まり、問題について希望をもてるようになった。この差はフィードバック直後だけでなく2週間後にも見られた |
| 結論 | 心理アセスメントは、それ自体が治療的な介入として使える |
この研究を出発点の一つとして、Stephen E. Finnらは、本人の疑問を出発点に検査を行い、結果を一緒に考える治療的アセスメント(Therapeutic Assessment)を発展させました。
研究2:メタ分析とその批判(Poston & Hanson, 2010/Lilienfeld et al., 2011)
Poston と Hanson は、心理アセスメントを治療的介入として用いた17の研究(参加者1,496人)をメタ分析しました。全体の効果量はCohen’s d = 0.423で、とくに治療関係などの治療プロセスに関する変数で大きな効果(d = 1.117)が見られました。著者らは、個人に合わせた協働的なフィードバックを伴うアセスメントは、治療によい影響を与えると結論づけています。
これに対しScott O. Lilienfeldら(2011)は、①アセスメント以外の治療的な要素を含む研究まで分析に入れている、②有意でなかった結果の多くを除いている、③もとの研究が、バーナム効果(誰にでも当てはまる説明を「自分のことだ」と感じる現象)による改善という別の説明を排除していない、と指摘し、効果が大きく見積もられている可能性を論じました。「フィードバックには効果がありうるが、どんな条件で、なぜ効くのかはまだ検討中」と理解しておくのが適切です。
研究3:心理検査の妥当性と多方法アセスメント(Meyer et al., 2001)
Meyerらは、検査の妥当性に関する125を超えるメタ分析と、多方法アセスメントを調べた800のサンプルのデータをもとに、次の4点を結論づけました。
- 心理検査の妥当性は強く、説得力がある
- 心理検査の妥当性は、医学的検査の妥当性と同程度である
- 異なるアセスメントの方法は、それぞれ独自の情報をもたらす
- 面接だけに頼る臨床家は、理解が不完全になりやすい
とくに3と4は、テスト・バッテリーや多方法・多情報源による情報収集が必要だという考え方の重要な根拠になっています。
例文
「スクールカウンセラーは、授業中の行動観察と保護者面接、知能検査の結果を統合してアセスメントを行い、担任と支援方針を話し合いました。」
「初回のインテーク面接では、主訴だけでなく、生育歴や家族の状況、本人の強みについても丁寧にアセスメントすることが大切です。」
「自殺をほのめかす発言があったため、公認心理師はただちにリスクアセスメントを行い、主治医と情報を共有しました。」
疑問
Q: アセスメントと心理検査は同じものですか?
A: 同じではありません。心理検査は、標準化された手続きで得点や反応を得る「道具」です。アセスメントは、検査の結果に加えて、面接や観察、生育歴、家族や学校からの情報などを統合して、その人を理解し、支援方針を立てるまでの過程全体を指します。検査を行わず、面接と観察だけでアセスメントをすることもあります。
Q: 「診断」と「アセスメント」はどう違うのですか?
A: 診断は、医師が症状などをもとに、病気や障害を診断基準にあてはめて判断するものです。心理アセスメントの目的は診断名を決めることではなく、困りごとの背景や強み、環境などを含めてその人を理解し、支援に生かすことです。同じ診断名の人でも、必要な支援は一人ひとり違います。公認心理師は、要支援者に主治医がいる場合はその指示を受け、連携しながらアセスメントを行います。
Q: 検査はたくさん組み合わせるほど正確になるのですか?
A: いいえ、多ければよいわけではありません。性質の違う検査を組み合わせるテスト・バッテリーは有効ですが、検査は本人にとって時間的・心理的な負担になります。「何を知りたいのか」という問いをはっきりさせ、その答えを得るのに必要な検査を選ぶことが大切です。
Q: 経験豊かな専門家の「勘」は、検査の点数より信頼できるのではありませんか?
A: 必ずしもそうとはいえません。Grove ら(2000)のメタ分析では、平均すると、決まった式や基準で情報をまとめる統計的判断のほうが、臨床家の判断より約10%正確でした。経験は大切ですが、人の判断には思い込みや第一印象の影響が入りやすいため、信頼性・妥当性の確かめられた尺度と組み合わせて使うことが勧められます。
Q: アセスメントは最初に1回やれば終わりですか?
A: いいえ、アセスメントは支援の間ずっと続きます。最初の見立て(ケース・フォーミュレーション)は仮説なので、支援をしながら新しい情報や本人の変化をもとに見直していきます。支援の効果を確かめるために、同じ尺度を時間をおいて実施することもあります。
理解度を確認する問題
問題1. 心理アセスメントに関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 心理アセスメントとは、標準化された心理検査を実施し、その得点を算出する手続きのことである
- B. 心理アセスメントの対象は要支援者の問題点や症状であり、本人の強みや周囲の資源は含めない
- C. 心理アセスメントは、検査・面接・観察などから得た情報を統合して支援に役立つ仮説を立てる過程であり、支援の経過の中で見直される
- D. 面接で得た情報には主観が入るため、標準化された検査の結果が得られた場合は、面接の情報よりも常に検査結果を優先して解釈する
正解:C アセスメントは、複数の方法から得た情報を統合して見立て(仮説)を立て、支援しながら修正していく過程です。Aは心理検査(testing)の説明で、Meyerら(2001)が分けて論じたように、検査はアセスメントの道具の一つにすぎません。Bは誤りで、強みやリソースは支援の手がかりになるため、アセスメントの大切な対象です。Dは一見もっともらしいですが誤りです。異なる方法はそれぞれ独自の情報をもたらすので、検査と面接の結果が食い違うときは、どちらかを機械的に優先するのではなく、「なぜ食い違うのか」も含めて統合的に解釈します。
問題2. 心理検査とその分類の組み合わせとして、正しいものはどれか。
- A. SCT(文章完成法) ― 質問紙法
- B. 内田クレペリン精神検査 ― 投影法
- C. P-Fスタディ ― 投影法
- D. 新版K式発達検査 ― 知能検査
正解:C P-Fスタディ(Rosenzweigが考案)は、欲求不満場面の絵を見て登場人物のせりふを書き込む投影法です。Aは誤りで、SCTは用紙に書き込む形式ですが、書き出しだけが示された文を自由に完成させる投影法です。「紙に書く=質問紙法」と考えるとひっかかります。Bは誤りで、内田クレペリン精神検査は一桁の足し算を続けて作業量の変化を見る作業検査法です。Dは誤りで、新版K式は乳幼児期からの発達の状態を調べる発達検査で、結果は発達年齢や発達指数(DQ)で表します。
問題3. 小学3年生のAさんは、授業中にたびたび席を立って教室を歩き回る。担任から相談を受けたスクールカウンセラーが最初に行うアセスメントとして、最も適切なものはどれか。
- A. 立ち歩きは注意欠如・多動症(ADHD)の特徴なので、ADHDであると判断し、保護者にその旨を伝える
- B. 知能検査を実施し、全検査IQが平均の範囲であれば、学習面のつまずきはないと判断する
- C. 授業場面の行動観察と、本人・保護者・担任からの聴き取りを行い、立ち歩きが起きやすい場面やその前後の状況を整理して仮説を立てる
- D. 担任の報告には主観が入るため用いず、Aさん本人が回答する質問紙の結果だけをもとに判断する
正解:C 観察と複数の人からの聴き取りで、行動が起きる場面と前後の状況(ABC)を整理し、仮説を立てるのがアセスメントの基本です。Aは誤りで、1つの行動だけで決めつけるのは不適切ですし、診断は医師が行うものです。Bは誤りで、全検査IQが平均の範囲でも、能力の間に大きなかたよりがあったり、読み書きなど特定の学習につまずいていたりすることがあります。Dは誤りで、小学生の自己評定には限界があり、多方法・多情報源から情報を集めることが大切です。
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- 心理検査(Psychological Testing)
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関連論文
まずこの1本
Meyer, G. J., Finn, S. E., Eyde, L. D., Kay, G. G., Moreland, K. L., Dies, R. R., Eisman, E. J., Kubiszyn, T. W., & Reed, G. M.(2001)Psychological testing and psychological assessment: A review of evidence and issues. American Psychologist, 56(2), 128–165.
心理検査とアセスメントの「効き目」を、125を超えるメタ分析をもとに検討した代表的なレビューです。「心理検査の妥当性は医学的検査と同程度」「異なる方法はそれぞれ独自の情報をもたらす」「面接だけでは理解が不完全になりやすい」という結論は、テスト・バッテリーや多方法アセスメントの根拠として今も広く引用されています。また、検査(testing)とアセスメント(assessment)を分けて論じ、熟練した臨床家が多方法のアセスメント・バッテリーを使うことで個別のアセスメントの妥当性を高められると提案した点も重要です。試験対策としては、検査とアセスメントの違い、テスト・バッテリー、観察法・面接法・検査法の長所と限界、情報の統合という論点と結びつけて押さえておきましょう。
https://doi.org/10.1037/0003-066X.56.2.128
その他の参考文献
Murray, H. A., & MacKinnon, D. W.(1946)“Assessment of OSS personnel.” Journal of Consulting Psychology, 10(2), 76–80.
概要 第二次世界大戦中、OSS(戦略情報局)で行われた人材選抜のためのアセスメント・プログラムを報告した論文です。
解説 面接、心理検査、状況テストなど複数の方法を組み合わせ、スタッフが話し合って総合的に評価するやり方は、多方法アセスメントの原型といえます。1948年の著書 Assessment of Men(OSS Assessment Staff)とあわせて、アセスメントの歴史を学ぶうえで重要な文献です。
https://doi.org/10.1037/h0057480
Finn, S. E., & Tonsager, M. E.(1992)“Therapeutic effects of providing MMPI-2 test feedback to college students awaiting therapy.” Psychological Assessment, 4(3), 278–287.
概要 カウンセリングを待つ大学生にMMPI-2の結果を協働的にフィードバックし、検査者の関心を向けるだけの統制群と比較した研究です。
解説 フィードバック群で症状による苦痛が減り、自尊感情が高まり、その差は2週間後にも見られました。「アセスメントそのものが支援になりうる」という治療的アセスメントの考え方の出発点となった研究です。
https://doi.org/10.1037/1040-3590.4.3.278
Poston, J. M., & Hanson, W. E.(2010)“Meta-analysis of psychological assessment as a therapeutic intervention.” Psychological Assessment, 22(2), 203–212.
概要 心理アセスメントを治療的介入として用いた17の研究(参加者1,496人)をメタ分析した研究です。
解説 全体の効果量は d = 0.423 で、とくに治療プロセスに関する変数で効果が大きいことを示しました。個人に合わせた協働的なフィードバックの大切さを裏づける研究として引用されます。
https://doi.org/10.1037/a0018679
Lilienfeld, S. O., Garb, H. N., & Wood, J. M.(2011)“Unresolved questions concerning the effectiveness of psychological assessment as a therapeutic intervention: Comment on Poston and Hanson (2010).” Psychological Assessment, 23(4), 1047–1055.
概要 Poston & Hanson(2010)のメタ分析に対するコメント論文です。
解説 アセスメント以外の治療要素を含む研究の混入、有意でない結果の除外、バーナム効果という別の説明の可能性を指摘しました。研究結果をうのみにせず批判的に読む練習として、Poston & Hanson とあわせて読むのがおすすめです。
https://doi.org/10.1037/a0025177
Grove, W. M., Zald, D. H., Lebow, B. S., Snitz, B. E., & Nelson, C.(2000)“Clinical versus mechanical prediction: A meta-analysis.” Psychological Assessment, 12(1), 19–30.
概要 人の健康と行動に関する予測・判断について、臨床家の判断と機械的(統計的)な判断の正確さを比べたメタ分析です。
解説 平均すると機械的な判断のほうが約10%正確で、その傾向は判断の課題や判断者の経験の量にかかわらず一貫していました。臨床面接のデータを含む場合、臨床的判断は相対的に成績がよくありませんでした。Meehl(1954)以来の議論に、データで答えた研究です。
https://doi.org/10.1037/1040-3590.12.1.19
Engel, G. L.(1977)“The need for a new medical model: A challenge for biomedicine.” Science, 196(4286), 129–136.
概要 病気を身体の異常だけで説明する生物医学モデルを批判し、心理的・社会的要因も含めて人を理解する新しいモデルの必要性を論じた論文です。
解説 生物心理社会モデルの原典として知られ、アセスメントで情報を整理・統合するときの基本的な枠組みになっています。
https://doi.org/10.1126/science.847460
Cronbach, L. J., & Meehl, P. E.(1955)“Construct validity in psychological tests.” Psychological Bulletin, 52(4), 281–302.
概要 直接観察できない心理的な特性(構成概念)を検査がどの程度とらえているかを確かめる「構成概念妥当性」の考え方を示した古典的論文です。
解説 妥当性の議論の土台となった論文で、信頼性・妥当性を問う試験問題の背景知識として役立ちます。
https://doi.org/10.1037/h0040957
公認心理師法(平成27年法律第68号)/公認心理師試験研修センター「令和9年版 公認心理師試験出題基準・ブループリント」
概要 公認心理師の業務・義務を定めた法律と、試験の範囲・出題割合を示した公式資料です。
解説 法律では第2条(4つの業務)、第41条(秘密保持義務)、第42条(連携等)がアセスメントにかかわる条文です。出題基準では第14章「心理状態の観察及び結果の分析」(約8%)に関連用語がまとまっています。受験前には必ず最新版を確認してください。
https://laws.e-gov.go.jp/law/427AC1000000068
https://www.jccpp.or.jp/files/items/104/File/blue_print_2027.pdf
覚え方
①アセスメントの中身:「見る・聞く・測る、そしてまとめる」。観察法(見る)・面接法(聞く)・検査法(測る)で情報を集め、最後に統合する(まとめる)までがアセスメントです。「測る」だけでは検査にすぎません。
②検査の分類:「書いても投影(SCT・P-F)、足し算は作業(クレペリン)、K式は発達」。紙に書く形でも、自由に答える検査は投影法です。
③テスト・バッテリー:「電池(バッテリー)は組み合わせて使う」。性質の違う検査を組み合わせて弱点を補います。ただし電池を入れすぎると重くなるように、検査も入れすぎは本人の負担になります。
④見立ては「天気予報」。ケース・フォーミュレーションは、新しい情報が入るたびに更新していく仮説です。
| 覚えること | キーワード |
|---|---|
| 検査とアセスメントの違い | 検査は道具、アセスメントは統合(Meyer et al., 2001) |
| 多方法アセスメントの原型 | OSSの人材選抜(Murray & MacKinnon, 1946) |
| 情報を統合する枠組み | 生物心理社会モデル(Engel, 1977) |
| 面接者も場の一部 | 関与しながらの観察(Sullivan) |
| フィードバックが支援になる | 治療的アセスメント(Finn & Tonsager, 1992) |
| 公認心理師法の業務 | 第2条第1号=観察し、分析する(アセスメント) |


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