気質(Temperament)とは、生まれて間もないころから見られる、刺激への反応のしかたや気分の出方の個人差のことです。性格(パーソナリティ)の土台となる、生物学的な基礎をもつ傾向です。
簡単な説明
クラス替えの初日、隣の人にすぐ話しかける人もいれば、様子を見てから少しずつ話す人もいます。赤ちゃんでも、同じ家で育つきょうだいに「よく眠りよく飲む子」と「物音ですぐ泣く子」がいます。
しつけや経験だけでは説明しにくい「もともとの反応のくせ」が気質です。気質に、よい・悪いはありません。大切なのは、気質とまわりの関わり方がかみ合っているかです。靴でいえば、足や靴が悪いのではなく、サイズが合うかが問題なのです。
由来
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1956年 | 精神科医のAlexander ThomasとStella Chessらがニューヨーク縦断研究(NYLS)を開始 |
| 1968年 | Thomasらが『Temperament and Behavior Disorders in Children』を刊行 |
| 1981年 | Mary K. Rothbartが乳児の気質の測定法を発表。Derryberryと気質を「反応性と自己制御の個人差」と定義 |
| 1984年 | Jerome Kaganらが見慣れないものへの行動抑制を報告。Arnold H. BussとRobert PlominがEASの理論をまとめた著書を刊行 |
具体的な説明
体液のバランスで人を4タイプに分ける古典的な類型論は四気質説、四体液説で扱っています。ここでは、乳幼児の行動を観察して測る現代の気質を説明します。
Thomas & Chessの9つの次元と3つのタイプ
| 次元 | 内容 |
|---|---|
| 活動水準 | 体の動きの多さ |
| 周期性(規則性) | 睡眠・空腹・排せつのリズム |
| 接近・回避 | 新しいものに近づくか、しりごみするか |
| 順応性 | 変化に慣れる速さ |
| 反応の閾値 | 反応に必要な刺激の強さ |
| 反応の強さ | 反応のエネルギーの大きさ |
| 気分の質 | 機嫌のよい・悪いのどちらが多いか |
| 気の散りやすさ | 刺激で行動がそれやすいか |
| 注意の範囲と持続性 | 1つの活動に取り組む長さ |
9次元の組み合わせから3タイプが見いだされました。
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 扱いやすい子(easy child) | リズムが規則的で、新しいことに近づき、すぐ慣れる。機嫌がよいことが多い |
| 扱いにくい子(difficult child) | リズムが不規則で、新しいことにしりごみし慣れにくい。反応が強く、機嫌が悪いことが多い |
| エンジンのかかりにくい子(slow-to-warm-up child) | 最初はしりごみするが、くり返すと少しずつ慣れる。いやがる反応はおだやか |
NYLSでは、扱いやすい子が約40%、扱いにくい子が約10%、エンジンのかかりにくい子が約15%で、約35%はどれにも当てはまりませんでした。「扱いにくい子」と「エンジンのかかりにくい子」はどちらもしりごみしますが、反応の強さと慣れ方が違います。試験でまぎらわしい点です。
適合のよさ(goodness of fit)
ThomasとChessは、気質そのものよりも、子どもの気質と環境(親や学校の期待・要求)との調和が、その後の適応を左右すると考えました。たとえば活動水準の高い子は、静かさを強く求める家庭では叱られ続けますが、外で体を動かせる家庭なら問題になりにくいでしょう。「親のせい」「子のせい」ではなく組み合わせでとらえる点が重要です。
この考えは、子どもと環境が互いに影響し合って発達が進むとするArnold Sameroffの相互規定的作用モデル(transactional model)にもつながります。泣きやすい子に親が疲れて関わりが減り、子どもがさらに不安定になる、というように影響は双方向です。
Rothbartの気質モデル
Rothbartは気質を、反応性(反応の速さ・強さ)と自己制御(反応を調整するはたらき)の、体質に基づく個人差と定義しました。車でいえばアクセルとブレーキの効き方です。
3〜7歳児の質問紙(CBQ)の因子分析では、外向性/高潮性(Surgency)、否定的情動性(Negative Affectivity)、エフォートフル・コントロール(Effortful Control)の3次元が取り出され、中国や日本の子どもでも同じ構造が見られています。エフォートフル・コントロールは、注意や行動を自分で切りかえたり抑えたりする高次の自己制御で、脳の実行注意のネットワークと関連づけられています。
Kaganの行動抑制
Kaganは、見慣れない人・物・場所に対して引っこみ、慎重になる傾向を行動抑制(behavioral inhibition)と呼びました。乳幼児期の人見知りは多くの子に見られる発達の一過程ですが、行動抑制は、その強さや続き方の個人差に注目した概念です。
主な研究者とキーワード
| 研究者 | キーワード |
|---|---|
| Thomas & Chess | 9次元・3タイプ・適合のよさ |
| Buss & Plomin | EAS=情動性(Emotionality)・活動性(Activity)・社交性(Sociability) |
| Rothbart | 反応性と自己制御・エフォートフル・コントロール |
| Kagan | 行動抑制 |
気質と性格(パーソナリティ)の違い
| 気質 | 性格(パーソナリティ) | |
|---|---|---|
| 現れる時期 | 乳児期から | 経験を重ねて形づくられる |
| 中身 | 反応の強さ・速さ、気分、注意など | 気質に加え、価値観・態度・自己概念など |
公認心理師試験の出題基準(令和9年版)には、「感情及び人格」に「気質」、「発達」に「気質と環境」「相互規定的作用モデル」が挙がっています。
実験や観察の方法と結論
ニューヨーク縦断研究
133人を乳児期から成人期初期まで追い、行動上の問題が見られた人には臨床評価と追跡を行いました。そして「適合のよさ」の考え方が有用だと結論づけました。18〜22歳の追跡では、3歳・5歳時点の「扱いにくい-扱いやすい」が、成人期初期の気質・適応・精神医学的診断の有無と有意に関連していました。
Kaganらの研究
見慣れない場面で極端に控えめな2歳児と、極端にのびのびした2歳児を追跡しました。7歳時点でも、控えめだった群の多くは見知らぬ人を避けがちで、のびのびした群の多くはよく話しました。生後4か月で刺激に手足をよく動かし、よく泣いた乳児は、動きも泣きも少ない乳児に比べ、9か月・14か月で見慣れないものをより怖がりました。成人後には、生後2年目に抑制的とされた人ほど、見慣れない顔に扁桃体が強く反応しました。
例文
「新しい保育園で遊びの輪に入れない子が、エンジンのかかりにくい子の気質なら、急がせず慣れる時間をとることが大切です。」
「同じ気質でも親の期待とかみ合うかで適応は変わる、というのが適合のよさです。」
疑問
Q: 「扱いにくい子」と言われたら、その子は将来問題をかかえるのですか?
A: そうとは限りません。NYLSでは幼児期の扱いにくさと成人期初期の適応に関連が見られましたが、これは集団の傾向です。Thomasらは、その後を左右するものとして適合のよさを重視しました。
Q: 気質は一生変わらないのですか?
A: 比較的安定していますが、固定されてはいません。抑制的・非抑制的という特徴は、乳児期から思春期初期まで中程度に安定していると報告されています。
Q: 気質は遺伝で決まるのですか?
A: 「決まる」とまではいえません。Kaganらは生まれつきの覚醒しやすさの違いが内気さに関わる可能性を論じていますが、表れ方は環境で変わります。
理解度を確認する問題
問題1. 2歳のAちゃんは、初めての公園では母親のそばで静かに見ていたが、何度か通ううちに遊び始めた。泣きわめくことはない。Thomas & Chessの3タイプで最も当てはまるものはどれか。
- A. 扱いやすい子
- B. 扱いにくい子
- C. エンジンのかかりにくい子
- D. どのタイプにも当てはまらないため、行動抑制と判定される
正解:C 最初はしりごみしてもくり返すと慣れ、反応がおだやかなのが特徴です。Aはすぐ近づき慣れるタイプです。Bはまぎらわしいですが、反応が強く慣れにくい点が違います。Dの行動抑制はKaganの概念で、3タイプに入らない子の判定名ではありません。
問題2. 気質の研究者と概念の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
- A. Thomas & Chess ― 情動性・活動性・社交性(EAS)
- B. Rothbart ― 適合のよさ
- C. Kagan ― 行動抑制
- D. Buss & Plomin ― エフォートフル・コントロール
正解:C AのEASはBuss & Plomin、Bの適合のよさはThomas & Chess、Dのエフォートフル・コントロールはRothbartの概念です。
問題3. 活動水準の高いBくんは、静かさを強く求める家庭で叱られ続け、反抗的になった。外で体を動かす時間を増やすと、行動は落ち着いた。この経過を最もよく説明する考え方はどれか。
- A. 扱いにくい気質の子は、環境にかかわらず問題行動を示すという考え
- B. 子どもの気質と環境の期待や要求との調和が、適応を左右するという考え
- C. 親子の気質が似ているほど、親子関係がよくなるという考え
- D. 気質は経験だけで作られ、生まれつきの個人差はないという考え
正解:B 気質は同じでも環境の要求が変わると適応が変わったので、適合のよさで説明できます。Aは行動が落ち着いた経過と合いません。Cは「似ていること」ではなく気質と要求の調和が要点です。Dは、気質が生物学的な基礎をもつ個人差であることと矛盾します。
関連キーワード
- ニューヨーク縦断研究(New York Longitudinal Study: NYLS)
- 適合のよさ(Goodness of Fit)
- 行動抑制(Behavioral Inhibition)
- エフォートフル・コントロール(Effortful Control)
- 相互規定的作用モデル(Transactional Model)
- ビッグファイブ理論(Big Five)
関連論文
まずこの1本
Thomas, A., & Chess, S.(1984)Genesis and evolution of behavioral disorders: From infancy to early adult life. American Journal of Psychiatry, 141(1), 1–9.
NYLSの133人を乳児期から成人期初期まで追い、行動上の問題の出現と経過をまとめた論文です。個人と環境との調和である適合のよさが発達の道すじをたどるのに役立つと述べています。試験ではThomas & Chess=9次元・3タイプ・適合のよさの組み合わせと、環境との関係を重視した点を押さえましょう。
https://doi.org/10.1176/ajp.141.1.1
その他の参考文献
Kagan, J., Reznick, J. S., & Snidman, N.(1988)“Biological bases of childhood shyness.” Science, 240(4849), 167–171.
概要 控えめな2歳児とのびのびした2歳児を7歳まで追った2つの縦断研究をまとめ、行動抑制に生物学的な基礎がある可能性を論じた論文です。
https://doi.org/10.1126/science.3353713
ほそめがねのひとこと
子どものころ、まわりから「おとなしい」「活発」などと言われた経験はありますか?今の自分と比べてどう感じますか?
覚え方
①3タイプ:「すいすい・ぐずぐず・そろそろ」。すいすい=扱いやすい、ぐずぐず=扱いにくい、そろそろ=エンジンのかかりにくい子です。
②研究者:「トマチェスは相性、バスプロはEAS、ロスバートはアクセルとブレーキ、ケーガンは引っこみ」。
③気質と性格:「気質は素材、性格は料理」。素材(気質)に経験という調理が加わって性格になります。


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