家庭裁判所(Family Court)とは、夫婦・親子などの家庭の問題(家事事件)と、非行のある少年の事件(少年事件)を専門に扱う裁判所です。白黒をつけるだけでなく、問題の背景を調べ、これからの生活をどう立て直すかを考えるのが特徴です。
簡単な説明
両親が離婚することになり、「子どもはどちらと暮らすか」でもめたとします。公開の法廷で家族が言い争えば、気持ちの対立はかえって深まり、いちばん傷つくのは子どもかもしれません。
また、中学生が万引きをくり返したとき、罰を与えるだけで立ち直れるとは限りません。家庭の事情や友だち関係など、非行の背景に目を向ける必要があります。
そこで家庭裁判所では、家事事件や少年審判を非公開の手続で行い、話し合い(調停)や教育的な働きかけを重視します。たとえるなら「罰を決める場所」というより、家族と子どものこれからを一緒に考える場所です。そのために、心理学などを学んだ家庭裁判所調査官という専門職が置かれています。
由来
家庭裁判所は、1949年(昭和24年)1月1日、それまでの家事審判所と少年審判所を統合して誕生しました。少年審判所は、1922年(大正11年)制定の旧少年法にもとづく機関です。現在の少年法は1948年(昭和23年)に制定されました。
心理学との関係では、家庭裁判所調査官が心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの行動科学の知識や技法を使って調査・調整を行う点が重要です。
具体的な説明
家庭裁判所が扱う事件(裁判所法31条の3)
| 種類 | 内容の例 |
|---|---|
| 家事事件(家事事件手続法) | 審判(成年後見、相続など)と調停(離婚、養育費、親子交流など) |
| 人事訴訟(人事訴訟法) | 離婚訴訟などの第一審 |
| 少年保護事件(少年法) | 非行のある少年の調査・審判 |
家事事件:まず話し合い
離婚などは、いきなり訴訟をせず、まず家事調停を申し立てるのが原則です(調停前置主義、家事事件手続法257条)。調停委員会は裁判官1人と家事調停委員2人以上で組織されます。子どもに影響する審判では、家庭裁判所調査官の調査などで子の意思を把握するよう努めることが定められています(同法65条)。親による児童虐待が疑われる家庭の問題に、家庭裁判所が関わることもあります。
なお、2026年(令和8年)4月1日施行の改正民法により、離婚後も父母の双方を親権者とする(共同親権)か一方とするかを選べるようになり、話し合いで決まらないときは家庭裁判所が子の利益を考えて定めます。
少年事件:大人の刑事裁判との違い
少年法の「少年」は20歳未満の者です。対象は、犯罪少年(14歳以上で罪を犯した少年)、触法少年(14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年)、ぐ犯少年(家出をくり返すなど、将来罪を犯すおそれのある少年)の3つです(3条)。14歳未満の少年は、都道府県知事または児童相談所長から送致されたときに限り審判の対象になります。
| 大人の刑事裁判 | 少年審判(家庭裁判所) | |
|---|---|---|
| 目的 | 犯罪に刑罰を科す | 少年の健全な育成(1条) |
| 入口 | 検察官が起訴するか決める(起訴猶予あり) | 嫌疑があれば軽い事件も原則すべて送る全件送致主義(41条・42条) |
| 公開 | 公開の法廷 | 非公開で「懇切を旨として、和やかに」行い、内省を促す(22条) |
| 主な結論 | 刑罰 | 保護処分が中心 |
少年保護事件の流れ
- 送致:警察・検察から家庭裁判所へ(全件送致)。
- 観護措置:必要なときは少年を少年鑑別所に送ります(17条)。期間は原則2週間で、更新により通常は最長4週間、一定の事件で証拠調べが必要な場合は最長8週間です。
- 調査:家庭裁判所調査官による社会調査です。調査だけで終える審判不開始もあります。
- 審判:処分を決めにくいときは、調査官が一定期間ようすを見る試験観察(25条)を行い、民間のボランティアなどに少年の補導を委ねる補導委託を併せることもあります。どちらも処分を決める前の中間的な措置です。
| 終局決定 | ポイント |
|---|---|
| 保護処分(24条) | ①保護観察 ②児童自立支援施設・児童養護施設送致 ③少年院送致の3種類だけ |
| 検察官送致(逆送) | 刑事処分が相当なとき(20条)。保護処分ではない。犯行時16歳以上で故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件は原則逆送 |
| 知事・児童相談所長送致 | 児童福祉機関の指導に委ねるのが相当なとき |
| 不処分・審判不開始 | 処分はしないが、訓戒や指導などの教育的な働きかけは行われる |
家庭裁判所調査官と少年鑑別所
取り違えやすいのがこの2つです。少年法9条は、調査に医学・心理学・教育学・社会学などの専門的知識、特に少年鑑別所の鑑別結果を活用するよう求めています。
| 家庭裁判所調査官 | 少年鑑別所 | |
|---|---|---|
| 所属 | 裁判所(各家庭裁判所・各高等裁判所。裁判所法61条の2) | 法務省の施設 |
| 働き方 | 裁判官の命令で調査する | 家庭裁判所などの求めで鑑別する |
| 方法 | 少年・保護者との面接、心理テスト、家庭や学校の調査 | 面接、心理検査、所内での生活・行動のようす |
| 結果 | 報告書を裁判官に提出 | 非行に影響した資質上・環境上の問題と処遇の指針を示す(少年鑑別所法16条) |
| 家事事件 | 子の意思の把握などで関わる | 関わらない |
非行の背景に、くり返す攻撃的・反社会的な行動のパターン(行為障害)が見られる場合もあり、調査や鑑別ではそうした心理面も検討されます。
2022年4月施行の改正少年法(特定少年)
民法の成年年齢が18歳になったことにあわせ、2021年5月に改正法が成立し、2022年4月1日に施行されました。18歳・19歳は特定少年として引き続き少年法の対象(全件送致も維持)ですが、次の特例があります。
- 原則逆送の拡大:死刑・無期または短期1年以上の刑に当たる罪の事件も原則逆送の対象に(62条)
- ぐ犯を理由とする保護処分は行わない(65条)
- 保護処分は、6か月の保護観察、2年の保護観察、少年院送致(収容期間は3年以下)のいずれかを、犯情の重さを考慮して選ぶ(64条)
- 推知報道(実名・写真など)の禁止は、逆送されて起訴された段階から解除される(略式手続を除く。68条)
例文
「父母が子どもの養育費や親子交流について合意できなかったため、母親は家庭裁判所に調停を申し立てました。」
「家庭裁判所調査官は、少年や保護者との面接、心理テストの結果をもとに、非行の背景と立ち直りの課題を報告書にまとめました。」
疑問
Q: 2026年4月からは、離婚すると必ず共同親権になるのですか?
A: いいえ。父母の話し合いで、双方を親権者にするか一方にするかを決めます。決まらないときは家庭裁判所が子の利益のために判断し、子の心身に害を及ぼすおそれがある場合や、暴力などのため父母が共同して親権を行うことが難しい場合には、必ず一方を親権者と定めます(改正民法819条)。
Q: 「不処分」になった少年は、何もされずに帰されるのですか?
A: いいえ。不処分や審判不開始の場合でも、裁判官や調査官による訓戒・指導、犯罪被害について考えさせる講習などの教育的な働きかけが行われ、少年や保護者がそれをどう受け止めたかを見極めたうえで決定されます。
Q: 心神喪失などで重大な他害行為をした人の処遇(医療観察法)も、家庭裁判所が決めるのですか?
A: いいえ。医療観察法の処遇事件を扱うのは地方裁判所で、裁判官1人と精神保健審判員(必要な学識経験をもつ医師)1人の合議体が判断します。家庭裁判所と取り違えないよう注意しましょう。
理解度を確認する問題
問題1. 中学3年生(15歳)のAさんが、万引きをくり返して警察に検挙された。その後の手続に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 被害額が少ないため、検察官が起訴猶予とすれば、家庭裁判所には送致されない
- B. 家庭裁判所が必要と認めれば少年鑑別所に送致され、その収容期間は原則2週間である
- C. 審判は、手続の公正さを保つため公開の法廷で行われる
- D. 法務省に所属する家庭裁判所調査官が、Aさんの家庭や学校について社会調査を行う
正解:B 観護措置による収容は原則2週間で、更新により通常は最長4週間です(17条)。Aは誤りで、少年事件には全件送致主義があり、軽い事件でも嫌疑があれば家庭裁判所に送られます。Cは誤りで、審判は非公開です。Dはまぎらわしいですが誤りで、社会調査をするのは正しくても、調査官は裁判所の職員です。法務省の施設は少年鑑別所です。
問題2. 少年法24条の「保護処分」に当たるものとして、正しいものはどれか。
- A. 試験観察
- B. 検察官送致
- C. 児童自立支援施設送致
- D. 補導委託
正解:C 保護処分は保護観察・児童自立支援施設等送致・少年院送致の3種類です。AとDはまぎらわしいですが、試験観察と補導委託は、処分を決める前に少年のようすを見る中間的な措置(25条)です。Bは刑事処分を相当として事件を検察官に戻す決定(20条)で、保護処分とは別物です。
問題3. 2022年4月施行の改正少年法における「特定少年」に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 18歳・19歳は少年法の適用対象から外れ、成人と同じ刑事手続で扱われる
- B. 特定少年の事件については、家庭裁判所への全件送致が廃止された
- C. 特定少年については、ぐ犯を理由とする保護処分は行わない
- D. 特定少年については、家庭裁判所に送致された段階で実名報道が可能になる
正解:C 特定少年にはぐ犯の規定が適用されません(65条)。AとBは誤りで、18歳・19歳も引き続き少年法の対象で、全件送致も維持されています。Dはまぎらわしいですが誤りで、推知報道の禁止が解除されるのは、家庭裁判所への送致ではなく逆送されて起訴された段階からです(略式手続を除く)。
関連キーワード
- 家庭裁判所調査官
- 家事調停/調停前置主義
- 全件送致主義
- 観護措置/少年鑑別所
- 試験観察/補導委託
- 保護処分(保護観察・少年院送致など)
- 特定少年
- 犯罪・非行の用語一覧
関連論文
まずこの1本
Steinberg, L., & Scott, E. S.(2003)Less guilty by reason of adolescence: Developmental immaturity, diminished responsibility, and the juvenile death penalty. American Psychologist, 58(12), 1009–1018.
Laurence Steinberg(心理学者)とElizabeth S. Scottが、発達の視点から少年の刑事責任と少年への死刑の是非を論じた論文です。刑法では、判断能力が低下しているとき、行為が強いられたとき、行為がその人らしくないときに責任が軽くなります。著者らはこれに当てはめ、青年は判断能力が未熟で、周りからの強い働きかけに抵抗しにくく、人格がまだ変化の途中にあるので、大人と同じ基準で責任を問うべきではないと主張し、多くの少年を大人とは別の司法制度で扱い、少年を死刑の対象にしないよう求めました。試験対策としては、この3つの理由と、少年を大人と別の手続で扱う考え方が、日本の少年法の目的(少年の健全な育成)や保護処分中心のしくみと重なる点を押さえましょう。
https://doi.org/10.1037/0003-066X.58.12.1009
ほそめがねのひとこと
「家庭裁判所」と聞いて、最初はどんな場所を思い浮かべていましたか? 学んでみて印象は変わりましたか?
覚え方
①2つの柱:「家(家事)と子(少年)の家裁」。家庭の問題と少年の非行の両方を扱います。
②流れ:「全部送って、鑑別で見て、調査官が聴いて、和やかに審判」。全件送致→観護措置(少年鑑別所。必要なときだけ)→調査→非公開の審判の順です。
③保護処分は3つ:「観察・自立・少年院」。試験観察・補導委託・検察官送致は保護処分ではありません。
④所属:「調査官は裁判所、鑑別所は法務省」。
⑤特定少年:「18・19は少年法のまま、ぐ犯なし・報道は起訴から」。


コメント