学校文化(School Culture)とは、学校で過ごす人々が学び、共有し、受け継いでいく「その学校らしさ」のまとまりです。制服のような目に見えるものから、教師や生徒が当たり前と思っている考え方までを含みます。
試験対策では論者と分類の組み合わせ、隠れたカリキュラム、学校風土・学級風土との違い、チーム学校を押さえましょう。
簡単な説明
転校した日を想像してください。前の学校ではチャイムが鳴ってから席に着けばよかったのに、新しい学校ではチャイム前に全員が座っている。誰も説明しないのに、数日で自然に合わせている自分に気づきます。
このように、学校には教科書に書かれていない「ここではこうする」というきまりや感覚があります。それが学校文化で、次の3つがすべて含まれます。
- 目に見える物:校舎、制服、校章
- 決まったやり方:朝の会、始業式
- 頭の中の当たり前:「時間は守るもの」「先生の話は静かに聞く」
学校文化にはどの学校にも共通する部分とその学校だけの部分があります。「順番を待つ」のように授業で教えていないのに身につくことは「隠れたカリキュラム」と呼ばれます。
由来
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1932年 | Willard Wallerが『The Sociology of Teaching』で「学校の独自な文化(the separate culture of the school)」を論じる(学校社会学の出発点) |
| 1968年 | Philip W. Jacksonが『Life in Classrooms』で隠れたカリキュラム(hidden curriculum)を論じる |
| 1986年 | 耳塚寛明が『新教育社会学辞典』で定義と構成要素を整理 |
| 1996年・2002年 | 久冨善之・志水宏吉が学校文化の構造を整理 |
| 2009年 | Jonathan Cohenらが学校風土(school climate)の合意定義を紹介 |
Wallerは、この文化を一部は子どもたちがつくり、一部は子どもの活動を方向づけるために教師がつくるものとし、学校の儀式もその一部だとしました。
具体的な説明
定義と3つの構成要素(耳塚, 1986)
耳塚(1986)は学校文化を「学校集団の全成員あるいはその一部によって学習され、共有され、伝達される文化の複合体」と定義し、3つの構成要素を挙げています。
| 要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 物質的要素 | 学校内の物質的な人工物 | 校舎、設備、教具、衣服 |
| 行動的要素 | パターン化した行動様式 | 授業の進め方、儀式、行事、生徒活動 |
| 観念的要素 | 知識・技能、規範、価値観、態度 | 教育内容、「時間を守るべき」という規範 |
さらに耳塚は、学校文化がどの学校にも普遍的な性格をもつ一方で、生徒の下位文化・教員の下位文化・制度的な下位文化が各学校の歴史や社会的文脈の中で独特に展開して形づくられる、と整理しています。「構成要素の3つ」と「下位文化の3つ」を混同しないようにしましょう。
層で見る学校文化(久冨・志水)
| 論者 | とらえ方 |
|---|---|
| 久冨善之(1996) | 学校を「磁場」にたとえ、制度文化(教科・時間割・学級編成などの枠組み)、教員文化(教員の職業的文化)、生徒文化、「校風」文化(校章・校歌・入学式などの象徴や儀礼)の4つで説明 |
| 志水宏吉(2002) | マクロ:近代の制度としての学校がもつ文化/メゾ:国・時代・学校段階ごとの文化/ミクロ:伝統や校風として語られる個別の学校の文化 |
隠れたカリキュラム(Jackson, 1968)
学習指導要領や時間割のように明示された顕在的カリキュラムに対し、学校生活の中で暗黙のうちに学ばれる内容を隠れたカリキュラム(潜在的カリキュラム)といいます。目標として示されていなくても、時間割や評価など意図的な慣行や組織の構造から生まれる点が大切です。Jacksonは小学校の教室生活を観察し、どの子も向き合う3つの「生活上の事実」として群れ(crowds)・賞賛(praise)・権力(power)を挙げました。
- 群れ:大勢の仲間と同じ空間で過ごす(順番を待つ、など)
- 賞賛:教師などから評価される中で過ごす
- 権力:教師や学校という権威に合わせて行動する
隠れたカリキュラムは学校文化が子どもに伝わる経路の一つです。
学校風土(school climate)との違い
Cohenら(2009)は、学校風土を「学校生活の質と特徴」とし、規範・目標・価値・対人関係・教授学習の実践・組織構造を反映する、一人ひとりの経験を超えた集団的な現象とする合意定義を紹介しました。Thapaら(2013)のレビューは、安全・関係・教授と学習・組織環境・学校改善のプロセスの5次元に整理しています。
文化と風土の区別は研究者間で一致していませんが、試験向けには次のように整理できます。
| 比較項目 | 学校文化 | 学校風土・学級風土 |
|---|---|---|
| 主な学問的背景 | 教育社会学(Waller以来の学校社会学) | 教育心理学・学校心理学 |
| 何を見るか | 共有された行動様式・価値・当たり前の前提 | 成員が感じとる雰囲気や関係の質 |
| 主な調べ方 | 参与観察、面接、事例研究 | 質問紙による測定 |
日本では伊藤・松井(2001)の「学級風土質問紙」が代表例です。「深い層の文化」と「表の風土」という区別は、安全文化/安全風土と同じ構図です。
学校組織文化とチーム学校
教師研究では、組織文化の概念を学校に当てはめた学校組織文化もあります。今津孝次郎(2012)は、目に見える「形態」、言葉にされる「価値・行動様式」、教師が疑わない「黙示的前提」の3次元でとらえています。公認心理師試験の出題基準(令和9年版)の大項目18「教育に関する心理学」にも学校組織文化、学級風土とチーム学校があります。
スクールカウンセラーには学校文化の理解が欠かせません。中教審のチーム学校答申(2015)は、「校長のリーダーシップの下」で教員と心理・福祉等の専門スタッフが連携・分担する学校像を示し、教職員の配置と組織文化等の改革に一体的に取り組むこと、多職種による協働の文化を取り入れることを求めました。
実験や観察の方法と結論
Jackson(1968)は、小学校の教室を観察し、子どもたちが順番を待つこと、たえず評価されること、教師の権威に従うことに毎日なじんでいく様子を描きました。教科とは別の学びです。
伊藤・松井(2001)は、21中学校85学級の生徒2,465名に質問紙を実施し、学級を単位に分析して「学級活動への関与」「生徒間の親しさ」「学級内の不和」など8尺度を得て、コンサルテーションへの活用を提案しました。
例文
「この中学校では、上級生が行事を仕切り、下級生が見て学ぶという学校文化が受け継がれています。」
「テストの点数だけが掲示される教室では、『結果がすべて』という価値観が隠れたカリキュラムとして伝わるおそれがあります。」
疑問
Q: 隠れたカリキュラムは悪いものなのですか?
A: 良い悪いではなく「意図せず伝わる」点が大切です。協力のように役立つものも、偏った価値観もあります。自覚すれば見直せます。
Q: 学校文化と学校風土は同じものではないのですか?
A: 重なりは大きく、区別しない研究者もいます。目安として、学校文化は共有された前提という深い層、学校風土は成員がどう感じているかという表の層で、質問紙で測られることが多いと覚えましょう。
Q: 学校文化は変えられるのですか?
A: 変えられますが、時間がかかります。学校文化は教師・生徒・地域の関わりの中でつくり直され、チーム学校答申も組織文化等の改革を求めています。
理解度を確認する問題
問題1. 隠れたカリキュラムに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- A. 学習指導要領に明記された目標のうち、評価の対象外のものを指す
- B. Jackson(1968)は、教室生活の群れ・賞賛・権力という特徴に着目し、教科内容とは別に学ばれるものに目を向けた
- C. 教師が意図して教えていないものなので、学校の制度や慣行とは関係なく生じる
- D. Jackson(1968)は、大学生への質問紙調査だけをもとに隠れたカリキュラムを論じた
正解:B Aは誤りで、明記された目標は顕在的カリキュラムです。Cはまぎらわしいですが誤りで、隠れたカリキュラムは時間割や評価など意図的な慣行や組織の構造から生まれます。Dは誤りで、Jacksonは主に小学校の教室の観察にもとづいて論じました。
問題2. 学校文化の構造に関する論者と分類の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
- A. 耳塚寛明 ― マクロ・メゾ・ミクロの3層
- B. 志水宏吉 ― 形態・価値/行動様式・黙示的前提の3次元
- C. 今津孝次郎 ― 物質的・行動的・観念的要素
- D. 久冨善之 ― 制度文化・教員文化・生徒文化・「校風」文化
正解:D 久冨は学校を「磁場」にたとえ、4つの文化で説明しました。Aは志水、Bは今津、Cは耳塚の分類です。数ではなく中身と論者をセットで覚えましょう。
問題3. 学校風土・学級風土などに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- A. Thapaら(2013)のレビューは、学校風土の次元として群れ・賞賛・権力の3つを挙げた
- B. 伊藤・松井(2001)の学級風土質問紙は、生徒個人の性格を測る検査で、学級単位の分析はしていない
- C. Cohenら(2009)が紹介した合意定義では、学校風土は一人ひとりの経験を超えた集団的な現象とされる
- D. チーム学校答申(2015)は、教職員の配置さえ充実すれば組織文化は見直さなくてよいとした
正解:C Aは誤りで、群れ・賞賛・権力はJacksonです。Thapaらは5次元に整理しました。Bは誤りで、伊藤・松井は学級を単位に分析しています。Dは誤りで、答申は配置と組織文化等の改革に一体的に取り組むよう求めています。
関連キーワード
- 隠れたカリキュラム(Hidden Curriculum)
- 学校風土(School Climate)/学級風土(Classroom Climate)
- 教員文化(Teacher Culture)/生徒文化(Student Culture)
- 学校組織文化(School Organizational Culture)
- チーム学校(チームとしての学校)
- 不登校
- いじめ
関連論文
まずこの1本
西徳宏(2022)学校文化の経験的把握に向けた分析視角の検討:正統的周辺参加理論の援用可能性に着目して. 大阪大学大学院人間科学研究科紀要, 48, 15–33.
Waller(1932)から耳塚・久冨・志水・今津までの学校文化論を整理し、正統的周辺参加論の活用を検討した、無料で読める論文です。試験対策では論者と分類の組み合わせを押さえましょう。
https://doi.org/10.18910/86859
その他の参考文献
Cohen, J., McCabe, E. M., Michelli, N. M., & Pickeral, T.(2009)“School climate: Research, policy, practice, and teacher education.” Teachers College Record, 111(1), 180–213.
概要 2007年に米国で合意された学校風土の定義を示し、良い学校風土が学業達成や暴力予防、教員の定着と関連するという研究と、政策・教員養成とのずれを論じました。
https://doi.org/10.1177/016146810911100108
ほそめがねのひとこと
自分が通っていた学校で、「この学校ではこうするのが当たり前」と感じていたきまりや習慣には、どんなものがありましたか?
覚え方
①Jacksonの3つの特徴:「ジャクソンの教室は、むれ・ほめ・ちから」。crowds・praise・powerです。
②論者の整理:「ミミは物・行・観、クドミは制・教・生・校風、シミズはマクロ・メゾ・ミクロ、イマヅは形・価値・黙示」。
③文化と風土:「文化は根っこ、風土は空気」。空気(雰囲気)は質問紙で測れます。


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