一貫性論争(Person-Situation Debate)とは、「人の行動を決めるのは性格(人)か、その場の状況か」「性格は場面が変わっても一貫して行動に表れるのか」をめぐり、1968年の Walter Mischel の著書をきっかけに長く続いた性格心理学の論争です。人間-状況論争とも呼ばれ、最終的に「人と状況の相互作用で行動が決まる」という考え方に落ち着きました。
簡単な説明
クラスに「おとなしい」と言われている友だちがいるとします。授業中はほとんど発言しませんが、部活動では大きな声で後輩に指示を出し、仲のよい友だちとゲームをしているときは誰よりもにぎやかです。この友だちは「おとなしい性格」なのでしょうか、「にぎやかな性格」なのでしょうか。
私たちは、性格はいつでもどこでも同じように行動に表れると考えがちです。ところが実際に調べると、ある場面での行動から、別の場面での行動はあまりよく予測できないことがわかりました。これを指摘した Mischel の主張は大きな反発を呼び、15年以上の論争になりました。論争の結果わかったことを、先ほどの友だちで説明します。
- 1回1回の行動は、場面によって大きく変わる(状況の影響は大きい)
- でも何週間分もの行動を平均すると、「ほかの人と比べてやや静かなほう」という傾向はかなり安定している(性格にも意味がある)
- さらに「もし大勢の前なら静か、もし親しい友だちの前ならにぎやか」という場面ごとのパターンそのものが、その人らしさを表している
天気にたとえると、今日の天気(1回の行動)は日によって変わっても、その土地の気候(長い期間の平均)は安定しています。「人か状況か」のどちらか一方が正しかったのではなく、人と状況の組み合わせで行動が決まるというのが現在の考え方です。
由来
古典的な出発点は、1920年代に Hugh Hartshorne と Mark A. May らが行った「性格教育調査(Character Education Inquiry)」です。約11,000人の子どもの正直さ・奉仕・自己統制を多くの場面で調べ、1928〜1930年に全3巻で刊行しました。著者らは、正直さは統一された特性ではなく状況ごとに特殊なものだと結論しました。
1968年、Walter Mischel は著書 Personality and Assessment(New York: Wiley)で、Hartshorne & May を含む多くの研究をレビューし、異なる場面の行動どうし、あるいは性格検査の得点と行動との相関はおよそ .30〜.40 を超えないと指摘しました。この程度の相関は「性格係数(personality coefficient)」と呼ばれ、論争の象徴になりました。Mischel(2009)は、この本が性格心理学の「危機」の時代を招き、論争が15年以上続いたとふり返っています。
| 年 | 主なできごと |
|---|---|
| 1928〜1930年 | Hartshorne と May らが性格教育調査を刊行。行動は場面ごとに特殊と結論 |
| 1968年 | Mischel が Personality and Assessment を刊行。論争が始まる |
| 1974〜1983年 | 特性論側の反論、相互作用論の提唱、再反論が続く(Bem & Allen、Endler & Magnusson、Epstein、Funder & Ozer など。後述) |
| 1994〜1995年 | Yuichi Shoda と Mischel らが if-then パターンの安定性を示し、CAPS を提唱 |
| 2001〜2004年 | William Fleeson が「両方の立場が正しかった」とまとめる |
具体的な説明
何が「一貫性」なのか:通状況的一貫性と時間的安定性
論争でいう「一貫性」は、主に通状況的一貫性(cross-situational consistency)です。「ある場面でほかの人より親切な人は、別の場面でもほかの人より親切か」という場面をこえた個人間の順位の安定性で、異なる場面の行動の相関係数で表します。「同じ行動をとるか」ではなく「順位が保たれるか」が問題で、パーティーより授業中に口数が少なくても、授業中のほかの人より話すなら一貫しているといえます。
| 種類 | 問い | 研究で見られた傾向 |
|---|---|---|
| 通状況的一貫性 | 授業で発言の多い人は、部活動でも多いか(場面が違う) | 低い〜中程度 |
| 時間的安定性 | 今週の授業で発言の多い人は、来週の授業でも多いか(同じ種類の場面) | 高い(Mischel & Peake, 1982) |
Mischel(1968)の批判と、よくある誤解
- 相関が低い:場面の異なる行動どうしや、検査得点と行動の相関はおよそ .30〜.40 まで。.30 で説明できる分散は .30の2乗で約9%にすぎない
- 前提を疑う:研究の質ではなく、「広い特性が場面をこえて一貫して表れる」という仮定がまちがっているのではないか
- 状況の意味が重要:人は、その場面が自分にとって何を意味するかに応じて行動を変えている
Mischel は「性格は存在しない」とは言っていません。Mischel(2009)は、この本が性格心理学者には「性格の存在の否定」と、社会心理学者には「状況の力の証明」と読まれたが、どちらも要点をとらえそこねていたと述べています。批判の対象は、文脈を無視して「親切な人」「攻撃的な人」と広くラベルを貼り、それで個々の場面の行動を予測しようとする考え方でした。1973年の論文では、人が状況をどう受け取り、何を期待し、何を目標とするかという社会的認知的な「人の変数」から性格をとらえ直し、CAPS につなげました。
特性論側の反論1:集積(aggregation)とその限界
もっとも有名な反論が、Seymour Epstein(1979)の集積です。1回の行動にはその日の体調や偶然などの誤差が多く含まれます。テスト1問だけで学力を測ると不正確なのと同じで、1回の行動どうしを比べれば相関が低いのは当然です。多くの機会の行動をまとめれば誤差が打ち消し合い、安定性は高くなります。心理測定学のスピアマン=ブラウンの公式(項目を増やすと信頼性が上がる)と同じ原理です。実際、Hartshorne & May のデータでも、1つのテストどうしの相関は平均 .20 程度でしたが、テストを組み合わせた得点は教師や級友による評判と .50〜.60 程度の相関を示していました(Rushton ら, 1981 による再検討)。
ただし、集積には限界があります。
- 何をまとめるか:Mischel & Peake(1982)は、同じ場面の複数の機会をまとめるのは信頼性を高める有効な手段だが、異なる場面をまとめるのは通状況的一貫性の問題を解決せず「迂回する」にすぎないと指摘しました
- 場面ごとの情報が消える:平均をとると「どの場面でどう変わるか」は誤差として捨てられます。Mischel & Shoda(1995)は、その部分にこそその人らしさが表れると考えました
- 相関0からは生まれない:集積で相関が高まるのは、もとの相関が平均して0より大きいときだけです
特性論側の反論2:状況の効果も .40 弱だった
David C. Funder と Daniel J. Ozer(1983)は、「状況の力」を示したとされる社会心理学の有名な実験(認知的不協和での報酬の大きさ、援助行動での急ぎ具合と傍観者の人数、服従での権威者や被害者との距離)の効果を、性格研究と同じ相関係数に換算しました。すると平均して .40 をわずかに下回る程度で、重要な性格の効果とほぼ同じ大きさでした。「どちらが強いか」を争う意味が問い直されました。
特性論側の反論3:一貫している人を見分ける
Daryl J. Bem と Andrea Allen(1974)は、論文「一部の人を、ときどき予測する(On predicting some of the people some of the time)」で、一貫している人を事前に見分ければ通状況的な相関は高くなると主張し、一貫性の自己評定を調整変数(モデレーター)に使って2つの特性で相関が高まったと報告しました。しかし Mischel & Peake(1982)や、8つの特性で検討した Chaplin & Goldberg(1984)では再現されませんでした。
では、なぜ私たちは「あの人は一貫している」と感じるのでしょうか。この直感と研究結果の食い違いを「性格のパラドックス」といいます。Mischel & Peake(1982)は、一貫しているという判断は、場面をこえた一貫性ではなく、その特性を代表する行動の時間的安定性と強く関係していることを示しました。
相互作用論(interactionism)
落としどころとして広まったのが相互作用論です。古くは Kurt Lewin が、行動(B)は人(P)と環境(E)の関数であるとして B = f(P, E) と表しました。Norman S. Endler と David Magnusson(1976)は、特性論・精神力動論・状況論・相互作用論の4つのモデルを比べ、特性モデルだけでは行動の記述や予測に限界があり、行動は人の変数と状況の変数の連続的で多方向の相互作用で決まると論じました。相互作用論には2つの立場があります。
| 立場 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 機械的相互作用論 | 「人の要因」と「状況の要因」を独立した変数とみなし、分散分析の交互作用のように組み合わせの効果を調べる | 「不安の高い人/低い人」×「試験前/休日」で、緊張の強さに交互作用があるかを調べる |
| 力動的相互作用論 | 人と状況は切り離せず、たえず影響を与え合う。重要なのはその人が意味づけた心理的な状況 | Endler の不安の相互作用モデル:人からの評価に不安を感じやすい人が、その場を「評価される場」と受け取ったときに状態不安が高まる |
CAPS と if-then プロファイル
論争への Mischel 自身の答えが、Mischel と Yuichi Shoda(1995)の認知-感情システム理論(Cognitive-Affective Personality System:CAPS)です(のちに Cognitive-Affective Processing System とも呼ばれます:Mischel, 2009)。人の中には状況を受け取り処理する認知-感情ユニットのネットワークがあり、状況のどの特徴でどのユニットが活性化しやすいか、ユニットどうしがどうつながっているかに安定した個人差があります。その結果、行動は「もし状況Aなら行動X、もし状況Bなら行動Y」という安定したパターンを示し、同じシステムから全体の平均水準の個人差も生まれます。
このパターンを if-then プロファイルまたは行動の署名(behavioral signature)と呼び、ばらつきは「誤差」ではなく性格そのものの表れとみなすのが CAPS の最大の特徴です。ユニットは次の5種類です。
| ユニット | 内容 | 身近な例 |
|---|---|---|
| 1. 符号化(Encodings) | 自己・他者・出来事・状況をとらえるカテゴリー | 先生の注意を「心配」と受け取るか「攻撃」と受け取るか |
| 2. 期待と信念(Expectancies and Beliefs) | 社会、行動の結果、自己効力についての期待・信念 | 「手をあげても、どうせ答えられない」 |
| 3. 感情(Affects) | 気持ち、情動、生理的反応 | 注意されるとカッとなる |
| 4. 目標と価値(Goals and Values) | 望ましい・避けたい結果や感情、人生の目標 | 「友だちに認められたい」 |
| 5. 能力と自己制御プラン(Competencies and Self-regulatory Plans) | 実行できる行動やスクリプト、自分を調整する計画・方略 | 「腹が立ったら10数える」 |
現在の到達点:両方の立場が正しかった
William Fleeson(2001)は、日常生活でくり返し「いま、どれくらい外向的にふるまっているか」などを報告してもらう経験サンプリング法の研究を3つ(各2〜3週間)行いました。人は日常でほぼすべての水準の行動を示すほど変動が大きい一方、行動の分布の中心(平均)の個人差はほぼ完全に安定していました。Fleeson(2004)は、別々の期間の中心どうしの相関がふつう .9 前後になると述べ、「瞬間の行動については状況派が、長い期間の傾向については特性派が正しい。両方の立場が正しかった」とまとめています。性格を「1つの値」ではなく「行動の分布」としてとらえる密度分布の考え方です。
試験で問われやすいポイント
| 論点 | 押さえること |
|---|---|
| 始まり・性格係数 | Mischel(1968)。.30 程度(多くても .40)、説明率は約9% |
| よくある誤解 | Mischel は「性格はない」ではなく「文脈を無視した広い特性では個々の行動を予測できない」と主張 |
| 人名と反論 | 集積=Epstein/状況の効果も .40 弱=Funder & Ozer/一貫する人を見分ける=Bem & Allen(再現されず) |
| 集積の限界 | 機会の集積は有効、場面の集積は問題の迂回(Mischel & Peake, 1982) |
| 相互作用論 | B = f(P, E)(Lewin)、Endler & Magnusson。機械的と力動的の違い |
| CAPS | Mischel & Shoda(1995)。if-then=行動の署名。ばらつき=性格の表れ |
| 現在の結論 | Fleeson:瞬間は状況、長期の平均は特性。両方正しい |
実験や観察の方法と結論
研究1:子どもの正直さは一貫しているか(Hartshorne & May, 1928)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | アメリカの小学生から高校生、約11,000人 |
| 方法 | 家庭・教室・教会・遊び・運動の場面で、ごまかし(うそ・カンニング・盗み)ができる状況や、奉仕・自己統制を調べる行動テストを約33種類実施。教師や級友からの評判も調べた |
| 結果 | 1つのテストと別の1つのテストの相関は、平均 .20 程度 |
| 結論 | 正直さは統一された特性ではなく、状況に特殊なもの(特殊性)。ただし後の再検討では、テストを組み合わせると相関が高まることや一般因子の存在が指摘されている(Rushton ら, 1981) |
研究2:集積しても場面をこえた一貫性は中程度(Mischel & Peake, 1982)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | アメリカの大学生63人 |
| 方法 | 「誠実性(まじめさ)」に関わる行動を、教室・寮・図書館などの場面で学期を通してくり返し観察。複数の機会をまとめた測度で、通状況的一貫性と時間的安定性を比べた |
| 結果 | 信頼性の高い測度でも、通状況的一貫性は中程度にとどまり、時間的安定性は高かった。「自分は一貫している」と答えた学生も場面をこえた一貫性は高くなく、Bem & Allen の結果は再現されなかった |
| 結論 | 機会の集積は有効だが、場面の集積では通状況的一貫性の問題は解決しない。「一貫している」という印象は代表的な行動の時間的安定性にもとづく |
研究3:if-then パターンは安定している(Shoda, Mischel, & Wright, 1994)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 6週間の宿泊型サマーキャンプに参加した7〜13歳の子どもたち |
| 方法 | 1人あたり平均167時間、目立たない形で観察。5つの対人場面(①仲間にからかわれる・挑発される、②大人に注意される、③大人に罰として活動から外される、④仲間から好意的に近づかれる、⑤大人にほめられる)ごとに、言語的攻撃などの行動を記録した。場面ごとに標準化して場面そのものの効果を取り除き、重ならない2つの時期のプロファイルを比べた |
| 結果 | プロファイルは個人の中で安定していた(安定性の平均は言語的攻撃で .47、従順で .41)。ある子は大人に注意されると平均よりずっと攻撃的だが、仲間に好意的に近づかれると平均以下。別の子は逆に、仲間に好意的に近づかれたときに最も攻撃的だった。心理的な特徴が似た場面ほど一貫性も高かった |
| 結論 | 性格は全体の平均水準だけでなく、場面ごとの変化のパターン(行動の署名)としても安定して表れる。このパターンは場面の集積では見えなくなる |
例文
「一貫性論争をきっかけに、性格心理学では『人か状況か』の二者択一ではなく、人と状況の相互作用で行動をとらえる見方が主流になりました。」
「Mischel は、場面の異なる行動どうしの相関がおよそ .30〜.40 を超えないことを指摘し、この程度の相関は『性格係数』と呼ばれるようになりました。」
「スクールカウンセラーは、『乱暴な子』と決めつけず、『休み時間に友だちにからかわれると手が出るが、先生と1対1のときは落ち着いている』という if-then のパターンに注目して支援を考えました。」
疑問
Q: Mischel は「性格なんて存在しない」と主張したのですか?
A: いいえ。Mischel 自身が、1968年の本は「性格の存在を否定した」と誤って読まれてきたと述べています。批判したのは、文脈を無視した広い特性のラベルで個々の場面の行動を予測しようとする考え方です。「性格のとらえ方を変えた人」と理解しましょう。
Q: 相関 .30 は、本当に「小さい」のですか?
A: 1回の行動を予測するには小さいといえますが、意味がないほどではありません。.30 で説明できる分散は約9%ですが、Funder & Ozer(1983)によれば、有名な社会心理学実験の「状況の効果」も相関に換算すると平均して .40 弱でした。また、多くの機会の行動を集積すれば相関は高くなります。何と比べて、1回の行動か平均かを考えることが大切です。
Q: 集積と if-then プロファイルは、どちらが正しいのですか?
A: 見ているものが違います。集積はばらつきを平均して「全体としてどれくらいその傾向が強いか」をとらえ、if-then プロファイルはばらつきの形そのものから「どんな場面でどう変わる人か」をとらえます。CAPS では、両者は同じ性格システムの2つの表れです。
Q: 研究では一貫性が低いのに、なぜ私たちは「あの人はいつもああだ」と感じるのですか?
A: この食い違いは「性格のパラドックス」と呼ばれます。考えられる理由の1つは、私たちが同じ人を同じような場面で見ることが多いことです。Mischel & Peake(1982)は、「一貫している」という判断が、その特性を代表する行動の時間的安定性と強く関係していることを示しました。他人の行動の原因を性格に求めすぎる基本的な帰属の誤りも関係していそうです。
Q: 一貫性論争は、もう終わったのですか?
A: 「人か状況か、どちらが強いか」という形の論争としては、おおむね決着したと考えられています。Fleeson(2004)は「瞬間の行動では状況派が、長い期間の傾向では特性派が正しかった」とまとめました。現在は「どう組み合わさるか」の研究に移っています。
理解度を確認する問題
問題1. 一貫性論争の契機となった Mischel(1968)の主張として、最も適切なものはどれか。
- A. 性格というものは存在せず、人の行動はもっぱらその場の状況によって決まる
- B. 異なる場面での行動どうしや、性格検査の得点と行動との相関はおよそ .30〜.40 を超えず、広い特性が場面をこえて一貫して表れるという前提は十分に支持されていない
- C. 1回の行動には誤差が多いため、多くの機会の行動を平均すれば安定性は大きく高まり、特性による予測が可能になる
- D. 自分は一貫していると評定する人に限れば、場面をこえた行動の相関は高くなる
正解:B Mischel は Personality and Assessment(1968)で、通状況的一貫性を示す相関がおよそ .30〜.40 を超えないことを指摘し、特性論の前提を問い直しました。Aは一見もっともらしいですが、よくある誤解です。Mischel 自身が「性格の存在を否定した」という読み方は誤りだと述べており、むしろ状況の意味づけという「人の側の要因」を重視しました。Cは Epstein(1979)の集積で、Mischel への反論にあたります。Dは Bem & Allen(1974)の主張で、のちの研究では再現されませんでした。
問題2. 一貫性論争における「集積(aggregation)」に関する説明として、最も適切なものはどれか。
- A. 集積を行うと、場面ごとに行動がどう変わるかという情報がより詳しく得られる
- B. スピアマン=ブラウンの公式によれば、1回どうしの相関が0の行動指標でも、数を十分に増やせば合成得点どうしの相関は高くなる
- C. 同じ場面の複数の機会をまとめることは信頼性を高めるうえで有効だが、異なる場面をまとめても通状況的一貫性の問題は解決せず、迂回するにすぎない
- D. Mischel & Peake(1982)の研究では、集積した信頼性の高い測度を使うと、通状況的一貫性は時間的安定性と同じくらい高くなった
正解:C Mischel & Peake(1982)の指摘です。集積は誤差を打ち消して信頼性を高めますが、「何をまとめるか」が重要で、異なる場面をまとめると「場面が違っても順位が保たれるか」という問い自体が見えなくなります。Aは逆で、平均をとると場面ごとの変化は誤差として消えます。Bはひっかけです。集積で相関が高まるのは、もとの相関が平均して0より大きいときで、相関0の測度をいくら集めても相関は生まれません。Dは誤りで、通状況的一貫性は中程度にとどまり、高かったのは時間的安定性のほうでした。
問題3. 小学5年生のBさんは、休み時間に友だちから冗談を言われると強く言い返して口論になるが、先生に注意されると素直に従う。口論の回数がBさんと同じくらいのCさんは、友だちとはうまく遊べるが、先生に注意されると激しく反発する。この2人の違いを最もよく説明する考え方はどれか。
- A. 特殊性の考え方:2人の行動は状況だけで決まっており、個人の特徴とはいえない
- B. 特性論:2人とも「攻撃性」の特性が同じくらい高いので、同じ支援を行えばよい
- C. 機械的相互作用論:「攻撃性の高低」と「場面」という独立した2要因の組み合わせで決まるので、攻撃性が同じくらいの2人は同じ場面で反発するはずである
- D. CAPS:2人は場面の受け取り方や反応のしかたが異なり、それぞれに安定した if-then パターン(行動の署名)をもっている
正解:D 口論の多さという平均的な水準は同じでも、「どんな場面で反発するか」というパターンが異なり、それがその人らしさを表す、と考えるのが CAPS です。Bさんは友だちの冗談を、Cさんは先生の注意を「責められた」と符号化しやすいのかもしれません。Aは誤りで、同じ場面への反応が2人で違うので、状況だけでは説明できません。Bは平均的な水準だけを見て、パターンの違いを見落としています。Cは「人と状況の組み合わせ」を考えている点で惜しいですが、攻撃性を1つの量として扱うと、同じ水準の2人が逆の場面で反発することを説明できません。
関連キーワード
- 特性論(Trait Theory)・状況論(Situationism)
- 相互作用論(Interactionism):機械的・力動的
- 通状況的一貫性(Cross-Situational Consistency)・時間的安定性(Temporal Stability)
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- 認知-感情システム理論(CAPS)・if-then プロファイル・行動の署名(Behavioral Signature)
- 密度分布(Density Distributions)・経験サンプリング法
- B = f(P, E)(Lewin)
- 基本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)
関連論文
まずこの1本
Mischel, W., & Shoda, Y.(1995)A cognitive-affective system theory of personality: Reconceptualizing situations, dispositions, dynamics, and invariance in personality structure. Psychological Review, 102(2), 246–268.
論争を始めた Mischel 自身が、Shoda とともに「性格は変わらないのに、行動は場面で変わる」という矛盾に答えた論文です。前半では、集積は役に立つが場面ごとの変化を誤差として捨ててしまうことを気候と天気のたとえで整理し、キャンプ研究の if-then プロファイルを紹介します。後半では、5種類の認知-感情ユニットの活性化しやすさとつながり方の個人差から、場面ごとの安定したパターンと全体的な平均水準の両方を説明しました。試験では、CAPS=Mischel & Shoda(1995)、if-then プロファイル(行動の署名)、ばらつき=性格の表れの3点が問われます。
https://doi.org/10.1037/0033-295X.102.2.246
その他の参考文献
Mischel, W.(1968)Personality and Assessment. New York: Wiley.
概要 多くの研究をレビューし、場面をこえた行動の一貫性が低いことを指摘した、論争の出発点です。Mischel(2009)“From Personality and Assessment (1968) to personality science, 2009.” Journal of Research in Personality, 43(2), 282–290 は、本の後半は状況の主観的な意味や認知過程を扱っており「性格の否定」の本ではないとふり返っています。
https://doi.org/10.1016/j.jrp.2008.12.037
Hartshorne, H., & May, M. A.(1928)Studies in the Nature of Character, Vol. I: Studies in Deceit. New York: Macmillan.
概要 性格教育調査の第1巻で、子どものうそ・カンニング・盗みを多くの場面で調べ、正直さは状況に特殊だと結論しました。Rushton, Chrisjohn, & Fekken(1981)“The altruistic personality and the self-report altruism scale.” Personality and Individual Differences, 2(4), 293–302 は、愛他性尺度を作る論文の中でテストを組み合わせると相関が .50〜.60 程度になるとして、この結論は誤解されてきたと論じています。
https://doi.org/10.1016/0191-8869(81)90084-2
Epstein, S.(1979)“The stability of behavior: I. On predicting most of the people much of the time.” Journal of Personality and Social Psychology, 37(7), 1097–1126.
概要 行動を多くの機会にわたって集積すると安定性が大きく高まると論じた、特性論側の代表的な反論です。Epstein(1983)“Aggregation and beyond: Some basic issues on the prediction of behavior.” Journal of Personality, 51(3), 360–392 では、適切な集積は誤差を減らすが、不適切な集積は情報を失わせると整理しています。
https://doi.org/10.1037/0022-3514.37.7.1097
https://doi.org/10.1111/j.1467-6494.1983.tb00338.x
Mischel, W., & Peake, P. K.(1982)“Beyond déjà vu in the search for cross-situational consistency.” Psychological Review, 89(6), 730–755.
概要 大学生の誠実性に関わる行動の観察から、集積しても通状況的一貫性は中程度で、時間的安定性は高いことを示しました。「機会の集積」と「場面の集積」の区別が要点です。Bem & Allen(1974)“On predicting some of the people some of the time: The search for cross-situational consistencies in behavior.” Psychological Review, 81(6), 506–520 の非再現は、Chaplin & Goldberg(1984)“A failure to replicate the Bem and Allen study of individual differences in cross-situational consistency.” Journal of Personality and Social Psychology, 47(5), 1074–1090 も報告しています。
https://doi.org/10.1037/0033-295X.89.6.730
https://doi.org/10.1037/h0037130
https://doi.org/10.1037/0022-3514.47.5.1074
Shoda, Y., Mischel, W., & Wright, J. C.(1994)“Intraindividual stability in the organization and patterning of behavior: Incorporating psychological situations into the idiographic analysis of personality.” Journal of Personality and Social Psychology, 67(4), 674–687.
概要 サマーキャンプでの行動観察から、「大人に注意されると攻撃するが、仲間におどされると従う」のような個人に特有の if-then プロファイルが安定していることを示した、CAPS の実証的な土台です。
https://doi.org/10.1037/0022-3514.67.4.674
Funder, D. C., & Ozer, D. J.(1983)“Behavior as a function of the situation.” Journal of Personality and Social Psychology, 44(1), 107–112.
概要 社会心理学の古典的な実験の状況の効果を相関係数に換算し、平均して .40 をわずかに下回る、重要な性格の効果と同じくらいの大きさだと示しました。
https://doi.org/10.1037/0022-3514.44.1.107
Fleeson, W.(2001)“Toward a structure- and process-integrated view of personality: Traits as density distributions of states.” Journal of Personality and Social Psychology, 80(6), 1011–1027.
概要 経験サンプリング法による3つの研究(2〜3週間)で、個人内の変動は非常に大きい一方、行動の分布の中心の個人差はほぼ完全に安定していることを示しました。「両方の立場が正しかった」という結論は Fleeson(2004)“Moving personality beyond the person-situation debate: The challenge and the opportunity of within-person variability.” Current Directions in Psychological Science, 13(2), 83–87 にあります。
https://doi.org/10.1037/0022-3514.80.6.1011
https://doi.org/10.1111/j.0963-7214.2004.00280.x
覚え方
①始まりは「1968、ミッシェルがさんまる(.30)を突きつけた」。「性格係数=さんまる」とセットで覚えましょう。
②集積は「テストは1問じゃ測れない」。問題数を増やせば正確になる、という Epstein の発想です。ただし国語と数学の点を足すと得意・不得意が見えなくなるのが、「場面の集積」の落とし穴です。
③CAPS は「もしも(if)のクセ」。「もし注意されたら怒る」「もしほめられたら照れる」という場面ごとのクセが、その人の「署名」です。「ミッシェルとショウダは、もしもの話」と覚えましょう。
④結論は「天気と気候」。Mischel & Shoda(1995)も使ったたとえです。天気(瞬間の行動)では状況派が、気候(長期の平均)では特性派が正しかったのです。


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