お腹や二の腕の皮膚をつまんだとき、指と指の間に挟まる「ぷにぷにした部分」——これが皮下脂肪です。
サイト法では専用の道具(キャリパー)でこの厚さをミリ単位で計測し、「体の中にどれくらい脂肪があるか」を計算式で推定します。
「皮膚をつまんで、脂肪の量を予測する」——それがサイト法です。
MRIや水中体重測定のような大掛かりな機器が不要で、ジムや学校でも手軽に使える点が最大の特徴です。
結論から言うと—— サイト法とは、キャリパー(皮脂厚計)で身体の特定部位の皮膚をつまみ、その厚さから体脂肪率を推定する方法です。測定部位(サイト)の選び方と正確なつまみ方が精度を左右します。
語源
| 用語 | 語源・意味 |
|---|---|
| Skinfold | 英語 skin(皮膚)+ fold(折り畳む)→「皮膚をつまんだひだ」 |
| Subcutaneous | ラテン語 sub(下)+ cutis(皮膚)→「皮膚の下」 |
| Caliper | ギリシャ語 kalopous(木型)→「はさんで測る道具」 |
| Site | ラテン語 situs(位置・場所)→「測定部位」 |
解説
皮下脂肪厚法の原理
皮下脂肪は体脂肪全体の約50〜70%を占めるとされています。キャリパーで皮膚と皮下脂肪層をつまみ上げ、その厚さを計測することで、体全体の脂肪量を回帰式(推定式)で予測します。
測定値(mm)→ 体密度(g/ml)→ 体脂肪率(%)という2段階の変換が行われます。
NSCAが定める標準測定部位
NSCAでは男女別に3部位法と7部位法が定められています。
男性の測定部位
| 部位 | 場所 | つまむ方向 |
|---|---|---|
| 胸部(Chest) | 腋窩前線と乳頭を結ぶ線上の1/2点 | 斜め45° |
| 腹部(Abdominal) | へそから右へ2cm横 | 垂直 |
| 大腿部(Thigh) | 大腿前面の中点(鼠径部〜膝蓋骨上縁) | 垂直 |
女性の測定部位
| 部位 | 場所 | つまむ方向 |
|---|---|---|
| 上腕三頭筋部(Triceps) | 上腕後面の中点(肩峰〜肘頭) | 垂直 |
| 腸骨上部(Suprailiac) | 腸骨稜のすぐ上・腋窩中線上 | 斜め45° |
| 大腿部(Thigh) | 男性と同部位 | 垂直 |
7部位法の測定部位(男女共通)
より精度を高めたい場合や研究目的では7部位法が使われます。
| 部位 | 場所 |
|---|---|
| 胸部 | 腋窩前線と乳頭を結ぶ線上1/2 |
| 腋窩中部(Midaxillary) | 腋窩中線上・第5肋骨レベル |
| 上腕三頭筋部 | 上腕後面中点 |
| 肩甲骨下部(Subscapular) | 肩甲骨下角から1〜2cm下・斜め45° |
| 腹部 | へそ右2cm |
| 腸骨上部 | 腸骨稜上・腋窩中線 |
| 大腿部 | 大腿前面中点 |
正確な測定手順
- 部位を正確にマーキングする(左右どちらかを統一、通常は右側)
- 親指と人差し指で皮膚と皮下脂肪層だけをつまむ(筋肉を含めない)
- マーキング点から1cm離れた位置にキャリパーを当てる
- キャリパーを当ててから1〜2秒以内に読み取る(時間が経つと圧縮されて薄くなる)
- 同じ部位を2〜3回測定し、平均値を使用する(2回の測定値が1mm以上異なる場合は再測定)
- すべての部位を1周してから2回目を測定する(同部位を連続測定しない)
推定式:Siri式
測定した皮下脂肪厚の合計値から体密度を算出し、Siri式(1956)で体脂肪率に変換します。体脂肪率(%)=(体密度4.95−4.50)×100
体密度の算出にはJackson & Pollock式(1978・1980)が広く使われています。
男性(3部位:胸・腹・大腿)体密度=1.10938−(0.0008267×S)+(0.0000016×S2)−(0.0002574×年齢)
女性(3部位:上腕三頭筋・腸骨上・大腿)体密度=1.0994921−(0.0009929×S)+(0.0000023×S2)−(0.0001392×年齢)
※ S = 3部位の合計値(mm)
測定精度に影響する要因
| 要因 | 影響 |
|---|---|
| 測定者の経験 | 最も大きい。熟練者はICC 0.95以上、初心者は誤差が大きい |
| 測定時間帯 | 運動後・入浴後は皮下に水分が移動し値が変わる |
| 水分摂取状態 | 脱水では薄く、過水和では厚く出る傾向 |
| 肥満度 | 高度肥満(体脂肪率35%以上)では誤差が大きくなる |
| キャリパーの種類 | Lange・Harpenden等の精密キャリパーと安価品で差がある |
豆知識
「右側を測る」理由
NSCAの標準プロトコルでは右側の部位を測定します。これは利き手に関係なく統一されており、研究間の比較を可能にするための国際的な慣習です。左右差がある場合も、必ず右側の値を使います。
「同部位を連続で測らない」理由
同じ部位を続けて2回測ると、皮下組織が圧縮されて2回目の値が薄く出ます。全部位を1周してから2周目を測ることで、この圧縮効果を排除できます。
3部位法 vs 7部位法:どちらを選ぶ?
| 比較項目 | 3部位法 | 7部位法 |
|---|---|---|
| 測定時間 | 短い(現場向き) | 長い(研究・精密評価向き) |
| 精度 | 十分(誤差±3〜4%程度) | より高い |
| NSCAでの使用頻度 | CPT試験の主役 | CSCSレベルでも登場 |
体脂肪率の目安(参考値)
| 分類 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 必須脂肪 | 2〜5% | 10〜13% |
| アスリート | 6〜13% | 14〜20% |
| フィットネス | 14〜17% | 21〜24% |
| 平均 | 18〜24% | 25〜31% |
| 肥満 | 25%以上 | 32%以上 |
関連論文
Jackson & Pollock (1978) 男性を対象に7部位・3部位の回帰式を開発。3部位(胸・腹・大腿)による推定式はNSCA標準プロトコルの基礎となっており、現在も最も広く使われる推定式です。
Jackson, Pollock & Ward (1980) 女性版の推定式を発表。3部位(上腕三頭筋・腸骨上・大腿)による回帰式を確立し、男性版と合わせてJ&P法として世界標準となっています。
Siri (1956) 体密度から体脂肪率を算出するSiri式を発表。シンプルな2定数式でありながら現在も広く使われる基礎式です。
Lohman (1992) 皮下脂肪厚法の測定誤差・信頼性を包括的にまとめた著書。熟練した測定者のSEMは約3〜4%、測定間信頼性はICC 0.90以上であることを示しました。
よくある質問
- Q3部位法と7部位法はどちらを使えばいいですか?
- A
現場でのフィットネス評価にはNSCA標準の3部位法(男性:胸・腹・大腿、女性:上腕三頭筋・腸骨上・大腿)が適しています。より精密な評価や研究目的では7部位法を選択します。NSCAのCPT試験では3部位法が中心です。
- Q測定は右側・左側どちらを測るのが正しいですか?
- A
NSCAの標準プロトコルでは右側を測定します。利き手に関係なく右側に統一することで、研究間・測定者間の比較が可能になります。左右どちらかを測る場合も、毎回同じ側を測定することが重要です。
- Q同じ部位を続けて2回測定してはいけない理由は何ですか?
- A
同じ部位を連続して測定すると、皮下組織が圧縮されて2回目の値が薄く出てしまいます。全部位を1周してから2周目を測定することで、この圧縮効果を排除し正確な値を得ることができます。
- Qキャリパーをあてた後すぐに読み取る必要があるのはなぜですか?
- A
キャリパーをあてたまま時間が経過すると、皮下組織が徐々に圧縮されて値が薄くなっていきます。あててから1〜2秒以内に読み取ることで、圧縮前の正確な皮下脂肪厚を計測できます。
- Q体脂肪率の計算はどのような手順で行いますか?
- A
測定した各部位の皮下脂肪厚(mm)を合計し、Jackson & Pollock式で体密度(g/ml)を算出します。次にSiri式(体脂肪率=(4.95÷体密度-4.50)×100)に代入して体脂肪率(%)を求めます。
- Q皮下脂肪厚法の誤差はどのくらいですか?
- A
熟練した測定者の場合、体脂肪率の推定誤差(SEM)はおよそ±3〜4%程度とされています。測定者の経験・水分摂取状態・測定時間帯・肥満度などによって誤差が変わるため、同一測定者が同じ条件で継続測定することが精度向上のポイントです。
- Q運動直後や入浴後に測定してはいけないのはなぜですか?
- A
運動後や入浴後は体温上昇や発汗により皮下組織への水分分布が変化し、通常より厚く(または薄く)測定される可能性があります。測定は運動や入浴の影響が落ち着いた状態で行うことが推奨されます。
- Q高度肥満の方には皮下脂肪厚法は適していませんか?
- A
体脂肪率が35%以上の高度肥満の方では、皮下脂肪層が厚すぎてキャリパーで正確につまむことが難しくなり、推定誤差が大きくなります。このような場合はBIA(生体電気インピーダンス法)やDXAなど別の体組成評価法の使用が推奨されます。
理解度チェック
問題1 NSCAの3部位法で男性に使用する測定部位の組み合わせとして正しいものはどれか。
A. 上腕三頭筋・腹部・大腿
B. 胸部・腹部・大腿
C. 胸部・腸骨上・大腿
D. 肩甲骨下・腹部・大腿
正解:B 解説:男性の3部位法は胸部・腹部・大腿の3か所です。
問題2 NSCAの3部位法で女性に使用する測定部位の組み合わせとして正しいものはどれか。
A. 胸部・腹部・大腿
B. 上腕三頭筋・腹部・大腿
C. 上腕三頭筋・腸骨上・大腿
D. 肩甲骨下・腸骨上・大腿
正解:C 解説:女性の3部位法は上腕三頭筋・腸骨上・大腿の3か所です。
問題3 皮下脂肪厚の測定において、キャリパーをあてた後の読み取りタイミングとして正しいものはどれか。
A. あてた直後(0.5秒以内)
B. あててから1〜2秒以内
C. あててから5秒後
D. 値が安定するまで待つ(10秒以上)
正解:B 解説:時間が経つと皮下組織が圧縮されて値が薄くなるため、1〜2秒以内の読み取りが推奨されます。
問題4 皮下脂肪厚法で体脂肪率を算出する際に使用するSiri式として正しいものはどれか。
A. 体脂肪率 = (4.95 ÷ 体密度 − 4.50)× 100
B. 体脂肪率 = (体密度 − 4.50)÷ 4.95 × 100
C. 体脂肪率 = 4.95 × 体密度 − 4.50
D. 体脂肪率 = (4.50 ÷ 体密度 − 4.95)× 100
正解:A
問題5 NSCAの標準プロトコルでは皮下脂肪厚測定を身体のどちら側で行うか。
A. 左側
B. 右側
C. 利き手側
D. 利き手と反対側
正解:B 解説:研究間・測定者間の比較を可能にするため、右側に統一されています。
問題6 同じ部位を連続して測定してはいけない主な理由はどれか。
A. 皮膚が赤くなるから
B. 皮下組織が圧縮されて2回目の値が薄く出るから
C. 測定者が疲れるから
D. キャリパーが壊れるから
正解:B
問題7 皮下脂肪厚法の推定精度が低くなる対象として最も適切なものはどれか。
A. 体脂肪率15%の男性アスリート
B. 体脂肪率22%の一般女性
C. 体脂肪率38%の高度肥満者
D. 体脂肪率28%の中年男性
正解:C 解説:高度肥満(体脂肪率35%以上)では皮下脂肪層が厚すぎて正確なつまみが困難になり、誤差が大きくなります。
覚え方
男女の測定部位の覚え方
男性:「胸・腹・太もも」=上から下へ3点 女性:「二の腕・腰骨・太もも」=腕から下へ3点
測定手順の覚え方
「マーク → つまむ → 1cm離す → 2秒で読む → 2〜3回繰り返す」
「マつ1・2・2」と覚えると◎
Siri式の覚え方
「4.95を体密度で割って、4.50を引いて、100倍」
「わって・ひいて・100倍」の3ステップ。
まとめ
- サイト法(皮下脂肪厚法)はキャリパーで特定部位の皮膚をつまみ、Jackson & Pollock式で体密度を算出後にSiri式で体脂肪率を推定する方法で、NSCAでは男女各3部位法が標準です。
- 測定精度を高めるには、右側の部位を測定し・キャリパーをあてて1〜2秒以内に読み取り・全部位を1周してから2回目を測るという手順の厳守が不可欠です。
- 高度肥満・運動直後・脱水状態では誤差が大きくなるため、同一測定者が同じ条件で継続測定することが信頼性の高いデータ収集のカギとなります。
必須用語リスト
| 用語 | 読み・略称 | 説明 |
|---|---|---|
| 皮下脂肪厚法 | Skinfold Method | キャリパーで皮膚をつまみ体脂肪率を推定する方法 |
| キャリパー | Caliper | 皮下脂肪厚を測定する専用のはさみ型器具 |
| サイト(測定部位) | Site | 皮下脂肪厚を測定する身体の特定箇所 |
| 体密度 | Body Density | 体重÷体積で表される体の密度(g/ml) |
| Siri式 | — | 体密度から体脂肪率を算出する計算式 |
| Jackson & Pollock式 | J&P式 | 皮下脂肪厚の合計値から体密度を算出する推定式 |
| 3部位法 | 3-site method | 男女各3か所を測定するNSCA標準プロトコル |
| 7部位法 | 7-site method | 7か所を測定するより精密な評価法 |
| 腸骨上部 | Suprailiac | 腸骨稜すぐ上の測定部位(女性3部位法に含む) |
| 系統誤差 | Systematic Error | 毎回同じ方向にズレる誤差 |
| 偶然誤差 | Random Error | ランダムにバラつく誤差 |
| ICC | 級内相関係数 | 測定の信頼性を示す統計指標 |
| SEM | 測定の標準誤差 | 測定値と真値のズレの大きさを示す指標 |
| 体脂肪率 | Body Fat Percentage | 体重に占める脂肪の割合(%) |
| 皮下脂肪 | Subcutaneous Fat | 皮膚のすぐ下に蓄積する脂肪 |


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