体脂肪率を測る方法はいくつかありますが、皮下脂肪厚法はキャリパー(専用のつまみ道具)を使って体の特定の部位の皮膚と脂肪をつまみ、その厚さをミリ単位で測定する方法です。
わかりやすく言うと、「皮膚をつまんで脂肪がどのくらいついているかを直接測る」方法です。
体重計は体全体の重さしかわかりませんが、皮下脂肪厚法を使うと「どこに脂肪がついているか」「脂肪が増えたか減ったか」を部位ごとに把握できます。
皮下脂肪厚法=「脂肪を直接つまんで測る」体組成評価ツール
結論から言うと 皮下脂肪厚法は専用のキャリパーで皮膚をつまんで脂肪の厚さを測定し、体脂肪率を推定する方法です。体重計だけでは分からない「体組成の変化」を可視化できる現場で使いやすいツールですが、測定者のスキルと部位の正確な特定が精度を大きく左右します。
語源
| 語 | 由来 |
|---|---|
| Skinfold(スキンフォールド) | skin(皮膚)+ fold(折り畳む・つまむ) |
| Caliper(キャリパー) | ギリシャ語 kalopous(木型・形を測る道具) |
「皮膚をつまんで測定する」そのままの命名です。
解説
測定の原理
皮下脂肪厚法は、皮膚と皮下脂肪組織をつまみ上げてキャリパーで厚さを測定します。複数部位の測定値を合計または計算式に代入することで体脂肪率を推定します。
測定の流れ
①測定部位を正確に特定
②皮膚と皮下脂肪を親指と人差し指でつまむ
③キャリパーをつまんだ部位に垂直に当てる
④1〜2秒後に目盛りを読む(mm単位)
⑤同一部位を2〜3回測定して平均値を取る
⑥計算式に代入して体脂肪率を推定
主な測定部位(NSCAで頻出)
3部位法(Jackson & Pollock法・男性)
| 部位 | 日本語 | 測定箇所の詳細 |
|---|---|---|
| Chest(胸部) | 胸部 | 腋窩前線と乳頭を結ぶ線の中点・斜め方向 |
| Abdomen(腹部) | 腹部 | 臍の横2cm・垂直方向 |
| Thigh(大腿部) | 大腿前面 | 鼠径部と膝蓋骨上縁の中点・垂直方向 |
3部位法(Jackson & Pollock法・女性)
| 部位 | 日本語 | 測定箇所の詳細 |
|---|---|---|
| Triceps(上腕三頭筋) | 上腕後面 | 肩峰と肘頭の中点・垂直方向 |
| Suprailiac(腸骨上部) | 腸骨上部 | 腸骨稜の直上・斜め方向 |
| Thigh(大腿部) | 大腿前面 | 鼠径部と膝蓋骨上縁の中点・垂直方向 |
7部位法(より精度が高い)
胸部・腋窩中線・上腕三頭筋・肩甲骨下部・腹部・腸骨上部・大腿前面の7部位を測定します。部位が多いほど精度は上がりますが測定時間も増えます。
体脂肪率の推定式(Jackson & Pollock法)
3部位の合計値と年齢を以下の式に代入します。
男性(胸部・腹部・大腿)
体密度 = 1.10938 - (0.0008267 × 合計mm)
+ (0.0000016 × 合計mm²)
- (0.0002574 × 年齢)
体脂肪率への変換(Siri式)
体脂肪率(%) = (495 ÷ 体密度) - 450
現場ではこの計算を対応表やアプリで行うことが一般的です。
精度と誤差
| 条件 | 推定誤差 |
|---|---|
| 熟練した測定者・適切なプロトコル | ±3〜4% |
| 未熟な測定者・部位の特定ミス | ±5〜8%以上 |
| 水和状態の変化(運動直後・脱水) | 誤差増大 |
他の体組成測定法との比較
| 方法 | 精度 | コスト | 現場での使いやすさ |
|---|---|---|---|
| 皮下脂肪厚法 | 中〜高(測定者依存) | 低 | 高 |
| 生体電気インピーダンス法(BIA) | 中 | 低〜中 | 非常に高 |
| 水中体重測定法 | 高 | 高 | 低 |
| DXA(二重エネルギーX線吸収法) | 最高 | 非常に高 | 低 |
| 空気置換法(Bod Pod) | 高 | 高 | 低 |
豆知識
「体重が変わらない=変化なし」は誤解
筋トレを始めた初期は筋肉量増加と体脂肪減少が同時に起こり、体重がほぼ変わらないことがあります。このときに皮下脂肪厚法を使うと「脂肪は確実に減っている」ことが数値で確認でき、クライアントのモチベーション維持に非常に有効です。
測定精度を上げる5つのポイント
皮下脂肪厚法の最大の弱点は**測定者間誤差(Inter-tester Error)**です。以下を守ることで精度が大幅に向上します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 部位の正確な特定 | 解剖学的ランドマークを基準に毎回同じ位置を測定 |
| 同一測定者による継続測定 | 異なる測定者間の比較は誤差が大きい |
| 運動後を避ける | 運動直後は皮膚血流増加・浮腫で数値が変わる |
| 水分状態を一定に | 脱水・過水和は皮下脂肪厚に影響する |
| 2〜3回測定して平均値を使用 | 1回の測定値だけを使わない |
肥満度の高いクライアントへの注意
皮下脂肪が多すぎるとキャリパーの測定範囲(通常最大80mm程度)を超えてしまい、正確な測定ができません。また使用する推定式は一般集団を対象に作成されているため、極端に肥満度が高いクライアントや極端に筋肉量が多いボディビルダーには誤差が大きくなる傾向があります。
関連論文
Jackson & Pollock (1978) 男性を対象とした3部位法・7部位法の推定式を開発。現在も最も広く使用されているスキンフォールド推定式の基盤となった。
Jackson, Pollock & Ward (1980) 女性を対象とした推定式を開発。男女別の測定部位と計算式の体系化に貢献した。
NSCA Essentials of Personal Training 皮下脂肪厚法を体組成評価の標準的な現場ツールとして位置づけ。測定部位・プロトコル・誤差の管理方法を詳説している。
よくある質問
- Q皮下脂肪厚法はどのくらいの頻度で測定すべきですか?
- A
一般的には4〜8週間に1回が推奨されます。短期間での再測定は日々の水分変動・測定誤差の影響を受けやすく、意味のある変化を検出しにくいです。トレーニングプログラムの評価として定期的に実施することで傾向を把握できます。
- Q右側と左側どちらを測定するのが正しいですか?
- A
慣習的に右側(利き手側)を測定することが多いですが、最も重要なのは毎回同じ側を測定することです。左右差がある場合でも、継続的な変化の追跡が目的であれば一貫性の方が重要です。
- Qキャリパーはどのような製品を選べばいいですか?
- A
現場での使用にはLange社やHarpenden社のキャリパーが精度と信頼性の面で推奨されています。安価なプラスチック製キャリパーは圧力が一定でなく誤差が大きくなりやすいです。NSCAの研究ではスプリング圧が一定(10g/mm²)のキャリパーが推奨されています。
- Q皮下脂肪厚法はボディビルダーや筋肉量の多い人に使えますか?
- A
使用は可能ですが精度が低下します。一般集団を対象に作成された推定式はボディビルダーのような体組成の極端な人には適合しにくく、体脂肪率を実際より高く見積もる傾向があります。競技レベルのアスリートにはDXAなどのより精度の高い方法が推奨されます。
- Q生体電気インピーダンス法(BIA)と比べてどちらが優れていますか?
- A
一概にどちらが優れているとは言えません。皮下脂肪厚法は測定者のスキルに依存しますが水分状態の影響がBIAより小さいです。BIAは操作が簡単で測定者間誤差が少ない反面、水分状態(食事・運動・飲水)に大きく左右されます。目的と環境に応じて使い分けることが推奨されます。
理解度チェック
問題1 皮下脂肪厚法(Jackson & Pollock法)における男性の3部位測定箇所として正しいものはどれか?
A) 上腕三頭筋・腹部・大腿部
B) 胸部・腹部・大腿部
C) 胸部・肩甲骨下部・腸骨上部
D) 腋窩・腹部・大腿部
→ 正解:B
解説: Jackson & Pollock法の男性3部位は胸部・腹部・大腿部です。女性の3部位は上腕三頭筋・腸骨上部・大腿部であり、男女で異なります。この違いはNSCA試験で頻出です。
問題2 皮下脂肪厚法で得られた体密度から体脂肪率を算出する際に使用される式はどれか?
A) Fick式
B) Mifflin-St Jeor式
C) Siri式
D) Harris-Benedict式
→ 正解:C
解説: 体密度から体脂肪率を算出するには**Siri式(体脂肪率=495÷体密度-450)**を使用します。Fick式は心拍出量、Mifflin-St Jeor式とHarris-Benedict式はBMR推定に使用します。
問題3 皮下脂肪厚法の測定精度を下げる要因として正しいものはどれか?
A) 毎回同じ測定者が測定する
B) 運動直後に測定する
C) 2〜3回測定して平均値を使用する
D) 解剖学的ランドマークを基準に部位を特定する
→ 正解:B
解説: 運動直後は皮膚血流の増加・組織の浮腫により皮下脂肪厚の測定値が変化し精度が低下します。同一測定者による測定・複数回の平均値使用・解剖学的ランドマークの活用はいずれも精度を向上させる要因です。
問題4 皮下脂肪厚法と比較して、DXA(二重エネルギーX線吸収法)の特徴として正しいものはどれか?
A) コストが低く現場での使いやすさが高い
B) 測定者のスキルに大きく依存する
C) 精度は最も高いがコストが高く現場での使用が難しい
D) 水分状態の影響を最も受けやすい
→ 正解:C
解説: DXAは体組成測定の中で最も高い精度を持ちますが、高価な機器と専門施設が必要なため現場での日常使用には向きません。皮下脂肪厚法はコストが低く現場での使いやすさが高い反面、測定者スキルに依存するという特徴があります。
問題5 皮下脂肪厚法で使用するキャリパーの適切なスプリング圧はどれか?
A) 5g/mm²
B) 10g/mm²
C) 20g/mm²
D) 50g/mm²
→ 正解:B
解説: NSCAで推奨されるキャリパーのスプリング圧は10g/mm²です。この圧力が一定に保たれることで再現性の高い測定が可能になります。安価なプラスチック製キャリパーはこの圧力が一定でなく誤差が大きくなりやすいため、LangeやHarpendenなどの精密キャリパーが推奨されます。
問題6 継続的な体組成モニタリングにおいて皮下脂肪厚法の測定頻度として最も適切なものはどれか?
A) 毎日
B) 毎週
C) 4〜8週間に1回
D) 6ヶ月に1回
→ 正解:C
解説: 4〜8週間に1回が推奨される測定頻度です。短期間での再測定は日々の水分変動や測定誤差の影響を受けやすく有意な変化の検出が困難です。トレーニングプログラムの評価サイクルに合わせて実施することで意味のある変化を追跡できます。
覚え方
皮下脂肪厚法=「直接つまんで測る」体組成評価 キャリパーでつまんだ脂肪の厚さ(mm)→合計値→推定式→体脂肪率
男女の3部位の覚え方 「男は胸・腹・腿(むね・はら・もも)」 「女は腕・腸骨・腿(うで・ちょうこつ・もも)」
Siri式の覚え方 「495割る密度マイナス450」 →「495(死後)÷密度-450(去後)」
まとめ
- 皮下脂肪厚法はキャリパーで複数部位の皮下脂肪厚をmmで測定しJackson & Pollock法などの推定式で体脂肪率を算出する方法でコストが低く現場で使いやすい体組成評価ツール
- 男性3部位は胸部・腹部・大腿部、女性3部位は上腕三頭筋・腸骨上部・大腿部。体密度からSiri式で体脂肪率に変換する
- 最大の課題は測定者間誤差で、同一測定者による継続測定・解剖学的ランドマークの正確な特定・運動直後を避けた測定が精度向上の鍵
必須用語リスト
| 用語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 皮下脂肪厚法 | ひかしぼうこうほう | キャリパーで皮下脂肪をつまんで厚さを測定し体脂肪率を推定する方法 |
| キャリパー | きゃりぱー | 皮下脂肪厚測定に使用する専用の圧力測定器具 |
| Jackson & Pollock法 | じゃくそんあんどぽろっくほう | 3部位または7部位の測定値から体脂肪率を推定する代表的な計算式 |
| 体密度 | たいみつど | 体重を体積で割った値。皮下脂肪厚から推定し体脂肪率算出に使用 |
| Siri式 | しりしき | 体密度から体脂肪率を算出する式(体脂肪率=495÷体密度-450) |
| 測定者間誤差 | そくていしゃかんごさ | 異なる測定者間で生じる測定値のばらつき。皮下脂肪厚法の主な誤差要因 |
| 解剖学的ランドマーク | かいぼうがくてきらんどまーく | 測定部位を特定するための骨・筋肉などの体表の基準点 |
| 体組成 | たいそせい | 体重の内訳(脂肪量・除脂肪体重の比率) |
| DXA | でぃーえっくすえー | 二重エネルギーX線吸収法。体組成測定の精度が最も高い方法 |
| BIA | びーあいえー | 生体電気インピーダンス法。微弱電流で体組成を推定する簡易法 |
| 体脂肪率 | たいしぼうりつ | 体重に占める脂肪の割合(%) |
| 除脂肪体重(LBM) | じょしぼうたいじゅう | 体重から脂肪量を引いた値。筋肉・骨・内臓などの総重量 |
| 腸骨上部 | ちょうこつじょうぶ | 腸骨稜の直上の測定部位。女性の3部位法に含まれる |
| 腋窩中線 | えきかちゅうせん | 腋窩(脇の下)を通る垂直線。7部位法の測定ランドマークの一つ |
| 肩甲骨下部 | けんこうこつかぶ | 肩甲骨下角の直下の測定部位。7部位法に含まれる |


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