脳が「何もしていないとき」に活動するネットワークのこと
簡単な説明
脳は何もしていないときでも活発に動いています。そのとき活動するのがデフォルトモードネットワークです。このネットワークは、過去のことを振り返ったり、未来のことを考えたり、自分自身について考えたりするときに使われます。日常生活でも、ふと考え事をしているときや、ぼーっとしているときにこのネットワークが働いているのです。
由来
デフォルトモードネットワーク(DMN)は、2001年にアメリカの神経科学者マーカス・レイクルによって発見されました。彼は、被験者が何もしていない状態でも、脳が活動していることを見つけ、この活動が特定のネットワークに関連していることを示しました。この発見は、それまでの脳研究において「脳は何もしていないときに静かである」という常識を覆しました。
具体的な説明
デフォルトモードネットワーク(DMN)は、脳が外部からの刺激を受けず、特定の課題をこなしていないときに活発になる一連の脳領域のネットワークです。DMNは、内的な思考、自己参照的思考、過去の記憶の再生、将来の計画、他者の視点を理解することなどに関与しています。主に、内側前頭前皮質、後部帯状皮質、楔前部、側頭葉などの領域が含まれます。
デフォルトモードネットワークは、安静時機能的MRI(rs-fMRI)を使用して研究されることが一般的です。この手法では、被験者が何も考えずに安静にしているときの脳活動を測定します。この研究により、特定の脳領域が課題に取り組んでいないときでも活動していることが確認され、これがデフォルトモードネットワークの一部であることがわかりました。研究結果として、DMNの異常な活動が統合失調症やアルツハイマー病などの精神疾患や神経変性疾患と関連していることが示されています。
大学レベルでは、DMNの研究は、内的な思考や自己参照的プロセスに関する理解を深めるために重要とされています。DMNは、内側前頭前皮質(mPFC)、後部帯状皮質(PCC)、楔前部(Prcu)、側頭-頭頂接合部(TPJ)などの領域が、協調して活動することによって構成されています。このネットワークは、他者の心の状態を理解する「心の理論」、自伝的記憶の再生、将来の出来事のシミュレーションなど、複雑な認知機能に関与します。DMNの活動は、安静時fMRIを使用して観察され、特に自己に関する思考が強く関与しているときに最も活発です。
例文
「テスト前に勉強していないときでも、ついつい試験のことを考えてしまうのは、デフォルトモードネットワークが働いているからなんだね。」
疑問
Q: デフォルトモードネットワークは、脳が全く活動していないときに働くのですか?
A: いいえ、デフォルトモードネットワークは、脳が外部からの特定の刺激を受けていないときや、特定の課題に集中していないときに活動しています。つまり、脳が「休んでいる」ときに活発になるネットワークです。
Q: デフォルトモードネットワークが機能しないと、どのような影響がありますか?
A: DMNの異常な活動は、精神疾患や神経変性疾患と関連しています。例えば、統合失調症では、自己認識や他者の心を理解する機能が低下し、アルツハイマー病では、自伝的記憶の喪失が見られることがあります。
Q: DMNは、いつでも活動しているのですか?
A: DMNは、何か特定の課題に取り組んでいないときや、外部からの強い刺激がないときに特に活発に活動します。しかし、課題が始まると、このネットワークの活動は抑制され、他のネットワークが活発になります。
Q: DMNと関係の深い脳領域はどこですか?
A: DMNには、内側前頭前皮質(mPFC)、後部帯状皮質(PCC)、楔前部(Prcu)、側頭-頭頂接合部(TPJ)などの脳領域が含まれます。
Q: DMNの研究はどのように行われるのですか?
A: DMNの研究は主に安静時機能的MRI(rs-fMRI)を使用して行われます。被験者が安静にしているときの脳活動を観察し、特定のネットワークの活動を解析します。
理解度を確認する問題
デフォルトモードネットワーク(DMN)は主にどのようなときに活動しますか?
- 集中しているとき
- 何かを学習しているとき
- 外部からの刺激がないとき
- 運動しているとき
回答: 3. 外部からの刺激がないとき
デフォルトモードネットワーク(DMN)の活動が異常であると、関連があるとされている疾患はどれですか?
- 風邪
- 統合失調症
- 骨折
- うつ病
回答: 2. 統合失調症
関連キーワード
- 安静時機能的MRI(rs-fMRI)
- 内側前頭前皮質(mPFC)
- 自己参照的思考
- 自伝的記憶
- 心の理論
関連論文
Raichle, M. E., et al. (2001). “A default mode of brain function.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(2), 676-682.
この論文は、デフォルトモードネットワークの発見とその重要性について最初に報告したものです。脳が外部からの刺激を受けていないときに特定のネットワークが活動することを示し、後の多くの研究の基盤となりました。
Andrews-Hanna, J. R., et al. (2010). “Functional-anatomic fractionation of the brain’s default network.” Neuron, 65(4), 550-562.
この論文では、デフォルトモードネットワーク(DMN)の機能的および解剖学的な分割について詳細に検討しています。研究者たちは、DMNが単一の一貫したネットワークではなく、異なる機能を持つ複数のサブネットワークに分かれていることを示しました。この研究は、DMNの内部構造とその機能的役割をより深く理解するための重要な一歩となりました。
この研究により、DMNが3つの主要なサブネットワークに分割され、それぞれが異なる認知機能(自己参照的思考、自己内省的思考、他者の視点理解など)に関連していることが明らかになりました。これにより、DMNの活動が多様であり、単なる休息時の活動ではなく、複雑な認知プロセスに深く関与していることが理解されました。
Buckner, R. L., et al. (2008). “The brain’s default network: Anatomy, function, and relevance to disease.” Annals of the New York Academy of Sciences, 1124(1), 1-38.
この論文は、DMNの解剖学的構造、機能、そして精神疾患との関連性について包括的にレビューしたものです。特に、アルツハイマー病や自閉症スペクトラム障害との関連性に焦点を当てて、DMNの異常がこれらの疾患にどのように影響するかを考察しています。
研究結果は、DMNの異常な活動が、アルツハイマー病における記憶障害や、自閉症における社会的認知の困難さに関連していることを示しています。この論文は、DMNが多くの神経精神疾患の理解において中心的な役割を果たしていることを強調し、臨床応用の可能性を示唆しています。
Whitfield-Gabrieli, S., & Ford, J. M. (2012). “Default mode network activity and connectivity in psychopathology.” Annual Review of Clinical Psychology, 8, 49-76.
この論文では、さまざまな精神疾患におけるDMNの活動および接続性の変化を検討しています。特に、統合失調症、うつ病、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの精神疾患との関連が詳細に分析されています。
研究結果は、DMNの異常な活動や接続性の変化が、これらの精神疾患の病態生理において重要な役割を果たしていることを示しています。特に、統合失調症患者ではDMNの接続性が低下しており、これが自己認識の障害や現実感の喪失と関連していることが明らかになりました。
Greicius, M. D., et al. (2004). “Default-mode network activity distinguishes Alzheimer’s disease from healthy aging: Evidence from functional MRI.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 101(13), 4637-4642.
この論文では、アルツハイマー病患者と健康な高齢者の間でのDMNの活動の違いを調査しています。機能的MRIを使用して、DMNがアルツハイマー病の早期診断においてどのように利用できるかを探っています。
研究結果は、アルツハイマー病患者においてDMNの活動が大幅に低下していることを示しています。この発見は、DMNの活動がアルツハイマー病のバイオマーカーとして使用できる可能性を示し、早期診断や治療のターゲットとしての価値を示唆しています。
覚え方
「デフォルトモード」は「デフォルトでぼーっとモード」と覚えると、脳が何もしていないときに活動しているネットワークだとイメージしやすいでしょう。
コメント