心理学のかたち
心理学が成立した19世紀後半から発展してきたものです。心理学は、当初哲学の一分野として扱われていましたが、実験的方法を取り入れることで独立した学問分野となりました。その後、認知、発達、社会、異常心理学など様々なサブフィールドに分化し、それぞれの分野で独自の理論や方法論が発展してきました。
経験科学
実際の経験や観察に基づいて知識を得る科学のこと
形式科学
論理や数学に基づく理論体系の構築を行う科学のこと
日本十進分類法
図書や文献を体系的に分類するための日本独自の分類法のこと
- 総記 (000) – 図書館学、情報科学、総記に関する書籍など。
- 哲学 (100) – 哲学全般、倫理学、宗教学、心理学など。
- 歴史 (200) – 歴史全般、地理、伝記など。
- 社会科学 (300) – 政治、法律、経済、教育、社会問題など。
- 自然科学 (400) – 数学、物理学、化学、地球科学、生物学など。
- 技術・工学 (500) – 工学全般、建築学、製造業など。
- 産業 (600) – 農業、商業、交通、家政、通信など。
- 芸術・スポーツ (700) – 芸術全般、音楽、スポーツ、娯楽など。
- 言語 (800) – 言語学、各国の言語、辞典など。
- 文学 (900) – 文学全般、小説、詩、戯曲など。
エビングハウス
忘却曲線や記憶に関する研究で知られるドイツの心理学者です。
実験心理学の分野で先駆者の一人とされています。彼は、記憶と忘却に関する科学的研究を行った最初の人物の一人であり、特に「忘却曲線」の概念で広く知られています。エビングハウスは、自身を被験者として使用し、無意味音節を用いた一連の実験を通じて、記憶の保持と忘却のプロセスを体系的に研究しました。
法則定立的な自然科学
自然界の現象を説明し予測するための法則や理論を確立する科学のこと
成功した理論は、自然界の構造や過程を説明するための強力なツールとなり、科学技術の進歩に大きく貢献しています。
仮説演繹法
仮説を立て、それを論理的に検証することで結論を導き出す科学的推論方法のこと
仮説演繹法は、「もし~ならば、~になるはずだ」という形式で考えます。例えば、ある化学反応が特定の条件下で起こると予測する仮説を立てた場合、その条件を実験室で再現し、予測された反応が実際に起こるかを観察します。結果が仮説と一致すれば、その仮説は一定の信頼性を持つと見なされます。
質的研究
人々の経験、行動、相互作用、文化を深く理解するための研究方法のこと
質的研究は、個々の経験や社会的相互作用を深く掘り下げることにより、人間行動の複雑さを捉えます。このアプローチは、文化的背景、個人の感情、社会的ダイナミクスなど、量的研究では捉えにくい要素を明らかにすることができます。
ティンバーゲンの「4つのなぜ」
ティンバーゲンは、行動生物学の分野で重要な貢献をした科学者の一人です。彼は、動物の行動を完全に理解するためには、その行動が起こる原因を異なるレベルで分析する必要があると考えました。この考え方は、「ティンバーゲンの4つのなぜ」として知られるようになり、生物学、特に行動生物学の研究において広く受け入れられる基本的な枠組みとなっています。
- 即時の原因(メカニズム):その行動がどのように発生するか、生理学的・神経学的メカニズムは何か。
- 発達の原因(オントゲニー):その行動が個体の発達過程でどのように形成されるか。
- 機能の原因(適応性):その行動が個体の生存や繁殖にどのように貢献するか、適応的価値は何か。
- 進化の原因(系統発生):その行動はどのように進化してきたか、類似の行動を持つ他の種との関係は何か。
実験法
科学的研究の基本とされる方法で、特に心理学の分野で広く用いられています。心理学が科学として発展する過程で、客観的かつ再現可能なデータを得るために重要な手段となりました。
操作
心理学における「操作」という用語は、主に実験心理学で用いられ、特定の変数を意図的に変化させることを指します。これは、その変数が被験者の行動や心理的反応にどのような影響を与えるかを観察するために行われます。操作される変数は「独立変数」と呼ばれ、その影響を受ける「従属変数」の変化が測定されます。
因果モデル
原因と結果の関係を表現する理論的または数学的モデルのこと
因果モデルは、「もしAが起こるならば、Bが起こる」という形の関係を定式化します。これは、AがBの原因であるという仮定に基づいています。因果関係の確立は、単にAとBが同時に起こる(相関関係)ことを超え、Aの変化がBの変化を引き起こすというより強い主張を含みます。
独立変数
実験や研究において操作または選択され、他の変数に影響を与える変数のこと
独立変数は、その名の通り、他の変数から「独立」しており、研究者によって直接制御されます。これに対し、研究者が観察または測定する変数は従属変数と呼ばれ、独立変数の変化に応じて変化します。独立変数と従属変数の関係は、因果関係の検証において中心的な概念です。
説明変数
実験や研究で操作または選択され、結果に影響を与える原因の変数のこと
説明変数は、統計モデルやデータ分析の文脈で使用され、従属変数(目的変数)の変動を説明するために用いられる変数です。説明変数は、モデルにおいて従属変数に影響を与えると考えられる属性や特徴を表します。線形回帰分析において、家の価格(従属変数)を面積や立地(説明変数)で説明することが一例です。
従属変数
実験や研究において独立変数の影響を受ける結果や効果を示す変数のこと
例えば、医学研究で新薬の効果を調査する場合、患者の症状の改善度合いが従属変数になります。この場合、新薬の投与量や種類(独立変数)が変わることで、症状の改善(従属変数)がどのように変化するかが観察されます。
カウンターバランス
実験や研究で条件の順序効果を均等に配分し、制御するための手法のこと
カウンターバランスの使用は、実験結果の信頼性を高めるのに役立ちます。実験条件の順序が結果に影響を与える可能性がある場合、この手法によってその影響を制御し、各条件の純粋な効果をより正確に測定することができます。これにより、研究者は因果関係をより確実に推測することが可能になります。
実験群
実験や研究において、特定の条件や治療を受ける被験者のグループのこと
実験群は、研究や実験の中で、新しい薬剤、教育技術、心理的介入など、何らかの特定の変数や条件を受けるグループです。このグループの反応やパフォーマンスは、その変数や条件の影響を理解するために分析されます。実験群とは別に、コントロール群(何も介入を受けないか、または既存の標準的な条件を受けるグループ)が設定されることが多く、両群の比較から、介入の効果を明らかにします。
統制群
実験や研究において、主要な介入や条件の影響を受けない被験者のグループのこと
統制群の設定は、実験から得られる結論の信頼性を高めるために不可欠です。このグループを通じて、研究者は介入以外の要因(たとえば、時間の経過による変化や参加者の期待効果)が結果に与える影響を排除または評価することができます。統制群がない場合、実験群で観察された変化が実際には介入によるものではなく、他の要因による可能性を排除することが困難になります。
連続量
無限に細かく分割可能な値を取ることができる量のこと
連続量は、その値が滑らかに変化し、特定の区間内でどんなに小さな変化も捉えることができる量です。これに対して、離散量(カテゴリカル変数)は、特定の離散的な値のみを取ることができ、例えば人数やカウントデータなどがこれに該当します。連続量は、データを解析する際に複雑な数学的モデルを適用することを可能にし、より精密な結果を得るために重要です。
調査法
心理学におけるデータ収集の手法の一つで、人々の態度、信念、行動、特性などについての情報を系統的に収集する方法です。アンケートやインタビューを通じて、大規模なサンプルからデータを集め、人間の心理や社会的現象を理解します。
リッカート法
アンケートや質問紙において、被験者の態度や意見を測定するための尺度のこと
リッカート法を用いることで、個人の意見や感情を、定量的な形で捉えることができます。この方法は、特に意見や態度の幅広い分布を捉えたい場合や、異なるグループ間での比較を行いたい研究において有効です。リッカート尺度によるデータは、統計分析を通じて、様々な洞察や結論を導き出すために利用されます。
ダブルバーレル質問
2つ以上の質問や概念を1つの質問に組み合わせたもので、回答者がどちらの部分に答えているのか不明瞭になる質問のこと
質問紙やインタビューの設計において、質問は明確で単純でなければなりません。ダブルバーレル質問は、回答者にとって混乱の原因となり、調査結果の解釈を複雑にします。
ダブルバーレル質問を回避するためには、質問を分割して、それぞれの概念を個別の質問として扱うべきです。これにより、回答者が各質問に対して明確に回答できるようになり、データの解釈が容易になります。また、質問の前にプレテストを行い、質問の明確さを確認することも有効な手段です。
再検査法
同じテストを同じ被験者群に対して2回実施し、その結果の一貫性や信頼性を評価する方法のこと
再検査法は、テストの信頼性を評価するために非常に直接的な方法を提供します。被験者が最初のテストと同じスコアを2回目のテストでも得られるかどうかを調べることで、測定ツールが安定した結果を出すかを確かめます。この手法は、テスト自体の品質だけでなく、測定される構成概念の安定性に関する情報も提供します。
場面想定法
特定の状況やシナリオを想定させ、その状況での被験者の反応や意思決定を調査する手法のこと
場面想定法では、具体的なシナリオや物語が被験者に提示されます。このシナリオは、現実に起こり得る状況を模倣したものであることが多く、被験者はその状況においてどのように行動するか、どのように感じるか、どのような選択をするかについて回答します。場面想定法は、回答者が実際の状況にいるかのように感じさせることで、より真実味のあるデータを収集することが目的です。
電話調査
電話を通じて被験者に質問を行い、データや意見を収集する調査手法
電話調査は、特定のテーマや製品についての意見、社会的な態度、行動のパターンなど、様々な情報を収集するために用いられます。この手法は、ランダムなサンプリングや特定のターゲット群に焦点を当てたサンプリングなど、さまざまなサンプリング戦略を取り入れることが可能です。しかし、電話の普及率や対象者の電話利用習慣の変化により、サンプルの偏りが生じる可能性があります。
多段抽出法
大規模な母集団からサンプルを段階的に選択していく抽出手法のこと
多段抽出法は、大規模な母集団の中から代表的なサンプルを効率的に選び出すための手法です。この方法により、調査の実施が現実的かつ経済的に可能になり、幅広い領域や地域からのデータを集めることができます。多段抽出は、各段階での選択プロセスによって、最終的なサンプルの多様性と代表性を保証しようとします。
SD法
対象に対する態度や感情を、対照的な意味を持つ語句の対で評価させることによって測定する心理学的測定法のこと
SD法は、商品、ブランド、広告、人物像など、さまざまな対象に対する人々の印象を定量的に評価するために広く用いられています。この方法により、対象に対する潜在的な感情や態度を可視化し、分析することが可能になります。SD法は、心理学のほか、マーケティング調査や社会学研究など、多岐にわたる分野で応用されています。
観察法
実際の行動や現象を直接観察することによってデータを収集する研究手法のこと
参与観察法
研究者がコミュニティやグループの一員として活動に参加し、内部の視点から情報やデータを収集する研究手法のこと
参与観察法は、研究対象の文化や社会的プロセスを「体験する」ことに重点を置いています。研究者は、ただ観察するだけでなく、実際に研究対象の活動に参加し、その経験を通じて得られる知見をもとに分析を行います。このアプローチにより、研究対象の人々の視点や経験をより忠実に反映したデータを収集することができます。
ホーソン実験
1920年代後半から1930年代にかけて、アメリカのホーソン工場で行われた、労働環境の変化が従業員の生産性に与える影響を調査した一連の社会科学実験のことです。一連の実験は、ハーバード大学ビジネススクールの研究者たちによって指導されました。特に、メイヨーは、1927年から1932年にかけて実施された実験の段階で中心的な役割を果たしました。
ホーソン実験から得られた最も重要な結論の一つは、「ホーソン効果」として知られるようになりました。これは、従業員が実験の一部であると認識し、自分たちの行動が注目されていると感じること自体が、彼らの生産性を向上させる要因になったというものです。この結果は、単に物理的な労働条件だけでなく、従業員の心理的要因や社会的要因が生産性に大きな影響を与えることを示しました。
時間見本法
観察対象からランダムに選んだ特定の時間においてのみ観察や記録を行う研究手法のこと
時間見本法は、全体の行動パターンを理解するために、観察対象の行動を断片的に捉える手法です。このアプローチにより、研究者は観察対象の行動を時間的な枠組みの中で捉え、行動の発生頻度や持続時間などの定量的な分析を行うことが可能になります。この方法は、特に広範囲にわたる観察を行う必要がある場合や、特定の行動の頻度を評価したい場合に有効です。
オープンフィールドテスト
主に実験動物の探索行動、不安反応、活動量などを評価するために用いられる行動学的実験手法のこと
オープンフィールドテストは、動物が新しい環境にどのように適応するかを観察するシンプルながら強力なツールです。動物がオープンフィールドの中央部に進出することは、新しい環境に対する好奇心や探索欲を示す一方で、周辺部を好む行動は不安や恐怖を反映すると考えられます。このテストを通じて、ストレス、不安障害、または薬物の影響など、様々な心理状態や条件の研究が可能になります。
モーガンの公準
動物行動学研究における説明の際、より高度な心的プロセスを仮定する前に、より単純な行動的・生理的メカニズムによる説明を優先すべきだとする原則のこと
モーガンの公準は、動物心理学や行動神経科学などの分野で、動物の行動を説明する際のガイドラインとして機能します。この原則は、研究者が複雑な心的状態を動物に帰属させることに対する慎重なアプローチを取るよう促し、科学的な説明における客観性と節約性を保つのに役立ちます。
検査法
特定の目的のために、人や物の状態を評価し、分析するための一連の手順や方法のこと
測定変数
量的なデータとして測定や記録が可能な変数のこと
測定変数を用いることで、研究者は対象の属性や行動を数値として表現し、そのデータをもとに統計的な分析を行います。このプロセスにより、変数間の関係性の検証、傾向の把握、予測モデルの構築などが可能になります。測定変数は、データの収集と分析の基礎となり、科学的な発見や意思決定のプロセスにおいて中心的な役割を果たします。
潜在変数
直接観察や測定ができないが、行動や現象を説明する上で重要な役割を果たす変数のこと
潜在変数は、表面的なデータや観察可能な変数を通じて間接的に推測されます。これらは、個人の行動や反応からその人の特性や内面的状態を推測するのに役立ちます。
仮説構成概念
ある現象やプロセスを説明し、その機能や影響を予測するための明確な提案や推測を表します。
仮説構成概念は、科学的な探求の過程で、特定の理論から導き出される特定の予測や提案を指します。これは、何が起こるか、なぜそれが起こるのか、どのようにして起こるのかについての明確な予測を立てることを意味します。
偏差知能指数
年齢群内での相対的な知能の位置のこと
テルマンによって開発されたスタンフォード・ビネー知能スケールなどで用いられてきました。この方法では、個人の生得的な能力を、年齢に応じた平均的な能力と比較して数値化します。
偏差IQは、通常、平均値を100、標準偏差を15または16として設定されます。つまり、偏差IQが100であれば平均的な知能レベルであり、115以上であれば平均よりも高い知能を示し、85以下であれば平均よりも低い知能を示します。この尺度は、個人がテストでどの程度の成績を収めたかを、その年齢群の平均と比較することによって決定します。
構造化
情報や活動を整理し、目的達成に向けて手続きが一通り決まっていて最適化するための方法です。これにより、効率的な意思決定、高い生産性、そして明確なコミュニケーションが可能になります。
半構造化面接
面接の形式の一つで、あらかじめ定められた質問項目がある一方で、面接官が質問の順序を変更したり、追加の質問をしたりする自由を持つ面接方法です。このアプローチは、被験者の自由な回答を促し、同時に特定のテーマやトピックに焦点を当てることを可能にします。
面接者バイアス
面接官の偏見による評価の歪みのこと
面接者バイアスは、面接官が候補者を評価する際に、不公平または偏った判断を下す可能性があることを意味します。これは、最も適任な候補者が選ばれることを妨げ、組織の多様性や公平性に悪影響を与える可能性があります。
虚偽尺度
心理テストや質問紙において、回答者が社会的に望ましい形で回答しようとする傾向や、自己をより良く見せようとする試みを検出するために用いられる尺度です。
虚偽尺度は、一般的には心理テストの中に組み込まれるいくつかの項目で構成されています。これらの項目は、ほとんどの人が真実を述べるであろう質問や、社会的に望ましい回答を誘うような質問で構成されていることが多いです。回答者がこれらの項目に対して不自然または非現実的に「正しい」と回答する場合、それは虚偽回答の可能性を示唆するものと見なされます。
投影法
投影法とは、心理学において個人の内面的な動機、欲求、感情、態度などを明らかにするために使用される一連の技法です。
投影法は、人々が無意識のうちに自己の感情や欲求を外部の物や他人に投影する心理的メカニズムを利用します。これにより、被験者自身が意識していないかもしれない内面的な側面を探ることが可能になります。
テストバッテリー
複数の心理テストや評価ツールを組み合わせたもので、被験者のさまざまな側面や能力を包括的に評価するために用いられます。これにより、個人の認知機能、性格特性、感情状態、学習能力など、多面的な情報を得ることが可能になります。
心理統計の基礎
推測統計
サンプルから母集団を推測する手法です。
推測統計とは、サンプルデータを基にして母集団全体に関する推論を行う統計学の分野です。この方法を使用することで、研究者は限られたデータから母集団の特性を推測し、より大きな集団に関する一般的な結論を導き出すことができます。
パラメトリック検定
データが正規分布に従うと仮定した統計的検定方法です。
パラメトリック検定は、データが特定の統計的分布(通常は正規分布)に従うという仮定のもとに行われる統計的検定方法です。これらの検定は、平均値の比較、分散の分析、相関関係の検証など、様々な目的で使用されます。パラメトリック検定は、データが正規分布しているという強い仮定に基づいているため、その仮定が満たされない場合は、ノンパラメトリック検定が代替手段として推奨されます。
ノンパラメトリック検定
分布の仮定を必要としない統計検定です。
ノンパラメトリック検定(非パラメトリック検定)とは、データが特定の分布に従うという仮定を必要としない統計的検定方法です。これは、データの分布に関する前提条件を設けずに、中央値の比較、ランクの差異、分布の形状などを検討する方法であり、特にサンプルサイズが小さい場合やデータが正規分布をしていない場合に有用です。
帰無仮説
研究対象間に差異や効果がないとする仮定です。
フィッシャーによって導入されました。フィッシャーは、科学的な実験や研究において、ある仮説の有効性を検証するための統計的手法の開発に貢献しました。
帰無仮説は、観測されたデータが偶然の産物かどうかを判断するための基準を提供します。これは、科学的な主張に対する懐疑的な視点から出発し、その主張を統計的な証拠をもって支持する必要があるという考え方に基づいています。
スティーブンスの尺度水準
スティーブンスによって提唱された、変数を測定するための4つの基本的な尺度水準(名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比率尺度)の分類です。
名義尺度(Nominal Scale)
名義尺度は、カテゴリーによってデータを分類する最も基本的な尺度です。データは名前やラベルによって区別され、数値は単にカテゴリーを識別するために使われます。例えば、性別(男性、女性)、血液型(A、B、AB、O)などがあります。名義尺度では、データ間の順序や差、比率は意味を持ちません。
順序尺度(Ordinal Scale)
順序尺度は、データが順序やランクによって整理される尺度です。この尺度では、カテゴリー間に順序関係はあるものの、間の具体的な差は不明です。例としては、教育レベル(高校卒、大学卒、大学院卒)、満足度調査(不満、普通、満足)などが挙げられます。
間隔尺度(Interval Scale)
間隔尺度は、等間隔のスケール上でデータを測定し、データ間の差を意味のあるものとして扱える尺度です。しかし、この尺度には真のゼロ点が存在しないため、比率(倍率)は意味を持ちません。例えば、温度計(摂氏または華氏)、カレンダーの年などがあります。
比率尺度(Ratio Scale)
比率尺度は、間隔尺度と同様に等間隔のスケールを持ち、さらに絶対的なゼロ点が存在する尺度です。このため、データ間の差だけでなく、比率も意味を持つようになります。例としては、距離、重量、時間、収入などがあります。
クロンバックのα係数
テストやアンケートの項目が一貫して同じ特性を測定している程度を示す指標です。
クロンバックのα係数を使用することで、研究者はテストやアンケートがどれだけ一貫して関連する特性や概念を測定しているかを定量的に評価できます。これにより、測定ツールの改善点を特定したり、研究の結果の信頼性を高めることが可能になります。
妥当性
測定ツールが本当に測定すべき内容を測定しているかどうか程度を示す指標です。妥当性は、測定ツールがどれだけ正確か、またその結果が意図したものを反映しているかを評価するために重要です。
- 内容妥当性(Content Validity):測定ツールが対象とする概念の内容を適切にカバーしている程度。テストがその分野の全範囲を網羅しているかどうかに焦点を当てます。
- 基準妥当性(Criterion Validity):テストスコアが特定の基準や外部基準とどれだけ関連しているか。予測妥当性(将来のパフォーマンスを予測する能力)と同時妥当性(他の同時期の測定との関連性)に分けられます。
- 構造妥当性(Construct Validity):テストが理論的に定義された特定の構成概念を測定しているか。構成概念の存在を支持する証拠となるテストスコアのパターンに焦点を当てます。
さまざまな考え方
ヴィゴツキー
彼の理論は、子どもの認知発達が社会的な相互作用と文化的な背景に深く根ざしているという考えに基づいています。ヴィゴツキーの理論は、後に「社会文化的理論」として知られるようになりました。
一般システム論
異なる分野のシステムが共有する普遍的な原則を研究する理論です。
ベルタランフィは、特定の分野に限定されたアプローチではなく、異なるシステム間の共通性を探求することで、より統合的な科学の理解を目指しました。彼は、閉じたシステムの研究だけでなく、開かれたシステムのダイナミクスとその環境との相互作用にも焦点を当てることの重要性を強調しました。
ナラティブアプローチ
個人の物語を通じてその人の経験や認識を理解する方法です。
ナラティブアプローチとは、人々の経験や物語(ナラティブ)を通じて、その人々の生き方や認識、価値観を理解しようとする研究や実践の方法です。
ニューラルネットワーク
脳の仕組みに触発されたデータ処理のためのモデルのこと
ニューラルネットワークは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークを模倣して設計された計算モデルです。この技術は、機械学習や人工知能(AI)の分野で広く使用されており、データから複雑なパターンを学習し、予測、分類、意思決定の支援などさまざまなタスクを実行することができます。
生涯発達心理学
人生のあらゆる段階における心理的成長と変化を研究する学問のこと
生涯発達心理学は、人間の生涯にわたる発達過程を研究する心理学の分野です。これには、胎児期から老年期に至るまでの成長、学習、成熟、老化のプロセスが含まれます。この分野では、身体的、認知的、社会的、感情的な発達の各段階を理解し、人間の行動と経験がどのように時間とともに変化するかを探求します。
心理学研究の倫理
参加者の権利と福祉を守るための研究基準です。
インフォームド・コンセント
十分な情報に基づいて自由意志で治療や研究への参加を承諾するプロセスのことです。この概念は、個人の自己決定権を尊重し、十分な情報に基づいた意思決定を可能にするために重要です。
ヘルシンキ宣言
医学研究における倫理的原則を定めた国際的なガイドラインです。
1964年に世界医師会(World Medical Association, WMA)によって採択され、以降、数回にわたる改訂を経て現在に至っています。この宣言は、人間を対象とした医学研究、特に臨床試験に関する倫理基準を定めており、研究参加者の安全と権利を保護することを主な目的としています。
デブリーフィング
研究や訓練後に行われる説明やフィードバックのプロセスです。
デブリーフィングとは、実験に関する真実を明かし、参加者が実験中に経験したことについて話し合い、質問に答える機会を提供することを指します。このプロセスは、参加者の理解を深め、実験によって生じた可能性のある不安や誤解を解消するのに役立ちます。
スタンフォードの監獄実験
1971年にアメリカ合衆国カリフォルニア州のスタンフォード大学でジンバルドーによって行われた心理学の実験です。この実験は、人が権力の状況に置かれたときの行動と心理状態、特に役割が人の行動に与える影響を探ることを目的としていました。
スタンフォードの監獄実験は、参加者への心理的な害や倫理的な問題点から、研究倫理に関する重要な議論を引き起こしました。この実験は、研究倫理の基準やインフォームド・コンセントの重要性についての認識を高めるきっかけとなりました。
3つのR
3つのR(Three Rs)とは、実験動物の使用に関する倫理的指針を示す概念であり、動物実験を行う際の原則です。この概念は、1959年にラッセルとバーチによって提唱されました。3つのRは、Replacement(代替)、Reduction(削減)、Refinement(改善)を意味します。
Replacement(代替)
実験動物を使用しない代替方法への転換を意味します。これには、in vitro(試験管内の実験)、コンピューターモデリング、人間を対象とした研究などが含まれます。目的は、動物実験を可能な限り減らし、最終的には不要にすることです。
Reduction(削減)
同じレベルの科学的有用性を保ちつつ、実験に使用する動物の数を最小限に抑えることを指します。これは、より効率的な実験設計、統計的手法の利用、または複数の研究者がデータを共有することで達成できます。
Refinement(改善)
実験中に動物が経験する苦痛やストレスを最小限に抑える方法の改善を意味します。これには、適切な麻酔の使用、環境エンリッチメント、痛みや不快感の管理が含まれます。
追試
ある実験や研究の結果を検証するために、元の実験や研究を再度行うことを指します。このプロセスは、元の結果の信頼性を確認し、再現性をテストするために重要です。科学的研究において、追試は新たな知見が一貫しており、偶発的なものでないことを示すために不可欠なステップとされています。
心理学の専門性
心理学が多岐にわたる人間の行動と心のプロセスを包括的に理解しようとする試みを反映しています。心理学の専門家は、研究、教育、臨床の現場で活躍し、人間の福祉向上に貢献しています。
ボルダー会議
1949年にコロラド州ボルダーで開催された、心理学の臨床研修プログラムの標準を確立するための重要な会議です。この会議は、”科学者-実践者モデル”(Scientist-Practitioner Model)または”ボルダーモデル”として知られる臨床心理学の訓練モデルの基盤を形成しました。
集団的守秘義務
特定の集団やチーム全体が共有する情報に対して、その秘密を守るという義務を指します。この概念は、心理学や医療、法律などの分野で見られる個人に対する守秘義務を、より大きな集団やチームに適用したものです。
たとえば、グループセラピーの参加者間で共有される個人的な情報は、グループの外に漏れないように保護される必要があります。
スーパービジョン
経験豊富な専門家(スーパーバイザー)が、研修中の専門家や実務家(スーパーバイジー)の業務を監督し、指導、評価、フィードバックを提供することで、スーパーバイジーのスキル、知識、専門的能力の向上を促します。
スーパーバイザー
スーパーバイザーは、職場や教育環境において、個人またはチームの監督、指導、評価を行う役割を持つ人物です。スーパーバイザーの主な責務は、目標の設定、業務の進捗管理、パフォーマンスの評価、フィードバックの提供、必要に応じたトレーニングやサポートの提供など、部下や学習者の成長と成功を支援することにあります。
スーパーバイジー
経験豊富な専門家(スーパーバイザー)から学び、自身の専門的スキルや知識、実践能力を向上させることを目的としています。
事例
特定の個人、集団、事象、または現象を詳細に調査し分析する研究方法です。心理学では特定の心理状態や行動パターンを持つ個人を詳細に調査し、心理学的理論や治療法の適用を探ります。
多重関係
複数の関係者が互いに影響し合う関係性のことです。
連携
複数の人やグループが協力して目標を達成するプロセスのこと
哲学による心の研究
心の本質、意識、思考、感情、意志など、人間の精神活動に関する根本的な問いに対する探求です。心理学が実験や観察による科学的アプローチを用いるのに対し、哲学は論理的推論や概念分析を通じて心の問題を探ります。
アリストテレス
紀元前384年に古代ギリシャで生まれた、西洋哲学と科学に多大な影響を与えた哲学者です。彼はプラトンの学生であり、後に自身の学派、リュケイオンを設立しました。心理学の観点から見ると、アリストテレスは「心」に関する初期の理論を提唱した古代の思想家の一人として重要です。
心身二元論
心と体は根本的に異なる二つの実体であるという考え方です。
この考えは、特に17世紀の哲学者デカルトによって有名になりました。心身二元論は、心理学だけでなく、哲学、医学、神経科学など幅広い分野に影響を与えています。
ロック
ジョン・ロックは17世紀後半から18世紀初頭にかけて活動したイギリスの哲学者で、経験論の父であり、知識は経験から得られると主張した哲学者です。
ロックは、「人間の心は生まれたときは白紙の状態(tabula rasa)」であり、経験を通じて知識が形成されると主張しました。この考え方は、心理学における学習理論や認知発達に大きな影響を与え、後の経験主義心理学の基盤を築きました。
スコットランド常識学派
常識や直感を人間の知識の基礎とする哲学思想のこと
18世紀から19世紀にかけてスコットランドで発展した哲学の流れで、リードを中心とする一群の哲学者によって代表されます。この学派は、人間の知識獲得や道徳判断において、常識(common sense)あるいは直感的な信念が基礎的な役割を果たすと考えました。
カント
現代哲学の基礎を築いた、批判哲学の創始者です。
カントは18世紀のドイツの哲学者で、認識論、倫理学、美学、宗教哲学など幅広い分野に及び、特に「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」の三批判書で知られています。
感覚の分析
外界の刺激を受け取り、それを脳で処理し認識に変換する過程の研究のこと
感覚の分析とは、私たちが外界から得る情報を感じ取る過程や、それがどのように処理され認識に結びつくかを研究する心理学の一分野です。
19世紀のドイツの生理学
19世紀のドイツは、人間の感覚や神経系の機能を科学的に解明し始めた時期で、画期的な発展を遂げた時期であり、多くの重要な発見がなされました。この時代のドイツの生理学者たちは、人間の感覚器官の働きや神経系統のメカニズムを解明するための基礎を築きました。
特殊神経エネルギー説
各感覚器官が持つ独自の「神経エネルギー」が感覚体験の質を決定するという理論です。
18世紀末から19世紀初頭にかけて提唱された理論で、主にミュラーによって有名にされました。
色覚の三色説
人間の色覚は、赤、緑、青を感知する三種類の錐体細胞の組み合わせによって成立する理論です。
この理論は、19世紀にヤングによって初めて提案され、後にヘルムホルツによってさらに発展されました。
反対色説
色覚が赤-緑、青-黄、黒-白の3組の反対色ペアに基づくとする理論です。
三色説が色覚を赤、緑、青の三原色の組み合わせによって説明するのに対し、反対色説は色の知覚における特定の色の組み合わせが相互に抑制し合うという現象に着目しました。
機械論
自然界や生命を機械的プロセスとして理解しようとする考え方です。
の視点では、物質的な宇宙は巨大な機械のように運動し、その動きは物理法則に従って予測可能であるとされます。機械論的世界観は、特に17世紀の科学革命期に発展し、デカルトやニュートンなどの思想家によって支持されました。
系統発生
生物種の進化的な系統と歴史的発展を研究する分野です。この概念は、生物が共通の祖先から進化し、時間とともに多様化してきたという理解に基づいています。系統発生は、生物の進化的関係を明らかにし、種の起源や進化のパターンを理解するための重要なフレームワークを提供します。
精神物理学
物理的な刺激と心理的な知覚との関係を定量的に研究する心理学の分野のこと
ウェーバーの法則
刺激の強度に対する知覚の変化量は、その刺激の強度に比例するという感覚心理学の法則のこと
ウェーバーによって19世紀初頭に提唱されました。例えば100グラムの物体に対しては2グラムの増加を知覚できる場合でも、1000グラムの物体に対しては20グラムの増加でなければ同じように知覚できないとされます。
フェヒナーの法則
物理的な刺激の強度の対数と心理的な感覚の強度が比例関係にあるとする法則のこと
フェヒナーの法則は、エルンスト・ハインリヒ・ウェーバーの研究に基づいています。ウェーバーは、異なる刺激間の区別が可能な最小の差(差異閾)が、刺激の強度に比例することを発見しました。フェヒナーはこれをさらに発展させ、心理的な感覚の強度と物理的な刺激の強度の間の数学的な関係を定義しました。
たとえば光の明るさや音の大きさなどの物理的な刺激の強度が増加すると、人が感じる感覚の強度も増加しますが、その増加量は刺激の強度の対数に比例します。これは、刺激が非常に弱い場合、少しの増加でも感覚の変化を強く感じることができる一方で、刺激が強い場合はより大きな変化が必要となることを意味しています。
対数関数
物理的な刺激の強度と知覚される感覚の強度が、対数的な関係にあるという法則のこと
例えば音の大きさや光の明るさなど、日常的に経験する様々な感覚に適用されます。この法則は、刺激が非常に強いまたは非常に弱い場合には、人がその差を感じ取るのが難しいことを説明します。一方で、中程度の強度の刺激では、わずかな変化でもはっきりと知覚することができます。
極限法
刺激の強度を徐々に変化させて感覚の閾値を測定する方法のこと
極限法は、刺激の強度を徐々に変化させることによって、被験者が刺激を知覚できるかどうかをテストします。
恒常法
刺激の強度をランダムに変化させて感覚の閾値を測定する方法のこと
恒常法を使うことで、例えば音の大きさ、光の明るさ、物体の重さなど、様々な感覚刺激に対する人間の感覚の反応を詳細に調べることができます。この方法は、特に感覚の微妙な差異を捉えることに優れており、製品の品質管理や音響設計、照明設計などの実用的な応用にも利用されています。
調整法
被験者が刺激の強度を自分で調整して感覚の閾値を決定する実験手法
調整法を用いると、被験者は自分のペースで刺激を調整できるため、より自然な状況下での感覚の閾値を測定することが可能になります。この手法は、特に被験者が主体的に参加する実験設計を好む研究分野や、感覚の微細な違いを探る実験に適しています。
マグニチュード推定法
物理的な刺激の感覚的な強度を、被験者が数値で評価することにより測定する方法。
例えば、ある音が基準の音よりも2倍強く感じられる場合、被験者はその音に対して基準の数値(10)の2倍にあたる数値(20)を割り当てるかもしれません。このようにして、感覚的な強度の相対的な比較を数値を通じて行います。
意識主義の心理学
人間の意識や主観的な体験を科学的に研究する心理学のアプローチ。
ヴント
心理学を独立した科学分野として確立し、意識の構造とプロセスを実験的に研究した心理学の父
ヴントは19世紀後半に活動したドイツの心理学者であり、現代心理学の創始者の一人として広く認識されています。彼は1879年にライプツィヒ大学に世界初の心理学実験室を設立し、心理学を独立した科学分野として確立しました。ヴントの心理学は、意識の構造とプロセスを分析することに重点を置いており、彼のアプローチは「意識主義」と呼ばれることがあります。
ブレンターノ
心的現象の意向性の概念を導入し、心理学を科学として確立しようとした哲学者。
ブレンターノの提唱する心理学のアプローチは、心理学を純粋に実験的な研究だけでなく、心的現象の内面的な側面を探求する学問として捉え直しました。これにより、心理学における観察の対象が、単に外部から測定可能な行動や反応ではなく、人間の経験や意識の内容そのものにまで拡張されました。
ヴュルツブルク学派
ヴュルツブルク学派は、意識のプロセスと内容を実験的に研究した心理学の学派です。
ヴュルツブルク学派は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドイツのヴュルツブルク大学を中心に発展しました。この学派は、オズワルド・キュルペによって設立され、心理学における思考プロセスの研究に新たな方法論をもたらしました。
民族心理学
文化や社会が個人の心理に及ぼす影響を研究する心理学の分野のこと
民族心理学では、異なる文化や時代を通じての人間の行動や心理的プロセスの類似性と差異を研究し、これらの差異がどのようにして生まれるのかを探求します。たとえば、異なる文化における子どもの遊びや教育の方法、物語や神話の構造などを分析することで、特定の社会的・文化的背景が個人の認知や価値観にどのような影響を与えるかを理解しようとします。
エビングハウス
記憶と学習の科学的研究の先駆者で、忘却曲線と無意味音節の実験で知られる心理学者です。
エビングハウスは、19世紀後半に活動したドイツの心理学者で、記憶と学習の分野における先駆者です。彼は実験心理学の方法を用いて、記憶のプロセスを科学的に研究した最初の人物の一人とされています。エビングハウスの最も有名な業績には、忘却曲線(記憶が時間とともにどのように減少するかを示す曲線)や無意味音節(意味を持たない音節の組み合わせ)を用いた学習実験があります。
精神分析学
無意識のプロセスとその心理的影響を研究する心理学の分野で、オーストリアの神経科医で心理学者のジークムント・フロイトによって創設された心理学の一分野です。この理論と治療法は、意識下のプロセス、特に抑圧された欲望や感情が人の行動や心理的問題にどのように影響するかを探求します。精神分析学は、夢の解釈、自由連想、移転などの概念を用いて、患者の無意識を探り、心理的な不調和を治療することを目指します。
サルペトリエール病院
19世紀に神経学と精神医学の重要な研究が行われたパリの病院のこと
特に19世紀の神経学と精神医学の分野で重要な役割を果たしました。この病院は、ジャン=マルタン・シャルコーが神経病理学の研究を行った場所として特に知られています。シャルコーは、ヒステリーという精神神経症的状態の研究で名を馳せ、彼の臨床観察と治療法は後の精神分析学の発展に大きな影響を与えました。
アンナ・O
精神分析学の歴史において重要な人物で、ヨーゼフ・ブロイアーの患者でした。彼女の治療は、後にジークムント・フロイトと共同で精神分析学を発展させることになるブロイアーによって行われ、精神分析の方法論に大きな影響を与えました。
アンナ・O(1859年 – 1936年)は、ヒステリーの症状を示しており、その治療過程で「話し治療」(後に精神分析の基礎となる手法)が用いられました。彼女は様々な身体的および心理的な症状に苦しみ、ブロイアーは彼女の症状が抑圧された感情やトラウマに起因すると考えました。
夢判断
無意識の願望を解明するための手段として夢を分析するフロイトの理論を紹介する著作です。
夢判断は、フロイトによって著された心理学の古典的なテキストで、1900年に出版されました。正式な題名は『夢の解釈』(Die Traumdeutung)で、フロイトの精神分析理論における中心的な作品の一つです。この書籍では、夢が無意識の願望を満たすためのプロセスであると主張され、夢の内容を解析することで、抑圧された欲望や恐れ、内面的な葛藤を明らかにすることができるとされています。
タナトス・デストルドー
人間の行動を動かす二つの基本的な衝動:破壊的な死の衝動(タナトス)と生命の衝動(エロス)。
フロイトは当初、人間の行動を動かす力として性的な衝動(リビドー)のみを強調していましたが、後に彼の理論は進化し、人間の心理には生命を促進する力(エロス)とそれに反対する破壊的な力(タナトス)の両方が存在すると考えるようになりました。この考えは、1920年に出版された『快感原則を越えて』で初めて詳しく説明されました。
ユング
集合的無意識とアーキタイプの概念を提唱し、個性化のプロセスを重視した分析心理学の創始者
ユングは、1875年にスイスで生まれた心理学者で、ジークムント・フロイトの精神分析学から派生し、その後独自の分析心理学を創設しました。ユングは、人間の心理を深層心理とその中に存在する集合的無意識の概念を通じて探求し、人間の心理的成長と自己実現の過程である個性化に重点を置きました。
児童分析
子どもを対象とした精神分析のアプローチで、主に精神分析理論と技法を用いて、子どもの心理的な問題や発達の障害を理解し、治療するための方法です。この分野の発展には、アンナ・フロイト(ジークムント・フロイトの娘)やメラニー・クラインなど、多くの心理学者が貢献していますが、カール・グスタフ・ユングもまた、子どもの心理的発達と治療に関して重要な見解を提供しました。
ラカン
フロイトの精神分析を基に、言語学や構造主義を取り入れた独自の精神分析理論を展開したフランスの精神分析家のこと
ラカンは、フランスの精神分析家であり、20世紀の心理学と精神分析学に大きな影響を与えた人物です。ラカンの理論は、ジークムント・フロイトの精神分析学を基礎としながらも、構造主義、言語学、哲学など他の知的伝統からの影響を取り入れて独自の理論体系を構築しました。彼は特に「鏡像段階」の概念や「欲望の構造」、「大文字の他者」といった概念で知られており、人間の主体性やアイデンティティ、無意識の構造を新たな視点から捉え直しました。
新大陸の心理学
実験的で実用主義的なアプローチを特徴とする、アメリカ合衆国を中心とした心理学
心理学原理
心理学を独立した科学として確立したジェームズの画期的な著作です。
この作品は、心理学を独立した学問分野として確立するための画期的な貢献とされ、心理学の「父」とも呼ばれるジェームズの代表作です。
アメリカ心理学会
心理学の進歩を促進し、心理学者の活動を支援する世界最大の心理学関連専門家組織のこと
APAは、アメリカにおける心理学の発展と専門化を反映して設立されました。初期の会員は、心理学の研究と教育に携わる大学教授や研究者が中心でしたが、その後、臨床心理学、教育心理学、産業組織心理学など、様々な分野の専門家が加わりました。
機能心理学
心理的プロセスが個体の適応にどのように役立つかを研究する心理学のアプローチのこと
機能心理学は、心理学の一派で、心理的プロセスが個体の適応や生存にどのように機能するかを研究することに焦点を当てています。このアプローチは、心理学を単に意識や行動の内容を記述する学問ではなく、それらがどのような目的を果たしているかを理解しようとするものです。機能心理学は、主にアメリカで19世紀末から20世紀初頭にかけて発展し、ジェームズやデューイなどの思想家によって主導されました。
ヤーキス=ドッドソンの法則
覚醒度が増加するとパフォーマンスが向上するが、ある点を超えると逆に低下するという心理学の原理のこと
ヤーキス=ドッドソンの法則は、心理学における重要な原理の一つで、1908年にヤーキスとドッドソンによって提唱されました。この法則は、あるタスクの実行において、 arousal(覚醒度や活性化水準)が一定のレベルまではパフォーマンスを向上させるが、それを超えるとパフォーマンスが低下するという関係を示しています。
ヤーキスとドッドソンは、マウスを使った実験を通じて、この法則を発見しました。彼らは、電気ショックの強さ(覚醒度の代理)がマウスの迷路を脱出する能力(パフォーマンス)にどのように影響するかを調査しました。結果として、適度な電気ショックが最も効率的に迷路を解決することを発見し、覚醒度とパフォーマンスの関係を示す曲線を提案しました。
教育測定運動
学生の学習成果を科学的に評価し、教育の質を向上させるために標準化されたテストを用いる運動のこと
教育測定運動は、20世紀初頭にアメリカで始まった教育の質と効果を科学的に評価し、向上させることを目的とした運動です。この運動は、標準化されたテストや測定ツールを用いて学生の学習成果を定量的に評価し、教育プログラムの改善に役立てようとする試みから成り立っています。教育測定運動は、教育心理学や測定学の発展に大きく貢献し、現代の教育評価や学力テストの基礎を築きました。
条件反射学と行動主義
外部刺激と反応の関係を研究し、行動の学習過程を解明する心理学のアプローチのこと
条件反射学と行動主義は、20世紀初頭に心理学において重要な流れとなった理論や実験研究を指します。これらは、心理学を自然科学の一分野として確立しようとする試みの中で発展しました。
練習の法則
練習や反復を通じてスキルや知識が向上する心理学の原理のこと
練習の法則は、スポーツの技能習得、楽器の演奏、言語学習など、様々なスキルの習得において基本的な原則とされています。この法則は、単純な暗記から複雑な問題解決スキルの習得に至るまで、幅広い学習活動に適用されます。
レスポンデント条件づけ
ある刺激が、本来は別の刺激にのみ反応するような特定の自然反応を引き出すようになる学習プロセスのこと
レスポンデント条件づけは、人間や動物がどのようにして特定の環境の変化に適応していくかを理解するための重要な枠組みを提供します。例えば、特定の場所や音楽がリラックスする効果を持つようになるのは、これらがリラックスを促す別の活動や経験と繰り返し関連付けられることによります。このプロセスは、広告、教育、臨床心理学など、多くの分野で応用されています。
実験神経症
動物に対して行われる条件づけ実験において引き起こされる、過度のストレスや混乱による神経症的症状のこと
実験神経症の研究は、ストレスや混乱が心理的健康に与える影響を理解する上で重要です。これらの実験は、人間の神経症やストレス関連疾患の原因となるメカニズムについての洞察を提供し、治療法の開発に役立つ可能性があります。
行動主義者のみた心理学
心理学を行動とその環境的要因の研究と定義し、内面的過程を排除した科学的アプローチ
行動主義は、心理学をより客観的で測定可能な科学に変革しようとする試みから生まれました。ワトソンは、1913年に発表された「心理学の行動主義的観点」という論文で、心理学の焦点を内面的な心理過程から観察可能な行動に移すことを提案しました。その後、スキナーは操作条件付けを通じて行動の原理をさらに発展させ、行動を形成し変化させる方法についての理解を深めました。
操作主義
科学的概念を、それを測定または観察するための具体的な手順や操作によって定義するアプローチのこと
操作主義は、科学的な概念や理論が現実の世界とどのように関連しているかについての問題から生まれました。ブリッジマンは、科学的言説のあいまいさを減らし、概念をより具体的で測定可能なものにすることで、科学理論の精度と有効性を高めることができると考えました。
目的的行動主義
行動の背後にある目的や目標を考慮に入れることで、行動を理解しようとする心理学のアプローチ
目的的行動主義は、20世紀の中頃に、従来の刺激-反応(S-R)モデルの行動主義に対する反応として発展しました。この時期、心理学者たちは行動の背後にある内的な動機や意図に注目し始め、これらの因子がどのように行動を形成し導くかに興味を持ちました。目的的行動主義は、行動をより広い文脈で理解する試みとして、このような考え方から生まれました。
生体の行動
行動と生物学的プロセスの相互作用を研究する心理学のアプローチのこと
生体の行動は、人間や動物の行動を理解するために、単に外部から観察するだけでなく、その生物学的な「内側」を探る必要があるという考えに基づいています。このアプローチは、行動や心理的現象が単なる経験や学習の産物ではなく、脳の構造や化学的プロセス、遺伝的要因などによっても大きく形成されることを示しています。
ゲシュタルト心理学
人間の知覚は単なる感覚の集まりではなく、意味のある全体として統合されると考えました。
例えば、友人の顔を見るとき、私たちはその顔の各部分(目、鼻、口)を個別に認識するのではなく、顔全体として認識します。これはゲシュタルト心理学の原理に基づいています。
グラーツ学派
個々の感覚要素がどのように統合され、全体としての知覚や思考に影響を与えるかを研究する学派
グラーツ学派では、人間の認識過程における「形質」や「全体性」の重要性を強調します。これは、個々の感覚要素を超えた、より高次の統合された知覚の形態を意味します。例えば、音楽を聴く際に個々の音符ではなく、メロディとして認識する能力がこれに該当します。
ベルリン学派
知覚のゲシュタルト(全体の形態)理論を中心に、心理学の多くの側面を研究しました。一言でいうと、「知覚される世界は組織された全体として経験される」という観点を探究します。
ベルリン学派は、人の知覚がどのように整理され、統合されるかを理解しようとする心理学の一派です。彼らは、物事を知覚する際には、その全体性や構造が重要であると考えました。
エーレンフェルス
エーレンフェルスは、オーストリア=ハンガリー帝国(現在のチェコ共和国)に生まれました。彼は、心理学と哲学の研究を通じて、感覚の知覚に関する理論を展開しました。彼の理論は、後にゲシュタルト心理学の発展に大きな影響を与えることになります。
エーレンフェルスの理論は、人間の知覚が単なる感覚データの集合ではなく、それらが組み合わさって形成される「全体」として経験されることを強調します。これは、後のゲシュタルト心理学者によってさらに発展されました。
類同の要因
ゲシュタルト心理学の基本原則の一つで、類似した要素は一緒にグループ化される傾向があるという理論です。一言でいうと、この原則は「似ているものは一緒に認識される」という考え方を表しています。
この原則は、日常生活での物の見方や整理の仕方に大きな影響を与えています。人々は類似性に基づいて情報を整理し、理解しやすくするために、自然とこの法則を利用しています。
洞察学習
問題解決の過程で突然に理解が深まる現象を指す心理学の概念です。一言でいうと、「ひらめきによる学習」とも言えます。この理論は、特にケーラーによって知られるようになりました。彼はゲシュタルト心理学の一環として、サルの実験を通じてこの現象を研究しました。
洞察学習の概念は、20世紀初頭にケーラーがテネリフェ島の研究所で行った一連の実験に起源を持ちます。ケーラーは、サルがツールを使ってバナナを手に入れる問題を解決する過程を観察し、サルが試行錯誤を重ねた末に突然解決策を見つける「洞察」の瞬間を確認しました。
場理論
個人の行動はその人が置かれている「場」(心理的環境)によって影響を受けると考えます。一言でいうと、場理論は「行動は心理的環境によって形成される」という考え方です。
場理論は、人の行動はただその人の個性や意志によるものではなく、その時々の状況や環境によって大きく影響を受けるという考え方です。つまり、人々がどのように行動するかは、彼らが自分自身とその環境をどのように認識しているかに依存します。
レヴィン
レヴィンは、1890年にドイツで生まれ、アメリカで活躍した心理学者です。彼は物理学から影響を受けて、心理学における「場」の概念を導入しました。この理論は、1930年代から1940年代にかけて発展し、人間の行動と心理的環境との関係を理解するための枠組みを提供しました。
近代精神医学
精神障害の診断、治療、予防に関わる医学の一分野です。19世紀に入ると、精神障害を理解し治療するための科学的アプローチが発展し始めました。一言でいうと、近代精神医学は「精神障害を科学的に理解し、治療する医学の分野」と言えます。
ピネル
精神障害者に対する人道的な治療を提唱した近代精神医学の先駆者
フランスの医師で、近代精神医学の父とも称されます。彼は精神障害者の治療に革命をもたらした人物であり、精神障害者に対する非人道的な扱いに終止符を打ち、医学的アプローチと人道的なケアを組み合わせた治療法を提唱しました。
記述精神医学
精神障害の客観的な観察と記述に基づく精神医学の分野です。
記述精神医学では、患者の言動や表情、思考の内容、感情の状態など、観察可能な症状を詳細に記録します。これには、患者自身が報告する内面的体験や主観的感覚も含まれます。目的は、精神障害の診断基準を明確にし、治療法を適切に選択するための情報を提供することです。
心理学的クリニック
心理的な問題や障害を専門に扱う治療と支援の場
心理学的クリニックは、心理的な困難を経験している人々に対して、専門的な評価、診断、治療を提供する場所です。ここでは、クライエント一人ひとりの問題を理解し、適切な治療計画を立て、心理的な健康を回復させるための支援を行います。
精神衛生運動
精神健康の重要性を強調し、より良い精神健康ケアの実現を目指す運動のこと
この運動は、精神障害を持つ人々に対する非人道的な扱いや偏見に対抗し、科学的根拠に基づいた治療法の採用と精神健康サービスの改善を求めることから始まりました。特に、ビアーズによる自身の精神障害経験を綴った『明るい暗闇の中で』の出版は、この運動に大きな影響を与えました。
砲弾ショック
戦争による極度の心理的ストレスや外傷から生じる精神障害のこと
砲弾ショックは、激しい砲火、爆発、および戦場での死や破壊の目撃など、戦争の極度のストレス状況下で発生する心理的トラウマです。当時はこの状態の治療法や対処法が十分に理解されておらず、多くの兵士が適切な治療を受けられずに苦しんでいました。現代では主にPTSD(心的外傷後ストレス障害)として理解されています。
職業指導運動
個人の職業的成功を支援するための教育と指導を提供する運動
20世紀初頭、工業化の進展とともに、労働市場は急速に変化しました。多くの人々が適切な職業選択に苦労し、その結果、職業満足度の低下や労働生産性の低下が問題となりました。これに対処するため、職業指導運動が生まれ、個人が自身の興味、能力、価値観に基づいて職業を選択し、満足のいくキャリアを築けるよう支援することが目指されました。
精神衛生法
精神障害者の権利と福祉を守るための法律のこと
精神衛生法の制定背景には、精神障害を持つ人々が適切なケアを受けられず、社会から排除されることが多かった歴史があります。また、過去には、不当な扱いや人権侵害の事例も少なくありませんでした。これらの問題に対処するため、多くの国で精神障害者の権利を保護し、社会復帰を支援するための法律が制定されました。
個人差への関心
個々人が持つ思考、感情、行動などの差異に注目し、その原因や構造を理解しようとする研究分野です。
ゴールトン
心理学と統計学に大きな貢献をしたイギリスの学者です。
人間の能力は遺伝によって大きく影響を受けるという仮説を立て、これを支持する多くの研究を行いました。ゴールトンは、統計学的手法を用いて人間の特性を定量的に分析することの重要性を認識しました。彼は相関と回帰という統計的概念を導入し、これらを使って遺伝的要因が人間の特性にどのように影響を及ぼすかを研究しました。また、彼は指紋を使用した識別システムの基礎を築き、人間の個体差を記録する方法として指紋を用いることの有効性を示しました。
在来性犯罪者説
人が犯罪を犯す傾向が遺伝的な要素によってあらかじめ決定されているという理論です。
この理論の起源は、19世紀後半にイタリアの精神医学者であるロンブローゾに遡ります。ロンブローゾは、犯罪者には生物学的、特に生理学的な特徴が見られ、これが犯罪行動へと導くと主張しました。彼は、犯罪者は生まれながらにして犯罪を犯す運命にある「生まれつきの犯罪者」であると考えました。
近代の研究では、遺伝子研究や双子研究が行われており、犯罪行動に対する遺伝的要素の影響を調べています。これらの研究は、犯罪行動が単一の遺伝子によって決定されるのではなく、多くの遺伝的要素と環境的要素の相互作用によって影響を受けることを示しています。
家系研究
特定の家族や複数の世代にわたる家族の中で、特定の行動、疾患、または特性がどのように伝達されるかを調査する心理学および遺伝学の研究手法です。
家系研究では、親から子へと特性がどのように伝達されるか、また、兄弟姉妹間での類似性や差異がどのように生じるかを分析します。この研究手法は、遺伝的要因の影響を調査するために、特に有効ですが、同時に、共通の環境が家族内の個人にどのように影響を及ぼすかを考察することも可能にします。
病跡学
個人の病歴や疾患に関連する詳細を調査し、記録する研究分野です。特に、個人の生涯にわたる病歴や、疾患がその人の生活や創作活動にどのように影響を与えたかを研究します。
病跡学では、特定の疾患が著名な歴史的人物や芸術家の生涯や作品にどのように影響を与えたかを研究することがあります。たとえば、ビンセント・ヴァン・ゴッホの精神病、フリードリヒ・ニーチェの精神障害、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの難聴など、これらの状態が彼らの創造性にどのように影響を及ぼしたかを分析します。
精神年齢
個人の知的能力や認知スキルが示す年齢のことで、その人がどの程度の認知発達レベルにあるかを示します。
精神年齢の測定は、ビネー・サイモン知能尺度などの標準化された知能テストを使用して行われます。これらのテストは、言語理解、記憶、論理的思考など、様々な認知能力を評価する項目で構成されています。測定結果から、個人の知的発達が同年齢の平均と比べてどの程度進んでいるか、または遅れているかを評価することができます。
社会心理学のはじまり
19世紀末から20世紀初頭にかけての時期にさかのぼります。この学問分野は、個人の思考、感情、行動が社会的な状況や他者との相互作用によってどのように影響を受けるかを研究します。
群集心理
人々が集団の一部として行動する際に、個々人が通常よりも異なる行動を示す現象を指します。この心理状態は、個人が集団の影響を受け、普段は考えられないような行動をとることが特徴です。
群集心理は、個人が大きな集団の中で匿名性を感じることで、普段は抑制されている行動や感情が解放されることが原因で起こります。この状態では、個人の責任感が低下し、集団の行動や感情に強く引き込まれやすくなります。
トリプレットの実験
他人の存在が個人のパフォーマンスを向上させることを示した実験です。
この実験は、1898年にアメリカの心理学者トリプレットによって行われました。トリプレットは、自転車レースの選手が他の選手と一緒にいる時の方が、一人で走る時よりも速く走ることに気づき、この現象を実験室内で再現しようとしました。
集団錯誤
集団の一致団結が優先され、批判的思考が抑制される心理現象です。
集団錯誤は、集団内での直接的な圧力、自己検閲、幻想の一致、集団に対する忠誠心の過剰など、特定の状況下で生じます。これにより、集団は代替案の探求を怠り、不十分な情報に基づいて決定を下し、リスクを過小評価する傾向に陥ります。
産業心理学の父
産業心理学の父として広く認識されているのは、ヒューゴ・ムンスターバーグです。ムンスターバーグは、1863年にドイツで生まれ、1916年にアメリカで亡くなった心理学者であり、現代の産業心理学および組織心理学の基礎を築きました。
ムンスターバーグの業績には、労働者の適性や能力を評価するための心理学的テストの開発、作業効率を高めるための作業環境の最適化、および労働者のモチベーションと満足度を向上させる手法の研究が含まれます。彼の著作『産業の心理学』(1913年)では、企業が労働者の選択、教育、および管理に心理学を応用する方法について論じています。
リーダーシップの累計
リーダーシップの累積過程では、個人はさまざまな役割、プロジェクト、チャレンジを通じてリーダーシップスキルを発展させます。この過程には、自己認識の向上、コミュニケーション能力の発展、チームを動機づける方法の学習、戦略的思考能力の向上などが含まれます。
民主型
集団の意思決定にメンバー全員を参加させるリーダーシップスタイルです。
専制型
放任型
認知革命
研究の焦点を、外部の行動から内部の心的過程へと移行させたパラダイムシフトです。
認知革命は、1950年代と1960年代に最も顕著に進行しました。この時期まで、心理学は主に行動主義によって支配されており、観察可能な行動のみを研究の対象としていました。しかし、このアプローチでは人間の複雑な心的過程を説明することができず、学者たちは心的過程を直接的に研究する新たな方法を求め始めました。
ニュールック心理学
認知プロセス、特に知覚がどのように感情、動機、期待、文化的背景などの内的状態や外的要因に影響されるかを研究しました。
たとえば「飢えている人は食べ物に関連する刺激をより速く認識する」といった結論が得られました。これは、人間の知覚がその時の内的状態やニーズによって影響を受けることを示しています。
認知革命
認知革命によって、心理学者たちは認知の理論を開発し、思考プロセス、問題解決、記憶、言語などに関する研究を行うようになりました。この時期には、情報処理理論やコンピュータのメタファーが心理学に導入され、人間の心を情報を処理するシステムとして理解することが一般的になりました。
チョムスキー
言語学、認知科学、そして政治活動において広範な影響を与えたアメリカの学者です。
チョムスキーは、1957年に発表した著作『言語の構造』において、生成文法の理論を提唱しました。この理論では、人間が持つ言語能力の根底にある普遍的な文法構造を主張し、言語習得の過程が先天的な能力に基づいているという考え方を展開しました。
チョムスキーの理論は、子どもが複雑な言語構造を迅速に学ぶことができる理由を説明します。彼の研究により、言語習得は単に模倣や条件付けによるものではなく、先天的な言語能力によって大きく促進されるという見方が広まりました。
サビア=ウォーフ仮説
言語は思考と世界の認識に影響を与えると主張する理論です。
20世紀初頭、サピアとウォーフは、異なる言語コミュニティが世界を異なる方法で認識し表現することに注目しました。特にウォーフは、ネイティブアメリカンの言語であるホピ語の研究を通じて、時間の概念が英語話者のそれとは根本的に異なることを発見し、これがサピア=ウォーフ仮説の形成に大きく貢献しました。
例えば、ある言語には特定の色を区別するための単語が豊富にある一方で、他の言語にはそれが少ないかもしれません。サピア=ウォーフ仮説によれば、この言語的な違いが、話者が色を認識し記述する方法に影響を及ぼす可能性があります。
ナイサー
認知心理学の分野を確立し、広めた心理学者です。
『認知心理学』の中で、ナイサーは認知心理学を「知覚からの情報の取得と利用に関わるすべての過程」と定義しました。彼は、人間の認知システムがどのように情報を処理し、それを元に世界を理解し行動するかについての理論とモデルを提案しました。
ハレイの塔
サイズの異なる円盤を、あるルールに従って別の棒に移動させる数学的パズルゲームです。
ハレーの塔のパズルは、基本的には「最小の手数でどのようにして全ての円盤を別の棒に移動させるか」という問題を解くことにあります。円盤の数が増えると、必要な手数は指数関数的に増加し、パズルを解くためには戦略的な思考が必要になります。
リュカスによって1883年に発明されました。パズルは、三つの棒と、中央に穴が開いたサイズの異なる円盤で構成されています。最初に、これらの円盤がサイズ順に小さいものから大きいものへと一つの棒に積み上げられ、目標はこれらの円盤を別の棒に移動させることです。ただし、次のルールに従わなければなりません:
- 一度に一つの円盤しか移動できません。
- 大きな円盤を小さな円盤の上に置くことはできません。
このパズルは、再帰的思考やアルゴリズムの設計に関する問題として、コンピュータ科学や心理学の分野でよく使われます。ハレーの塔は、問題解決スキルや計画能力をテストするためにも使用され、教育的なコンテキストでの認知発達の研究にも応用されています。
日本の心理学史
西洋から導入された心理学が、日本独自の文化的背景と融合し、発展してきた学問です。
西周(にしあまね)
日本の近代化に貢献した思想家、教育者、そして翻訳家。初めて心理学と日本語で名付けた人
西周は、江戸時代末期の佐賀藩に生まれました。若い頃から学問に秀でており、特に西洋の科学と哲学に強い関心を持っていました。明治維新後、日本政府は西洋の技術や思想の導入を進めるために、多くの有能な若者を海外に留学させましたが、西周もその一人として選ばれ、欧米での学びを経験しました。
元良勇次郎(もとらゆうじろう)
日本心理学の先駆者の一人です。彼は、日本における実験心理学の基礎を築いたと評価されています。元良は、日本で最初の心理学研究所を設立し、心理学の学問としての地位を確立するために重要な役割を果たしました。
日本心理学会
日本における心理学の学術的研究と発展を目的とした学術団体です。1927年に設立され、日本における心理学の研究者や実践者が集う主要な学術組織の一つとして、心理学の各分野にわたる研究成果の発表、情報交換、研究の促進などを行っています。
福来友吉(ふくらいともきち)
日本心理学の先駆者の一人です。彼は日本における実験心理学の基礎を築き、日本初の心理学研究室を設立したことで知られています。
日本応用心理学会
応用心理学の研究、教育、実践を促進することを目的とした日本の学術団体です。この学会は、心理学の理論や知見を実社会の問題解決に応用することに焦点を当てています。具体的には、臨床心理学、教育心理学、産業・組織心理学、健康心理学など、様々な分野の応用心理学に関する研究や活動をサポートしています。
田中寛一
日本の心理学者であり、特に知能検査の分野で貢献したことで知られています。彼は、ビネーによって開発されたビネー式知能検査を日本に紹介し、日本の文化や教育システムに合わせて改良した知能検査を開発しました。これにより、日本における知能検査の基盤が築かれ、心理学の分野での研究や教育に大きく貢献しました。
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