庭のホースで水をまくとき、ホースの中の水圧が高すぎると破裂する危険があります。低すぎると水が届かない。血圧もまったく同じです。
- 心臓が血液を押し出すとき(収縮)→ 血管にかかる圧力が最大になる → 収縮期血圧(上の血圧)
- 心臓が血液を受け取るとき(拡張)→ 血管にかかる圧力が最小になる → 拡張期血圧(下の血圧)
血圧とは「心臓が血液を送り出す力と、血管がそれに抵抗する力のバランス」です。
語源
| 単語 | 語源 | 意味 |
|---|---|---|
| Blood Pressure | 古英語 blod(血)+ラテン語 pressura(押す力) | 血圧 |
| Systolic | ギリシャ語 systole(収縮) | 収縮期の |
| Diastolic | ギリシャ語 diastole(拡張) | 拡張期の |
| Hypertension | ラテン語 hyper(過剰)+tensio(張力) | 高血圧 |
| Mmhg | ミリメートル水銀柱 | 圧力の単位 |
解説
血圧の定義
血圧とは、心臓が収縮して血液を動脈に押し出す際に動脈壁にかかる圧力のことです。単位はmmHg(ミリメートル水銀柱)で表され、収縮期血圧/拡張期血圧の形式(例:120/80 mmHg)で記録されます。
正常値・分類(日本高血圧学会・AHA基準)
| 分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 至適血圧 | 120未満 | かつ80未満 | 理想的な状態 |
| 正常血圧 | 120〜129 | かつ80未満 | 正常範囲 |
| 正常高値血圧 | 130〜139 | または80〜89 | 注意が必要 |
| 高血圧ステージ1 | 140〜159 | または90〜99 | 生活習慣改善が必要 |
| 高血圧ステージ2 | 160以上 | または100以上 | 医療介入が必要 |
| 低血圧 | 100未満 | かつ60未満 | 臓器への血流不足のリスク |
※日本高血圧学会ガイドライン(JSH2019)および米国心臓協会(AHA)基準を参照。
血圧を決める主な要因
血圧は以下の式で表されます。
血圧(BP)= 心拍出量(CO)× 末梢血管抵抗(TPR)
| 要因 | 内容 | 血圧への影響 |
|---|---|---|
| 心拍出量(CO) | 1分間に心臓が送り出す血液量 | 増加→血圧上昇 |
| 末梢血管抵抗(TPR) | 細動脈の収縮・拡張による抵抗 | 増加→血圧上昇 |
| 血液量 | 循環血液量の多少 | 増加→血圧上昇 |
| 血液粘度 | 血液の「ドロドロ度」 | 増加→血圧上昇 |
| 動脈の弾性 | 血管壁の柔軟性 | 低下→血圧上昇 |
運動時の血圧変化
運動中の血圧変化はトレーナーとして必ず理解すべき知識です。
| 運動の種類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 |
|---|---|---|
| 有酸素運動(中強度) | 上昇(160〜200mmHg) | ほぼ変化なし・やや低下 |
| 高強度レジスタンス運動 | 大幅上昇(200〜300mmHg以上) | 上昇 |
| バルサルバ法実施時 | 300mmHg以上になることも | 急上昇 |
| 運動後(クールダウン後) | 安静時以下に低下することも | 低下 |
有酸素運動では収縮期のみ上昇し拡張期がほぼ変わらないのは、運動中に末梢血管が拡張するためです。
自律神経と血圧調節
血圧は自律神経系・ホルモン・腎臓の3つのシステムで精密に調節されています。
自律神経系(短時間調節):
- 交感神経活性化 → 心拍数↑・血管収縮 → 血圧↑
- 副交感神経活性化 → 心拍数↓・血管拡張 → 血圧↓
RAASシステム(中〜長期調節):
- レニン→アンジオテンシン→アルドステロン系
- 腎臓でのナトリウム・水の再吸収を増加 → 循環血液量↑ → 血圧↑
圧受容器反射(バロレセプター反射):
- 頸動脈・大動脈弓の圧受容器が血圧を感知
- 血圧が上がりすぎると副交感神経を活性化して血圧を下げる
- 即時的な血圧フィードバック機構
豆知識
定期的な有酸素運動と血圧低下効果
定期的な有酸素運動は安静時血圧を低下させる効果があります。
- 収縮期血圧:平均3〜7mmHg低下
- 拡張期血圧:平均2〜5mmHg低下 (Cornelissen & Smart, 2013のメタ分析より)
メカニズム:
- 血管内皮機能の改善(NO産生増加)
- 副交感神経活動の増加
- 末梢血管抵抗の低下
- 腎臓での血圧調節機能の改善
筋トレと血圧の関係
高血圧の方が筋トレを行う際は以下の点に注意が必要です。
- バルサルバ法(息こらえ)は血圧を急激に上昇させる(300mmHg以上)
- 高重量・低回数より中重量・高回数のほうが血圧上昇が比較的小さい
- インターバルを十分に取ることで血圧の回復を待つ
- 高血圧ステージ2(160/100以上)では医師への相談が先決
「白衣高血圧」と「仮面高血圧」
| 種類 | 内容 | リスク |
|---|---|---|
| 白衣高血圧 | 病院では高いが家庭では正常 | 将来の本態性高血圧リスクあり |
| 仮面高血圧 | 病院では正常だが家庭・職場では高い | 臓器障害リスクが高い。見逃されやすい |
| 早朝高血圧 | 起床後に血圧が急上昇するパターン | 脳卒中・心筋梗塞リスクが高い |
家庭血圧測定(毎朝起床後・毎晩就寝前)が推奨される理由はこれらの見逃しを防ぐためです。
塩分と血圧の関係
食塩(NaCl)の過剰摂取が血圧を上昇させるメカニズム:
塩分過剰摂取
↓
血液中のNa濃度上昇
↓
浸透圧が上昇し水分を引き込む
↓
循環血液量の増加
↓
心拍出量の増加
↓
血圧上昇
日本人の食塩摂取目標量:男性7.5g未満・女性6.5g未満(日本人の食事摂取基準2020年版)
関連論文
| 著者・年 | 内容 | 主な結論 |
|---|---|---|
| Cornelissen & Smart (2013) | 有酸素運動と血圧のメタ分析 | 定期的な有酸素運動で収縮期3〜7mmHg・拡張期2〜5mmHg低下。高血圧者でより効果大。 |
| Kelley & Kelley (2000) | レジスタンストレーニングと血圧のメタ分析 | レジスタンストレーニングも収縮期・拡張期ともに有意な低下をもたらす。 |
| Whelton et al. (2018) | AHA/ACC高血圧ガイドライン | 130/80mmHg以上を高血圧と定義。生活習慣介入として運動・減塩・DASH食を推奨。 |
| MacDougall et al. (1985) | レジスタンス運動中の血圧測定 | 高重量レジスタンス運動中の血圧が480/350mmHgに達したケースを報告。バルサルバ法の影響を示した。 |
よくある質問
- Q血圧の「上」と「下」はそれぞれ何を意味しますか?
- A
「上(収縮期血圧)」は心臓が収縮して血液を押し出す瞬間の最大圧力、「下(拡張期血圧)」は心臓が拡張して血液を受け取る瞬間の最小圧力です。120/80mmHgの場合、120が上・80が下です。
- Q血圧はいつ測るのが正確ですか?
- A
毎朝起床後1時間以内(排尿後・朝食前・服薬前)と毎晩就寝前の2回測定が推奨されます。測定前は5分間安静にし、足を床につけて背もたれに寄りかかった状態で測定します。運動直後・入浴直後・飲酒後は避けます。
- Q運動後に血圧が下がることはありますか?
- A
はい。「運動後低血圧(Post-Exercise Hypotension:PEH)」として知られており、有酸素運動後1〜3時間、安静時より血圧が低下する現象です。末梢血管の拡張が持続するためで、高血圧者ではより顕著に現れます。
- Q筋トレは血圧に良いですか悪いですか?
- A
長期的には良い影響をもたらします。定期的なレジスタンストレーニングにより安静時血圧が低下することがメタ分析で示されています(Kelley & Kelley, 2000)。ただし運動中の急激な血圧上昇(特にバルサルバ法)は高血圧者・心疾患のある方には注意が必要です。
- Q高血圧の人はどんな運動をすべきですか?
- A
中強度の有酸素運動(最大心拍数の40〜70%・週150分以上)が第一選択です。筋トレは中重量・高回数・バルサルバ法なしで行うことが推奨されます。血圧が180/110mmHg以上の場合は医師への相談なしに激しい運動を開始しないことが重要です。
- Q低血圧はどう対処すればいいですか?
- A
低血圧(100/60mmHg未満)で症状(めまい・失神・倦怠感)がある場合は医師への相談が必要です。生活習慣的なアプローチとして、水分摂取量を増やす・塩分を適度に摂る・急な体位変換を避ける・弾性ストッキングの使用・定期的な運動による血管機能改善などが挙げられます。
- Q血圧と心拍数は連動していますか?
- A
関連していますが、異なる指標です。心拍数が上がると心拍出量が増え血圧も上がりやすくなります。ただし血圧=心拍出量×末梢血管抵抗であり、心拍数が高くても末梢血管が拡張していれば血圧は上がりにくい場合もあります(例:有酸素運動中)。
理解度チェック
問題1:収縮期血圧と拡張期血圧の正しい説明はどれか?
① 収縮期が心臓拡張時・拡張期が心臓収縮時の圧力
② 収縮期が心臓収縮時の最大圧・拡張期が心臓拡張時の最小圧
③ 収縮期・拡張期ともに心臓収縮時の圧力
④ 収縮期が静脈圧・拡張期が動脈圧
正解:② 解説:収縮期血圧(上)は心臓が収縮して血液を押し出す瞬間の最大圧力、拡張期血圧(下)は心臓が拡張して血液を受け取る瞬間の最小圧力です。
問題2:日本高血圧学会による至適血圧の基準はどれか?
① 収縮期130未満かつ拡張期90未満
② 収縮期120未満かつ拡張期80未満
③ 収縮期140未満かつ拡張期90未満
④ 収縮期110未満かつ拡張期70未満
正解:② 解説:至適血圧は120/80mmHg未満です。120〜129/80未満が正常血圧、130〜139または80〜89が正常高値血圧、140/90以上が高血圧と分類されます。
問題3:血圧を表す式として正しいものはどれか?
① BP=心拍数×1回拍出量
② BP=心拍出量×末梢血管抵抗
③ BP=血液量÷心拍数
④ BP=酸素消費量×心拍出量
正解:② 解説:血圧(BP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(TPR)です。心拍出量が増えるか末梢血管抵抗が増えると血圧が上昇します。
問題4:有酸素運動中の血圧変化として正しいものはどれか?
① 収縮期・拡張期ともに大幅に上昇する
② 収縮期は上昇するが拡張期はほぼ変化しないまたは低下する
③ 収縮期・拡張期ともに低下する
④ 収縮期は変化せず拡張期のみ上昇する
正解:② 解説:有酸素運動中は心拍出量増加で収縮期血圧が上昇しますが、末梢血管の拡張により拡張期血圧はほぼ変化しないかやや低下します。これは高強度レジスタンス運動(両方上昇)との重要な違いです。
問題5:Cornelissen & Smart(2013)のメタ分析で示された有酸素運動の血圧低下効果はどれか?
① 収縮期15〜20mmHg・拡張期10〜15mmHg低下
② 収縮期3〜7mmHg・拡張期2〜5mmHg低下
③ 効果は確認されなかった
④ 拡張期のみ10mmHg低下
正解:② 解説:定期的な有酸素運動により収縮期3〜7mmHg・拡張期2〜5mmHg程度の安静時血圧低下が認められます。数値は小さく見えますが、集団レベルでは脳卒中・心疾患リスクの有意な低下につながります。
問題6:「仮面高血圧」の説明として正しいものはどれか?
① 病院では高いが家庭では正常な血圧パターン
② 病院では正常だが家庭・職場では高い血圧パターン
③ 朝のみ血圧が高いパターン
④ 運動中のみ血圧が高いパターン
正解:② 解説:仮面高血圧は病院での測定では正常範囲内でも、家庭や職場では高い値を示すパターンです。見逃されやすく臓器障害リスクが高いため、家庭血圧測定が重要です。白衣高血圧とは逆のパターンです。
問題7:バルサルバ法が血圧に与える影響として正しいものはどれか?
① 血圧を大幅に低下させる
② 血圧に影響しない
③ 血圧を300mmHg以上に急上昇させることがある
④ 拡張期血圧のみを上昇させる
正解:③ 解説:バルサルバ法(息こらえ)を伴う高重量レジスタンス運動では、胸腔内圧の急上昇により血圧が300mmHg以上に達することがあります(MacDougall et al., 1985)。高血圧・心疾患のある方への指導で特に注意が必要です。
覚え方
【血圧の正常値を覚える】
「120(上)と80(下)が理想の血圧」
覚え方:「いい(良い)血圧は120/80」
至適:120未満 / 80未満 高血圧:140以上 / 90以上(「140/90」を超えたら要注意)
【血圧を決める式を覚える】
BP(血圧)= CO(心拍出量)× TPR(末梢血管抵抗)
「心臓の力 × 血管の硬さ = 血圧」
【有酸素運動 vs 筋トレでの血圧変化】
有酸素運動:上(収縮期)↑・下(拡張期)→(変わらない) 筋トレ高重量:上↑↑・下↑↑(両方上がる)
【自律神経と血圧の関係】
交感神経ON → 血圧↑(戦闘モード) 副交感神経ON → 血圧↓(リラックスモード)
まとめ
- 正常値の基準:至適血圧は120/80mmHg未満。140/90mmHg以上が高血圧。
- 家庭血圧測定で白衣高血圧・仮面高血圧の見逃しを防ぐ。
- 血圧の決定式:BP=心拍出量×末梢血管抵抗。心臓の力と血管の硬さのバランスで決まる。 運動と血圧:有酸素運動では収縮期のみ上昇・拡張期は変化なし。
- 高重量筋トレでは両方が急上昇(バルサルバ法で300mmHg以上も)。 運動の長期的効果:定期的な有酸素運動で収縮期3〜7mmHg・拡張期2〜5mmHg低下(Cornelissen & Smart, 2013)。筋トレも長期的に有効。
- 高血圧者への指導:中強度有酸素運動が第一選択。筋トレは中重量・高回数・バルサルバ法なしで。180/110mmHg以上は医師相談が先決。
必須用語リスト
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 収縮期血圧 | 心臓収縮時の動脈壁への最大圧力。「上の血圧」。正常は120mmHg未満。 |
| 拡張期血圧 | 心臓拡張時の動脈壁への最小圧力。「下の血圧」。正常は80mmHg未満。 |
| 至適血圧 | 120/80mmHg未満。心血管リスクが最も低い血圧範囲。 |
| 高血圧 | 収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上の状態。 |
| 心拍出量(CO) | 1分間に心臓が送り出す血液量。心拍数×1回拍出量。 |
| 末梢血管抵抗(TPR) | 細動脈の収縮・拡張による血流への抵抗。血圧の主要な決定因子。 |
| バロレセプター | 頸動脈・大動脈弓にある圧受容器。血圧を感知して自律神経にフィードバック。 |
| RAASシステム | レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系。腎臓を介した中〜長期的な血圧調節機構。 |
| 白衣高血圧 | 病院では高いが家庭では正常な血圧パターン。 |
| 仮面高血圧 | 病院では正常だが家庭・職場では高い血圧パターン。見逃されやすく危険。 |
| 運動後低血圧(PEH) | 有酸素運動後1〜3時間、安静時より血圧が低下する現象。 |
| バルサルバ法 | 息こらえによる腹腔内圧・胸腔内圧の上昇。高重量筋トレ時に300mmHg以上の血圧上昇を引き起こす。 |
| 家庭血圧 | 自宅で測定した血圧。診察室血圧より再現性が高く、白衣・仮面高血圧の発見に有用。 |
| mmHg | ミリメートル水銀柱。血圧の単位。 |
| DASH食 | Dietary Approaches to Stop Hypertension。高血圧予防に推奨される食事パターン。野菜・果物・低脂肪乳製品を重視。 |


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