人々がどのような目標を設定し、それに対してどのように行動するかを理解するための理論のこと
簡単な説明
達成目標理論は、個人が目標を達成するためにどのように取り組むかを2つの目標に分類します:
- マスタリー目標(学習習得目標):新しいスキルや知識を習得し、自分の能力を向上させることを重視します。ここでは、自分自身の成長や進歩が評価基準です。
- パフォーマンス目標(遂行目標):他人と比較して優れていることや高い評価を得ることを重視します。外部からの評価や比較が動機となります。
由来
達成目標理論は、1980年代にアメリカの心理学者キャロル・デュエックとジョン・ニコルズによって提唱されました。この理論は、学習やパフォーマンスに対する人々の動機付けを理解するための枠組みを提供します。主に教育心理学の分野で発展してきました。
具体的な説明
実験例として、デュエックらの研究では、学生に異なる目標設定をさせ、その後の学習行動や成果を観察しました。結果、マスタリー目標を持つ学生は困難な課題にも粘り強く取り組み、失敗を学びの機会とする傾向が見られました。一方、パフォーマンス目標を持つ学生は失敗を避けるために簡単な課題を選ぶ傾向がありました。
大学レベルでは、達成目標理論は動機付け研究の中心的なテーマです。この理論は、学生の学習成果や心理的健康に影響を与える要因として広く研究されています。マスタリー目標は持続的な学習と高い内的動機付けに関連し、パフォーマンス目標は短期的な成果や不安感に関連することが示されています。
例文
「太郎くんは心理学のテストで高得点を目指すために、毎日問題集を解いています。彼の目標は自分の理解を深めることなので、これはマスタリー目標です。」
疑問
Q: マスタリー目標とパフォーマンス目標の違いは何ですか?
A: マスタリー目標は自己成長やスキルの習得を重視し、パフォーマンス目標は他人との比較や評価を重視します。
Q: どちらの目標が学業成績に良い影響を与えますか?
A: 一般的にはマスタリー目標が長期的な学業成績や内的動機付けに良い影響を与えるとされています。
Q: 達成目標理論はどのように実生活に適用できますか?
A: 学習や仕事の目標設定において、自分の成長やスキル向上を目指すマスタリー目標を設定することで、持続的なモチベーションを維持しやすくなります。
Q: パフォーマンス目標は悪いものでしょうか?
A: パフォーマンス目標も短期的な成果を出すためには有効ですが、長期的には不安やストレスを増加させる可能性があります。
Q: 達成目標理論の研究は他の文化にも適用されますか?
A: 多くの研究がアメリカや西洋文化を対象にしていますが、他の文化でも類似した傾向が見られます。ただし、文化によって目標の重視度に違いがあることもあります。
理解度を確認する問題
達成目標理論におけるマスタリー目標の特徴として最も適切なものはどれですか?
- 他人より優れていることを重視する
- 自分の能力を向上させることを重視する
- 外部からの評価を重視する
- 簡単な課題を選ぶ傾向がある
回答: 2. 自分の能力を向上させることを重視する
パフォーマンス目標を持つ人はどのような行動を取る傾向がありますか?
- 挑戦的な課題に取り組む
- 簡単な課題を選ぶ
- 失敗を学びの機会と捉える
- 長期的な成長を目指す
回答: 2. 簡単な課題を選ぶ
マスタリー目標を持つ学生は失敗をどのように捉えますか?
- 失敗を避けるために努力する
- 他人との比較で自分を評価する
- 学びの機会と捉える
- 簡単な課題に取り組む
回答: 3. 学びの機会と捉える
関連キーワード
- 動機付け
- 学習理論
- パフォーマンス目標
- マスタリー目標
- 教育心理学
- 内的動機付け
- 外的評価
- 学習成果
- キャロル・デュエック
- ジョン・ニコルズ
関連論文
Dweck, C. S., & Leggett, E. L. (1988). “A social-cognitive approach to motivation and personality.” Psychological Review, 95(2), 256-273.
この論文では、キャロル・デュエックとエリザベス・レゲットが提唱した達成目標理論の基礎を説明しています。特に、マスタリー目標とパフォーマンス目標の違いや、それぞれが学習行動に与える影響について詳述しています。
Nicholls, J. G. (1984). “Achievement motivation: Conceptions of ability, subjective experience, task choice, and performance.” Psychological Review, 91(3), 328-346.
ジョン・ニコルズは、達成目標理論の発展に貢献し、個人の能力認識や主観的体験がどのように目標設定やパフォーマンスに影響を与えるかを探求しています。
Kaplan, A., & Maehr, M. L. (2007). “The contributions and prospects of goal orientation theory.” Educational Psychology Review, 19(2), 141-184.
この論文では、目標志向理論の発展とそれが教育心理学に与えた影響について総合的にレビューしています。特に、マスタリー目標とパフォーマンス目標が学生の動機付けや学習行動にどのように影響するかについて詳述しています。著者らは、マスタリー目標が自己調整学習、内発的動機付け、および学業成績に対して一貫してポジティブな影響を持つことを示しました。一方、パフォーマンス目標は、特に高い達成を求める環境で、外的報酬や競争によって動機付けられることが多いと結論付けています。
Pintrich, P. R. (2000). “Multiple goals, multiple pathways: The role of goal orientation in learning and achievement.” Journal of Educational Psychology, 92(3), 544-555.
この論文では、複数の目標志向を持つことの利点とその影響について調査しています。特に、マスタリー目標とパフォーマンス目標を同時に持つ学生の学習成果について検討しています。ピントリッチは、マスタリー目標とパフォーマンス目標を両立させることが、特定の状況において有益である可能性があると述べています。具体的には、両方の目標を持つ学生は、単一の目標を持つ学生よりも広範な学習戦略を使用し、より高い学業成績を達成する傾向があると結論付けました。
Elliot, A. J., & McGregor, H. A. (2001). “A 2×2 achievement goal framework.” Journal of Personality and Social Psychology, 80(3), 501-519.
- この論文では、達成目標理論の2×2フレームワークを提案し、マスタリー目標とパフォーマンス目標をさらに細分化しています。具体的には、アプローチ目標(達成を目指す)と回避目標(失敗を避ける)に分けて検討しています。エリオットとマクレガーは、マスタリーアプローチ目標が最もポジティブな学習成果と関連している一方、パフォーマンス回避目標はネガティブな結果(例えば、高い不安や低い成績)と関連していることを示しました。これにより、より詳細な目標志向の理解が進みました。
覚え方
「マスタリー目標は“成長のための学び”、パフォーマンス目標は“評価のための競争”」と覚えると、違いが明確になります。
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