人前に立つと過度に緊張して、いつもの自分の力が出せなくなる状態のこと
簡単な説明
「人前でしゃべるのが怖いって?それ、“あがり症”っていう心のクセみたいなもん。慣れと練習で、ちゃんと“友達”になれるよ!」
由来
- 日本語の「あがる」は、元々「気が上がる(=興奮する)」という意味。
- 心理学的には「あがり症」は社会不安障害(Social Anxiety Disorder)の一形態と考えられます。
- 特に「限局性の社会不安障害(performance-only subtype)」に該当します。
具体的な説明
たとえば、みんなの前で発表するとき、急にドキドキして声が出なくなったり、頭が真っ白になったりしたことはないですか?
それが「あがり症」です。うまくやらなきゃって思うほど、緊張が強くなります。
あがり症は、自己評価や他者評価への過度な意識によって起こります。
認知行動理論では、失敗するイメージ(予期不安)→身体反応(動悸・震え)→「やっぱり自分はダメだ」という認知の悪循環が続きます。
DSM-5では、「パフォーマンスに限定された社会不安障害」として区別されることもあります。
有病率と影響
- 社会不安障害の有病率:6~13%(生涯)
- あがり症は一時的なものであれば正常範囲ですが、学業・仕事・対人関係に支障が出ると治療対象になります。
代表的な研究と結果
Hofmann et al.(2004)
研究内容:社会不安障害に対する認知行動療法(CBT)の有効性を検証
結果:12週間のCBTによって、あがり症を含む社会不安症状が有意に改善
解釈:考え方と行動の両面からアプローチすることで、緊張への耐性が高まる
例文
「私はあがり症で、人前に出ると手が震えてしまう。でも、少しずつ慣れるように練習している。」
疑問
Q: あがり症は誰でもなりますか?
A: はい。誰にでも起こり得る自然な反応です。程度の差はありますが、環境や経験によって強くなることもあります。
Q: 恥ずかしがり屋とは違うの?
A: 違います。恥ずかしがりは性格の一部ですが、あがり症は状況によって強く出る心理状態です。
Q: あがり症は克服できますか?
A: はい。段階的な慣れ(曝露療法)や呼吸法、認知行動療法などで改善が期待できます。
Q: あがり症でも人前で話せるようになりますか?
A: もちろん可能です。訓練や準備、成功体験の積み重ねによって、緊張とうまく付き合えるようになります。
Q: あがり症になる人は、性格に問題があるのでしょうか?
A: いいえ。性格の問題ではありません。完璧主義や自己評価の高さなど、責任感の強い人ほどあがり症になりやすい傾向はありますが、それは「繊細さ」や「真面目さ」の裏返しとも言えます。
Q: あがり症はどんな場面で起こりやすいですか?
A: 典型的なのは、発表・スピーチ・試験・人前での演奏や演技など「評価される場面」です。また、会議で発言する、目上の人と話すといった「社会的プレッシャー」が強い場面でも起こりやすいです。
Q: 一度失敗すると、どんどん悪化するのはなぜですか?
A: それは「予期不安」が強くなるからです。前回の失敗が記憶に残ると、「また同じことが起こるかも…」という不安が自動的に湧いてきて、緊張が増幅します。
Q: あがり症の子どもにはどう接したらいいですか?
A: 「大丈夫!」「気にしすぎ!」と否定せず、気持ちに寄り添い、「がんばってるね」と受け止める姿勢が大切です。また、事前の練習や、小さな成功体験を積ませることが自信につながります。
Q: 人前で落ち着くためのテクニックってあるの?
A: はい。心理学的には次のような方法が有効です:
- 呼吸法(4秒吸って8秒吐く)
- グラウンディング(足裏を感じる・手を握る)
- イメージトレーニング(成功した場面を想像)
- “あえて緊張しているふりをする”=逆説的アプローチ(森田療法の考え方)
Q: 「あがり」はすべて悪いことなのですか?
A: いいえ。ヤーキーズ・ドッドソンの法則では、適度な緊張はパフォーマンスを高めるとされています。問題になるのは、「過剰な緊張」でパフォーマンスが妨げられる場合です。
Q: 他人の目を気にする人ほど、あがりやすいのはなぜ?
A: 公的自己意識が高い人(=人からどう見られているかを強く気にする人)ほど、あがりやすい傾向が見られました。逆に、私的自己意識(自分の気持ちや感情に注意を向ける力)が高い人は、あがりにくいという結果も得られています。
Q: あがり症を克服するための科学的に有効な方法はありますか?
A: はい。Hofmannら(2008)のメタ分析では、認知行動療法(CBT)があがり症を含む不安症状に有効であると報告されています。CBTは、「考え方の修正」と「行動の練習」を組み合わせた治療法です。
Q: あがる人とそうでない人では、緊張そのものが違うのですか?
A: 緊張の強さ自体が異なるというより、その緊張をどう「意味づけ」しているかの違いが大きいです。有光(2009)によれば、「失敗したらどうしよう」と捉える人ほどパフォーマンスが下がりやすくなります。
Q5: CBTは具体的にどんなことをするの?
A: CBTでは、まず「自分を緊張させている考え方(例:“失敗=終わり”)」を見つけて修正し、次に段階的に人前での練習を行う(曝露法)ことで、「失敗しても大丈夫」という安心感を身体で覚えていきます。
理解度を確認する問題
次のうち「あがり症」に最も関連が深いものはどれか?
A. 広場恐怖症
B. 限局性の社会不安障害
C. 強迫性障害
D. 解離性障害
正解:B
関連キーワード
- 社会不安障害(Social Anxiety Disorder)
- 限局性恐怖(Specific Phobia)
- 認知行動療法(CBT)
- パフォーマンス不安(Performance Anxiety)
- 曝露療法(Exposure Therapy)
- 自律神経反応(動悸・発汗など)
関連論文
Cognitive-behavioral therapy for adult anxiety disorders: A meta-analysis of randomized placebo-controlled trials
概要:成人の不安障害(あがり症含む)に対するCBTの効果を複数のRCTから分析
結果:CBTは偽薬よりも有意に不安を軽減
解釈:「考え方」と「行動」をセットで変えることが、あがり症の改善にも有効であることが確認された
「人前で話をするときや,試験や競技の前に,なぜ“あがる”のでしょうか?」
概要:試験やスピーチなどのパフォーマンス場面で生じる「あがり」の心理学的メカニズムを解説。
結果:「あがり」は、生理的覚醒とパフォーマンスの関係を示すヤーキーズ・ドッドソンの法則や、多次元不安理論、カタストロフィ・モデルなどで説明される。
解釈:適度な緊張はパフォーマンスを向上させるが、過度な不安や覚醒は逆効果となる。認知行動療法が有効な対処法として挙げられる。
「『あがり』現象と自己意識—対人不安への予備的考察」
大学生131名を対象に、あがり症と自己意識(公的自己意識・私的自己意識)の関連を調査。
結果:公的自己意識が高いとあがりやすく、私的自己意識が高いとあがりにくい傾向が見られた。
解釈:他者からの評価を過度に気にする公的自己意識が強いと、あがり症のリスクが高まる。自己の内面に注意を向ける私的自己意識を高めることが、あがり症の軽減に有効である。
Cognitive-behavioral therapy for adult anxiety disorders: A meta-analysis of randomized placebo-controlled trials」
概要:成人の不安障害(あがり症を含む)に対する認知行動療法(CBT)の効果を、複数のランダム化プラセボ対照試験からメタ分析。
結果:CBTはプラセボよりも有意に不安症状を軽減する効果が確認された。
解釈:認知行動療法は、あがり症を含む不安障害の治療において、科学的に効果が実証されたアプローチである。
あがり症に対するCBTワークシート導入と実践ガイド
目的(ねらい)
- あがり症(パフォーマンス不安)に悩む人が、自分の思考パターンを“見える化”して把握する
- ネガティブ思考を修正し、自分にとって現実的・役に立つ考え方に書き換える
- 行動的アプローチ(練習・段階的な曝露)を取り入れ、経験と安心感を積む
ワークシート導入例(STEPごと)
STEP 1:あがる場面を具体的に思い出す(状況の明確化)
「いつ、どんな場面で緊張した?そのとき何が一番怖かった?」
記入例:
- 日時:明日、学校での英語のスピーチ
- 場所:教室の前で、クラス全員の前
- 状況:3分間で暗記スピーチ。人前に立つと声が震える
STEP 2:そのときの「自動思考(パッと出てきた考え)」を探す
「どんな考えが頭に浮かんだ?」
記入例:
- 「失敗したら笑われる」
- 「声が震えたらバカにされる」
- 「みんな私を下手だと思う」
STEP 3:そのときの「気持ち」「身体の反応」を書き出す
記入例:
- 気持ち:怖い、不安、恥ずかしい
- 体の反応:手が震える、動悸、声が出ない、顔が熱い
STEP 4:考えを検証する(認知の再構成)
「その考え、どのくらい確実?事実?根拠はある?」
- 「みんなが笑う」→ 実際には、過去の発表で誰も笑っていない
- 「声が震える=失敗」→ 一部の震えはむしろ自然で、誰でもあること
- 「下手と思われる」→ 他人の評価はコントロールできないし、自分の努力は伝わるかもしれない
→ 現実的な考え方へ書き換え
新しい考え:「緊張しても大丈夫。うまく話すより、伝えることが大切。」
STEP 5:行動的対処(段階的な練習・小さな挑戦)
「どんな小さな練習から始めてみる?」
記入例:
- 家で家族にスピーチを1分だけ披露する
- 鏡の前で目を見て話す練習をする
- スマホで自分を録画して確認してみる
- 「緊張している」と最初に口に出してみる
STEP 6:ふりかえり
- 「やってみたらどうだった?」
- 「前よりも少し気持ちが楽になったか?」
- 「次は何をやってみたいと思った?」
ワークシート形式まとめ
項目 | 内容を書く欄 |
---|
①状況 | どこで/いつ/何があったか? |
②自動思考 | どんな考えが浮かんだか? |
③気持ち・体の反応 | どんな感情と身体反応が出たか? |
④考えの検証 | その考えの根拠は?他の見方は? |
⑤書き換えた思考 | 現実的な考え方に置き換えてみる |
⑥小さな挑戦 | どんな行動から始めてみる? |
⑦ふりかえり | やってみた感想と次へのヒント |
実践のコツ
- 書くことで「思考を客観視」できる
- 頻度より「繰り返しと少しずつ」が鍵
- 小さな成功体験の積み重ねが自己効力感を育てる
- 最初はサポート役と一緒に取り組むと◎
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