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ナラティブ・アプローチ(narrative approach)

narrative approach 原理・研究法・歴史

人の物語(ナラティブ)”に注目して、問題や自分自身の意味づけを変える心理支援の方法のこと

簡単な説明

ナラティブ・アプローチは、子どもや大人が自分自身や人生を「どう物語っているか」を大事にします。
「わたしなんかダメだ」と思っている子に対して、「どんなときにそう感じた?」「そのとき乗り越えたことはある?」といったやりとりを通じて、別の見方(新しい物語)を作っていきます。

由来

ナラティブ・アプローチは1980年代に、オーストラリアのマイケル・ホワイト(Michael White)とニュージーランドのデイヴィッド・エプストン(David Epston)によって発展しました。
従来の「問題を治す」カウンセリングとは異なり、「人がどう自分の人生を語っているか=物語」に注目します。

このアプローチは、ポストモダン心理学、社会構成主義、言語哲学(ウィトゲンシュタインなど)の影響を受けています。

具体的な説明

私たちは日々、「わたしは○○な人間だ」「あの時○○があったから今の自分がある」など、自分自身の物語(ナラティブ)を頭の中で語っています。
ナラティブ・アプローチでは、この“語り”が人生を形づくっていると考えます。

たとえば、「私は失敗ばかりしてきた人間だ」と思っている人がいるとします。
ナラティブ・アプローチでは、その語り方そのものに注目し、「実はうまくいったこともあった」「失敗から立ち上がった強さがある」といった別の語り(オルタナティブ・ストーリー)を一緒に再構築します。

ナラティブ・アプローチは、言語的実践を通じたアイデンティティの再構築に重点を置く、構成主義的カウンセリング理論です。
心理的困難を「問題を内在化する」のではなく、「問題を外在化(externalization)」し、人と問題を分離させます。
「あなたが問題なのではなく、問題が問題なのです(the person is not the problem, the problem is the problem)」という言葉が象徴的です。

例文

「ナラティブ・アプローチでは、“あなたがダメな人”ではなく、“ダメだと思わせるストーリー”を見直すことで、新しい自分の見方が生まれます。」

疑問

Q: ナラティブ・アプローチは心理療法の一種ですか?

A: はい、心理療法の一種ですが、特にポストモダン系のカウンセリングとして位置づけられています。

Q: CBT(認知行動療法)と何が違いますか?

A: CBTは「思考と行動の修正」を重視しますが、ナラティブ・アプローチは「自分の語り(物語)の再構築」に重点を置きます。

Q: 問題の“外在化”とは何ですか?

A: 問題をその人の性格と切り離して、「問題は問題、あなたはあなた」と分けて考える手法です。

Q: 子どもにもナラティブ・アプローチは使えますか?

A: はい、とても有効です。特に「自分に自信がない」「トラウマを抱えている」子に適しています。

Q: 実際に効果は証明されていますか?

A: 臨床心理や教育現場での事例研究は豊富ですが、ランダム化比較試験などの定量的なエビデンスは少ないのが現状です。

Q: ナラティブ・アプローチでは、なぜ「語り」に注目するのですか?

A: 人は出来事そのものではなく、「出来事をどう語るか(意味づけるか)」によって感情や行動が変わります。
語りに注目することで、その人の見方や人生観を丁寧に再構築できると考えられているからです。

Q: ナラティブ・アプローチと精神分析や行動療法の違いは?

A: 精神分析は無意識の葛藤、行動療法は観察可能な行動の変化に注目しますが、ナラティブ・アプローチはクライエントの言葉・語りの枠組みに注目します。
「どう語っているか」が介入の焦点になる点がユニークです。

Q: 「オルタナティブ・ストーリー」とは何ですか?

A: 「オルタナティブ・ストーリー」とは、問題中心の物語とは異なる希望・可能性のある別の物語のことです。
たとえば「自分は人見知り」→「でも、信頼できる友達とは深く関われる」という語り直しがそれにあたります。

Q: ナラティブ・アプローチはグループでも使えますか?

A: はい、家族療法や学校でのグループセッションなどでも効果的に活用されています。
他者との対話によって新たな語りが生まれ、共有されるプロセスが強力な支援になります。

Q: ナラティブ・アプローチには決まった手順がありますか?

A: 厳密なマニュアルはありませんが、以下の流れが一般的です:

  1. 問題の語り(ドミナント・ストーリー)を丁寧に聞く
  2. 問題の外在化
  3. オルタナティブ・ストーリーの探索
  4. 再著述(新しい物語の構築)
  5. 認証者(語りを支える人)の関与

Q: 子どもへのナラティブ・アプローチでは、どのような心理的効果が確認されていますか?

A: 主に自己概念の向上、抑うつや不安の軽減、問題行動の改善が報告されています。語ることを通して、自分自身の見方や意味づけが変化し、心理的な安定につながります。

Q: 子どもにナラティブ・セラピーを適用する上で重要な技法は何ですか?

A: 外在化(externalization)が特に重要です。これは「あなたが問題ではなく、問題が問題なんだ」という視点を共有し、問題を客観視する技法です。

Q: ナラティブ・セラピーはどのような場面で特に有効だとされていますか?

A: 学校でのいじめ後の支援や、家庭での問題行動のケア、発達障害児の自己肯定感の向上など、情緒面のケアを中心に多くの臨床例で有効性が報告されています。

Q: なぜナラティブ・アプローチは子どもにも適していると考えられているのですか?

A: 子どもは大人よりも想像力が豊かで、「お話」や「物語」の形式で考えるのが得意です。ナラティブ・アプローチはその特性に合っており、自分を語ることで内面の理解が深まります。

理解度を確認する問題

ナラティブ・アプローチの特徴として正しいものはどれか?

A. 問題行動を直接矯正することを重視する
B. 対象者の語る物語の再構築に重点を置く
C. 集団行動のデータを統計的に分析する
D. 思考の歪みを論理的に修正する

正解:B

ナラティブ・アプローチにおける“外在化”とは何を意味するか?

A. 問題を別の国に置き換えること
B. 問題とその人自身を切り離して考えること
C. 外国語で問題を考えること
D. 外部の専門家に相談すること

正解:B

関連キーワード

  • ナラティブ(語り)
  • 外在化(externalization)
  • オルタナティブ・ストーリー
  • 再著述(re-authoring)
  • 構成主義
  • ポストモダン心理学
  • 問題は問題、あなたは問題ではない

関連論文

Narrative Means to Therapeutic Ends

本書はナラティブ・アプローチの原点とも言える著作で、マイケル・ホワイトとデイヴィッド・エプストンが共同で執筆。
彼らは従来の「診断中心」の心理療法から離れ、クライエントの「語り」を通じて問題を再定義し、新しいストーリーを創出するプロセスを紹介しています。

理論的な書籍であるため、数値的なデータはありませんが、事例を通じて以下のような実践的成果が示されています:

  • 問題の“外在化”によって、クライエントが自分を責める思考から解放された
  • 新しいオルタナティブ・ストーリーの構築により、行動や自己評価に変化が見られた
  • クライエントの主体性が回復し、希望や未来志向が強まった

ナラティブ・アプローチは、言語と物語を使って「自己を再構築する力」を重視しており、
それによってクライエントの内的なリソース(強み)を引き出せることが示されています。
また、心理的ラベリングからの解放を可能にする手法としても評価されています。

Review of Narrative Therapy: Research and Field Reports

この論文は、ナラティブ・セラピーの理論的根拠と臨床実践のレビューを行った総説論文です。
教育現場、家族療法、医療支援など幅広い分野での使用例が紹介されています。

  • ナラティブ・アプローチはうつ病・摂食障害・トラウマなどへの支援で有効性が報告されている
  • 実証的エビデンスはまだ限定的であるが、クライエント満足度は高い
  • 問題の“再定義”を通じて、回復力(resilience)や希望が高まるという傾向が報告された

ナラティブ・アプローチは、症状の治療というよりも、「意味の再構築」による変容」を促す点に価値があります。
実証的データが少ないという課題はありますが、事例研究を通じた臨床的実効性は高いと評価されています。

Narrative Processes in Psychotherapy: An Empirical Exploration of the “Narrative Reconstruction” Model

この論文では、ナラティブ・アプローチのコア概念である「ナラティブ再構築(narrative reconstruction)」が、
実際の心理療法過程においてどう働いているかを経験的(empirical)に分析しています。

  • クライエントの語りの内容が、治療初期・中期・終盤で変化する様子を観察
  • 特に**「意味づけの変化」や「自己認識の再編成」**が重要な転機になる
  • セラピストが「過去の物語」と「現在の行動」をつなぐ支援を行うと、変容が促進される傾向

ナラティブ・アプローチは単なる理論ではなく、実際の治療過程において構造的な変化を促す実践技法であることが確認されました。
物語の変化と心理的変容が密接に関係している点が実証的に支持された貴重な研究です。

The effects of reminiscence on psychological well-being in older adults: A meta-analysis

このメタ分析は、高齢者を対象にしたナラティブ(回想)療法の心理的効果を評価したものです。
特に、「過去を語ること」がうつ・不安・自己受容にどのような効果を持つのかを複数の研究から統計的に統合しました。

結果:
  • 対象研究数:20件
  • 効果量(Cohen’s d):全体で0.31(中程度の効果)
  • 最大の効果が見られたのは抑うつ症状の軽減(d ≈ 0.45)
  • グループ形式よりも個別介入の方が効果が高い
解釈:

ナラティブ・アプローチの一形態である回想法(reminiscence therapy)は、高齢者にとって自分の人生を振り返り、意味づけ直す機会を提供する有効な方法です。
この研究は、語りによって心理的ウェルビーイングが実際に向上する
という科学的裏付けを提供しています。

覚え方

ナラティブ・アプローチって、簡単に言うと
「自分のストーリーを書き換えちゃおうぜ!」って心理学。

「俺ってずっとダメ人間」→「いや、よく考えたらけっこう頑張ってきたじゃん」って気づくと、世界の見え方も変わるってやつです。

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