仕事に関連するストレスの要因と、そのストレスが個人の健康やパフォーマンスにどのような影響を与えるかを説明するための理論的枠組みのこと
簡単な説明
職業性ストレスモデルは、仕事に関連するストレスの要因とその影響を理解するためのフレームワークです。仕事の負荷が大きく、職場でのコントロールやサポートが不足していると、ストレスが高まり、健康やパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
由来
職業性ストレスモデルは、仕事が個人に与えるストレスの影響を理解し、管理するために開発されたものです。多くのモデルが存在しますが、代表的なものに「要求-コントロールモデル(Demand-Control Model)」や「仕事要求-資源モデル(Job Demands-Resources Model)」があります。これらのモデルは、1970年代から1980年代にかけて、ストレスが職場における健康問題やパフォーマンス低下にどのように関与するかを明らかにするために発展しました。
具体的な説明
職業性ストレスモデルにはいくつかの種類がありますが、ここでは代表的なモデルを紹介します。
要求-コントロールモデル(Demand-Control Model)
このモデルは、仕事の要求(仕事量、時間的プレッシャー、役割の曖昧さなど)と、仕事に対するコントロール(意思決定の自由度、スキルの使用可能性)という2つの要因に焦点を当てています。高い仕事の要求と低いコントロールが組み合わさると、ストレスが増加し、健康に悪影響を与えるとされています。
仕事要求-資源モデル(Job Demands-Resources Model)
このモデルは、仕事の要求(肉体的・精神的な負荷)と仕事の資源(サポート、フィードバック、裁量など)が個人のストレスやバーンアウトにどのように影響を与えるかを説明します。高い要求と少ない資源が組み合わさると、ストレスが高まり、仕事に対する満足度が低下すると考えられています。
職業性ストレスモデルには、いくつかのストレス要素が含まれています。以下に代表的なものを説明します。
- 仕事の要求(Job Demands):
- これは、仕事の量や時間的プレッシャー、役割の曖昧さ、複雑さなど、仕事において個人に課される負担を指します。高い仕事の要求はストレスの大きな要因となります。
- コントロール(Control):
- 仕事に対する個人の裁量や意思決定の自由度を指します。コントロールが低いと、仕事の要求が高い場合に特に強いストレスを感じることになります。
- 仕事の資源(Job Resources):
- これは、職場でのサポート、フィードバック、適切な機材やスキルの利用可能性などを指します。仕事の資源が豊富であれば、ストレスが緩和され、仕事への満足度が向上します。
- 役割の曖昧さと葛藤(Role Ambiguity and Role Conflict):
- 役割が不明確であったり、相反する要求が存在する場合、個人はストレスを感じやすくなります。これは、役割の期待や責任が不明確な職場でよく見られる要因です。
- 職場のサポート(Social Support at Work):
- 同僚や上司からのサポートが十分である場合、ストレスは軽減されますが、サポートが不足しているとストレスが増大する可能性があります。
- キャリアの展望(Career Development Opportunities):
- 昇進の機会やスキルアップの機会が少ないと、仕事に対する不満やストレスが高まることがあります。
これらの要素が相互に影響し合い、職業性ストレスを形成します。特に、仕事の要求が高く、コントロールやサポートが不足している場合、ストレスが大きくなる傾向があります。
例文
新しいプロジェクトが始まり、仕事の要求が増えたが、田中さんにはそのプロジェクトに対して決定権が与えられていないため、職業性ストレスが高まっている。
疑問
Q: 職業性ストレスモデルにはどのような種類がありますか?
A: 代表的なモデルとして、要求-コントロールモデルと仕事要求-資源モデルがあります。
Q: 要求-コントロールモデルで、ストレスが増加するのはどのような場合ですか?
A: 仕事の要求が高く、コントロールが低い場合にストレスが増加するとされています。
Q: 仕事要求-資源モデルで、資源が少ないとどうなりますか?
A: 資源が少ないと、ストレスが高まり、仕事に対する満足度が低下し、バーンアウトのリスクが高まります。
Q: 職業性ストレスが健康に与える影響は何ですか?
A: 職業性ストレスが高まると、心血管疾患やメンタルヘルスの問題など、健康に悪影響を及ぼすことが確認されています。
Q: 職業性ストレスを軽減するためにはどうすればよいですか?
A: 仕事の要求を減らすか、コントロールやサポートを増やすことが効果的です。また、職場でのフィードバックや人間関係の改善も役立ちます。
理解度を確認する問題
要求-コントロールモデルにおいて、ストレスが最も高まるのはどのような場合か?
A) 仕事の要求が高く、コントロールが高い
B) 仕事の要求が低く、コントロールが低い
C) 仕事の要求が高く、コントロールが低い
D) 仕事の要求が低く、コントロールが高い
回答: C) 仕事の要求が高く、コントロールが低い
仕事要求-資源モデルにおいて、仕事の資源が増えるとどのような影響がありますか?
A) ストレスが増加する
B) バーンアウトのリスクが減少する
C) 仕事の要求が減少する
D) 仕事の満足度が低下する
回答: B) バーンアウトのリスクが減少する
職業性ストレスを軽減するための方法として適切なのはどれですか?
A) 仕事の要求を増やす
B) コントロールを減らす
C) 職場でのサポートを増やす
D) 資源を減少させる
回答: C) 職場でのサポートを増やす
関連キーワード
- 職場ストレス
- 要求-コントロールモデル
- 仕事要求-資源モデル
- コントロール
- バーンアウト
関連論文
Karasek, R. A. (1979). “Job demands, job decision latitude, and mental strain: Implications for job redesign.” Administrative Science Quarterly.
この論文は、ロバート・カラセックが提唱した「要求-コントロールモデル(Demand-Control Model)」に関する最初期の研究です。カラセックは、仕事の要求(Job Demands)と仕事のコントロール(Job Control)が、労働者のストレスと心理的健康にどのように影響するかを調査しました。
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Bakker, A. B., Demerouti, E., & Schaufeli, W. B. (2003). “Dual processes at work in a call centre: An application of the job demands–resources model.” European Journal of Work and Organizational Psychology.
この論文は、「仕事要求-資源モデル(Job Demands-Resources Model)」を適用した研究です。アーノルド・バッカーとエヴァ・デメルーティは、コールセンターで働く従業員を対象に、仕事の要求と資源がストレスとモチベーションに与える影響を分析しました。
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Siegrist, J. (1996). “Adverse health effects of high-effort/low-reward conditions.” Journal of Occupational Health Psychology.
この論文では、「努力-報酬不均衡モデル(Effort-Reward Imbalance Model)」が提案されています。ヨハネス・ジーグリストは、仕事における高い努力と低い報酬が、労働者の健康に与える影響を研究しました。
ジーグリストの研究では、高い努力(長時間労働や高い責任)を払っているにもかかわらず、報酬(給与、昇進の機会、社会的評価)が少ない場合、心血管疾患や精神的な健康問題のリスクが増加することが示されました。このモデルは、職業性ストレスが生じる一つの主要なメカニズムとして「努力と報酬の不均衡」を指摘しており、職場における公平性や報酬制度の改善が労働者の健康維持に重要であることを示しています。
覚え方
「仕事の要求に対してコントロールが効かないと、ストレスが溜まる」というフレーズを覚えておくと、職業性ストレスモデルの基本的な考え方が理解しやすくなります。
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