30歳の私が2000万円を溶かして学んだこと、そして今ならできること
「とりあえず、お前の部署で作ってみろ」
30歳の時、上司からそう言われました。
市場調査? 仮説検証? そんな時間はない。「3ヶ月で形にしろ。いいな」

私は従いました。チームを組み、仕様を決め、開発会社に発注しました。
半年後、完成したシステムのユーザー数は——100名でした。
正確には、初月に社内の義理で登録してくれた人たちが大半。私たちの目標は1年で10000名でしたから、わずか1%です。
でも、問題はそこではありませんでした。誰も使い続けなかったんです。
開発費1000万円。そして私とスタッフ2名の人件費を考えれば、プロジェクト全体で消えたコストは2000万円を超えていたでしょう。
プロジェクトは8ヶ月後、静かに終了しました。
それから17年が経ちました。47歳の今、私は『起業の科学 スタートアップサイエンス』という本を読んでいます。
ページをめくるたびに、思うんです。
「もし、あの時この本を読んでいたら」
私がやったのは、この本が指摘する「スタートアップが失敗する最も典型的なパターン」そのものでした。そして、その失敗は——防げたはずでした。
この記事では、30歳の私がどこで道を間違えたのか、そして『起業の科学』を読んでいたら何が変えられたのかを振り返りたいと思います。

もしあなたが今、新規事業を任されているなら。もし「とりあえず作れ」と言われているなら。私と同じ轍を踏まないでほしいんです。
第1の分岐点:アイデアの検証

あの時、何が起きていたのか
会議室。上司と私、二人きり。
「競合が○○機能を出した。うちも作れ。1年で10000名利用を目指す」
私は答えました。「わかりました」
会議は15分で終わりました。
私は疑問を持ちませんでした。競合がやっているなら、ニーズがあるはず。市場があるはず。作れば、誰かが使うはず。
次の日、私はチームを組み、仕様書を書き始めました。
もし『起業の科学』を読んでいたら
第1章「アイデアの検証」を読んだ私なら、会議でこう言えたと思います。
「まず、この3つを確認させてください」
1. これは誰の、どの痛みを解決しますか? 2. 今、ユーザーはどうやってその問題に対処していますか? 3. なぜ今の方法では不十分なのですか?
上司はおそらく答えられなかったでしょう。「競合がやっているから」では、答えになっていません。
そして私はこう続けます。
「では、開発着手前に2週間ください。想定ユーザー30名にヒアリングして、この仮説を検証させてください。もしニーズが確認できなければ、別の方向を検討しましょう」
たった2週間。されど2週間。
この2週間があれば、2000万円は使わずに済んだかもしれません。
本書が教えてくれること
『起業の科学』が最初に教えてくれるのは、「自分のアイデアを徹底的に疑いなさい」ということです。
著者の田所雅之さんは、日米で5社の起業を経験したシリアルアントレプレナー(連続起業家)です。彼が提唱する「リーンキャンバス」というフレームワークは、アイデアを9つの要素に分解し、それぞれを仮説として検証可能にします。
ただ、重要なのはフレームワークそのものではありません。
重要なのは、「作る前に疑う」勇気なんです。
30歳の私には、その勇気がありませんでした。上司の指示に従うことが、正しいと思っていました。でも、従順さと思考停止は違います。
私がすべきだったのは、上司の指示を「仮説」として受け止め、それを検証することでした。
第2の分岐点:顧客インタビュー

あの時、何が起きていたのか
私は「ユーザーの声」を聞いていました——つもりでした。
開発開始から1ヶ月後、社内の3部署に「こういう機能を開発中です。欲しいですか?」とメールしました。
2部署から「いいですね」と返事が来ました。
私は安心しました。ニーズがある。これで間違いない。
半年後、どちらの部署も使いませんでした。
「使ってみたんですが、今の方法の方が慣れてるので…」
そう言われた時、私は何も言い返せませんでした。
もし『起業の科学』を読んでいたら
第2章「課題の質を高める」を読んだ私なら、メールを送らなかったと思います。
代わりに、現場に行ったでしょう。そして、こう質問します。
「過去1週間で、○○の問題に対処するために何か行動を取りましたか?」
これが本書の教える「正しい質問」です。
未来の仮定(もしこんな機能があったら)ではなく、過去の具体的な行動を聞く。
なぜか。
人は未来のことになると、嘘をつきます——正確には、自分でも気づかない嘘をついてしまいます。「あったら便利そう」「使うと思います」。これらは社交辞令なんです。
でも、過去の行動は嘘をつきません。
もし相手が「過去1週間で、その問題のために何かした」と答えられないなら? それは問題ではありません。少なくとも、お金を払うほどの問題ではないんです。
私が聞くべきだった質問
「過去1ヶ月で、○○の問題のせいで困ったことはありますか? 具体的に教えてください」
この質問をしていれば、気づけたはずです。
「実は、そんなに困ってない」
という真実に。
本書が教えてくれること:顧客インタビューの技術
本書では、顧客インタビューの具体的な手法が詳しく解説されています。そして、こう警告しています。
「いいですね」は、最も信用できない言葉です。
30歳の私は、「いいですね」を集めて安心していました。でも、それは単なる確証バイアスでした。自分の仮説に都合のよい情報だけを集め、都合の悪い情報を無視していたんです。
本書が引用する『The Mom Test』という本の教えは明確です。
「母親にさえビジネスアイデアについて嘘をつかせないような質問をしなさい」
つまり、相手が社交辞令を言えないような、具体的な過去の行動を問う質問をしなさい、ということです。
もし私がこれを知っていたら。
現場に行き、30人に話を聞き、「この問題のために、お金を払ってでも解決したい」という切実さを感じ取れていたら。
あるいは、「思ったほど困っていない」という真実に、早い段階で気づけていたら。
2000万円は使わずに済んだかもしれません。
第3の分岐点:MVP(必要最小限の製品)

あの時、何が起きていたのか
仕様が固まりました。私は開発会社に発注しました。
開発期間:半年。費用:1000万円。
半年後、システムは完成しました。そしてリリース。
使われませんでした。
その時、私は思いました。「機能が足りないんだ」
上司からも「こういう機能も必要だろう」と指示が来ました。私は従いました。機能追加を始めました。
結果:
- 機能は増えた
- ユーザーは増えなかった
- 予算だけが減り続けた
もし『起業の科学』を読んでいたら
第3章「ソリューションの検証」を読んだ私なら、開発会社に発注しなかったと思います。
少なくとも、最初は。
2026年なら、こう検証します
ステップ1:生成AIで画面イメージを作る(数時間)
ChatGPTやClaudeに、こう指示します。
「営業管理システムのダッシュボード画面のイメージを生成してください。顧客リスト、商談進捗、今月の売上グラフを表示する感じで」
数分後、画像が生成されます。
これを想定ユーザー10人に見せます。
「こんな感じの画面、毎日使いたいですか?」 「どの情報が一番重要ですか?」 「今使っているExcelと比べて、どうですか?」
コスト:
- AI利用料:月2,000-3,000円程度
- 私の時間:半日
- ユーザーヒアリング:交通費のみ
ステップ2:反応が良ければ、動くプロトタイプを作る(数日)
ユーザーの反応が良ければ、次のステップに進みます。
生成AIに「この画面を動くHTMLとJavaScriptで実装して」と指示。2026年の生成AIなら、かなり実用的なコードを出力してくれます。
あるいは、Cursorのようなコーディングアシスタントツールを使えば、エンジニアでなくても簡単なプロトタイプが作れます。
これで、実際にボタンを押して、画面遷移を体験してもらえます。
「このボタンを押したら、何が起きると思いますか?」 「この操作、直感的ですか?」
この段階で分かります。
- 本当に使いたいと思ってくれるか
- どの機能が本当に必要か
- どの機能が不要か
- ユーザーが期待する操作の流れ
ステップ3:確証が得られたら、本開発
ここまで来て初めて、開発会社に発注します。
コストの階段:
- ステップ1(画像):数千円
- ステップ2(プロトタイプ):数万円
- ステップ3(本開発):1000万円
1000万円を使う前に、数万円で仮説を検証できます。
本書が教えてくれること:MVPの本質
MVPとは「Minimum Viable Product(必要最小限の実用製品)」の略です。
ただ、本書が強調するのは、MVPは「製品」である必要すらない、ということです。
重要なのは、「最小限の労力で、最大限の学びを得る」こと。
2026年なら、生成AIがその最強のツールになります。
- 画像生成で、ビジュアルを共有
- コード生成で、動くプロトタイプを作成
- 数日で検証を完了
2007年当時の私は、完璧な製品を作ろうとしました。でも、誰もそれを欲しがっていませんでした。
もし2026年の技術があったら。数時間で画面イメージを作り、10人に見せていたら。
「これ、別にいらないかも」
という真実に、早く気づけたはずです。
当時できたこと vs 今ならできること
| 2007年(30歳の時) | 2026年(今なら) |
|---|---|
| 開発会社に発注(半年・1000万円) | 生成AIで画像生成(半日・数千円) |
| 完成を待つしかない | 即座にユーザーに見せられる |
| 修正に追加費用と時間 | 指示を変えるだけで即座に修正 |
| 引き返せない | いつでも方向転換可能 |
| スタッフ2名+自分の時間 | 自分一人でも検証可能 |
技術の進化が、検証コストを100分の1にしました。
もう、「とりあえず作る」理由はありません。「とりあえず検証する」が、正しいアプローチです。
第4の分岐点:PMF(プロダクトマーケットフィット)

あの時、何が起きていたのか
リリースから1ヶ月。ユーザーは100名でした。
目標は1年で10000名。このペースでは絶望的です。
私は焦りました。「もっと広報しなければ」
社内報に掲載してもらいました。説明会を開きました。デモビデオを作りました。部署ごとに営業して回りました。全社メールも打ちました。
3ヶ月後、ユーザーは1000名になりました。
「やっと4桁…でも、目標の10分の1だ」
達成感はありませんでした。むしろ、焦りが増しました。
「このペースでは1年後でも3000名程度。目標10000名には全く届かない」
でも、翌月の利用状況を見て、さらに絶望しました。
ログイン数:月間3000回。1人あたり3回。
つまり、1000名のうち、実際に使っているのは100名程度。継続利用率:10%。
そして、その100名も、月に数回触るだけ。
目標10000名。現実は100名(実利用)。100分の1です。
心が折れました。
もし『起業の科学』を読んでいたら
第4章「プロダクトマーケットフィット」を読んだ私なら、3ヶ月目の時点で広報を完全に止めたと思います。
ユーザー数1000名。目標10000名の10分の1。
私は焦っていました。「もっと広報しなければ、10000名に届かない」
でも、本書を読んでいたら、こう気づいたはずです。
「問題は数ではない。製品が愛されていない」
実際に使っている100名全員に会いに行く。そして、こう聞きます。
「もしこのシステムが明日から使えなくなったら、どう思いますか?」
- 非常に残念だ
- やや残念だ
- 別に構わない
- もう使っていない
これが「ショーン・エリス・テスト」です。
おそらく、「非常に残念」は5-10名(5-10%)だったでしょう。大半が「3」か「4」だったはずです。
本書によれば、この数値が40%を超えない限り、マーケティングは無駄だと言います。
穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだ、と。
今の製品のまま、10000名に広報しても意味がありません。なぜなら、来てくれた人の90%が使わずに去っていくからです。
ユーザーを増やす前に、製品を使い続けてもらう。これがPMF(プロダクトマーケットフィット)の本質です。
私がすべきだったこと
広報を止める。
実際に使っている100名に徹底的に話を聞く。
- なぜ月に3回しか使わないのか
- どこが使いにくいのか
- 今の方法の何が良いのか
- どうなれば、毎日使いたいと思うのか
そして、製品を磨き直す。あるいは、方向を変える。
でも私は、逆のことをしました。
「10000名に届かない」という焦りから、さらにマーケティングを強化しました。
説明会を増やし、デモビデオを作り、上司に「現在1000名、順調に増えています」と報告しました。
これが、最も致命的な間違いでした。
本書が教えてくれること:虚栄の指標
本書は「虚栄の指標(Vanity Metrics)」という概念を紹介しています。
これは、見栄えは良いけれど実質的な意味がない数字のことです。
- 登録ユーザー数:1000名 ← 私が追いかけた数字
- ページビュー数
- ダウンロード数
これらの数字は、経営陣への報告で「一応の成果」として見せられます。でも、ビジネスの健全性を示しません。
重要なのは:
- リテンション率(継続利用率):何%のユーザーが翌月も使っているか → 私のケース:10%
- エンゲージメント:ユーザーがどのくらいの頻度で使うか → 私のケース:月3回
- NPS(ネット・プロモーター・スコア):他人に勧めたい度合い → 測定すらしていない
30歳の私は、「ユーザー1000名」という数字を追いかけました。
目標10000名には全く届いていない。だから、もっと広報しなければ。もっとユーザーを増やさなければ。
でも、問題はユーザー数ではありませんでした。
問題は、1000名のうち90%が使っていないことでした。
このまま10000名集めても、実際に使うのは1000名だけ。そして、その1000名も月に3回触るだけ。
誰も「ないと困る」とは思っていない製品を、10000人に広めても意味がないんです。
もしこれを理解していたら。
ユーザー数10000名を追うのではなく、「100名の熱狂的ファン」を作ることに集中していたら。
マーケティングではなく、プロダクト改善に集中していたら。
あるいは、「PMFに達していない」と判断して、早期に方向転換(ピボット)していたら。
結果は違ったかもしれません。
本来見るべきだった数字
| 私が見ていた数字 | 本来見るべき数字 |
|---|---|
| ユーザー数:1000名 | 継続利用率:10% |
| 目標10000名の10分の1 | 週次アクティブ率:10% |
| まずい、もっと広報しなければ | 「非常に残念」:5-10% |
| → さらにマーケティング強化 | → PMF未達成。製品を直そう |
この数字の見方を知っていれば、判断は180度変わっていました。
目標10000名は、今の製品では絶対に達成できない。
なぜなら、来てくれた人の90%が去っていくからです。
先にすべきは、「100名が『これがないと困る』と思う製品」を作ること。
それができれば、同じ課題を持つ10000名に自然に広がります。
第5の分岐点:軌道修正の技術
あの時、何が起きていたのか
リリースから3ヶ月。ユーザーは1000名になりました。
でも、実際に使っているのは100名程度。継続利用率:10%。
目標10000名に対して、実利用は100名。100分の1です。
私は焦っていました。「このままでは、1年後でも3000名程度。目標の3分の1にもならない」
上司にも突かれました。「1000名って、目標の10分の1じゃないか。どうするつもりだ?」
私は答えました。「もっと広報を強化します。全社的なキャンペーンを打ちたいです」
上司は言いました。「今、1000名集めて90%が使ってないのに、さらに集めてどうするんだ?」
私は何も言い返せませんでした。
でも、諦めませんでした——いえ、諦められませんでした。
「次のアップデートで改善する」 「UI/UXを改善すれば、使ってもらえる」 「機能を追加すれば、魅力的になる」
追加で200万円の予算をもらい、機能追加を始めました。
8ヶ月後、プロジェクトは終了しました。
最終ユーザー数:1500名(目標の15%)。 継続利用率:8%。
1500名登録して、実際に使っているのは120名だけ。目標の1.2%でした。
もし『起業の科学』を読んでいたら
私は、3ヶ月目で気づいたと思います。
「問題は数ではない。製品が愛されていない」
ユーザー1000名。目標10000名の10分の1。でも継続率10%。
この数字が意味するのは、「今の製品のまま10000名集めても、使うのは1000名だけ」ということです。
そして、その1000名も月に数回触るだけ。誰も熱狂していない。
でも、企業内新規事業では、簡単には止められません。
上司の指示で始まったプロジェクト。目標10000名と宣言済み。「やっぱり無理でした」とは言えない。
だから私は、**方向転換(ピボット)**していたはずです。
本書が教える「早く失敗せよ(Fail Fast)」の真意は、「プロジェクトを早く終わらせろ」ではありません。
「失敗の兆候を早く掴み、コストが低いうちに軌道修正しろ」
3ヶ月目で、私がすべきだったこと
ステップ1:失敗の本質を理解する
実際に使っている100名に、徹底的に話を聞く。
「もしこのシステムが明日から使えなくなったら、どう思いますか?」
- 非常に残念だ → おそらく5-10名
- やや残念だ → 20-30名
- 別に構わない → 50名
- もう使っていない → 20名
「非常に残念」が10%以下。これはPMF未達成の明確なシグナルです。
この製品のまま10000名を目指しても、無駄です。
でも、ここで終わりではありません。次の質問が重要です。
「では、あなたが『非常に残念』と思うシステムがあるとしたら、それはどんな機能を持っていますか?」
「今、一番困っていることは何ですか? それを解決するために、どんなツールがあったら理想的ですか?」
この質問で、顧客が本当に欲しいものが見えてきます。
ステップ2:上司への報告の仕方
ここが最も重要です。企業内新規事業では、「目標10000名は無理でした」は許されない。でも、「より確実な道を見つけました」は許される。
上司への報告書(3ヶ月目):

【プロジェクト進捗報告】
■現状
- ユーザー数:1000名(目標10000名の10%)
- 継続利用率:10%
- 実利用者数:100名(目標の1%)
■重要な発見
当初、「ユーザー数不足」が課題と考えていましたが、
ユーザーインタビューの結果、本質的な問題を発見しました。
**問題:製品が解決しようとしていた課題が、実際には深刻な問題ではなかった**
このまま広報を強化しても、来てくれた人の90%が使わずに去ります。
つまり、10000名集めても、実利用は1000名止まりです。
実際にユーザーが困っている課題:
○○の問題(具体例を3つ記載)
■提案:ピボット(方向転換)
- 現在の機能を大幅に削減
- ○○の課題解決に特化したシステムへ再設計
- 追加開発費:200万円(当初予算の1/5)
- 期間:3ヶ月
■根拠
- 新しい課題について、100名にヒアリング済み
- 「これがあれば非常に助かる」:70名(70%)
- MVPでの検証も完了(生成AIで画面イメージを作成し好評)
- 予想継続利用率:50-60%
■投資対効果の比較
【現状のまま継続した場合】
- 総投資:2000万円
- 予想到達:3000名(広報強化)× 10%継続率 = 300名実利用
- 単価:6.7万円/名
【ピボット実行の場合】
- 総投資:1200万円
- 予想到達:8000名(口コミ拡散)× 60%継続率 = 4800名実利用
- 単価:2500円/名
- 目標10000名の半分だが、実利用数は現状の48倍
このピボットにより、当初の目標「10000名利用」には届きませんが、
「実際に使われるシステム」を作ることができます。
この報告なら、上司も納得するはずです。
なぜなら:
- 「失敗」ではなく「より良い道の発見」として提示
- 数字で説得(投資対効果を明示)
- 現状継続のリスクを明確化
- 実利用数という本質的な指標を使用
ステップ3:高速でピボットを実行
生成AIで新しい画面イメージを作り、100名に見せる。 反応が良ければ、プロトタイプを作る。 さらに反応が良ければ、最小限の開発で実装する。
期間:3ヶ月 追加費用:200万円
合計投資:1200万円(当初計画の2000万円より800万円節約)
そして何より、成功する可能性が生まれる。
もし私がピボットしていたら
3ヶ月目で、私がピボットしていたら。
おそらく、こうなっていたと思います。
ユーザーインタビューで発見した「本当の課題」に焦点を当てる。 生成AIで新しい画面を作り、100名に見せる。 反応が良い。「これは欲しい」と言ってくれる人が70名(70%)。
上司に報告。追加予算200万円を承認してもらう。 3ヶ月で最小限の機能を実装。 リリース。今度は、使われる。
ユーザー数:2000名(控えめな広報) 継続利用率:50%(1000名が実際に使う) 「非常に残念」:45%
PMF達成。
その後、口コミで広がる。マーケティングをほとんどしなくても、ユーザーが自然に増える。
1年後: ユーザー数:8000名 継続利用率:60%(4800名が実際に使う)
目標10000名には届かなかったが、実利用数は当初計画(10000名×10%=1000名)の4.8倍。
これは、夢物語ではありません。「科学的アプローチ」を知っていれば、実現可能だったはずです。
企業内新規事業が陥る罠:数字の魔力
私のケースは、典型的な「目標数字への囚われ」でした。
目標10000名という数字に縛られた。
上司も役員も、「10000名達成したか?」と聞いてきます。
1000名では、10分の1。話になりません。
だから私は、必死にユーザー数を増やそうとしました。
でも、本質を見失っていました。
「10000名の『どうでもいい』ユーザーより、1000名の『これがないと困る』ユーザーの方が、はるかに価値がある」
本書を読んで、ようやく理解できました。
目標は数ではなく、「価値」です。
実際に使われ、愛されるシステムを作る。それができれば、数は自然についてきます。
逆に、誰も愛していない製品を10000人に押し付けても、意味がありません。
本書が教えてくれること:ピボットは恥ではない
本書の著者・田所さんは言います。
「成功したスタートアップの多くは、何度もピボットを経験している」
- Instagram:元々は位置情報SNSだった
- Twitter:ポッドキャストのプラットフォームだった
- YouTube:出会い系サイトだった
最初のアイデアで成功した企業の方が、実は少数派なんです。
重要なのは、**「学習の速度」**です。
失敗のシグナルを早く掴み、軌道修正を早く実行する。これができるチームが勝つ。
本書が教えてくれる、もう3つの重要なこと
5つのフェーズ以外にも、『起業の科学』は新規事業で成功するための重要な教えを含んでいます。30歳の私が特に知りたかった3つを紹介します。
1. チームビルディング:一人で戦わない

私は一人で抱え込みました。「自分がやらなきゃ」と。
でも本書は、理想的な創業チームには3つの役割が必要だと教えています。
- ハッカー(技術を創る人)
- ハスラー(ビジネスを創る人)
- ヒップスター(デザインを創る人)
一人で全てをこなすのは無理です。自分に足りないスキルを補完してくれるパートナーを見つける。これが、長期的な成功の鍵になります。
そして本書が強調するのは「カルチャーの醸成」です。
組織が拡大するにつれて、技術やビジネスモデルは真似されます。でも、組織のカルチャーは簡単には複製できません。
著者の田所さんは言います。「カルチャーこそが、模倣困難な最大の競争優位性になる」
30歳の私は、これを理解していませんでした。メンバーに「作業」を任せただけで、「文化」を作りませんでした。
2. 市場とタイミング:10倍優れた体験を提供する
本書で最も印象的だったのは、「タイミング」の重要性です。
どんなに優れた製品でも、市場のタイミングが合わなければ失敗します。早すぎても、遅すぎてもダメなんです。
そして、競合分析について。
私は「直接的なライバル」だけを見ていました。でも、本当の競合は「代替品」です。
顧客は常に、何らかの既存手段で課題を解決しています。
- Excelで管理する
- 手作業でやる
- 我慢する
これら全てが競合です。
ピーター・ティールが言う通り、顧客の現状維持バイアスを乗り越えるには、既存の代替手段に対して**「10倍優れている」**体験を提供する必要があります。
私のシステムは、既存の方法より「1.5倍便利」でした。でも、それでは乗り換えてもらえなかったんです。
3. 認知バイアス:自分の最大の敵
本書の第6章は、「起業家の内なる敵」について語っています。
私が最も共感したのは、保有効果と確証バイアスの話です。
| 認知バイアス | 説明 |
|---|---|
| 保有効果 | 自分が所有するもの(アイデアを含む)に、客観的価値より高い価値を感じてしまう |
| 確証バイアス | 自分の仮説に都合のよい情報ばかりを集め、都合の悪い情報を無視する |
30歳の私は、両方のバイアスに囚われていました。
「このアイデアは絶対にうまくいく」と根拠なく信じ、「いいですね」という言葉だけを集めて、「使いにくい」という声を無視していました。
本書が提唱する科学的アプローチの真の価値は、こうした認知バイアスに対して、客観的なデータという現実を突きつける「解毒剤」として機能することです。
また、本書はクリステンセン教授の**「ジョブ理論」**を紹介しています。
「顧客は製品を『雇用』して、自分の用事(ジョブ)を片付けている」
有名なミルクシェイクの事例。顧客が朝にミルクシェイクを買う理由は、味でも価格でもありませんでした。
彼らが片付けたかったジョブは、**「長くて退屈な朝の通勤時間を紛らわすこと」**だったんです。
つまり、競合は他のドリンクではなく、バナナであり、スマホゲームだった。
顧客の課題には二種類あります。
- ビタミン剤:あったらいいな、という程度
- 鎮痛剤:なくてはならない、強烈な痛み
成功するスタートアップは「鎮痛剤」を提供します。なぜなら、ビタミン剤は景気が悪くなれば真っ先に切り捨てられるからです。
私のシステムは、ビタミン剤でした。あったら便利だけど、なくても困らない。

本書を読んで、ようやく理解できました。
私が学んだ最大の教訓
あれから17年。
私はマーケティング支援の仕事で、多くの新規事業を見てきました。そして何度も、30歳の自分と同じ光景を目撃しました。
「とりあえず作れ」で始まり、半年後に誰も使わないものが完成する。
その度に思います。「もし、あの時」と。
でも、後悔だけでは意味がありません。
私がこの失敗から学んだことは、今の仕事で武器になっています。
「作る前に検証する」 「顧客の行動を見る」 「やめる勇気を持つ」
これらは、クライアントへの助言として、何度も役立ちました。
ただ、願うことがあります。
もし30歳の私が『起業の科学』を読んでいたら。
2000万円は使わず、期間は3ヶ月に短縮できたかもしれません。そして、学びだけは同じように得られたはずです。
もし、過去の自分に1通だけメールを送れるなら
件名:30歳の私へ。10000名は、今の製品では絶対に無理だ
本文:
これから、上司に「10000名利用を目指せ」と言われます。
3ヶ月後、ユーザー1000名を達成します。 焦らないでください。
1000名は、失敗ではありません。重要な学びです。
その1000名のうち、実際に使うのは100名だけ。 この数字が教えてくれています。
「今の製品のまま10000名集めても、使うのは1000名だけ。そして、誰も熱狂していない」
上司には、こう報告してください。
「1000名達成しましたが、継続率が10%です。 このまま広報を強化しても、10000名×10%=1000名実利用で終わります。
ユーザーインタビューで、本当に困っている課題を発見しました。 方向転換(ピボット)させてください。 追加予算200万円、期間3ヶ月で、実現できます。
新しい方向なら、継続率60%が見込めます。 8000名×60%=4800名実利用。当初計画の4.8倍です」
目標10000名という数字に囚われないでください。 重要なのは、「本当に使われるか」です。
1000名の「これがないと困る」が、10000名に広がります。
失敗は恥ではありません。 軌道修正しないことが恥です。
From: 47歳の私
あなたに、同じ失敗をしてほしくない
私は過去を変えられません。
でも、あなたは未来を変えられます。
もしあなたが今、「とりあえず作れ」と言われているなら。もし、顧客の検証なしに開発を始めようとしているなら。
2週間でいいんです。立ち止まってほしいんです。
明日、あなたにしてほしいこと

1. この3つの質問に答えてみてください
【仮説検証シート】
Q1: これは誰の、どの痛みを解決しますか?
答え:
Q2: 今、その人はどうやってその痛みに対処していますか?
答え:
Q3: なぜ今の方法では不十分なのですか?
答え:
答えられないなら、来週の開発会議は延期してください。
2. 想定ユーザー10人に会いに行ってください
質問は1つだけでいいです。
「過去1週間で、○○の問題に対処するために何か行動を取りましたか?」
もし「特に何もしていない」と答えられたら、それは問題ではありません。開発を止めてください。
3. 『起業の科学』を読んでみてください
この記事で紹介したのは、本書の10%にも満たないんです。
特に読んでほしい章:
- 第2章「課題の質を上げる」(顧客インタビューの具体的手法)
- 第4章「PMFを測定する」(数値での判断基準)
- 第9章「スケーリングの罠」(私が最も失敗した部分)
2000万円溶かして学ぶより、3,000円で学べます。
私のように、8ヶ月を無駄にしないために。
『起業の科学』は、私が30歳で欲しかった羅針盤です。
あの時これを読んでいたら、私の道は違っていたかもしれません。
でも、今あなたの手には、その羅針盤があります。
使ってほしいんです。
そして、私と同じ後悔をしないでほしいんです。
失敗は避けられます。でも、挑戦しなければ、成功も訪れません。
ただ、「正しい方法」で挑戦してほしいんです。
それが、30歳の自分と、今のあなたへの、私からのメッセージです。


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