人が不正をする理由を3つの要素で説明する理論のこと
簡単な説明
不正って、「やらなきゃ」「できちゃう」「やってもいいかも」って気持ちがそろうと起きやすいんだよね。
つまり、理由・チャンス・言い訳の3点セット。
会社はそのチャンス(=スキ)をなくすのが一番効くってわけ。
由来
「不正のトライアングル」は、1970年代にアメリカの犯罪学者ドナルド・クレッシー(Donald Cressey)によって提唱された理論です。彼は、多くの経済犯罪(特に横領などの職場不正)を調査した結果、人が不正を行うには「動機」「機会」「正当化」の3つの要素がそろっていることが多いと発見しました。
具体的な説明
不正のトライアングルは以下の3つの要素で構成されます:
- 動機(プレッシャー / Incentive)
不正をしなければならない理由(例:借金、業績プレッシャー、生活苦など) - 機会(Opportunity)
不正をできる状況や環境(例:監視が甘い、内部統制が弱い) - 正当化(Rationalization)
不正をしても仕方ないと自分に言い聞かせる気持ち(例:「みんなやってるから」「会社が悪いから」)
犯罪社会学や会計学の観点から見ると、不正行為は単独の動機や人格だけでは説明できず、組織環境や心理的要因が複雑に絡み合って発生するとされます。特に企業においては、内部統制の強化により「機会」を減らすことが不正防止において極めて重要です。
具体的な実験や観察手法と結論
アメリカの複数の研究機関が行った企業不祥事のケーススタディによれば、不正を起こした人物の約90%が「正当化」に関する発言をしていたことが報告されています。また、内部監査の結果、監視体制が甘い部署では不正が発生しやすい傾向があるとされています。
例文
「クラスでテストの点数が悪いとお小遣いが減るルールがあるとするよね。Aくんはお小遣いを減らされたくない(動機)、先生がプリントを机に置きっぱなしにしていた(機会)、そして“ちょっと見るだけならバレないし、そもそも置いといた先生が悪い”って思った(正当化)。この3つがそろうと、Aくんは答えを見てしまうかもしれない。それが不正のトライアングルだよ。」
疑問
Q: 不正のトライアングルの中で、一番対策しやすいのはどの要素ですか?
A: 一番対策しやすいのは「機会」です。企業や組織は監視体制や内部統制を強化することで、不正のチャンスを減らすことができます。
Q: 「正当化」ってどうやって見つけるのですか?
A: 正当化は人の心の中の問題なので見つけるのは難しいですが、不満や愚痴が多い社員などは注意が必要です。
Q: 不正のトライアングルは全ての不正に当てはまりますか?
A: 多くの経済的な不正行為には当てはまりますが、すべてに完全に当てはまるわけではありません。感情的な暴発などは別の理論で説明されます。
Q: 不正のトライアングルの対策として何をすればいいですか?
A: 組織としては内部統制の強化、社員のストレスケア、不満の解消、倫理教育などが有効です。
Q: 不正のトライアングルに「能力」という要素が加わると、何が変わるのですか?
A: 「能力(Capability)」が加わることで、高い地位やスキルを持つ人による巧妙な不正にも目を向ける必要があることがわかります。つまり、「できる人ほどバレない不正をしやすい」という点が明らかになります。
Q: 不正の「正当化」は客観的に測定できるのですか?
A: 完全に客観的に測るのは難しいですが、組織内の倫理風土や従業員の満足度調査などから傾向を把握することは可能です。たとえば「上司に意見を言いづらい」といった回答が多ければ、正当化しやすい環境が疑われます。
Q: 「機会」が一番不正と相関が強いというのはどうしてですか?
A: メタ分析の結果によると、「不正をしようと思えばできる」状態が続くことが、不正の最も大きな要因になるからです。たとえば、金庫に鍵がない、経理を1人で管理しているなどの環境があれば、不正が現実的になります。
Q: 会社がどんなに厳しくしても不正は起きるのでは?
A: 完全にゼロにはできませんが、不正が起きにくい構造をつくることは可能です。特に「機会」を減らすことは、明確な効果があります。また、従業員が安心して相談できる文化をつくることで「正当化」の余地も減らせます。
Q: 経営者による不正はどのように防ぐべきですか?
A: 経営層による不正は「能力」が高いために見抜きにくいです。そのため、社外取締役の導入、外部監査の強化、権限の適切な分散など、ガバナンス体制の整備が必要です。
理解度を確認する問題
不正のトライアングルの構成要素として「不正を自分の中で正しいと思い込むこと」を何と呼びますか?
A. 動機
B. 正当化
C. 機会
D. 抵抗
正解:B. 正当化
関連論文や参考URL
「The Fraud Triangle and Beyond」(W. Steve Albrecht, 2011)
概要:
この論文では、従来の不正のトライアングル(動機・機会・正当化)に加えて、「能力(Capability)」という第4の要素を提唱しています。特に経営層による大規模な不正の事例を調査し、不正を実行に移せるスキルや地位の有無が重要であると分析しています。
結果:
・大規模な不正には、加害者が組織内の高い地位にいることが多い
・「能力」のある人は、不正を隠蔽し、内部統制をすり抜けることができる
・不正の四角形(Four-Element Fraud Model)として再構成が必要と提案
解釈:
企業のコンプライアンス対策では、経営層の行動監視やガバナンス体制の強化が不可欠であることが示されています。「能力」の概念を導入することで、より現実的な不正防止策を設計できます。
“Why Do People Commit Fraud? A Behavioral Perspective on the Fraud Triangle” – Murphy & Free, 2016
概要:
この論文は心理学・行動経済学の視点から、不正のトライアングルの各要素を分析し、特に**「正当化(Rationalization)」**に注目しています。人がどのように自分の不正を正当化するかを定性的なインタビューで調査しています。
結果:
・正当化は「自分は損している」「制度が不公平」「みんなやってる」などの主観的な理由に基づく
・組織文化が寛容であると、不正の正当化がしやすくなる
・倫理教育の有無が不正発生率に関係する
解釈:
心理的な正当化の構造を理解することで、倫理的風土(Ethical Climate)の整備が企業にとって重要だと示されました。
“A Meta-Analysis of the Fraud Triangle Framework in Accounting Research” – Trompeter et al., 2013
概要:
このメタ分析では、1980年〜2010年に発表された130本以上の不正行為関連論文を対象に、「不正のトライアングル」がどの程度実証研究で支持されているかを検証しています。
結果:
- 「機会」は不正発生との最も強い相関を持つ(相関係数:r = 0.65)
- 「動機」は中程度の相関(r = 0.47)
- 「正当化」は比較的弱い相関(r = 0.31)
- 特に内部統制の強度が不正発生に大きな影響を与えることが統計的に確認された
解釈:
このメタ分析により、機会の管理(例:監査・権限分離など)が最も効果的な不正防止策であることが明確になりました。したがって、企業や組織のガバナンス構造を見直すことが最重要といえます。
まとめ
不正のトライアングルは、人が不正を行う3つの条件「動機」「機会」「正当化」で構成されます。
この3つがそろうと、不正が発生しやすくなります。
企業では「機会」を減らす内部統制の強化が最も効果的な対策で


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