人や仕事が複数の上司や部署に属する組織のしくみのこと
簡単な説明
マトリックス組織とは、従業員が「2つ以上の指揮命令系統」に所属する組織形態のことです。
たとえば、エンジニアが「開発部門の上司」と「プロジェクトマネージャー」の2人の指示を受けるような構造です。
これは、専門性(機能)と柔軟なプロジェクト対応の両立を目指した仕組みです。
由来
1960年代にアメリカの航空・宇宙産業で複雑なプロジェクト管理が必要となったことがきっかけで誕生しました。
「部門(縦のライン)」と「プロジェクト(横のライン)」の2つの視点で組織を管理する方法として発展しました。
具体的な説明
例えば、Aさんは「技術開発部」に所属しているエンジニアですが、現在は「新製品プロジェクト」にも参加しています。
この場合、Aさんは技術開発部の部長と、新製品プロジェクトのリーダーという2人の上司を持ちます。
つまり「日常業務は部長」「プロジェクトの進行はリーダー」から指示を受けるという仕組みです。
マトリックス組織は、「機能別組織(ファンクショナル型)」と「プロジェクト型組織(プロダクト型)」のハイブリッドとされます。
この構造により、専門性の維持と、環境変化への柔軟対応が可能になりますが、一方で権限や責任の不明確化、コンフリクト(指示の衝突)が起きやすいというデメリットも指摘されています。
経営学の研究では、マトリックス組織を導入している企業のほうが、複雑なプロジェクトの遂行能力や市場対応力が高いという調査結果があります(例:GE、P&Gなど)。
しかし、成功には明確な役割分担とコミュニケーション能力が不可欠であるとも結論づけられています。
例文
僕は開発部の一員だけど、新しいアプリ開発のプロジェクトにも入っているから、マトリックス組織の中で動いてるんだ。
疑問
Q: マトリックス組織にするとどんなメリットがありますか?
A: 専門性を保ちつつ、複数のプロジェクトにも柔軟に対応できる点が大きなメリットです。
Q: マトリックス組織にすると困ることもありますか?
A: 上司が2人以上になるため、指示が食い違ったり、責任の所在が曖昧になる場合があります。
Q: どんな会社でマトリックス組織が使われていますか?
A: 複雑な製品開発や、複数国での事業を行うグローバル企業などでよく使われています(例:トヨタ、日立、P&G)。
Q: マトリックス組織は他の組織形態とどう違いますか?
A: 機能別組織は「専門分野ごと」、プロジェクト型は「目的ごと」、マトリックス組織はその両方の要素を組み合わせた形です。
Q: IT業界にもマトリックス組織はありますか?
A: はい。特にSIer(システムインテグレーター)や大手IT企業では、開発部門とプロジェクトごとの組織が並立していることがよくあります。
Q: マトリックス組織では、評価(人事考課)はどちらの上司が行いますか?
A: 多くの企業では部門長とプロジェクトマネージャーの両方が評価に関わります。評価の基準や役割分担を明確にすることで、公平性と納得感が保たれます。
Q: なぜ最近のグローバル企業ではマトリックス組織が増えているのですか?
A: 製品開発や市場対応が多国間にまたがるため、部門の専門性とプロジェクトの柔軟性を両立させる必要があるからです。複雑な環境に適応しやすい構造といえます。
Q: マトリックス組織で「指示の衝突」が起きた場合、どうすればよいですか?
A: 組織内であらかじめ優先順位のルールや調整の仕組み(調整会議や連絡係)を設けておくことで、混乱を防ぐことができます。コミュニケーションが鍵です。
Q: マトリックス組織はどんな業種に向いていますか?
A: 製造業、IT業界、コンサルティング、建設業などプロジェクト単位で進行する業務が多い業種に向いています。複数の知識や専門家が必要な仕事に最適です。
Q: マトリックス組織の導入にはどんな準備が必要ですか?
A: 明確な役割分担、指揮系統、目標管理の仕組みを設計する必要があります。また、社員に「複数の上司と協働する力(ソフトスキル)」も求められます。
理解度を確認する問題
問: マトリックス組織の特徴として最も適切なものはどれか。
A. 指示系統は常に1つに限定される
B. 同じ部門の人だけで構成される
C. 複数の上司からの指示を受けることがある
D. 一人の上司が全社のすべてを管理する
正解: C
関連論文や参考URL
“Managing the Matrix: The Challenge of Cross-Functional Teams”
概要
この古典的論文は、マトリックス組織における指揮命令の重複と権限分散の課題を分析し、成功の鍵は「明確なコミュニケーションと意思決定ルール」にあると論じています。
結果
- 明確な目標共有がある場合、マトリックス組織は高い柔軟性と効率性を実現できる
- 一方で、上司間の利害対立や責任の曖昧化により、混乱が生じやすい
解釈
マトリックス組織は万能ではないが、組織内での「協働文化」が育っていれば非常に有効であるとされています。
“The Matrix Organization”
概要:
この論文では、マトリックス組織の定義、進化の背景、そしてその構造的特徴について詳しく説明しています。特に、二重または複数の指揮命令系統を持つ組織形態としてのマトリックス組織の特性を明らかにしています。
主な結果:
- マトリックス組織は、機能別組織とプロジェクト組織の要素を組み合わせたものであり、柔軟性と専門性の両立を可能にする。
- しかし、複数の上司からの指示を受けることによる混乱や、権限と責任の曖昧さといった課題も存在する。
解釈:
マトリックス組織は、複雑なプロジェクト環境において有用な組織形態であるが、効果的に機能させるためには明確な役割分担とコミュニケーションが不可欠であることが示唆されています。
“Problems of Matrix Organizations”
概要:
この論文では、マトリックス組織が直面する一般的な問題点を分析し、その原因と影響について考察しています。特に、組織内の権限、責任、コミュニケーションの複雑さに焦点を当てています。
主な結果:
- マトリックス組織では、指示系統の複雑さから、意思決定の遅延や責任の所在が不明確になる傾向がある。
- これらの問題は、組織文化やリーダーシップのスタイルによってさらに悪化する可能性がある。
解釈:
マトリックス組織を成功させるためには、明確な権限委譲、効果的なコミュニケーション戦略、そして組織文化の整備が必要であることが示されています。
“How to Make Your Matrix Organization Really Work”
概要:
この論文では、マトリックス組織を効果的に運用するための具体的な戦略と実践的なアプローチを提案しています。特に、リーダーシップ、コミュニケーション、権限の明確化に焦点を当てています。
主な結果:
- マトリックス組織の成功には、リーダーが明確なビジョンを持ち、組織内の役割と責任を明確に定義することが不可欠である。
- 定期的なコミュニケーションとフィードバックの仕組みが、組織の効率性と従業員の満足度を向上させる。
解釈:
マトリックス組織を効果的に機能させるためには、組織構造だけでなく、リーダーシップの質やコミュニケーションのプロセスが重要であることが示唆されています。
まとめ
マトリックス組織とは、社員が部門長とプロジェクトリーダーなど複数の上司に同時に所属する組織構造です。
専門性と柔軟性を両立できる一方で、指示の混乱や責任の不明確さが課題となります。
複雑なプロジェクトやグローバル展開に対応するために、多くの企業で採用されています。


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