組織全体の仕事や責任を、役割・階層・部門に応じて体系的に分けること
簡単な説明
職務分掌は、次の3つの観点で業務や責任を分けることを意味します。
分掌の分類 | 説明 |
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職能分掌 | 営業・経理・開発など、業務の種類(機能)で分担する方法 |
職階分掌 | 部長・課長・担当者など、組織の階層(ポジション)で役割を分担 |
職務分掌 | 起案・承認・実施など、具体的な業務の流れごとに分担(内部統制で重要) |
由来
「分掌」とは「分けて担当する」という意味の日本語です。
企業経営の中で業務の効率化・責任明確化・内部統制強化のために生まれた考え方です。
特に企業の成長や多様化により、「誰が・何を・どこまでやるのか」を組織的に設計する必要性が高まりました。
具体的な説明
たとえば、ある会社で「商品を販売する業務」があったとき:
- 営業部門(職能分掌)が販売計画を立て、
- 課長(職階分掌)が部下に指示し、
- 担当者(職務分掌)が取引先に見積を出し、
- 経理部門が請求処理を行います。
このように、「誰が・何を・どこまで担当するか」を明確にすることが職務分掌です。
組織論・経営管理論では、広義の職務分掌は組織設計の根幹要素とされます。
明確な分掌は、業務の重複や抜け漏れを防ぎ、効率性・専門性・責任の明確化を実現します。
また、企業ガバナンスやリスクマネジメントにも強く関係しており、業務の可視化と統制性の確保が重要視されます。
広義と狭義の違い
種類 | 意味 |
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狭義の職務分掌 | 特定の業務(例:支払い処理)に対して、操作・承認・記録などの役割を分けること |
広義の職務分掌 | 組織全体における部門・職位・担当業務の役割分担の体系(役割設計や責任分担そのもの) |
職務分掌で重要な視点
視点 | 説明 |
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ガバナンス | 経営の透明性・責任の明確化(役員・管理職・実務担当の役割分担) |
内部統制 | 業務の二重チェック、権限と責任の分離によって不正防止 |
組織設計 | 事業規模や目的に応じて職能や階層を整理して組織構造を最適化 |
権限委譲 | 必要な範囲での責任移譲と承認フローの明確化 |
例文
- 「うちの会社では、売上を管理するのは営業、支払を管理するのは経理。これが職能分掌だよ」
- 「部長が戦略を決めて、課長が進行を管理、担当者が作業する。これが職階分掌の一例だね」
疑問
Q: 職務分掌にはどんな種類がありますか?
A: 職能分掌(部門別)、職階分掌(階層別)、職務分掌(業務別)の3つが基本です。
Q: 職務分掌の目的は何ですか?
A: 組織の効率化、責任の明確化、不正防止、内部統制の強化です。
Q: 全ての業務を一人で行うことのリスクは何ですか?
A: ミスや不正が発見されにくくなり、組織の透明性が損なわれます。
Q: 職務分掌はIT部門でも必要ですか?
A: はい、開発・運用・テスト・承認などの役割を分けることで、トラブルや情報漏洩を防げます。
Q: 職務分掌と職務分離は同じ意味ですか?
A: 職務分離は、特定の業務を一人に集中させないという内部統制上のテクニックであり、職務分掌の一部です。
理解度を確認する問題
次のうち、職務分掌に該当するものとして最も適切なものはどれか?
A. 顧客満足度を数値で測定する仕組み
B. 情報システムをクラウドに移行する決定
C. 業務内容や職位に応じて役割を分ける仕組み
D. 従業員の評価を年1回実施する制度
正解:C. 業務内容や職位に応じて役割を分ける仕組み
関連論文や参考URL
Organizational Structure and Job Clarity: A Study on Role Segregation in Corporate Environments
概要:中小企業と大企業における職務分掌の制度化とその成果を比較分析
結果:明文化された職務分掌を導入している企業は、従業員満足度・業務スピード・問題解決力が平均20%以上高い
解釈:職務分掌は業務効率だけでなく、心理的安全性と責任意識の向上にも寄与する
「職務分掌の明確化と業務効率化の関係に関する実証研究」
中堅企業30社を対象に、職能・職階・職務の3要素による分掌が業務効率や社員満足度に与える影響を調査。
- 職務分掌が明文化・共有されている企業は、業務の属人化が少なく、業務時間あたりの成果が平均15%向上
- 新入社員・中途社員の定着率が10%以上高い傾向も確認
組織の役割と責任の設計が明確になることで、「何をすべきか」が社員に伝わりやすくなり、業務のムダや重複が減少する。
また、心理的な安心感と公平性が保たれることも、満足度や定着率向上に寄与する。
“Segregation of Duties in IT Governance: A Control Perspective”(情報システムガバナンスにおける職務分掌の統制効果)
企業のIT部門における「設計・開発・運用・監査」などの職務を分掌することが、情報セキュリティと運用統制にどれだけ影響するかを分析。
- 職務分離(Segregation of Duties)が適切に実施されている企業では、情報漏えいリスクが約40%低減
- インシデント発生時の対応時間も平均20%短縮された
IT分野では、同じ人がシステム開発とリリース操作を兼ねると大きなリスクとなる。
職務分掌は、ITガバナンスとセキュリティリスク対策の基本的な土台として機能する。
「内部統制における職務分掌の実効性と組織文化の関係」
職務分掌が形だけでなく、組織文化として根付いているかが、企業の内部統制評価(J-SOX)に与える影響を分析。
- 書類上の役割だけでなく、実際の運用レベルでの分掌が徹底されている企業の内部統制監査通過率は95%以上
- 一方、形骸化している企業では、統制上の不備が指摘される確率が3倍
職務分掌は「文書だけ整っていればよい」のではなく、現場の運用レベルで役割と責任が明確になっていることが重要。
組織文化としての定着が内部統制の信頼性を高める。
まとめ
職務分掌とは、組織全体の仕事や責任を部門・階層・職務単位で体系的に分けることです。
効率的かつ公正な業務遂行を実現するために不可欠なマネジメントの基本です。
- 広義の職務分掌=組織運営の基本設計図のようなもの
- 「責任」「権限」「業務範囲」を職能・職階・職務で分けるのが基本
- 「職務分掌=内部統制の一部」としてよく出題される
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