感情の「もと」になるシンプルな気分(コア・アフェクト)が、複雑な感情を作り出すベースになるという理論のこと
簡単な説明
「感情ってさ、急に怒ったり泣いたりしてると思うけど、実は心の中に“基礎的な気分”があるんだよね。それが“コア・アフェクト”。たとえば“なんかムカつく”って気分に、“アイツに悪口言われた”って意味がくっつくと“怒り”になるって感じ!全部の感情のもとになる気分のことを“コア・アフェクト”って呼んでるんだ〜。」
コアアフェクト理論をまとめた動画はこちら
由来
コア・アフェクト理論は、心理学者**ジェームズ・ラッセル(James A. Russell)**が提唱した感情理論です。2003年に発表された論文が広く知られており、それ以前の感情研究(快−不快、覚醒−沈静など)の枠組みを整理し、感情の基本構造を定義した理論です。
具体的な説明
私たちが日常で感じる「喜び」「怒り」「不安」などの感情は、実はもっとシンプルな「感じ」に分解できます。それが「コア・アフェクト(Core Affect)」です。
この理論では、コア・アフェクトは以下の**2つの軸(次元)**で構成されます。
- 快 − 不快(Pleasure–Displeasure)
- 覚醒 − 低覚醒(Activation–Deactivation)
この2軸で作られる平面上に、自分の「今の気分」が位置づけられます。
ここでいう 「覚醒(activation)」 とは、心理学では「心や体の活動レベルの高さ」を意味します
コア・アフェクトとは、身体感覚と認知が混ざった、意識的または無意識的に感じる「気分の原型」です。この理論は、「感情は突然生まれるものではなく、コア・アフェクトに意味づけが加えられて構築される」と考えます。
たとえば「怒り」という感情は、「不快」+「高覚醒」のコア・アフェクトに、「他者が自分を傷つけた」という解釈が加わって構成されるのです。
覚醒の高低のイメージ
| 状態 | 快 − 不快 | 覚醒のレベル(高・低) | 例 |
|---|---|---|---|
| 興奮してる | 快 | 高覚醒 | スポーツで勝った時 |
| 不安・怒っている | 不快 | 高覚醒 | テスト前の緊張、怒鳴った時 |
| リラックスしてる | 快 | 低覚醒 | 休日にソファでのんびり |
| うつ・疲労感 | 不快 | 低覚醒 | 落ち込んで元気がない時 |
ポール・エクマン(Paul Ekman)が提唱した「基本感情理論」では、以下の7つの感情が生得的(生まれつき)に備わっていて文化を超えて普遍的だとされています。
コア・アフェクト理論と基本感情理論が「感情の定義そのもの」を違う角度から見ているためです。この2つは対立ではなく補完的な関係と考えるのが現在の主流です。
「基本感情7分類」と「コア・アフェクト理論(快−不快 × 覚醒−低覚醒の2軸)」を重ねて表現した図表
| 感情名 | 快/不快 | 覚醒度 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 喜び | 快 | 高覚醒 | 勝利・成功時などに多い |
| 驚き | 快/不快 | 高覚醒 | 文脈によって変わる(ポジティブにもネガティブにも) |
| 怒り | 不快 | 高覚醒 | 身体の興奮と攻撃傾向が強い |
| 恐怖 | 不快 | 高覚醒 | 心拍数上昇・逃避反応が強い |
| 悲しみ | 不快 | 低覚醒 | うつ的状態に近く、エネルギーが低い |
| 安らぎ | 快 | 低覚醒 | 落ち着きやリラックス(例:入浴、瞑想) |
| 嫌悪 | 不快 | 中〜低覚醒 | 回避反応が主(吐き気、顔を背けるなど) |
| 軽蔑 | 不快 | 中覚醒 | 社会的評価に基づく高次な感情 |
例文
「今日はなんとなくそわそわして、イライラする」というのは、コア・アフェクトで言えば「不快」かつ「高覚醒」の状態です。それに「テストが近いから緊張してるんだ」という意味づけがされると、「不安」という感情が成立します。
疑問
- Qコア・アフェクトと感情はどう違うのですか?
- A
コア・アフェクトは「感情の原材料」と言えます。感情は、コア・アフェクトに意味づけ(状況の解釈など)が加わったものです。
- Q快−不快と覚醒−低覚醒の軸はどのように測るのですか?
- A
自己報告式のアンケートや、心拍数・皮膚電気反応などの生理的指標で評価されることがあります。
- Q喜びと興奮はどう違うのですか?
- A
喜びは「快」かつ「中〜高覚醒」、興奮は「快」かつ「高覚醒」の状態です。覚醒度の違いがポイントです。
- Qコア・アフェクトは無意識にも存在するのですか?
- A
はい、コア・アフェクトは無意識的にも存在するとされており、気づいていなくても身体や行動に影響を与えます。
- Qコア・アフェクト理論は他の感情理論とどう関係していますか?
- A
ラッセルの理論は、「感情構築理論(エモーション・コンストラクショニズム)」の一部で、感情は後天的に作られるという立場に立っています。
- Qコア・アフェクトは「感情」とはどう違うのですか?
- A
コア・アフェクトは、感情が生まれる前の「まだ名前のついていない気分」のようなものです。感情(怒り、不安、喜びなど)は、このコア・アフェクトに状況の意味づけが加わって構築されます。たとえば「ドキドキする(高覚醒)」+「相手が好きな人(快)」→「恋愛感情」という具合です。
- Qなぜ2次元(快−不快、覚醒−低覚醒)だけで感情を説明できるのですか?
- A
2次元モデルは、すべての感情を分類できる「心理的地図」のようなものです。快−不快はその体験が心地よいか不快か、覚醒−低覚醒はエネルギーの高低を示します。この2軸を組み合わせることで、大多数の感情状態を定量的・連続的にマッピングできます。
- Q「覚醒」は心だけの話ですか?それとも体にも関係しますか?
- A
覚醒は心と体の両方に関係します。心拍数、呼吸、筋緊張、瞳孔の拡大などの生理的反応と連動しており、心理的に「落ち着いている/興奮している」といった体感と結びついています。つまり「体の状態」が「気分」を形づくっているのです。
- Qコア・アフェクトは常に意識できるものですか?
- A
いいえ、コア・アフェクトはしばしば無意識的に働いています。たとえば「なんか今日は気が乗らない」と感じるとき、それは明確な理由がなくても「不快 × 低覚醒」のコア・アフェクトが存在している可能性があります。
- Qコア・アフェクト理論は日常生活にどう役立ちますか?
- A
「今、自分がどう感じているか」を理解する手助けになります。感情の名前にとらわれず、「快か不快か」「エネルギーがあるかないか」で自分の状態を整理すると、対処法が見つかりやすくなります。たとえば「高覚醒×不快」なら、深呼吸や運動で覚醒を調整するなどです。
- Qこの理論は感情を否定しているのですか?
- A
まったく逆です。コア・アフェクト理論は、感情が「生まれつき決まっているものではなく、経験と意味づけによって形成される」という点を強調しています。感情はなくなるわけではなく、「どう作られるか」を解明しようとしているのです。
- Qこの理論と似たものには何がありますか?
- A
「感情構築理論(Emotional Construction Theory)」や「二次元感情モデル(Circumplex Model of Affect)」が関連理論です。また、リサ・フェルドマン・バレットの「概念構成モデル(Conceptual Act Theory)」もこの理論の発展系にあたります。
- Q感情が文化によって変わるのはこの理論でどう説明されますか?
- A
コア・アフェクトそのものは生理的に共通していても、「それにどんな意味を与えるか(意味づけ)」は文化や言語に大きく左右されます。たとえば、同じ「高覚醒×快」の状態でも、ある文化では「愛」と呼び、別の文化では「スピリチュアルな興奮」と表現されることもあります。
- Q感情は分類するより、グラデーションで理解すべきということですか?
- A
はい、その通りです。コア・アフェクト理論は、感情を「色分けされた箱」ではなく「色の濃淡や混色」で捉える理論です。感情は離れたカテゴリーではなく、連続的でなめらかに変化する心の状態と考えます。
- Qどうすれば自分のコア・アフェクトに気づきやすくなりますか?
- A
簡単な方法は、「今、自分は快か不快か? 活発か静かか?」と自問してみることです。日記や気分記録アプリなどで、快・不快と覚醒度を数値で記録するのもおすすめです。「気分のマッピング」を日常化することで、自己理解が深まります。
- Qコア・アフェクトは脳科学的に証明されているのですか?
- A
はい。Mansuetoら(2024)によるfMRIメタ分析では、快−不快や覚醒−非覚醒の状態に応じて、扁桃体、島皮質、前頭前皮質などの脳活動に明確な違いが確認されました。これは、コア・アフェクトの2軸モデルが神経的にも妥当であることを支持する重要な証拠です。
- Q感情は本当に生まれつき決まっているわけではないのですか?
- A
最新の研究では、感情は構築されるものという見方が有力になっています。**Dreisbach(2023)のレビューでは、「コア・アフェクトは共通の感情基盤だが、それに対してどんな意味を与えるかは文化や経験によって決まる」とまとめられています。つまり、「感情は学習や文脈によって変わる」**のです。
- Q意味づけが感情に与える影響はどの程度確かなのですか?
- A
Yeo & Ong(2024)のメタ分析(309件の研究、2634の効果量)では、認知評価(意味づけ)と感情には統計的に強い関連があることが示されました。たとえば、「自分はコントロールできる」と感じる状況では怒りが起こりやすく、逆に「コントロールできない」と判断すると不安や悲しみになる傾向が見られました。
- Qコア・アフェクトと感情はどういう順番で関係しているのですか?
- A
コア・アフェクトは「原始的な気分」であり、感情はその気分に意味づけを加えた結果として形成されます。これはまるで「白いキャンバス(気分)」に「経験や文脈という絵の具」で色を塗っていくようなプロセスです。つまり、コア・アフェクト → 認知評価 → 感情という流れが基本です。
- Qコア・アフェクト理論は文化的違いをどう説明できるのですか?
- A
コア・アフェクト自体は全人類共通の生理的な反応(たとえば、心拍数や呼吸の変化)ですが、それにどう意味づけするかは文化によって異なります。これは**Dreisbach(2023)**のレビューでも強調されており、「快 × 高覚醒」という同じ状態でも、ある文化では「喜び」、別の文化では「誇り」や「神聖な気持ち」とされることがあります。
理解度を確認する問題
次のうち、コア・アフェクト理論に含まれない説明として最も適切なものを選びなさい。
A. 感情は快−不快と覚醒−低覚醒の2軸で表せる
B. 怒りは高覚醒かつ不快の状態に分類される
C. コア・アフェクトはすべての感情の基礎である
D. 感情は生得的で、固定された生理反応である
正解:D
関連キーワード
- 感情構築理論(Emotion Construction)
- 二次元感情モデル(Circumplex Model of Affect)
- ジェームズ・ラッセル
- 覚醒度(Arousal)
- 主観的感情評価(Subjective Feeling)
関連論文
Russell, J. A. (2003). Core affect and the psychological construction of emotion. Psychological Review, 110(1), 145–172.
解説:
この論文では、従来の「感情は即時に湧く」という考え方を批判し、感情は「構築されるもの」であると提唱。特にコア・アフェクトがあらゆる感情体験の中心にあることが示されました。
結果:
感情は生得的ではなく、経験・文脈・意味づけによって構築されることを明確にしました。
Yeo & Ong (2024)による認知評価理論と特定の感情との関係についてのメタ分析
概要:309件の研究、2,634の効果量を対象に、47種類の評価(評価次元)と63種類の感情の関連性を系統的に分析しています。
結果:75%の評価–感情ペアにおいて、フレームワーク上で予測される方向性の関係性が確認されました 。
解釈:これは「感情がどのように構築されるか(意味づけ/評価)」という視点の信頼性を裏付ける証拠であり、コア・アフェクト(快/不快、覚醒)に意味づけが加わって感情が形成される構成主義的アプローチと整合します。
Dreisbach (2023)ほかによる理論的視点の整理
概要:「Core Affect describes the affective state… which is a blend of valence and arousal」など、構成主義に基づく理論的枠組みを整理しています。
結果:コア・アフェクトが常に意識的経験に関与している一方で、具体的な感情(emotional episodes)は個人の学習・文脈・意味づけによって構築されることが強調されています。
解釈:この構成主義的立場は、コア・アフェクト理論の「意味づけによる感情形成」の核心を補強しており、文化や経験による差異を説明する基盤理論になっています。
覚え方
コア・アフェクト理論は、感情の土台にある「快−不快」と「覚醒−低覚醒」の2軸からなる基本的な気分(コア・アフェクト)を中心に据える理論です。
この気分に「状況や意味づけ」が加わることで、私たちが知っている具体的な感情(怒り、不安、喜びなど)が構築されます。
感情は固定された反応ではなく、文脈と経験によって柔軟に形づくられるものと考えます。
復習にどうぞ


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