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いじめ

bullying 犯罪・非行

意図的に他者に苦痛を与える反復的な攻撃行動のこと

簡単な説明

「いじめかな?って思ったら、1人で頑張んなくていい。SOS出してOK。
大事なのは、“つらい”って気持ちを大事にすること。
逃げてもええ。休んでもええ。でも、絶対、あなたの命がいちばん大事!

由来

「いじめ」は日本社会において1980年代頃から社会問題として注目されるようになりました。心理学的には「攻撃行動(aggressive behavior)」や「社会的排除(social exclusion)」と関連する概念です。発達心理学、社会心理学、教育心理学など多角的な視点から研究されています。

具体的な説明

いじめは、加害者が被害者に対して、継続的または反復的に身体的・言語的・心理的な攻撃を加える行為で、被害者はそれによって苦痛を感じます。加害者側には、支配欲求、嫉妬、ストレスの発散などの心理的要因が関係していることが多いです。被害者は自己評価の低下や不安、うつ、最悪の場合は自殺に至ることもあります。

学校や職場など、集団生活の中で発生しやすい対人トラブルです。日本の文部科学省の報告(令和4年度)では、小中高の学校で約68万件のいじめが報告されています。

心理学では、いじめは「意図的・反復的・権力差がある」ことが特徴とされます(Olweus, 1993)。社会的スキルや感情の理解力が未発達な子どもに多く見られ、集団内での序列や仲間外れが背景にあります。加害者・被害者・観衆・援助者という4つの立場が存在し、「傍観者効果」や「責任の拡散」とも関係します。

Olweus(1993)はノルウェーでの大規模な調査により、いじめが精神的健康に深刻な影響を与えることを示しました。また、傍観者の態度がいじめの継続に影響を与えることも確認されました。観察的研究やアンケート法、インタビューが用いられます。

いじめる側(加害者)の心理

一般的特徴(文献に基づく)
  • 支配欲求が強い:自分が優位であることを確認したい(Olweus, 1993)
  • 共感性が低い:相手の気持ちを想像する能力が乏しい(Jolliffe & Farrington, 2006)
  • 攻撃的傾向が強い:特に衝動性や外向性が高い場合(Banduraの社会的学習理論)
加害者の心理的背景(学術視点)
要素内容
自己肯定感の低さ自信のなさを他者への攻撃で補おうとすることがある(self-enhancement)
承認欲求周囲の注目を集めたい(観衆が笑ってくれると続ける)
家庭環境の影響暴力的な親、無関心な親など(家庭でのモデリング)
ストレスや欲求不満フラストレーション仮説:攻撃行動で発散
道徳的弁解(Bandura)「冗談だから」「悪くないのは向こう」と責任を否定

いじめられる側(被害者)の心理

一般的特徴(文献に基づく)
  • 自己主張が手:自分の意見をうまく伝えられない(social withdrawal)
  • 内向的・控えめな性格:目立ちにくいが標的になりやすい(Olweus, 1993)
  • 孤立している:友人や支援者が少ない(peer support deficit)
被害者の心理的影響(学術視点)
心理的反応内容
自己評価の低下「自分が悪い」と思い込みやすくなる
学習性無力感(Seligman)「何をしても無駄」と感じ、抵抗をやめてしまう
社会的孤立感周囲が助けてくれないと感じ、ますます孤立
PTSD様症状フラッシュバックや過敏な反応が長期間続くことがある(心理的外傷)
回避行動学校に行きたくない、人と話したくないなどの症状

例文

「クラスでAさんが毎日のように無視されていた。これは典型的ないじめにあたります。」

疑問

Q: いじめと単なるケンカはどう違うのですか?

A: いじめは反復的かつ一方的で、権力関係に差がある点が特徴です。ケンカは対等な関係で発生します。

Q: いじめにはどんな種類がありますか?

A: 身体的いじめ、言葉によるいじめ、無視などの心理的いじめ、ネットいじめ(サイバーいじめ)などがあります。

Q: 加害者にも問題があるのですか?

A: はい。加害者も家庭環境、ストレス、共感性の低さなどの問題を抱えている場合があります。

Q: 観衆や傍観者は関係あるのですか?

A: 観衆が加害者をあおる場合、いじめが激化することがあります。傍観者が介入すれば減少することも研究で示されています。

Q: いじめを受けている子どもに親はどう関わるべきですか?

A: 否定せずに受け止め、話を聞き、学校や第三者機関と連携して対応することが大切です。

Q: いじめって本当になくなるんですか?

A: 残念ながら完全にゼロにはなっていませんが、**声をあげる人が増えるほど減らせます。**まずは一歩を踏み出すことが大切です。

Q: 話すのが怖いし、信じてもらえない気がします。

A: とても勇気がいることですが、相談はあなたの味方をつくる第一歩です。信じてくれる人は必ずいます。

Q: 記録って何を書けばいいの?

A: 「日付」「場所」「誰に」「何をされた」「どう感じた」をメモに残しておきましょう。

Q: 学校が対応してくれなかったらどうする?

A: 教育委員会や弁護士、NPO法人など外部の専門機関に相談することができます。

Q: 自分がいじめてしまっているかもしれないと思ったら?

A: その気づきがとても大切です。相手の立場を想像して行動を見直すことが、自分自身を成長させます。

理解度を確認する問題

次のうち、いじめの特徴に該当しないものを選びなさい。
A. 一方的である
B. 権力関係に差がある
C. 反復的である
D. 対等な立場での争い

正解:D

関連キーワード

  • 攻撃行動
  • 傍観者効果
  • サイバーいじめ
  • 権力差
  • 感情制御
  • 社会的排除
  • 支配欲求(dominance motive)
  • 共感性(empathy)
  • フラストレーション仮説(frustration-aggression hypothesis)
  • 学習性無力感(learned helplessness)
  • 社会的孤立(social isolation)
  • 認知的ゆがみ(cognitive distortion)

関連論文

Olweus, D. (1993). Bullying at school: What we know and what we can do.

概要:ノルウェーの小中学校を対象にした調査研究で、いじめの加害者・被害者・傍観者の構造を明らかにしました。

結果:いじめ防止プログラム導入後、報告されたいじめは約50%減少。

重要性:学校における組織的対応が有効であることを証明。

Meta-analysis of the relationship between bullying and depressive symptoms in children and adolescents

この研究は、いじめと抑うつ症状との関連性を明らかにするため、31の研究(合計133,688人)を対象にメタ分析を行いました。​PMC

主な結果

  • いじめ被害者は、非被害者に比べて抑うつのリスクが2.77倍高い。
  • いじめ加害者は、非加害者に比べて抑うつのリスクが1.73倍高い。
  • 加害・被害の両方を経験した者は、非該当者に比べて抑うつのリスクが3.19倍高い。​

解釈:​いじめは、加害・被害の立場を問わず、子どもや青少年の抑うつリスクを高めることが示されました。特に、加害・被害の両方を経験することが最もリスクが高いことが明らかになりました。

Examining the Effectiveness of School-Bullying Intervention Programs Globally: A Meta-analysis

この研究は、世界各国で実施された100のいじめ防止プログラムの効果を評価するためのメタ分析を行いました。​

主な結果

  • いじめ加害行動の減少:平均19〜20%の減少。
  • いじめ被害の減少:平均15〜16%の減少。
  • 特定のプログラム(例:KiVa、OBPP)は、特に効果的であることが示されました。​

解釈:​学校で実施されるいじめ防止プログラムは、加害行動および被害の両方を有意に減少させる効果があることが確認されました。特に、特定のプログラムは、他のプログラムよりも高い効果を示しています。

School bullying and self-efficacy in adolescence: A meta-analysis

概要:​この研究は、いじめと青少年の自己効力感との関連性を明らかにするためのメタ分析を行いました。​

主な結果

  • いじめ被害者は、自己効力感が低い傾向がある。
  • いじめ加害者も、自己効力感の低下と関連している可能性がある。
  • 文化的背景や年齢などの要因が、いじめと自己効力感の関連性に影響を与えることが示唆されました。​

解釈:​いじめは、青少年の自己効力感に悪影響を及ぼす可能性があり、これがさらなる心理的問題や社会的適応の困難につながる可能性があります。

いじめと犯罪の境界線は?

「いじめ」が「犯罪」となるかどうかの境界線は、“法に触れるかどうか”と“本人の受ける被害の深刻さ”にあります。

法的観点からの違い

区別点いじめ犯罪行為(刑事事件)
判断基準子どもの間の行動、学校内での指導対象とされやすい刑法や特別法に違反しているかどうか
主な対応学校・教育委員会・保護者による対応警察、検察、裁判所による捜査と裁き
被害者の立場「心身の苦痛」に焦点「権利侵害」「被害の事実」に焦点
加害者の年齢多くは少年(非刑事責任年齢)刑事責任を問われる年齢(14歳以上)

いじめが犯罪とみなされるケース(具体例)

いじめの内容該当する可能性のある罪名
たたく・ける・突き飛ばす暴行罪(刑法第208条)
怪我を負わせる傷害罪(刑法第204条)
金品を脅し取る恐喝罪(刑法第249条)
LINEやSNSで名誉を傷つける行為名誉毀損罪・侮辱罪(刑法第230条)
無視・仲間外れにして精神的苦痛を与える民事上の損害賠償請求が認められることもあり

日本の法律では、14歳未満の子どもは刑事責任を問われない(刑法第41条)と定められています。しかし、次のような対応がとられます。

  • 児童相談所による「保護処分」(児童福祉法第27条)
  • 家庭裁判所による審判(少年法に基づく)
  • 学校・教育委員会の指導・是正

14歳以上であれば、少年法により少年事件として扱われ、警察による捜査対象となります。

法律上の「犯罪」にならなかったとしても、被害者にとっては重大な精神的苦痛です。心理学的には「トラウマ(心的外傷)」や「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」のリスクがあり、法律と心理の間にギャップがあることが問題視されています。

相談できる窓口(日本国内)

窓口名特徴
子どもの人権110番(法務省)電話:0120-007-110(平日8:30~17:15)
24時間子どもSOSダイヤル(文科省)電話:0120-0-78310(なやみ言おう)24時間
いのちの電話心の相談:0570-783-556(または地域の番号)
スクールカウンセラー学校にいる専門の相談員。誰でも話せます。
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