事件のつながりを見つけて、犯人や原因を探す方法のこと
簡単な説明
たとえば、ある町で似たような方法で財布をぬすまれる事件が3回あったとします。それぞれは別の日、別の場所だけど、「犯人のやり方が似てる」って警察が思ったら、それは「同じ人かも?」って考えるでしょ?
その「つながり」を見つけるのが「事件リンク分析」です。
由来
「事件リンク分析(case linkage analysis)」は、犯罪心理学の中で発展した手法で、主に連続犯罪(連続殺人、連続性暴力など)の捜査に用いられます。発祥はアメリカやイギリスなどの犯罪行動分析(Criminal Profiling)の現場で、1980年代以降にFBIなどが活用を始めました。
具体的な説明
事件リンク分析とは、「別々に起こった複数の事件が、同じ犯人によるものかどうか」を判断するための分析方法です。
犯行の手口(MO: Modus Operandi)、被害者の選び方、現場の特徴などから、犯人の行動パターンを分析し、事件同士の類似点を見つけます。
事件リンク分析は、主に行動科学や犯罪心理学の分野で使われます。これは、犯罪者が事件を起こすたびに見せる**「一貫した行動パターン」と、事件ごとに生じる「状況依存的な変化」**のバランスを見極めることによって実現されます。
たとえば:
- 安定した特徴(signature):犯人が必ず残すメッセージや行動。
- 手口(MO):犯行の実行方法。これは状況によって変わることがあります。
統計学的手法(例:クラスター分析、判別分析、ベイズ推定など)も利用され、客観的な判断が行われます。
事件リンク分析は、主に犯罪心理学・行動科学の分野で活用されている技法です。
この分析の前提理論として最も重要なのが:
一貫性仮説(Behavioral Consistency Hypothesis)です。
「同じ犯人は、時間や場所が違っても似たような行動をとる」
という仮説です。
この仮説をもとに、複数の事件に共通する行動パターンや特徴を見つけることで、「同じ犯人によるものかどうか」を判断していきます。
実際にイギリスのDavid Canter博士らは、犯罪者の行動と居住地の関係を研究し、地理的プロファイリングと事件リンク分析を組み合わせることで、犯人特定の効率が上がることを示しました。
彼の研究では、連続性のある性犯罪事件において、行動パターンをマッピングすることで、正確に犯人の居住地域を絞り込むことができました。
David Canterらが提唱した以下の2つの前提が事件リンク分析の基礎になります:
- 行動の一貫性(behavioral consistency)
同じ人物は異なる犯罪においても類似した行動をとる。 - 行動の差異性(behavioral distinctiveness)
他の犯人とは異なる「その人ならではのパターン」がある。
この2つのバランスがとれているからこそ、「リンク分析」は意味を持つのです。
例文
「警察は、三つの事件で犯人が似た行動をとっていたため、事件リンク分析を使って同一犯の可能性を調べました。」
疑問
Q: 事件リンク分析はどんなときに使うのですか?
A: 主に連続犯罪や未解決事件で、複数の事件のつながりを調べたいときに使います。
Q: どうやって事件同士のつながりを判断するのですか?
A: 犯行手口、被害者の特徴、現場の状況などの共通点から判断します。
Q: 事件リンク分析とプロファイリングの違いは何ですか?
A: プロファイリングは「犯人像」を作る分析で、リンク分析は「事件の関係性」に注目します。
Q: 事件リンク分析は信頼できますか?
A: 統計手法を使うことで客観性が高まりますが、完全ではなく、あくまで手がかりの一つです。
Q: どんな職業の人がこの手法を使っていますか?
A: 主に警察の犯罪心理分析官(プロファイラー)、捜査官、犯罪心理学の研究者などです。
Q: 一貫性ってどれくらい信頼できるのですか?
A: 一貫性は傾向であり、100%ではありません。状況によって手口が変わることもありますが、統計的に見ると有効です。
Q: 犯人の行動はどこまで似ていれば「一貫している」と言えるのですか?
A: 「手口」「ターゲット」「場所」「時間帯」など複数の要素が重なる場合に、一貫性があると評価されます。
Q: 犯人がわざと手口を変えていたらどうするのですか?
A: その場合は「シグネチャー(癖や特有の行動)」や被害者の選び方など、より深い特徴に注目して分析します。
Q: なぜ一貫性仮説が大事なのですか?
A: 一貫性がなければ、事件同士をつなぐ根拠がなくなるからです。リンク分析はその仮説に基づいています。
Q: 全く違う手口でも同一犯の可能性はありますか?
A: はい、可能性はあります。ただしその場合は、他の証拠(DNA、指紋、動機など)と併せて慎重に判断します。
Q: 犯人の行動に一貫性がないと、事件リンク分析は使えないのですか?
A: 一貫性がはっきりしないと分析の信頼性は下がりますが、**他の証拠(地理情報や動機など)**と組み合わせて分析することで、有効性を補うことができます。
Q: 一貫性仮説に反するような「行動の変化」が起きるのはどんなときですか?
A: 警察の捜査が進んでいたり、犯人が警戒していたりすると、あえて手口を変えることがあります。これを「状況依存的な変化」といいます。
Q: 一貫性仮説を使った分析で注意すべきバイアスはありますか?
A: はい。捜査官が「似てるから同一犯だ」と先入観を持ちすぎると誤判断のリスクがあります。だからこそ、統計的・客観的な視点が重要になります。
理解度を確認する問題
次のうち、事件リンク分析に関する記述として最も適切なものを選びなさい。
A. 犯人の性格を推定するために用いられる手法である
B. 同一犯による複数の事件かどうかを判断する分析手法である
C. 犯人の心理的背景を理解するためにインタビューを行う手法である
D. 犯罪の再発を防ぐために被害者の心理を分析する手法である
正解:B
関連キーワード
- プロファイリング
- 犯行手口(MO)
- シグネチャー(signature)
- 犯人像分析
- 犯罪心理学
- 地理的プロファイリング
- クラスター分析
- 類似性分析
- 一貫性仮説(behavioral consistency)
- 差異性仮説(distinctiveness)
- シグネチャー(signature behavior)
- 犯行手口(modus operandi)
関連論文
Canter, D., & Heritage, R. (1990). A multivariate model of sexual offence behaviour: Developments in ‘offender profiling’.
解説:
この研究では、性犯罪における行動の特徴を統計的に分析し、事件間の類似性を評価する方法を提案しています。
結果:犯人ごとの一貫した行動パターンが特定され、事件リンク分析の有効性が示されました。
Canter, D., & Heritage, R. (1990). A multivariate model of sexual offence behaviour: Developments in offender profiling.
性犯罪者の行動パターンに関する統計モデルを開発し、複数事件間の類似性(=一貫性)を分析。
結論:犯人ごとに特徴的な行動のパターンがあり、事件リンク分析が有効であることが示されました。
覚え方
「犯人の癖、つなげて見つける探偵メガネ」
→ 犯人の行動の「癖=パターン」を「つなげて」分析する、ってイメージで!


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