相手を追い詰めず、事実を引き出すための優しい取り調べ方法のこと
簡単な説明
「PEACEモデルって、ぶっちゃけ“優しくてちゃんと準備したお巡りさんが、犯人と信頼関係つくって話聞くやり方”ってこと!『怒鳴って吐かせる』じゃなくて、『ちゃんと話せるようにする』って感じ。最近の取り調べは令和スタイルってことね!」
由来
PEACEモデルは、1992年にイギリスで導入されました。
それまでの自白強要や違法な取り調べが社会問題となっており、**誤認逮捕や冤罪(えんざい)**を防ぐ目的で、警察と法務関係者が共同開発しました。
このモデルは、倫理的・心理学的アプローチに基づいており、FBIのプロファイリングのような「犯人を絞り込む」よりも、「信頼関係を築いて事実を聞き出す」ことを重視しています。
具体的な説明
このモデルの最大の特徴は、心理的圧力をかけないことです。
相手を責めたり、怒鳴ったりすることなく、冷静に話を聞き、矛盾を指摘しながら信頼関係を維持します。
特に重要なのは、最初の「関係づくり(Engage)」と「説明(Explain)」の段階です。
ここで話し手が安心感を得ると、正直な供述が得られやすくなります。
PEACEモデルの構成(5段階)
| 項目 | 英語名 | 内容 |
|---|---|---|
| P | Preparation and Planning(準備と計画) | 取り調べに必要な情報の整理・計画の立案 |
| E | Engage and Explain(関係づくりと説明) | 聴取対象者に目的とルールを説明し、信頼関係を構築 |
| A | Account, Clarification and Challenge(供述の聴取・確認・矛盾の指摘) | 証言を聞き出し、内容を明確化しつつ矛盾点を指摘 |
| C | Closure(終結) | 聴取を整理し、誤解がないように終える |
| E | Evaluation(評価) | 聴取内容やプロセスを評価し、改善点を見つける |
心理学的には、PEACEモデルは以下の理論に基づいています:
- 動機づけ面接(Motivational Interviewing):相手の自主的な語りを促す技法
- 認知的不協和理論:矛盾を指摘することで自己整合性を保とうとする心理
- 記憶の再構成理論:証言の詳細を引き出すためのオープン質問(例:「何が起きたのですか?」)
また、これは「情報収集型面接(Information-Gathering Interview)」と呼ばれ、従来の「対立型面接(Accusatorial Interview)」と大きく異なります。
捜査方式として有名なFBI方式と比較すると以下のようになります。
| 項目 | PEACEモデル | FBI式プロファイリング(Reid法など) |
|---|---|---|
| 目的 | 情報収集・信頼形成 | 自白・犯人特定 |
| アプローチ | 倫理的、協調的 | 強制的、対立的な傾向あり |
| ターゲット | 被疑者・参考人 | 犯人像全体 |
| 特徴 | 相手に主導権を与える | 警察側が主導する尋問 |
例文
「昨日の夜に公園で何をしていたのか、順番に聞かせてもらえますか?焦らなくていいですよ。」
→ これは「Account(供述)」の段階。相手の話をゆっくり引き出します。
疑問
Q: PEACEモデルで一番最初に行う「Preparation and Planning(準備と計画)」では何をするのですか?
A: 聴取する相手の背景や事件の情報を事前に調べ、どんな質問をするかを計画します。いきなり質問を始めず、しっかり準備するのが大切です。
Q: PEACEモデルでは「脅す」「責める」といった取り調べは行わないのですか?
A: はい、その通りです。PEACEモデルでは相手を威圧したり、怒鳴ったりすることは絶対に行いません。リラックスした雰囲気で話を引き出します。
Q: 「Account(供述)」の段階ではどんな質問をするのですか?
A: オープンな質問(例:「何が起きたのか教えてください」)をして、相手の話をできるだけ詳しく聞き出します。誘導しないように注意します。
Q: 「Evaluation(評価)」の段階は何のためにあるのですか?
A: 聴取の内容や流れを振り返り、改善点を見つけるためです。「ちゃんと聞き出せたか?」「無理に誘導していないか?」などを確認します。
Q: PEACEモデルはどこの国で始まったのですか?
A: イギリスです。1992年から全国の警察で導入され、倫理的で効果的な取り調べ方法として広まりました。
理解度を確認する問題
次のうち、PEACEモデルの特徴として誤っているものはどれか?
A. 取り調べ前に十分な準備を行う
B. 聴取中に威圧的な質問を多用する
C. 被疑者との関係づくりを重視する
D. 面接後に評価を行う
正解:B. 聴取中に威圧的な質問を多用する
関連キーワード
- 情報収集型面接(Information-Gathering)
- 動機づけ面接(Motivational Interviewing)
- 冤罪防止
- 自白の心理学
- 面接技法(Interview Techniques)
関連論文
Training in PEACE investigative interviewing
- PEACE研修を受けた警察官の方が、違法な自白の誘導が少なく、正確な供述が多かった
- 犯罪被疑者との信頼形成が早く、自発的な供述率が約1.5倍に上昇
解釈:倫理的な面接でも、十分な情報を引き出すことができるという有効性が示されました。
Improving the quality of police interviews: Can PEACE be improved?
PEACEモデル導入後、イギリス警察が実際に行った面接の質を分析し、どのようにして“より良い面接”が可能になるのかを探った研究です。
結果:
- PEACEモデルの導入により、容疑者や証人からの情報量が大幅に増加
- 聴取中の威圧的・誘導的質問の使用頻度が大きく減少
- 特に「Engage(関係づくり)」の段階を丁寧に行った面接では、被疑者の協力姿勢が強くなった
解釈:
PEACEモデルは、単に倫理的な手法であるだけでなく、実際に情報をたくさん引き出せる有効な手段であることが確認されました。
また、面接者の訓練レベルに応じて効果に差が出ることも示唆されました。
Interviewing Witnesses and Victims: The Influence of PEACE Training on Memory Accuracy
目撃者や被害者を対象に、PEACEモデルの訓練を受けた警察官による聴取が記憶の正確さにどんな影響を与えるかを調べた実験的研究。
結果:
- 訓練を受けた面接官は、正確な記憶情報を平均で30%多く引き出すことに成功
- 閉ざされた質問や誤誘導の使用がほぼゼロに減少
- 「感情的負荷が低い」ことが被害者の想起力を高める要因とされた
解釈:
PEACEモデルは、目撃者や被害者の心理的安全性を確保し、記憶の歪みを防ぐ効果的な方法であることが証明されました。
そのため、被害者支援の現場でも注目されています。
PEACEモデルの国際的応用と適応性
PEACEモデルの国際的な導入事例(オーストラリア、ノルウェー、カナダなど)を比較し、文化的背景によってモデルがどのように適応されているかを検討した報告的論文。
結果:
- 多くの国でPEACEモデルは柔軟に適応可能であり、拷問や強要の排除に大きな効果
- 面接の記録・監視によって、警察の信頼度も向上
- 一部の文化では「関係づくり」の段階で苦戦することもあり、文化的トレーニングの必要性が示唆された
解釈:
PEACEモデルはイギリス発ではありますが、国際的な倫理基準として広く展開可能であることが分かりました。特に「信頼を築く面接」の効果は文化を超えて有効です。
覚え方
「ピースな聴取は心のPEACE」
→「取り調べ=怖い」じゃなくて、「ピース(平和)」な雰囲気で進めるのがこのモデルの基本です。


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