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新渡戸稲造の『武士道』を現代に活かす──心の筋トレとしての七つの徳目

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こんな悩み、ありませんか?

  • 上司の不正を見て見ぬふり… 言うべきか、黙っているべきか、毎日悩んでいる
  • 言いたいことが言えない 会議で意見を求められても、空気を読んで黙ってしまう
  • SNSでの誹謗中傷を見ても何もできない 正義感はあるのに、勇気が出ない自分が情けない
  • 本音と建前の使い分けに疲れた 誠実でありたいのに、いつも演じている気がする
  • 他人と比較して自信を失う SNSを見るたびに、自分の価値が分からなくなる

実は、これらの現代人の悩みに、400年前の武士道が答えを持っているんです。


はじめに:あなたの中にも武士道が生きている

「宗教教育を受けていないのに、日本人はどうやって道徳を学ぶの?」

この素朴な疑問から生まれたのが、新渡戸稲造の名著『武士道』です。この本が教えてくれるのは、遠い昔の武士たちの話だけではありません。私たち現代人の価値観や考え方にも、深く影響を与え続けている「生きた思想」なんです。

今日は、心理学の視点も交えながら、この古くて新しい『武士道』の魅力を一緒に探っていきましょう。


新渡戸稲造ってどんな人?

新渡戸稲造(1862-1933)は、明治から昭和という激動の時代を生きた思想家であり教育者です。

挫折と再生の物語

実は新渡戸も、若い頃は深刻な挫折を経験しています。

札幌農学校時代、彼はクラーク博士のキリスト教精神に感銘を受け洗礼を受けますが、その後、重い病と母の死という二重の悲しみに襲われます。「なぜ信仰を持ったのに、こんな試練が?」と苦しんだ彼を救ったのは、親友や恩師の支え、そしてトーマス・カーライルの『衣装哲学』との出会いでした。

この経験が、彼の生涯のテーマとなる言葉を生み出します。

「われ、太平洋の橋とならん」

東京大学の入学面接で語ったこの言葉には、東洋と西洋、日本と世界をつなぐ架け橋になりたいという強い想いが込められています。挫折を乗り越えた人だからこそ、対立ではなく「橋渡し」という理想を抱けたのかもしれません。

『武士道』誕生の瞬間

ベルギーの法学者ラブレー教授から「宗教教育なしに、日本ではどうやって若者に道徳を教えているの?」と尋ねられた新渡戸。その場では答えられませんでした。

「日本人として、自国の道徳の根源すら説明できない…」

この悔しさと使命感が、1899年の『Bushido: The Soul of Japan』執筆につながります。療養中のアメリカで、病床に伏しながら書き上げたこの本は、世界的なベストセラーとなり、アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトが60冊購入して周囲に配ったという逸話も残っています。

その後、彼は国際連盟事務局次長として「太平洋の橋」としての役割を全うし、国際平和のために生涯を捧げました。

【心理学メモ】アイデンティティの探求と道徳性の発達 新渡戸の経験は、心理学でいう「文化的アイデンティティの再構築」のプロセスそのものです。異文化との接触によって「自分たちは何者なのか」という問いに向き合うことで、かえって自文化への理解が深まります。

また、新渡戸の問いは、心理学者ピアジェやコールバーグが探究した「道徳性の発達段階」とも深く関連しています。人は幼児期には親や先生という”外的権威”に従うことから始まり、青年期以降、自分なりの”内的な道徳基準”を持つようになります。新渡戸の問いは、まさに”内的な道徳形成”がどう育まれるかを探るもの──これは発達心理学の核心的テーマでもあるのです。


武士道ってそもそも何?

新渡戸は武士道を「日本の国土に咲く固有の花である桜」に例えています。過去の遺物ではなく、今も私たちの心の中に生き続けている美しいもの、というイメージですね。

武士道の三つのルーツ

武士道は一つの思想からできているわけではありません。三つの大きな流れが融合して生まれました。

  1. 仏教 – 運命を穏やかに受け入れ、危険にも動じない心の平静さ
  2. 神道 – 主君や祖先、親への忠誠と尊敬の心
  3. 儒教 – 社会における正しい振る舞いや、思いやりの精神

【心理学メモ】統合的パーソナリティ 複数の思想体系が調和している点は、心理学でいう「統合的自己」の概念に通じます。人間の心も、理性・感情・精神性など多様な側面が統合されてこそ、成熟したパーソナリティが形成されるもの。武士道は、まさにそんな「バランスの取れた人間像」を目指していたと言えるでしょう。

知識より行動を大切にする

「論語読みの論語知らず」という言葉、聞いたことありますか? 本をたくさん読んでも、実際の行動が伴わなければ意味がないという教えです。

この「知行合一」という考え方は、中国の思想家・王陽明が説いたものです。知識と行動は一つであり、切り離せないという原理。頭で分かっているだけではダメ。実際にやってみて初めて、本当に理解したと言えるんですね。

【心理学メモ】認知と行動の一致 現代心理学の「認知行動療法」でも、思考と行動の一致が重視されています。考え方を変えるだけでなく、実際に行動を変えることで、初めて本当の変化が生まれる。武士道が数百年前から実践していた知恵が、現代科学でも裏付けられているわけです。


武士道の七つの徳目:心の筋トレ

武士道には、七つの大切な徳目があります。これらは単独で存在するのではなく、お互いに支え合いながら、人間としての魅力を作り上げていきます。

それぞれの徳目に、現代人の実例と「今日からできる小さな一歩」を添えてご紹介します。


1. 義(ぎ)- 正しさを見極める力

「これって正しいの?」と問い続ける心

義とは、正義や正しさのこと。物事の善悪を見極め、不正や卑怯なことを許さない姿勢です。武士道の中で最も大切な、すべての土台となる徳目と言われています。

【現代人の実例】28歳・IT企業社員Aさんの場合

「上司が顧客データを不正に利用していることに気づきました。最初は『自分には関係ない』と思っていましたが、毎日モヤモヤして眠れなくなって…。3週間悩んだ末、コンプライアンス部門に相談しました。結果的に問題は解決し、上司との関係は気まずくなりましたが、鏡で自分の顔を見られるようになりました」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 毎晩寝る前に「今日、正しいことをしたか?」と自問する時間を30秒作る
  • 小さな不正(レシートのごまかし、嘘の言い訳など)をしない日を1日作ってみる

【心理学メモ】道徳的推論の発達 心理学者コールバーグは、道徳性は段階的に発達すると説きました。最高段階では「普遍的な倫理原理」に基づいて判断できるようになります。義の概念は、まさにこの最高段階の道徳性を目指すものと言えます。


2. 勇(ゆう)- 正しいと思ったら実行する勇気

義の双子の兄弟

「正しいと分かっていても、怖くてできない」ことってありますよね。勇とは、義を認識した上で、それを実行に移す勇気のことを指します。

孔子は「義を見てせざるは勇なきなり」と言いました。正しいことだと分かっているのに行動しないのは、勇気が足りないからだという意味です。

ただし、本当の勇気とは無謀さとは違います。冷静さと心の余裕を保ちながら、生きるべき時に生き、死ぬべき時にのみ死ぬ覚悟を持つこと。それが真の勇気なのです。

【現代人の実例】35歳・教師Bさんの場合

「職員会議で、明らかに生徒に不利益な決定がされようとしていました。周りの先輩教師は誰も反対しない。でも『これは違う』と思い、手を震わせながら発言しました。『生徒の立場で考えると…』と。結果、議論が再開され、方針が変わりました。あの時の恐怖と、終わった後の清々しさは忘れられません」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 週に1回、言いづらいことを1つ伝えてみる(家族や友人から始めてOK)
  • 会議で1回は手を挙げて意見を言う(賛成でも反対でも)

【心理学メモ】心理的安全性と勇気 現代の組織心理学では「心理的安全性」が注目されています。失敗を恐れずに発言・行動できる環境のことですね。武士道の「勇」は、外部環境に頼らず、内面から湧き出る勇気。自己効力感(「自分ならできる」という感覚)を高めることで、この勇気は育っていきます。


3. 仁(じん)- 思いやりの心

最も気高い「王者の徳」

仁とは、愛や寛容さ、憐れみの心のことです。特に弱い立場の人や敗者に対する優しさを指します。

平家物語に登場する熊谷直実の逸話が象徴的です。敵将である若き平敦盛を討つ際、彼は敦盛の若さに自分の息子を重ね、深い情けを感じました。強者であっても、相手の痛みを想像し、共感できる心。それが仁なんですね。

【現代人の実例】42歳・看護師Cさんの場合

「コロナ禍で、ある高齢患者さんが家族に会えず孤独に苦しんでいました。規則では面会禁止。でも私は、タブレットで毎日ビデオ通話をつなぐことにしました。規則の範囲内で、できることを探したんです。患者さんの笑顔を見て、『仕事の本質ってこれだ』と思いました」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 1日1人、相手の良いところを見つけて言葉で伝える
  • 困っている人を見かけたら「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかける(月1回から)

【心理学メモ】共感力と感情知性 心理学では「共感力(empathy)」と「感情知性(emotional intelligence)」が、人間関係や社会性の鍵とされています。仁の概念は、まさにこれらを包括したもの。相手の立場に立って考え、適切に感情を表現できる能力は、現代社会でも最も求められるスキルの一つです。


4. 礼(れい)- 美しい振る舞い

心を形にする作法

礼とは、他者への思いやりを具体的な所作として表すことです。ただの形式ではなく、無駄を削ぎ落とした効率的で美しい動き。茶道のように、芸術の域にまで高められたものと言えます。

【現代人の実例】25歳・新入社員Dさんの場合

「入社当初、『挨拶なんて形だけ』と思っていました。でも、ある先輩が毎朝私の目を見て『おはよう、今日も頑張ろうね』と声をかけてくれて。その温かさに救われました。今は私も後輩に同じようにしています。形に心を込めることの大切さを学びました」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 朝の挨拶を、相手の目を見て、名前を呼んで丁寧にする
  • メールやLINEの返信に、相手への気遣いの一言を必ず入れる(「お疲れ様です」「ありがとうございます」など)

【心理学メモ】非言語コミュニケーションと規範の内在化 人間のコミュニケーションの約93%は非言語的要素(表情、姿勢、動作など)だと言われています。礼儀作法は、言葉以外で「あなたを尊重しています」というメッセージを伝える、高度なコミュニケーション技術なんです。また、形を整えることで心も整う(embodied cognition:身体化された認知)という効果も見逃せません。

さらに、心理学では「外的規範(他者からの圧力)」が「内的規範(自発的な行動基準)」へと内在化される過程を重視します。武士道における礼儀作法は、当初は社会的な期待かもしれませんが、それを内在化することで、自律的で安定した自己が形成されるのです。


5. 誠(まこと)- ウソのない心

「武士に二言はない」の精神

誠とは、誠実さのこと。礼に真実の心を込めるために不可欠な徳目です。嘘やごまかしは、自分自身の価値を下げる弱さだと考えられていました。

伊達政宗は「度が過ぎた礼はへつらいである」と述べています。誠実さを欠いた礼儀は、かえって相手を侮辱することになるんですね。

【現代人の実例】30歳・フリーランスEさんの場合

「SNSでは『充実した生活』を演出していましたが、実際は仕事もプライベートもボロボロ。ある日『もう疲れた』と正直に投稿したら、思いがけず多くの人から『実は私も』と共感のメッセージが。本音で生きることで、本当の繋がりができました」

💡 今日からできる小さな一歩

  • SNSに投稿する前に「これは本心か? 見栄を張っていないか?」と確認する
  • 週に1回、「正直に言うと…」から始まる会話をしてみる

【心理学メモ】自己一致と心理的健康 心理学者カール・ロジャーズは「自己一致(congruence)」の重要性を説きました。理想の自分と実際の自分、言葉と行動が一致している状態のことです。この一致度が高いほど、心理的に健康で、他者とも良好な関係を築けることが分かっています。誠の徳目は、まさにこの自己一致を重視するものと言えるでしょう。


6. 名誉(めいよ)- 自分への誇り

命よりも大切なもの

名誉とは、武士としての誇りのことです。「恥」の感覚によって支えられていました。幼い頃から「恥をかくこと」の重さを教えられ、それが行動の指針となったんです。

【現代人の実例】38歳・会社員Fさんの場合

「昇進のチャンスがありましたが、上司に『部下の手柄を横取りしろ』と言われました。断れば昇進はない。でも『自分に誇りを持てなくなる』と思い、断りました。結果、昇進は逃しましたが、鏡の前で胸を張れる自分でいられます」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 自分の価値観リストを作る(「私が大切にしたいこと5つ」)
  • 夜寝る前に「今日の自分に誇りを持てるか?」と自問する

【心理学メモ】自尊心と罪悪文化vs恥文化 文化人類学者ルース・ベネディクトは、西洋を「罪の文化」、日本を「恥の文化」と分類しました。ただし現代心理学では、健全な自尊心(self-esteem)は内発的なもので、他者の評価だけに依存すべきでないとされています。

武士道の名誉も、単に「人にどう思われるか」だけでなく、「自分が自分をどう思うか」という内面的な基準を含んでいました。これは「自己への尊重」という、より深い次元の自尊心と見ることもできます。


7. 忠義(ちゅうぎ)- 本当の忠誠とは

イエスマンではない、真の忠誠

忠義とは、主君や組織への忠実さのこと。でもここで大切なのは、これが盲従を意味しないということです。

主君が間違った道を進もうとしたら、命をかけてでもそれを正す。それが真の忠義とされました。現代で言えば、組織のためを思って、勇気を持って意見を言える人、ということでしょうか。

【現代人の実例】45歳・管理職Gさんの場合

「会社の方針に疑問を感じ、経営会議で反対意見を述べました。『空気を読めない』と批判されましたが、半年後、私の懸念が現実になり方針転換に。上司から『あの時、君が言ってくれて助かった』と。本当の忠誠とは、耳の痛いことを言うことだと実感しました」

💡 今日からできる小さな一歩

  • 月1回、建設的なフィードバックを上司やチームに伝える
  • 「反対意見」ではなく「より良くするための提案」として伝える練習をする

【心理学メモ】健全な帰属意識と内在化 社会心理学では「帰属意識(sense of belonging)」が人間の基本的欲求の一つとされています。ただし、集団への帰属が「同調圧力」や「思考停止」につながると、心理的健康を害してしまいます。

武士道の忠義は、集団への帰属と個人の自律性のバランスを取るもの。また、この忠義という概念も、外的な強制から内的な規範へと内在化されることで、道徳性や自己制御(セルフ・コントロール)が育つのです。これは現代の「心理的契約」(組織と個人の相互的な期待関係)の概念にも通じる、成熟した関係性のあり方と言えます。


意外な結論:武士道の究極の理想は「平和」

ここで驚くべき事実があります。武士道は戦士の道徳でありながら、その究極の目標は戦いに勝つことではなく、平和だったんです。

刀は振るわないために持つ

新渡戸は、武士の魂の象徴である刀は、不必要に振るってはならないものだったと指摘しています。

幕末の偉人・勝海舟の生き方が、それを象徴しています。彼は独裁的な権限を持ち、何度も暗殺の危機に遭いながら、生涯で一度も自分の刀で人を斬りませんでした。

「たとえ切られてもこちらは斬らぬ。その覚悟で生きてきた」

江戸城無血開城という歴史的偉業も、この精神から生まれました。徹底抗戦を主張する声が多い中、勝は「戦えば勝てるかもしれない。でも、江戸の町と100万の民が火の海になる。それが正しいのか?」と問い続けたのです。

これは「負けるが勝ち」という考え方ですね。血を流さずに得た勝利こそが、最善の勝利なのです。

【心理学メモ】葛藤解決と非暴力 心理学の「葛藤解決理論」では、Win-Winの解決が最も望ましいとされています。相手を打ち負かすのではなく、互いに満足できる解決を探る。武士道の平和思想は、この最高レベルの葛藤解決能力を目指すものでした。

また、ガンジーやキング牧師の「非暴力抵抗」にも通じる思想です。真の強さとは、暴力を使える力を持ちながら、あえてそれを使わない自制心にある。これは「自己制御(self-regulation)」という、心理学でも重視される能力なのです。

新渡戸の夢:「太平洋の橋」になること

この「平和」という理想は、新渡戸の生涯のテーマである「われ、太平洋の橋とならん」と完全に重なります。

彼にとっての武士道とは、日本の武力を誇示することではありませんでした。日本の魂、つまり思想や文化を世界に伝えることで、相互理解を深め、国際平和に貢献すること。それこそが真の武士道だったのです。

国際連盟事務局次長として働いた時期、新渡戸は各国の対立の中で苦悩しました。理想と現実のギャップに打ちのめされることも。それでも彼は「対話を諦めたら、そこで戦争が始まる」と信じ続けました。

【心理学メモ】文化間理解と平和構築 異文化間心理学では、偏見や差別は「知らないこと」から生まれるとされています。相互理解を深めることが平和の基盤になる。新渡戸の活動は、現代で言う「文化的仲介者(cultural mediator)」や「グローバル・シチズンシップ教育」の先駆けでした。

また、心理学者エリク・エリクソンは、人生最後の発達課題を「統合vs絶望」とし、自分の人生に一貫した意味を見出すことの重要性を説きました。新渡戸の生涯は、まさにこの「統合」を成し遂げた人生だったと言えるでしょう。


現代を生きる私たちへのメッセージ

『武士道』が出版されてから120年以上。武士という身分はもうありませんが、武士道の精神は完全には消えていません。

それは、私たち日本人が「人としてどう生きるべきか」を考える時、心の奥底で今も生き続けているのです。

武士道は「原点回帰の書」

現代社会は複雑です。SNSでの比較文化や成果主義のプレッシャーなど、自己価値を見失いやすい要素が溢れています。そんな時、この本は私たちの文化的・精神的なルーツを思い出させてくれます。

「自分は何を大切にして生きたいのか?」 「どんな人間でありたいのか?」

そんな問いに向き合うためのヒントが、この古典には詰まっているんです。

【心理学メモ】ルーツを知ることの心理的効果とナラティブ ナラティブ・セラピー(物語療法)では、自分のルーツや人生の物語を再構築することで、アイデンティティが強化され、人生に意味が生まれるとされています。武士道の七徳目を「自分の人生の物語(ナラティブ)」として捉えることで、アイデンティティの統合が促されるのです。

人は、自分の行動や価値観を”物語”として再解釈することで、心理的な一貫性を獲得します。武士道の七徳目は、個人の生き方の指針、つまり「生きる物語の構造」として機能しうるものなのです。

また、レジリエンス(困難からの回復力)研究では、「文化的アイデンティティの確立」が心理的強さの源泉の一つだと分かっています。自分が「どこから来たのか」を知ることで、「これからどこへ向かうのか」が見えてくるんですね。

完璧じゃなくていい、大切なのは方向性

ここで誤解してほしくないのは、武士道は「完璧な人間になれ」と言っているわけではないということです。

実は、武士たちも失敗だらけでした。名誉にこだわりすぎて無駄な命を失った例、忠義と義の板挟みで苦しんだ例、完璧を目指すあまり心を病んだ例…。歴史上の武士たちも、理想と現実の間で葛藤し続けていたんです。

七つの徳目すべてを完璧に実践するのは、誰にとっても難しいでしょう。大切なのは、これらの価値観を「目指す方向」として持ち続けることです。少しずつでも、その方向に近づこうと努力すること。それが何より大切なんです。

【心理学メモ】成長マインドセットと自己への思いやり 心理学者キャロル・ドゥエックは「成長マインドセット」の重要性を説きました。「人は変われる、成長できる」と信じることで、実際に能力が向上していくのです。

また、「完璧を求めず、方向性を大切にする」視点は、クリスティン・ネフらの**自己への思いやり(self-compassion)**の概念にも通じます。失敗や不完全さを責めるのではなく、学びの機会と受け止め、優しく接する。武士道もまた、自他を責めるのではなく、よりよい自己を目指し続けるプロセスの哲学なのです。


🎯 あなたの武士道実践度チェック

まずは自分の現在地を知ることから始めましょう。以下の質問に「はい/いいえ」で答えてみてください。

義(正しさ)

  • □ 不正を見たとき、見て見ぬふりをせず何らかの行動を取っている
  • □ 自分の利益より、正しいことを優先できる

勇(勇気)

  • □ 怖くても、必要だと思ったら発言できる
  • □ 失敗を恐れず、新しいことに挑戦している

仁(思いやり)

  • □ 他人の痛みに共感し、助けようとしている
  • □ 弱い立場の人に優しく接している

礼(礼儀)

  • □ 相手への敬意を、態度や言葉で示している
  • □ 形式的でなく、心のこもった礼儀を心がけている

誠(誠実さ)

  • □ 嘘をつかず、本音で生きている
  • □ 言葉と行動が一致している

名誉(誇り)

  • □ 自分の価値観を大切にしている
  • □ 他人の評価より、自分への誇りを重視している

忠義(忠誠)

  • □ 組織のために、勇気を持って意見を言える
  • □ 盲従せず、建設的な批判ができる

【結果の見方】

  • 12-14個: 素晴らしい! あなたは既に武士道を実践しています
  • 8-11個: 良い方向に向かっています。少しずつ深めていきましょう
  • 4-7個: 始めるには最適な地点です。1つずつ意識してみましょう
  • 0-3個: 大丈夫! ここから始められます。まずは1つの徳目から

重要: 点数が低くても落ち込む必要はありません。「気づき」が第一歩です。完璧を目指すのではなく、昨日の自分より少しだけ前進することを目指しましょう。


あなたの中にも、きっと武士がいる

最後に、こんな質問を自分に投げかけてみてください。

  • 最近、「これは正しくない」と感じたことはありましたか?(義)
  • そのとき、声を上げる勇気を持てましたか?(勇)
  • 誰かの痛みに、心から共感した瞬間はありましたか?(仁)
  • 相手への敬意を、言葉や態度で示せていますか?(礼)
  • 自分の言葉と行動は一致していますか?(誠)
  • 自分自身に、誇りを持てていますか?(名誉)
  • 大切な人や組織のために、意見を伝えていますか?(忠義)

完璧な答えは必要ありません。ただ、こうした問いを持ち続けること。それが「武士道を生きる」ということなのかもしれません。


📊 武士道の七徳目 × 心理学 早見表

七つの徳目と心理学の関係性を一目で整理しました。復習や振り返りにご活用ください。

徳目意味対応する心理学理論・概念今日からできること
正しさコールバーグの道徳的発達理論毎晩「正しいことをしたか」自問する
行動する勇気自己効力感、心理的安全性週1回、言いづらいことを伝える
思いやり感情知性、共感性1日1人、良いところを伝える
美しい所作非言語コミュニケーション、規範の内在化相手の目を見て丁寧に挨拶
誠実さ自己一致、心理的健康本音で話す時間を作る
名誉自尊と誇り自尊心、恥文化、自己評価の基準自分の価値観リストを作る
忠義忠誠と進言帰属意識、心理的契約、集団内での自律性月1回、建設的な提案をする

💬 最後に、一言で言うと?

「結局、武士道って何?」って聞かれたら──

「人として、かっこよく生きるための”心の道”だよ」

って答えればOKです。

完璧じゃなくていい。大切なのは、自分の心に正直に、少しずつでも前に進んでいくこと。 あなたの中の”武士”は、いつでもあなたと一緒にいます。

新渡戸稲造が夢見た「太平洋の橋」。それは、一人ひとりが自分の文化を深く理解し、同時に他者の文化も尊重することから始まります。

あなたの中にも、きっと武士道は生きています。ぜひ、この古くて新しい知恵を、現代の生き方に活かしてみてください。


💭 読者の皆さんへ

あなたが最も大切にしたい徳目はどれですか? 武士道を実践して変わったことがあれば、ぜひコメント欄で教えてください。

一緒に、現代の武士道を作っていきましょう。


参考文献

  • 新渡戸稲造『武士道』(原著:Bushido: The Soul of Japan, 1899)

本文で触れた心理学の概念

  • 道徳性の発達段階(ピアジェ、コールバーグ)
  • 自己一致(カール・ロジャーズ)
  • 自己への思いやり/セルフ・コンパッション(クリスティン・ネフ)
  • 成長マインドセット(キャロル・ドゥエック)
  • ナラティブ・セラピー(物語療法)
  • 文化的アイデンティティ(エリク・エリクソン)

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