「好きと嫌いが同時にある気持ち」のこと
簡単な説明
「アンビバレンスってのはさ、心の中で“好きー!”と“嫌いー!”がケンカしてる状態のこと!
たとえば『ママのカレーは美味しいけど、毎回同じで飽きる…』みたいな複雑な気持ち、あるでしょ?
それ、まさにアンビバレンスだよ!
誰でもあるし、それが人間っぽさってもんさ!」
由来
「アンビバレンス(Ambivalence)」は、スイスの精神科医オイゲン・ブロイラー(Eugen Bleuler)が1911年に提唱した概念です。彼は統合失調症の研究の中でこの言葉を用い、「相反する感情が同時に存在する状態」として説明しました。ラテン語の「ambi(両方)」と「valentia(価値)」**が語源です。
具体的な説明
人は、ある物事や人に対して「好きな面」と「嫌いな面」を同時に感じることがあります。たとえば、厳しいけれど優しい先生に対して、「尊敬しているけどちょっと苦手」という気持ちを持つことがあります。こうした矛盾した感情が同時にある状態をアンビバレンスといいます。
アンビバレンスとは、対象に対して正反対の感情(愛と憎しみなど)が同時に存在し、心理的葛藤を引き起こす状態を指します。この概念は、精神分析学や社会心理学、臨床心理学など広範な分野で使用されます。
精神分析では、対象関係論において母親への愛情と敵意が共存することが発達上重要とされます。社会心理学では、態度の両面性(ポジティブとネガティブ)が同時に存在する状態を**「態度的アンビバレンス」**と呼びます。
人間がアンビバレンス(相反する感情の同時存在)を明確に自覚できるようになるのは、おおよそ7〜9歳頃からです。ただし、感情の“混ざり”はもっと幼い頃から存在します。
| 年齢 | 状態 | 内容 |
|---|---|---|
| 1〜3歳(乳児・幼児) | 不可能 | 「快 or 不快」の単純な感情反応のみ。感情は分離されず、同時存在も不可。 |
| 4〜6歳(前操作期) | 部分的・矛盾に混乱 | 「好きだけど嫌い」といった感情は理解できず、混乱する。白黒思考が優勢。 |
| 7〜9歳(具体的操作期) | 可能 | 相反する感情を“同時に”持っていることを認識しはじめる。 Piagetの理論でも、逆転操作(AとBを同時に考える力)が可能になる時期。 |
| 10歳以降 | 高度化 | 感情のバランス・葛藤・対人関係の複雑性をより深く理解。アンビバレンスを言語化できるようになる。 |
「親のサポート方法」を追記した表。お子さんの認知・感情の発達段階に応じた支援方法をまとめています。
| 年齢 | アンビバレンスの理解度 | 感情の特徴 | 親のサポート方法 |
|---|---|---|---|
| 1〜3歳(乳児〜幼児前期) | 不可能 | 喜怒哀楽など一時的な感情が中心。感情は分離されず一色。 | ・まず「快・不快」の感情に名前をつけてあげる(例:「嫌だったね」「楽しかったね」)・抱っこや表情で非言語的に共感することが大切 |
| 4〜6歳(幼児後期・前操作期) | △混乱あり | 相手や物事を「良い or 悪い」で判断しやすい。矛盾に困惑しやすい。 | ・「好きだけど嫌なときもあるよね」と感情の両立を“正しいこと”として教える・絵本やアニメで登場人物の複雑な気持ちを一緒に話すことでモデル学習を促す |
| 7〜9歳(具体的操作期) | 可能 | 「〜だけど〜」のような相反する気持ちを自覚しはじめる | ・「そう感じるの、自然なことだよ」と肯定し、言語化の練習をサポート・選択肢を与え、「どちらも大事にしていい」とバランス思考を育てる |
| 10〜12歳(具体的操作期後期〜形式的操作期へ移行) | 複雑な感情の同時保持が可能 | 自分の感情と他者の感情を比較しながら思考できるようになる | ・「好きだけど疲れるってどういうこと?」などと問いかけてメタ認知的な気づきを促す・日記や感情記録帳など自己内省の習慣化を支援する |
| 13歳以上(形式的操作期) | 抽象的・多面的なアンビバレンス理解が可能 | 社会的役割・自己イメージとのギャップに悩むことが増える | ・親の価値観を押し付けず、感情の揺らぎに共感する姿勢が重要・「それってどんな気持ち?」「どっちも大事ってことかな?」と共感的に引き出す対話が有効 |
例文
「アイドルのコンサート、楽しいけどお金がかかるから行くか迷うんだよね。アンビバレンスな気持ちで困ってるよ。」
疑問
Q: アンビバレンスはただの優柔不断とは違うのですか?
A: はい、違います。アンビバレンスは「正反対の感情が同時に存在すること」を意味しており、優柔不断は「決断力がない性格的傾向」のことです。
Q: アンビバレンスは誰にでも起こるものですか?
A: はい、誰にでも起こります。特に大事な選択や人間関係ではよく見られる自然な心理状態です。
Q: アンビバレンスが強いと何が問題なのですか?
A: 強いアンビバレンスは、意思決定が遅くなる、ストレスが増える、感情の整理が難しくなるといった問題を引き起こすことがあります。
Q: アンビバレンスはどうすれば減らせますか?
A: 自分の気持ちを整理し、どちらの感情がより強いかを客観的に考えることが有効です。また、信頼できる人と話すことも助けになります。
Q: アンビバレンスは精神疾患と関係がありますか?
A: はい、一部の精神疾患(例:統合失調症、強迫性障害など)では、病的なアンビバレンスが見られることがあります。
Q: アンビバレンスの感情はどのようにして測定できますか?
A: 心理学ではアンビバレンス尺度(ambivalence scales)を使って数値化することができます。たとえば、「好き」と「嫌い」の強度をそれぞれ0〜10で評価し、その両者の大きさから感情の二重性を分析します。また、**感情的アンビバレンス(affective ambivalence)と認知的アンビバレンス(cognitive ambivalence)**を分けて測定する方法もあります。
Q: アンビバレンスは成長の証とも言えますか?
A: はい、そう言えます。アンビバレンスが生まれるのは、対象を一面的ではなく多面的に見られるようになった証拠です。たとえば、親を「完璧」と思っていた子どもが、成長とともに「良いところも悪いところもある」と気づくのは、心理的成熟のサインです。
Q: アンビバレンスの感情を放置するとどうなりますか?
A: 放置すると、慢性的なストレスや情緒の不安定さにつながる可能性があります。特に人間関係では、「距離をとるべきか、それでも一緒にいるべきか」といった矛盾が心に負担をかけ、疲弊することがあります。時には自己否定感につながることもあるため、内省や他者との対話が重要です。
Q: 反対の感情を持つことは悪いことですか?
A: いいえ、決して悪いことではありません。むしろアンビバレンスは人間らしい自然な感情であり、自己理解を深める機会にもなります。「好きな人にイライラする」「やりたいことなのに不安がある」といった複雑な気持ちは、誰もが持つものです。それを認めてあげることが、自分を大切にする第一歩です。
Q: 「あの人が好きなのか嫌いなのかわからない」という気持ちはアンビバレンスですか?
A: その可能性があります。その人のことを考えると「嬉しい気持ち」と「イライラ」が同時に湧いてくる場合は、まさにアンビバレンスです。ただし、明確な好悪の判断ができない場合は、単に感情が未確定な状態とも考えられるので、注意深く見極める必要があります。
Q: 感情のアンビバレンスと態度のアンビバレンスはどう違いますか?
A: 感情のアンビバレンスは「感情レベルでの好き嫌いの混在」、態度のアンビバレンスは「ある対象に対する行動や意見の不一致(たとえば、環境問題は大事だと思うが、面倒でエコ活動はしていない)」というように、思考と行動の矛盾に近いものです。
Q: アンビバレンスに対処する方法はありますか?
A: はい、いくつかあります。
- 自分の感情を言葉にする(書く、話す)
- 感情に点数をつけて、どちらの感情が優勢か確認
- 第三者に相談して、視点を変える
- メリット・デメリットを書き出し、論理的に整理する
などの方法が役立ちます。
Q: アンビバレンスは恋愛感情にも当てはまりますか?
A: もちろんです。恋愛ではとてもよく見られます。「好きだけど不安」「一緒にいたいけど傷つきたくない」など、矛盾する気持ちが同時に存在するのは自然なことです。むしろその感情に気づくことで、相手との関係をより深く考えるきっかけにもなります。
Q: 恋愛関係におけるアンビバレンスが、どのようにウェルビーイングに影響するのですか?
A: 最新の研究(Zoppolatら、2023)によれば、自分自身が「好きだけど嫌い」「嬉しいけど不安」などと主観的にアンビバレンスを感じている状態は、恋愛関係や個人の幸福度を下げる傾向にあると報告されています。とくに自覚される感情の矛盾は、関係の満足度や安心感に直接マイナスの影響を与えます。
Q: 暗黙的アンビバレンスと明示的アンビバレンスの違いとは何ですか?
A: 明示的アンビバレンスとは、「自分は相手を好きでもあるし、嫌いでもある」と自覚している状態を指します。一方、暗黙的アンビバレンスは、無意識的に相反する感情を抱えている状態です。Zoppolatらの研究では、明示的なアンビバレンスの方が幸福感に与える影響が強く、暗黙的なものは影響が小さいとされました。
Q: アンビバレンスが強い人は、説得されにくいのですか?
A: はい、その傾向があります。Xu(2024)のメタ分析では、アンビバレンスが高い人ほど、広告や健康・政治的メッセージに対して態度や意図を変えにくいことが分かりました。特に、「良い点もあるけど悪い点もあるな」と複雑に感じていると、受け取った情報に対する態度の形成や変更が鈍くなるのです。
Q: なぜアンビバレンスは恋愛関係で特に問題になるのですか?
A: 恋愛関係では、感情の安定や相手との信頼関係が非常に重要です。そのため、「相手を好きだけど同時に不満もある」という状態が続くと、関係の質が低下し、ストレスや不安が高まると考えられます。Zoppolatらの研究では、特に主観的なアンビバレンスが強いと、相手との距離感や安心感が崩れやすいことが示されました。
Q: アンビバレンスに対処するために効果的な方法はありますか?
A: 自分の感情を明示化(ラベリング)することが有効です。恋愛に限らず、感情の矛盾に気づき、それを言葉にして整理することで、アンビバレンスの負の影響を緩和できます。また、相手との対話を通じて、曖昧な感情の正体を共有することも、ウェルビーイングの回復に効果的です。
Q: 説得文脈においてアンビバレンスを感じている人に情報を届けるには、どうすればいいですか?
A: Xuのメタ分析では、アンビバレンスを感じている人に情報を伝える場合、明確で一貫した立場を取ることが重要だとされています。また、複雑な情報を避け、簡潔で感情的に訴えるアプローチが、彼らの態度変容を促進しやすくなります。
Q: 若者と大人では、アンビバレンスの影響は違うのですか?
A: はい。Xu(2024)のメタ分析によれば、大人や大学生はティーンよりもアンビバレンスの影響を強く受ける傾向があります。これは、大人の方が価値観や感情が複雑で多面的になりやすいため、矛盾する感情が同時に生じやすくなるからです。
Q: 恋愛関係におけるアンビバレンスにどう向き合うべきですか?
A: 自分の中の「好き」「嫌い」などの感情を正直に認め、パートナーと率直に共有することが大切です。アンビバレンスがあっても、それを共に理解しようとする姿勢が、信頼関係や心理的安全性を高める鍵になります。自分を否定せず、「こんな気持ちもある」と言える関係が理想です。
理解度を確認する問題
アンビバレンスに関する説明として正しいものを1つ選びなさい。
A. 対象に対して肯定的な感情だけを持つ状態
B. すぐに決断ができる状態
C. 正反対の感情が同時に存在する状態
D. 感情がまったく湧かない状態
正解:C
関連キーワード
- 相反感情
- 葛藤
- 態度の両面性
- 認知的不協和
- 感情の二重性
- 態度変容
関連論文
“A Systematic Study of Ambivalence and Well‑Being in Romantic Relationships”
概要:
近距離恋愛関係における4種類のアンビバレンス(客観的・主観的・暗黙-明示・暗黙)を統合し、1,134名のデータを内的メタ分析で検証。
結果:
- 明示的アンビバレンス(客観的・主観的)のみが有意に良好な個人・関係のウェルビーイングと負の相関
- 特に主観的アンビバレンス(自分が“混乱している”と感じる状態)が最も強い相関
- 暗黙的タイプは関連が弱く統計的有意ではなかったResearchGate
解釈:
主観的に混乱を感じることが、個人と関係の健康にもっとも影響します。つまり、自分の感情に“気づく”ことが、心理状態と深く結びつくわけです。
“The Impact of Ambivalence on Persuasion: A Preliminary Meta‑Analysis”
概要:
広告・健康・政治コミュニケーション領域の22研究、14,173参加者を対象に、アンビバレンスが態度・意図・行動に与える影響をメタ分析。
結果:
- 全体的には中小規模の負の相関(r = −0.134、95% CI [–0.192, –0.076]、p < 0.001)
- 態度・意図への影響が顕著で、行動や認知への影響はやや弱い
- 広告と健康文脈では政治的文脈よりも効果が強く、実験研究では調査研究よりも影響が大きい傾向
- ティーンよりも大人・学生で相関が強かったMacrothink Institute
解釈:
伝えたい情報に対して「賛成も反対もある…」と感じるほど、相手の態度形成や行動意図は揺らぎやすくなります。特に広告・健康メッセージで注意が必要です。
覚え方
「アンビバレンス=アン(嫌い)もビ(美味しい)もバレンス(バランス)とれる感情」
→「嫌い」と「好き」のバランスが取れてしまってる状態と覚える


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