みんなのために出したほうが得だけど、自分だけ得したい気持ちも出てしまうゲームのこと
簡単な説明
「みんなでお金出してピザ買おうってなったとき、自分だけ出さずにピザ食べたいって気持ちあるでしょ?でもそれがみんなやると、ピザそのものが来なくなるって話。それが“公共財ゲーム”だよ。結局、協力って超大事なんだよね。」
由来
「公共財ゲーム(public goods game)」は、経済学と社会心理学が交わる分野でよく使われる実験的ゲーム理論の一つです。
1970年代以降、「人は利他的になれるのか?」というテーマの研究が盛んになり、協力行動と利己行動のバランスを研究するために作られました。
具体的な説明
公共財ゲームとは、参加者がそれぞれお金(または資源)を自分のために使うか、みんなのために出すかを選ぶ実験です。みんなが出し合うと全体の利益が大きくなりますが、自分が出さなくても他の人が出してくれれば「タダ乗り」できてしまいます。
公共財ゲームは、非協力ゲームの一つで、以下のように設計されます。
- 各プレイヤーは「初期資金(例:100ポイント)」を持つ。
- 各ラウンドで、プレイヤーは自分のポイントの一部を「公共の箱(公共財)」に投入できる。
- 公共財に集まったポイントは一定の「乗数(例:×1.6)」で増え、それを全員に平等に配分。
- 戻ってくる報酬は「出した量」には比例しない。
→このとき、合理的な戦略は「自分は出さないで、他人に出させる」ことです。
でもそれが続くと…全員が出さなくなってしまい、全体の利益がなくなります。
具体的な実験と結論
例:Fehr & Gächter(2000年)の公共財ゲーム実験
- 参加者4人で構成。
- 各自20点所持。
- 公共財に出した金額の合計が×1.6されて、全員に均等配分。
- 追加条件:ルールによっては「罰を与える」オプションを付ける。
結果:
- 最初は多くの人が公共財に出資。
- だんだん他人の「ただ乗り」を見て出資が減る。
- 罰の制度を導入すると、出資が維持される傾向が強まる。
→人間は「罰」や「監視」があると協力しやすいという行動経済学の知見につながります。
例文
「友達4人で100円ずつ出し合って、クラスのみんなにアイスを買うって話があったとする。でも、A君が出さずに他の子が出したら、A君もアイスをもらえる。これが“公共財ゲーム”だよ。」
疑問
Q: なぜ公共財に出したほうが全体にとって得になるのですか?
A: 出されたお金が「増幅(例えば×1.6)」されて配られるので、全体の報酬が大きくなるからです。
Q: 自分だけ出さない方が得なのでは?
A: 短期的にはそう見えますが、他の人も同じことを考え出すと、誰も出さなくなり、全体の利益がゼロになります。
Q: 出す人がいつも損をするんですか?
A: 罰制度や評判制度があると、協力する人が得をする環境が整う場合もあります。
Q: 本当にそんな実験で人間の行動がわかるのですか?
A: 公共財ゲームは世界中で再現性のある結果が出ていて、信頼性の高い社会心理実験の一つとされています。
Q: なぜ罰制度を導入すると協力率が上がるのですか?
A: Fehr & Gächter(2000)の研究によると、公共財ゲームに「罰の制度」を導入すると、他者の協力行動が安定するため、参加者は「協力しないと損する」と感じやすくなります。罰は費用がかかっても、裏切り行為への強い不快感が動機となり、自発的に行われることもあります。
Q: 不平等な初期条件(エンドウメント)があると、なぜ協力が減るのですか?
A: 「Inequality and cooperation: meta‑analytical evidence from Public Good Experiments」のメタ分析によると、初期の資源が不平等なグループでは、「なぜ自分が多く負担しなければいけないのか」という不満や、「自分は得をしにくい」という認知的不公平感が協力行動を妨げるためです。
Q: 出資額の「ばらつき(分散)」が協力を妨げるのはなぜですか?
A: 「Variance, norms and cooperative behavior in public goods games」の研究では、出資のばらつきがあると「他人の行動が読めない」=「協力しても裏切られるかもしれない」という不確実性が強まり、それが協力率低下につながることが示されました。人は、予測できない環境では消極的になります。
Q: リーダーが模範的に出資すると、なぜ他人の出資が増えるのですか?
A: 「Leading-by-example」研究では、リーダーが率先して出資することで「この行動が正しい」と認知され、社会的規範が形成されます。この効果は「同調行動(conformity)」や「権威への服従(obedience)」にも関係しています。とくにリーダーに信頼がある場合は効果が強くなります。
Q: 参加者が感情的な状態にあると、協力行動はどう変化しますか?
A: 「Incidental Emotions and Cooperation in a Public Goods Game」の実験では、幸福・恐怖・嫌悪といった感情を誘導した状態では、どの感情でも協力率が中立状態より低下する傾向が見られました。これは、感情によって注意やリスク感覚が変わり、「裏切りへの警戒」が強まるためと解釈されています。
Q: 繰り返し型の公共財ゲームで協力率が上がるのはなぜですか?
A: 参加者が「また同じ人とゲームをする」と知っている場合、裏切ると次に仕返しされるリスクがあるため、協力が戦略的に有利になります(いわゆる「シャドウ・オブ・ザ・フューチャー(未来の影)」効果)。これは信頼関係を築く上で非常に重要な心理メカニズムです。
Q: 公共財ゲームの結果は、現実の社会政策にも応用できるのですか?
A: はい。罰や報酬制度、初期の格差是正、透明性の確保、リーダーの信頼性強化など、現実の税制・福祉・環境保全などの政策設計に非常に応用可能です。メタ分析の結果は、そのような社会制度が機能する条件を明らかにするエビデンスになります。
Q: ゲーム理論的には「協力しない方が得」なのに、なぜ人は協力することもあるのですか?
A: 人間は単なる合理的存在ではなく、「社会的動物」として道徳感・共感・名誉欲などを持っています。とくに「相互的利他主義(reciprocal altruism)」の心理が働き、「自分が協力すれば、他者も協力するだろう」という信念が行動を支えます。これは一種の進化的戦略と考えられています。
理解度を確認する問題
公共財ゲームの特徴として最も適切なものを選びなさい。
A. 他人の行動に関係なく個人が利益を最大化できるゲーム
B. 他人と協力することで全体の利益が増加するが、個人は協力しない方が得する場合もある
C. 利他的行動が個人に不利益をもたらすよう設計されたゲーム
D. 個人の行動が他人に影響しないゲーム
正解:B
関連キーワード
- 協力行動(Cooperation)
- 社会的ジレンマ(Social Dilemma)
- フリーライダー問題(Free-rider Problem)
- 行動経済学(Behavioral Economics)
- 罰と報酬(Punishment and Reward)
関連論文
Fehr, E., & Gächter, S. (2000). Cooperation and punishment in public goods experiments. American Economic Review, 90(4), 980–994.
解説:
- 公共財ゲームに「罰」の制度を導入したことで、参加者の協力率が向上しました。
結論
- 結論:人は利他的行動をするために「罰」というコストを払ってでも他人の裏切り行為を抑止する傾向がある。
Linear Public Goods Experiments: A Meta‑Analysis (2025年刊)
概要:標準的な線形公共財ゲーム(参加者が資源を公共箱に投入し、その合計が一定係数で戻る)の実験データを多変量メタ分析で統合。
結果:参加者数、乗数、罰制度、反復有無などの要因が、協力度に有意影響を与える。
解釈:制度設計(例:罰システム)や反復の有無などが、協力行動を強力に左右し、政策設計や社会制度設計において重要視されうる。
Inequality and cooperation: meta‑analytical evidence from Public Good Experiments
概要:23実験を対象に、エンドウメント(初期資源)の不平等が協力に与える影響を分析
結果:不平等が大きいほど、全体の協力度は低下。規模が大きくなるにつれ協力コストが不均一に影響。
解釈:社会的不平等は協力行動の抑制要因となりうる。分配政策やインセンティブ制度の設計に注意が必要 。
Leading‑by‑example in public goods experiments: What do we know?
概要:メタ分析形式で、リーダーが“模範出資”するリーディングバイエグザンプルの効果を検証
結果:先導者による高額出資はグループ全体の出資率を有意に上昇させる傾向。
解釈:リーダーの行動が社会的規範を醸成し、協力意識を促進するメカニズムとして機能 。
Variance, norms and cooperative behavior in public goods games(2024)
概要:同月の平均出資額でも、仲間の出資額のばらつき(分散)が、協力に与える影響を分析
結果:分散が大きいほど、協力率・期待値ともに低下。特に“empirical expectations”(他の出資額に対する予想)が強く影響。
解釈:均一性が高い状況では協力しやすく、ばらつきは「他人の行動が読みにくい」ため協力阻害につながる。
On the limits of hierarchy in public goods games(2023)
概要:階層構造があるグループ内での公共財ゲームをレビュー
結果:明確な階層が存在すると、上位層による出資・監視が協力維持に好影響。ただし階層が硬直化すると逆効果。
解釈:監視・罰の仕組みは有効だが、ヒエラルキー強化が過剰だと透明性や公平感を損ない、協力率を低下させうる。
覚え方
「公(こう)に出せば、みんなハッピー。でも、ただ乗りはチョッピリずるい!」
→「公共財」は「みんなのもの」「協力しないと損」というキーワードで覚えると良いでしょう。


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