起こりにくいことのほうが、逆に魅力的に感じられる心理効果のこと
簡単な説明
「宝くじ、当たるわけないのに買っちゃうの、なんで?」
— それが「可能性効果」ってやつさ。ほんのちょっとでも「当たるかも」って思っちゃうと、つい財布の紐がゆるむんだよね。人間って、確率よりも感情で動いちゃう生き物なんだ。
由来
「可能性効果(possibility effect)」は、期待効用理論(expected utility theory)や行動経済学の分野から派生した心理学的な概念です。特に、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによる「プロスペクト理論(prospect theory)」の一部として知られています。
この理論では、人は合理的に判断しているようで、実は確率の低い出来事(宝くじが当たる、病気が治るなど)に対して過大評価する傾向があることが示されました。
具体的な説明
日常生活でいうと、次のような場面が該当します:
- 交通事故のリスクが0.01%でも「怖い」と感じる
- ほぼ不治の病にわずかに効く薬を試してみたくなる
- 宝くじを「当たるかも」と買ってしまう
確率が低いことでも、「ゼロではない」ことで大きな心理的影響を与えるのです。
たとえば、「このくじを買えば1%の確率で1億円が当たります」と言われると、実際はかなり低い確率にもかかわらず、多くの人が「もしかしたら自分は当たるかも」と思ってしまいます。
これが可能性効果です。つまり、わずかでも可能性があることに人は過度に価値を感じてしまうのです。
可能性効果は、プロスペクト理論の「加重関数(decision weight function)」で説明されます。人は低確率(0〜10%)の事象に対して、その価値(期待効用)を実際の確率以上に見積もる傾向があり、加重関数はこの心理的偏りを数学的に表します。
例文
「たった1%の可能性しかないのに、彼はその宝くじにかけると言っていた。まさに可能性効果が働いていたのだと思う。」
疑問
Q: 可能性効果と確実性効果はどう違いますか?
A: 可能性効果は「低確率の出来事を過大評価」するのに対して、確実性効果は「100%の確実な結果を強く好む」傾向を指します。どちらもプロスペクト理論に基づく概念です。
Q: なぜ人は低確率に魅力を感じてしまうのですか?
A: それは「もしかしたら…」という希望や感情が理性よりも強く働くためです。人は感情的価値を判断に持ち込みやすいのです。
Q: 宝くじを買う心理も可能性効果ですか?
A: はい、まさに代表例です。1等に当たる確率は極めて低いですが、「夢を見る」心理が強く働きます。
Q: この効果はネガティブにも働きますか?
A: はい、たとえばごく稀な副作用を恐れて薬を避ける行動など、低確率のリスクも過大評価されやすいです。
Q: 他の心理効果と重なる部分はありますか?
A: 「利用可能性ヒューリスティック」や「代表性ヒューリスティック」など、直感や印象による判断と関連しています。
Q: 可能性効果は複数回の意思決定でも同じように起こるのですか?
A: いいえ、複数回の選択では可能性効果が弱まる傾向があり、人は経験を通じてより合理的に判断するようになります。これはDeKayらの2016年の研究で示されています。
Q: プロスペクト理論における「確率感度パラメータ」とは何ですか?
A: 確率感度パラメータとは、人が実際の確率をどのように心理的に認知しているかを示す値で、メタ分析によれば平均値は 0.68。1より小さいこの値は、特に低確率や高確率の端において、人々の認知が大きく歪むことを意味します。
Q: 可能性効果はどのように実生活のリスク判断に影響を与えますか?
A: ごくわずかな確率の出来事、たとえば副作用や飛行機事故などを過大に恐れたり、反対に宝くじや一発逆転を過大に期待するような判断に影響します。これは消費行動や医療選択にも大きな影響を与えます。
Q: メタ分析で報告された効用曲線の傾き(リスク回避度)は、可能性効果とどう関係していますか?
A: 利得領域における効用曲線の傾きが 0.33、損失領域で 0.29 と報告されており、これは人々が利得でも損失でもリスクを過大・過小評価する傾向があることを示しています。低確率の事象を過大評価する可能性効果も、この効用関数の非線形性と深く関わっています。
理解度を確認する問題
次のうち「可能性効果」に該当する例として最も適切なのはどれか?
A. 確実に利益がある投資を選ぶ
B. 10%の確率で高収入が得られる宝くじを買う
C. リスクを避けて安全策を取る
D. 習慣的に安い商品を選ぶ
正解:B
関連キーワード
- プロスペクト理論
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- 行動経済学
- 希少性効果
- 利用可能性ヒューリスティック
関連論文
Meta-Analysis of Prospect Theory Parameters
概要: 166本の論文から812の推定値を収集し、約52,000人の被験者データを用いてプロスペクト理論のパラメータを統合的に分析。
結果:
- 利得における効用曲率(リスク回避度): 0.33(95% 信頼区間: 0.31–0.36)
- 損失における効用曲率: 0.29(95% 信頼区間: 0.25–0.32)
- 確率感度パラメータ: 0.68(95% 信頼区間: 0.66–0.70)
- 価値関数の高さ(elevation): 0.98(95% 信頼区間: 0.95–1.02)
解釈: 人々は低確率の出来事を過大評価しやすく、これは可能性効果の基盤となる心理的傾向を示している。
The Persistence of Common-Ratio Effects in Multiple-Play Decisions
概要: 単一回および複数回の選択における可能性効果と確実性効果を比較し、選択行動の合理性を検討。
結果:
- 単一回の選択では、可能性効果の効果量は b = 2.33(95% 信頼区間: 1.71–2.95)、オッズ比 OR = 10.29。
- 複数回の選択では、可能性効果が減少し、選択行動がより合理的になる傾向が見られた。
解釈: 人々は単一回の選択では低確率の利益を過大評価しやすいが、複数回の選択ではこの傾向が弱まり、より合理的な判断をするようになる。
BehavioralEconomics.com | The BE Hub
概要: 確率の変化に対する人々の主観的評価は線形ではなく、特に0%から5%への変化や95%から100%への変化に対して強い感情的反応を示す。
解釈: 人々は低確率の出来事を過大評価し、確実な結果を過度に好む傾向があり、これが可能性効果や確実性効果の背景にある心理的メカニズムである。
覚え方
「1%の夢に1万円」
— これは、1%の確率で1億円が当たる宝くじに1万円を投じる行動を指します。このフレーズは、低確率の出来事に過大な価値を感じてしまう可能性効果を象徴しています。このような行動を通じて、可能性効果の心理的メカニズムを直感的に理解できます。


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