確実な結果のほうが、たとえ損でも好まれやすい心理現象のこと
簡単な説明
「絶対もらえる」って言われると安心しちゃう。
「ほぼ確実」でもちょっと不安で選ばない。
人は理屈より、“確実”って言葉に弱いんですわ。
由来
確実性効果(Certainty Effect)は、1979年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによって提唱された「プロスペクト理論(Prospect Theory)」の中で紹介された概念です。
人間は、確率的に得られる大きな利益よりも、確実に得られる小さな利益を好む傾向があるとされています。
具体的な説明
たとえば、以下の2つの選択肢があったとします。
- A:確実に9万円もらえる
- B:90%の確率で10万円もらえる(10%は0円)
この場合、合理的に考えれば期待値は同じ(9万円)ですが、多くの人が「Aの確実にもらえる方」を選ぶ傾向があります。
これが確実性効果です。
確実性効果は、プロスペクト理論における「利得領域におけるリスク回避性」に関係します。人は「利得が確実である」と思うと、それに対して過大評価(加重)をし、わずかな不確実性でも強く嫌う傾向があるのです。これは、従来の期待効用理論(Expected Utility Theory)が予測できない非合理的な選択を説明するために提案されました。
この効果は特に「1.0(確実)」と「0.99(ほぼ確実)」の差に過敏に反応するという特徴があり、これが人間の意思決定に大きな影響を与えます。
実験や観察手法と結論
カーネマンとトヴェルスキー(1979年)の有名な実験:
被験者に以下の2択を与える。
- A:確実に3,000ドルもらえる
- B:80%の確率で4,000ドル、20%の確率で0ドル
期待値は
A:3,000ドル
B:0.8×4,000=3,200ドル
→ 多くの被験者がA(確実な3,000ドル)を選んだ。
この結果は、人がわずかな不確実性を嫌うこと、そして確実な利益に過度の価値を置くことを示しました。
プロスペクト理論の周りに出てくる用語たちは、似たような場面で登場するので、「違いがわからん!」となりやすいんです。でも、それぞれにちゃんと役割と意味の違いがあります。
| 用語名 | 一言で言うと | ポイント |
|---|---|---|
| 損失回避 | 損したくなさすぎて、損を過大評価する | 損失の心理的ダメージは利得の2倍以上強い(カーネマンの実験) |
| 確実性効果 | 確実だと感じたら、それだけで選びがちになる | 「ほぼ確実(99%)」より「完全に確実(100%)」が断然好まれる |
| 分離的評価 | 得と損を別々に考えてしまう | 例えば、「1万円の値引き」と「1万円のキャッシュバック」では印象が違う |
| 参照点依存性 | 何を基準にしているかで損か得かが決まる | 同じ100万円でも、「もともと90万の人」には得、「120万の人」には損 |
| 枠組み効果(フレーミング効果) | 同じことでも言い方で選択が変わる | 「成功率90%」と「失敗率10%」は中身は同じでも印象が違う |
例文
「宝くじで100万円当たる可能性があるより、今すぐ確実に10万円もらえる方が嬉しいって気持ち、あれが確実性効果だよ。」
疑問
Q: 確実性効果は損失の場合も働きますか?
A: 基本的には「利得の場面」で強く現れますが、損失では逆の傾向(リスク志向)が出やすくなります。これを「損失回避性」と呼びます。
Q: 確実性効果とプロスペクト理論の違いは何ですか?
A: プロスペクト理論は意思決定全体を説明する理論で、確実性効果はその一部分(利得のリスク回避)に関する現象です。
Q: 確実性効果はどんな場面で利用されていますか?
A: 保険の営業や宝くじ販売などで使われています。「確実に補償される」と言われると、人は高い保険料でも払いやすくなります。
Q: 子どもでも確実性効果は見られますか?
A: はい、5歳くらいの子どもでも「確実にお菓子がもらえる選択」を好む傾向があり、発達早期から見られる心理です。
Q: 確実性効果と期待値は矛盾しますか?
A: 理論的には矛盾します。合理的判断では期待値が高い方を選ぶべきですが、実際は感情が介入し、確実な選択肢を好む人が多いです。
Q: 確実性効果はどのような状況で特に強く現れやすいですか?
A: 確実性効果は、選択肢のうち1つが100%(完全に確実)であるときに特に強く現れます。たとえば「90%」と「100%」の違いはわずかでも、心理的な差は非常に大きくなります。
Q: 確実性効果がマーケティングに応用されている例はありますか?
A: はい、多くの企業が「送料無料保証」「全額返金保証」など“確実な保証”を打ち出すことで顧客の安心感を高め、購買行動を促進しています。これは確実性効果を活用した戦略です。
Q: 確実性効果を無意識に利用している日常場面にはどんなものがありますか?
A: たとえば、ガチャや福袋のような「運任せ」商品よりも、「必ず〇〇が入っています!」と書かれた商品を選ぶ行動も、確実性効果の影響と考えられます。
Q: 確実性効果は全ての人に同じように現れますか?
A: いいえ、年齢・性格・経験・リスク感受性によって差があります。たとえばリスクを好む性格の人は、確実性効果の影響が小さい傾向があります。
Q: 確実性効果は医療分野にも影響しますか?
A: はい、患者が「100%成功する手術」と「95%成功するが効果が高い手術」のどちらを選ぶかという場面で、成功率が完全であることに安心感を覚えて選択が偏ることがあります。医療の意思決定においても重要な心理効果です。
理解度を確認する問題
次のうち「確実性効果」の説明として最も適切なものを選びなさい。
A. 損失を避けるためにリスクを取る傾向
B. 利得が確実な場合にそれを過大評価する傾向
C. 将来の報酬を現在の報酬より低く見積もる傾向
D. 他人の評価に影響される意思決定
正解:B
関連キーワード
- プロスペクト理論
- 利得と損失の非対称性
- 期待値
- 損失回避
- 主観的確率評価
- ヒューリスティックス
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Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk
この論文でカーネマンとトヴェルスキーは、期待効用理論の限界を指摘し、プロスペクト理論を提案しました。彼らは、人々が確実な選択肢を過大評価し、不確実な選択肢を過小評価する傾向があることを示し、これを「確実性効果」と名付けました。
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覚え方
ぜったい”って言われたら信じちゃう、それが確実性効果


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