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スラッジ(sludge)

sludge 行動経済学
sludge

人の行動をわざと面倒にして、やる気をそぐ仕組みのこと

簡単な説明

スラッジっていうのは、ざっくり言うと「人が何かをしようとするのを、わざと面倒くさくして、やる気をなくさせる仕組み」のことです。たとえば、サブスクを解約しようとしたら「電話のみ受付(平日9〜17時)」だったり、補助金をもらおうとしたら「意味のわからない書類を10枚提出しろ」って言われたり。もうそれだけで「…やっぱいいや」って気持ちになりますよね。

この“わざとやりづらくしてる”ってのがスラッジのポイント。企業や役所なんかが、自分たちにとって都合が悪くなる行動(解約・申請など)を、なるべく減らすために仕掛けてることが多いです。

由来

「スラッジ(sludge)」という言葉は、元々「泥」や「汚泥」という意味の英語です。心理学や行動経済学では、リチャード・セイラー(ノーベル経済学賞受賞者)が提唱した「ナッジ(nudge)」の対義語として登場しました。
ナッジは「人を良い方向へ自然に導く工夫」ですが、スラッジはその逆で、「手続きの面倒くささや障害をあえて残して、行動を妨げる工夫」を指します。

具体的な説明

スラッジは、例えばこんなときに使われています:

  • 解約がめちゃくちゃ大変なサブスク
  • 申請書類が複雑で途中であきらめたくなる福祉制度
  • 電話しか問い合わせ方法がないサポートセンター

これらは、人々に「やめよう」「面倒だからやらない」と思わせ、結果的に企業や組織に都合のいい状態を保たせています。

大学レベルでの説明

スラッジは、行動科学(behavioral science)の文脈で重要な概念であり、特に意思決定のコストや摩擦要因(frictions)を意図的に増やすことで、個人の選択行動に影響を与える手法です。

例えば、行動経済学における「選択アーキテクチャ(choice architecture)」の一環として、スラッジは特定の選択肢から遠ざけるために設計されます。

具体的な実験や観察手法と結論

事例:解約手続きのスラッジ

ある実験で、同じ内容の定期購読サービスを2パターンで提供:

  • Aグループ:ウェブ上で1クリックで解約できる
  • Bグループ:電話でのみ、平日9時〜17時に解約可能

結果:Bグループの解約率はAグループの半分以下でした。

この結果は、「手間をかけるだけで人は行動を控える」ことを明確に示しています。

例文

「お母さんが電気代を安くするためにプランを変えようと思ったけど、手続きがスラッジだらけであきらめちゃったよ…」

疑問

Q: ナッジとスラッジはどちらも行動を変える手法ですか?

A: はい、どちらも人の行動に影響を与えますが、ナッジは良い方向に導き、スラッジは行動を妨げます。

Q: スラッジは法律的に問題になりますか?

A: スラッジが消費者の権利を不当に制限する場合は、消費者保護法などに触れる可能性があります。

Q: 企業がスラッジを使う目的は何ですか?

A: 主に利益を守るためです。たとえば解約を難しくして、利用者を減らさないようにしています。

Q: スラッジを見抜く方法はありますか?

A: 「手続きが不自然に複雑」「選択肢が片方に偏っている」などに気づくことがポイントです。

Q: 行政にもスラッジはありますか?

A: はい、福祉申請や補助金申請で、書類が難しすぎるケースなどが該当します。

Q: スラッジとただの「面倒くささ」は何が違いますか?

A: スラッジは「意図的に設計された面倒さ」であり、自然に発生する手間とは違って、人の行動を妨げる目的で作られています。

Q: スラッジは悪いことばかりなのですか?

A: 多くの場合は否定的に扱われますが、時には「過剰な衝動買いを抑える」などの目的で使われることもあり、必ずしも全てが悪とは限りません。

Q: スラッジを減らす取り組みはされていますか?

A: はい。近年では「行動デザイン」や「UX(ユーザー体験)」の改善の一環として、政府や企業がスラッジを減らす努力をしています。

Q: スラッジがあると社会全体にどんな影響がありますか?

A: 必要な支援が届かない、消費者の不満が増える、行政コストが上がるなど、結果的に社会全体の効率や幸福度を下げる可能性があります。

Q: 自分の会社やサービスが気づかないうちにスラッジを生んでいるかもしれません。どうやって確認すればいいですか?

A: 実際に利用者になったつもりで手続きを試してみる「ユーザーテスト」や、第三者に体験してもらう「ユーザビリティ調査」を行うのが有効です。

Q: 気づかずにスラッジを設計してしまったとき、最初にすべきことは何ですか?

A: まずは「どの場面で利用者がつまずいているか」を洗い出すことが重要です。問い合わせ内容や途中離脱のデータを分析することで特定できます。

Q: スラッジを減らすにはどんな工夫が必要ですか?

A: 手続きの簡素化、選択肢の明確化、デジタル化の推進などが有効です。また、ユーザー目線で「本当にこれ必要?」と問い直すことが大切です。

Q: スラッジを改善したことによる具体的なメリットは何ですか?

A: 顧客満足度が上がる、問い合わせ件数が減る、リピーターが増えるなど、組織にも利用者にも良い影響があります。

Q: スラッジを防ぐために日頃から意識すべきことはありますか?

A: 常に「自分がこの手続きをする立場だったらどう感じるか?」と考えることです。また、フィードバックを受け入れ、改善を繰り返す姿勢も重要です。

Q: ナッジとスラッジの効果は同じくらいあるのですか?

A: はい。2023年のメタ分析(Luoら)によると、ナッジとスラッジは認知プロセスへの影響の強さがほぼ同程度であることが示されています。行動を促すか妨げるかの違いがあるだけです。

Q: スラッジが一番強く影響する認知プロセスはどれですか?

A: 「努力(effort)」です。メタ分析によると、行動に必要な努力の量を操作するスラッジは、他の認知要素(注意、記憶、動機づけなど)よりも行動への影響力が大きいことが示されています。

Q: トランザクションコストとスラッジはどう関係しているのですか?

A: スラッジは、検索コストや評価コスト、実行コストなどのトランザクションコストを意図的に高くすることで機能します(Shahab & Lades, 2021)。これは、利用者の行動を制限する構造的なメカニズムと捉えられます。

Q: スラッジの具体例はどのようなものがありますか?

A: たとえば、オンライン解約を電話対応に限定していたり、補助金申請の書類を不必要に複雑にしたりすることが挙げられます。Milbank Quarterlyに掲載された研究では、アルコール業界が健康リスクに関する情報をわかりにくく提示する手法もスラッジとされています。

理解度を確認する問題

次のうち「スラッジ」に該当するものはどれか?

A. 健康的なメニューを目立つ場所に配置する
B. 自動的に寄付をオンにしておく
C. 解約の手続きを複雑にする
D. 子どもに笑顔で野菜をすすめる

正解:C

関連キーワード

  • ナッジ
  • 行動経済学
  • フリクションコスト
  • 選択アーキテクチャ
  • 意思決定理論

関連論文

A Meta-Analytic Cognitive Framework of Nudge and Sludge

概要:
この研究は、ナッジとスラッジの行動介入を、注意、知覚、記憶、努力、内発的動機付け、外発的動機付けの6つの認知プロセスに分類し、それぞれの効果をメタ分析により評価しています。

結果:

  • 2008年から2021年までの184の実験(参加者数:2,245,373人)を分析。
  • 「努力」を変化させる介入が最も効果的であり、内発的動機付けを変える介入よりも効果が高い。
  • ナッジとスラッジの介入は、効果量において類似している。

解釈:
この研究は、ナッジとスラッジの効果を認知プロセスに基づいて体系的に整理し、行動変容のメカニズムを明らかにしています。特に、「努力」に関連する介入が行動変容において重要であることが示されています。

Sludge and Transaction Costs

概要:
この論文は、スラッジとトランザクションコストの関係を探り、スラッジが選択アーキテクチャの側面として経験されるコストを生み出すことを提案しています。

結果:

  • スラッジは、検索コスト、評価コスト、実施コスト、心理的コストなど、さまざまなコストを引き起こす。
  • トランザクションコスト経済学の視点を取り入れることで、スラッジの理解と分類が進む。

解釈:
この研究は、スラッジを選択アーキテクチャの要素として捉え、その影響をトランザクションコストの観点から分析することで、スラッジの構造的な理解を深めています。

Dark Nudges and Sludge in Big Alcohol: Behavioral Economics, Cognitive Biases, and Alcohol Industry Corporate Social Responsibility

概要:
この研究は、アルコール業界の企業社会的責任(CSR)活動における「ダークナッジ」とスラッジの使用を分析し、消費者の行動に与える影響を評価しています

結果:

  • アルコール業界のCSR活動において、健康情報へのアクセスを難しくするスラッジが使用されている。
  • これらの手法は、消費者の認知バイアスを利用して、アルコールの害に関する情報を隠蔽または歪曲している。

解釈:
この研究は、スラッジが企業のCSR活動において、消費者の行動を望ましくない方向に導く手段として使用されていることを示し、政策立案者や実務家がこれらの手法に注意を払う必要性を強調しています。

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