本来の目標が達成できないときに、別の目標にすり替えて満足しようとする心のはたらきのこと
簡単な説明
「目標の置き換え」ってのはさ、例えば「プロサッカー選手になる！」って夢があったけど、ケガしちゃって無理になったときに、「じゃあ、サッカーコーチになろう！」って新しい目標に切り替えることだよ。夢がダメになっても、別の道を見つけて前に進む、そんな心の柔軟さって大事だよね！
由来
この用語は、フロイトの精神分析学をはじめとした防衛機制（defense mechanisms）の研究から発展しました。フロイトは、人が不安やストレスから自分を守るために無意識のうちに取る行動パターンを「防衛機制」と呼びました。
目標の置き換えは、特に現実的に達成が難しい目標や拒絶される可能性が高い目標に直面したときに起こりやすく、欲求不満の解消法として心理学で説明されます。
具体的な説明
人間は、何かを成し遂げようとして失敗したとき、そのまま放っておくとストレスになります。そこで、自分の心を守るために「この目標がダメなら、これでいいや」と無意識に別の目標を設定することがあります。これを「目標の置き換え」と呼びます。
たとえば、Aくんが「サッカー部でレギュラーになりたい」という目標を持っていたけど、ケガで長期間プレーできなくなったとします。そのとき、Aくんは「じゃあ、マネージャーとしてチームを支える役割に回ろう」と考えるようになったら、それは目標の置き換えです。
本来の目標（レギュラー選手になる）が難しくなったため、似た意味のある別の目標（チームに貢献する）に置き換えることで、モチベーションを保とうとしているのです。
心理学ではこの現象を代替目標の設定（substitute goal setting）とも呼び、目標挫折後の認知的・感情的な調整行動の一つとして研究されています。クルト・レヴィンの「場の理論」やミラーらのフラストレーション―攻撃仮説の中でも、人はフラストレーションを解消するために行動の方向性を変える傾向があると述べられています。
有名な実験例：ブレスリントン（Breslin, 1971）
被験者に難易度の高い課題を与え、達成が困難である状況を作りました。その後、似たようながんばりどころのある別の課題（達成しやすいもの）を提示したところ、多くの被験者が元の課題を放棄して、新しい課題に熱中する行動が観察されました。
結論：
目標が阻害されたとき、人は自分の能力や自尊心を維持するために「達成可能な代替目標」に目標を置き換えることがある。
例文
中学のバスケ部でエースになるのが夢だったけど、身長が伸び悩んでいて厳しいと感じたので、マネージャーになってチームを支えることに決めた。これは目標の置き換えです。
疑問
Q: 目標の置き換えは悪いことなのですか？
A: いいえ、悪いことではありません。むしろ自分を守るための自然な心のはたらきであり、健全な方法であれば自己成長につながります。
Q: 本当の夢をあきらめることになるのでは？
A: あきらめではなく「方向転換」と考えるとよいです。似たような価値がある別の道を選ぶことで、気持ちを前向きに保つことができます。
Q: 子どもでも目標の置き換えをしますか？
A: はい、します。たとえば欲しいおもちゃが買ってもらえなかったときに、別の遊びに熱中し始めるなどがそれです。
Q: 目標の置き換えと「逃げ」は違いますか？
A: 似ていますが違います。逃げは現実からの回避ですが、目標の置き換えは現実に適応しようとするプロセスです。
Q: 置き換えた目標にもとづいて成功した人の例はありますか？
A: たとえばスティーヴン・ホーキング博士は、身体の自由を失ったあと「理論物理学に集中する」という目標に置き換え、大きな業績を残しました。
Q: 目標の置き換えはどんな場面でよく見られますか？
A: スポーツや受験、恋愛など、強い目標を持っていたのに何らかの理由で達成できなくなったときによく見られます。たとえば、第一志望校に落ちた後、第二志望校で新しい目標を立てる場合などです。
Q: 目標の置き換えと合理化はどう違うのですか？
A: 目標の置き換えは、新しい目標に切り替える行動の変化を指します。一方、合理化は「本当はこうしたかったわけじゃないからいいんだ」と自分の気持ちに理由づけをして納得する認知的な変化を指します。
Q: 無意識に目標の置き換えが起こることもあるのですか？
A: はい、多くの場合は無意識に起こります。人は自分のプライドや心の安定を保つために、知らないうちに新たな目標に向かうことがあります。
Q: 目標の置き換えにはデメリットもあるのですか？
A: はい、場合によっては「本当は諦めたくなかった」という気持ちを押し殺してしまい、心の中に未練が残ることがあります。また、次の目標が短絡的すぎると、モチベーションが続かないこともあります。
Q: 目標の置き換えを心理療法でどう扱いますか？
A: 認知行動療法やカウンセリングでは、本人が自分の目標をどう捉えているかを整理し、新しい目標を納得のいく形で設定する支援を行います。「価値に沿った目標の再設定」がカギとなります。
Q: 目標の放棄（disengagement）と目標の置き換えは同じですか？
A: 似ていますが異なります。目標の放棄は「もとの目標をあきらめる」行動であり、目標の置き換えは「その代わりに新たな目標を設定する」ことです。Barlowら（2019）のメタ分析では、両方の能力が健康に影響を与えることが示されています。
Q: 目標の再関与（reengagement）は、どんな心理的効果がありますか？
A: 目標の再関与は、人生の目的意識やポジティブな感情の増加と関係しています。メタ分析では、再関与能力が高い人ほど、満足感が高く、ストレスも少ない傾向があると報告されています。
Q: 行動変容を促すための効果的な目標設定の特徴は何ですか？
A: Eptonら（2017）の研究によれば、具体的で困難な目標、かつそれを他者に共有（公言）した場合、行動変容の効果が高まる傾向があります。また、グループ目標や外的フィードバックもモチベーションの維持に有効です。
Q: 目標進捗のモニタリングはどうして重要なのですか？
A: Harkinら（2016）のメタ分析では、目標達成に向けて定期的に進捗を確認することで、達成率が高まることが分かりました。とくに、「記録する」「他者に報告する」といった行動が効果的です。
Q: 心理学の研究では、目標の置き換えをどのように測定していますか？
A: 目標調整能力に関する研究では、Wroschらが開発した「Goal Adjustment Scale」などを用いて、自己報告によって「放棄」と「再関与」の傾向を測定しています。この尺度は多くのメタ分析で使用されています。
理解度を確認する問題
目標の置き換え（goal substitution）に関する説明として正しいものはどれか。
A. 無意識に過去の記憶を書き換えること
B. 本来の目標が達成困難な場合に、別の目標を設定して感情を調整すること
C. 現実を受け入れずに空想に逃避すること
D. 達成した目標に飽きて新しいことに挑戦すること
正解：B
関連キーワード
- 防衛機制
- 欲求不満
- 代替目標
- フラストレーション
- 適応行動
- クルト・レヴィン
- 自尊心の維持
- 現実的調整
関連論文
Barlow, M., Wrosch, C., & McGrath, J. J. (2019). Goal Adjustment Capacities and Quality of Life: A Meta‐Analytic Review. Journal of Personality.
目的：達成困難な目標に対する「目標の放棄（disengagement）」と「新たな目標への再関与（reengagement）」が、心理的および身体的健康に与える影響を検討。
結果：
- 目標の放棄能力は、ネガティブな心理的指標（例：ストレス、抑うつ）との関連が強い（r = -0.12）。
- 目標の再関与能力は、ポジティブな心理的指標（例：人生の目的、満足感）との関連が強い（r = 0.24）。
解釈：達成困難な目標から適切に離れ、新たな目標に取り組む能力は、心理的な健康を維持・向上させる上で重要である。
Epton, T., Currie, S., & Armitage, C. J. (2017). Unique effects of setting goals on behavior change: Systematic review and meta-analysis. Journal of Consulting and Clinical Psychology.
目的：目標設定が行動変容に与える効果と、その効果を最大化する条件を検討。
結果：
- 目標設定は行動変容に小さいながらも有意な効果を持つ（d = 0.34）。
- 難易度が高く、公開され、グループ目標である場合、効果が増大。
解釈：目標設定は行動変容の有効な手段であり、特定の条件下でその効果が高まる。
Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., … & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis. Journal of Applied Psychology.
目的：目標進捗のモニタリングが目標達成に与える影響を検討。
結果：
- 進捗のモニタリングは目標達成を促進する（d = 0.40）。
- モニタリングの頻度が高いほど、目標達成の可能性が高まる。
解釈：目標進捗の定期的な確認は、目標達成に向けた行動を強化する。
覚え方
「ダメなら次へ、心の柔軟体操」
このフレーズは、目標が達成困難な場合に、柔軟に新たな目標へと移行する心の動きを表現しています。柔軟体操のように、心も柔軟に対応することで、ストレスを軽減し、前向きな行動を促進します。
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