国境を越えた子どもの“連れ去り”から子どもを守るための国際ルールのこと
簡単な説明
「国際的に“子ども連れてくのはNG”ってルールがあるんだよ。それがハーグ条約。親のケンカより、子どもの安心が最優先ってこと!」
由来
- 正式名称:国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約
- 採択:1980年、オランダのハーグで締結(略して「ハーグ条約」)
- 発効:1983年
- 日本の加盟:2014年4月1日
これは、離婚・別居した親が子どもを一方的に他国へ連れ去る行為を制限し、
「元の居住国に子どもを戻す」ことを目的とした国際的な枠組みです。
具体的な説明
たとえば、外国人のパパと日本人のママがいて、子どもがその真ん中にいます。
ある日、ママが無断で子どもを日本に連れて帰ってきてしまったとします。
このとき、「子どもが勝手に国を移されてしまった」ことになります。
ハーグ条約では、勝手に連れ去った親に子どもを返してもらう手続きが決められています。
この条約の目的は、子どもの連れ去りを防止し、速やかに元の居住国に戻すことです。
ただし、単に“返せばいい”という話ではありません。
ポイントは:
- 子どもを「物」として扱うのではなく、**「子どもの最善の利益(Best Interest of the Child)」**に基づいて判断される
- 一定の例外規定もあり、「虐待やDVから逃れるための連れ去り」などには適用されないこともある
- 条約国間の信頼関係、文化的背景の違い、実務運用の差が課題とされる
例文
「ハーグ条約により、無断で子どもを他国に連れ去った場合、正当な理由がない限りは元の国に子どもを戻さなければなりません。」
疑問
Q: 子どもが連れ去られたら、どうなるのですか?
A: ハーグ条約に基づいて、元の居住国に子どもを戻す手続きが開始されます。申し立ては中央当局(日本では外務省)を通じて行われます。
Q: なぜすぐに連れ戻さないといけないのですか?
A: 子どもの生活基盤や学校・友人関係が急に変わるのは心理的な悪影響が大きいため、早期の安定が必要なのです。
Q: 子どもが「戻りたくない」と言ったらどうなるの?
A: 子どもの年齢や成熟度に応じて、**意見聴取(Voice of the Child)**が行われ、場合によっては返還が拒否されることもあります。
Q: 日本でもよくあることなんですか?
A: はい。国際結婚の増加により、片方の親が無断で日本に子どもを連れ帰るケースが増えており、2014年以降対応が求められています。
Q: DVから逃げた場合でも返還されますか?
A: いいえ。重大な危険(grave risk)がある場合や、子どもの人権が侵害される恐れがある場合には、例外的に返還を拒否することができます。
Q: ハーグ条約はすべての国に適用されますか?
A: いいえ。ハーグ条約に加盟している国同士でのみ適用されます。現在、100カ国以上が加盟していますが、未加盟国とはこの条約に基づく返還手続きは行えません。
Q: 条約に加盟していても、子どもがすぐ戻るわけではないのですか?
A: はい。加盟国間でも、返還に数カ月以上かかることがあります。裁判、子どもの意見聴取、DVリスクの判断など複雑な手続きがあるためです。
Q: 子どもの「居住国」とはどうやって決まりますか?
A: 子どもがどの国で生活の中心を築いていたか(habitual residence)に基づきます。単に「国籍がある」というだけでは決まりません。
Q: 一度返還されたら、もう再びその国に行くことはできないのですか?
A: いいえ。返還は親権や監護権を決めるためのものではありません。子どもの福祉を守るためにどの国で判断すべきかを決めるだけで、その後の生活はまた話し合いや裁判で決まります。
Q: ハーグ条約が「子どもの連れ去りを合法にする」と誤解されることはありますか?
A: はい。条約は「親の権利」ではなく「子どもの保護」を目的としており、連れ去りを正当化するものではありません。あくまで「どの国で子どもの将来を判断すべきか」を決める枠組みです。
理解度を確認する問題
ハーグ条約の目的として最も適切なものを選びなさい。
A. 国際結婚の調整を目的とする
B. 子どもの海外留学を支援する
C. 国境を越えた子の不法な連れ去りを防ぎ、返還を促す
D. 国際養子縁組の取り決めを行う
正解:C
関連キーワード
- 国際結婚
- 子の連れ去り
- 国境を越えた親権争い
- 中央当局(日本では外務省)
- 子どもの最善の利益(Best Interest of the Child)
- 面会交流(アクセス権)
- 意見聴取(Voice of the Child)
関連論文
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本論文では、ハーグ条約第13条1項(b)に規定される「重大な危険」の例外事由について、各国の裁判例を比較し、その解釈と適用の実態を分析しています。
結果:各国で「重大な危険」の解釈には差異があり、特にDV(家庭内暴力)や虐待の事例において、返還拒否の判断基準が異なることが明らかになりました。
解釈:この違いは、子どもの最善の利益をどう捉えるか、また返還手続きの迅速性と子どもの安全性のバランスをどう取るかという各国の法的・文化的背景によるものと考えられます。
『国際的な子の奪取に関するハーグ条約 関係裁判例についての委嘱調査』
この報告書は、INCADAT(国際的な子の奪取に関する裁判例データベース)に掲載された874件の裁判例を分析し、返還申立要件および返還拒否事由の適用状況を調査しています。
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『ハーグ子奪取条約の履行確保の一側面 ─条約実施法等改正を中心に─』
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解釈:法制度の整備は、国際的な信頼の構築と条約の効果的な運用に不可欠であることが示されています。
覚え方
ハーグ条約=「子どもを勝手に連れていったら、戻しましょう」ルール
→ 親の都合より、「子どもの幸せ」が最優先!


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